引退魔法士ルーイッヒの半農半ダンジョン生活⑧
ダンジョン「世界樹の家」の攻略に失敗した翌日。私たちは冒険者組合の組合長の部屋のドアを叩いた。
「こんにちは、ユーノです。ちょっとよろしいですか」
「あー、はいはい。入って、どうぞ」
そこでオフィスワークに勤しんでいたのは、この街の冒険者組合・組合長代理、解散した勇者パーティの生き残りの内の一人。そしてこの街に住むA級冒険者であるレンジャー、リレイおじさん。
リレイさんは恰幅のいい耳熊族の亜人だ。耳熊族は慎重な性格に高い運動能力と大きな耳を持ち、戦士系上級職やレンジャーになる者が多い。
私はリレイさんに村のダンジョンと第二層の虫たちのことを話し、助力を願った。
「あー、そこが最近発生してた魔物の巣か……それは組合としても無視はできないな。虫の魔物だけに。無視できない。……それはそれとして、虫除けと、状態異常の予防が必要だったな。たった三人でA級クエストに向かったって聞いてたから心配はしてたんだ。明日一日だけならヘルプできるけど、戦闘の方は期待しないでくれよ」
街を襲った魔物の群れの住処となれば、優先度は跳ね上がる。こちらから頼んでおいて何だけど、ほんとうは忙しく、実戦からも長く離れているリレイさんを連れ出してしまうことに若干の申し訳なさを覚えた。
それから、リレイさんは天使ちゃんとツアラを見て、冒険者登録を勧めてきた。
「そっちの二人も、冒険者登録をしておいた方がいい。もしもの時に身元不明だと、何かと大変だ」
そういえばそうだった。以前も冒険登録をする機会はあったのだけれど、天使ちゃんとツアラの特殊なステータスが原因で、その時は先送りにしたのだ。でも、今さら隠し事をしても仕方がない。
「いやあ、そのことなんですが、ちょっと事情がありまして……」
私は天使ちゃんとツアラのステータスのことをリレイさんに説明した。
「えー、レベル99の魔法戦士に、ステータス不明の天使ちゃん、ね……それは確かに、冒険者登録も躊躇らわれるね。じゃあ、ステータス偽造魔法をかけて偽情報を登録しとこうか……」
かつて勇者パーティにいたせいでイレギュラーな事態には慣れっこのリレイさんは、天使ちゃんとツアラのことで驚きはしたものの、冷静に受け止めてくれた。敵を欺くスペシャリストでもあるレンジャーのステータス偽造魔法でツアラはレベル99の魔法戦士からレベル30の魔法使いに。そして天使ちゃんはどうしようかと尋ねると、
「あの、レンジャーになるには、どうすればいいのでしょうか」
天使ちゃん、どうやら「ふり」ではなくて本当に転職することを考えているみたいだ。
「天使ちゃん、レンジャーになりたいの?」
「はい、前回の南の山脈と、今回のダンジョンを踏まえて、もっと私にできる事はないか、って考えたんです」
「でも、レンジャーは上級職だから、なるのは簡単じゃないよ?」
「ユーノさんのためなら、私、いくらでも頑張れます」
ほろり。私の役に立つために……?健気過ぎて涙がでてきた。
レンジャーになるためには、盗賊と魔物使いの基本職を修める必要がある。そしてその日、天使ちゃんは本当にレベル1の魔物使いへと転職してしまったのだった。
リレイ
種族:耳熊族
職業:レンジャー
Lv.62
特技:冒険補助系特技全般




