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引退魔法士ルーイッヒの半農半ダンジョン生活③

 ごとごと。ごとごと。


 ネウンベルグから馬車で揺られること約30分。依頼主が待つというユルンドルフの村役場に到着した。そこでは見知ったおじさんが村役場の入口に座っていて、私達を認めると話しかけてきた。


「お?ユーノ君じゃないか。難易度Aの依頼を出したことだし、もしや君が来るかもとは思ってはいたが」


「こんにちは、ご無沙汰です。ルーイッヒ先生」


 白髪交じりの髪を短く整え、丸眼鏡に緑のローブ。無精ひげが伸びてはいるけれど、背筋はピンと延びていて、「知的なおじさん」といった印象。


 そこにいたのは、私が子供の頃、初級魔法のレッスンでお世話になった魔術講師のルーイッヒ先生。先生は難しい魔法理論を笑いを交えて楽しく、わかりやすく授業する学校の名物教師だった。


 ご自身も基本職の魔法使いではあるけれど、あまり使い手のいない土・植物系魔法に熟練したその道の達人だ。


 先生ほどの人が冒険者に依頼を出すとは、事態はよほど深刻なのだろうか。一応、先生に確認する。


「今回の依頼人って、もしかして」


「ああ、私だよ。ちょいと厄介なことになってしまっていてね。上級冒険者でないと解決できそうにない。君が依頼を受けてくれるのならありがたいが……」


 ルーイッヒ先生は私のパーティメンバーである天使ちゃんとツアラを見て、少々疑いの念を持ったようだ。


「お前さんはいいとして、後ろのか弱そうな女の子二人もパーティメンバーか?大丈夫なのか?」


「私もか弱い女の子のつもりなんですけど」


「ははっ、君も冗談が上手くなったな。先生として、うれしいぞ」


「……」


 それはそれとして、ルーイッヒ先生がそう思うのも無理はない。なんせ私が連れているのは13、4才にしか見えない可憐な女の子二人なのだから。しかしそんなことを言われて黙っているツアラではない。


「ふん、レベル35のくせに言うではないか。まあ心配せずに我に任せておれ」


「ステータス」の魔法を使ってルーイッヒ先生の情報を読んだツアラは、腕を組んで自信満々、といった表情をみせる。


 相変わらずのレベル呼ばわりだけど、言動が少しだけ、すこーしだけおおらかになった。これは私と天使ちゃんとの共同生活の成果だった。特に魔力操作の手ほどきをしてあげた後、ツアラの態度は目に見えて丸くなったのだ。


 それも私たちの前だけで、というわけではない。ツアラは私たちとパーティーを組み、一緒に住んでいるとはいっても、公には教会の保護下にあることになっている。


 定期的に教会のアモンの所へ活動の報告に行っているのだけれど、そのアモンに言わせれば、ツアラは「信じられないくらい」穏やかになっている、とのことだ。いったいこの戦乙女、私たちと出会う前はどれほど酷い性格だったのだろう。


 ちなみに、このような態度の変化は魔法の訓練を受けた者にはままある事。なんでも、訓練の中で他人の魔力に当てられることで、幸福感と精神の安定をもたらす脳内魔薬の一種である魔キシトシンが大量に分泌されることが最近の研究で明らかになったそうだ。


 中には、それをきっかけにして恋愛感情に昇華してしまう人もいるみたいだけど、天使ちゃんやツアラは、まさかそんなことないよね。


「なんと……こんな幼い少女が……まあ、君が賢者になったのも14の時だったか」


 ツアラが使った「ステータス」の魔法にルーイッヒ先生は驚きを隠せないようだった。魔法使い系の上級職しか使うことのできないこの魔法を見て、この戦乙女の実力を推し量ったのだろう。


「えっと、頑張ります」


そして天使ちゃんはいつものようにやさしく微笑んだ。

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