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不幸賢者、天使と世界を道連れにする③

評価やブックマーク登録、ありがとうございます。物語はまだ始まったばかり。長い目で読んでいただけると嬉しいです。

「わわっ、お休みのところすいません、急にお邪魔しちゃって。信じてもらえないかも知れませんが、怪しいものじゃありません。私、ユーノさんに会いに来たんです。でも時空を超えた座標(ヒストリア)への移動は大雑把にしかできないもので……迷惑になると知りつつ、ひとまずユーノさんの目の前を目標にして現れてしまいました」


 天使のような少女は、ペコリと頭を下げ、そう弁解する。挨拶をして少し赤くなった顔に、上ずった声。彼女が緊張しているのが伝わってくる。申し訳なさそうに、あせあせする美少女。


 不法侵入をされているのに、なんだか庇護欲をそそられ、どうもこちらの緊張が削がれる。怪しい者じゃないと、自分で言ってるけど……


「あの、あなたは夢川ユーノさん、ですよね……?」


 この世界ではみな、私のことをユーノと呼ぶ。私自身、自分の名字を久しぶりに聞いた。


「そうだけど、あなたは?」


「ここで名乗れる名を、私は持っていません。どうぞ、ご自由に呼んでください。私はあなたの『役割』を補佐するため、ある人の願いであなたに会いに来ました」


 私はこの天使のように可憐な女の子を、仮に天使ちゃんと呼ぶことにする。それにしても天使ちゃんはいきなり現れてよく分からないことを言う。


「えっと……じゃあとりあえず、君を天使ちゃんって呼ぶね。悪い子じゃなさそうだし、なんだか天使っぽいから」


 そう言うと、天使ちゃんはやさしく微笑んだ。


「天使、ですか。ふふっ、ええ、似たようなものです」


 咄嗟につけた天使ちゃんという名前、どうやらあながち的はずれでもないみたいだ。もしかしたら、本当に天使なのかも知れない。


 天使ちゃんは続ける。


「それでユーノさん、あなたの役割についてですが……」


 私の、役割……。ふと、空港の出入国管理官のことを思い出す。あの役人さんもそのようなことを言っていた。自分に与えられた役割を果たさないと、私は日本に帰ることができないのだと言う。


 でも、私はそれがなんなのか、まったく分からないのだった。


「ちょっと、何言ってるのかよく分からないんだけど……」


 私は困った顔をして見せる。天使ちゃんはきょとん、として、少しの沈黙の後、困った顔をして、言った。


「えっと、もしかして、自分の役割を、ご存知でない……?ユーノさん、あなたには人々を救う『救世主』としての役割が与えられているはず、なのですが……」


 ……そんなの、初耳だ。救世主?異世界に囚われた不幸な引っ越し難民の間違いじゃないだろうか。


「そんなの知らないし、もし知っていたとしても、理由も分からず押し付けられるのはゴメン、かな」


 そう言うと、天使ちゃんは大きな瞳をもっと開いて、驚きの表情。


「えっ、でも、ユーノさん。役割を果たさないと、元の街に帰れないんですよ?」


 やっぱり、空港の役人さんと同じとこを言う。どうも私が異世界に囚われたままなのは、役割、それも救世主とやらの役割を果たしていないから、らしい。


 でも、もういいじゃないか。帰れなくても。


 思いがけずこの世界に囚われてしまったけれど、私は今の生活に満足しているのだ。100点満点とは言えないけど、80点くらい、それぐらいは満足している。


 それにこの世界はもうそれなりに平和なのだ。救世主なんて大それた存在、いらないだろう。少なくとも、魔王と勇者がどんぱちすることはない。そもそも、魔王がいないのだから。


「そんなこと言われても、私はもう、この世界で死ぬまで生きる覚悟もできてるから」


 私の異世界歴ももう9年。それくらいの覚悟はできている。すると天使ちゃんは少し残念そうに、ため息をついた。


「はあ、こんなに浸食されちゃってるなんて、道理で音沙汰もないわけだ……しょうがない、力技で行かせていただきますね、すいません」


 天使ちゃんはそう言うと、彼女が首から下げているペンダントが輝きはじめた。光が私たち二人を包み込む━


「これは、空間魔法ー!?」


◇◇◇◇


 ……眩しさで閉じていた目をあけると、そこは元の私の部屋ではなくて、真っ白な、何もない空間だった。ここにあるのは、私と、天使ちゃんだけ。他にはただただ、真っ白な空間が続いている。


「ここはあなたが元いた世界とは隔絶された空間です。理由はわかりませんが、ユーノさんがいた空間には、人の歩みを止めさせるというか、倦怠に陥いらせるというか、生きる意味や愛、夢といったものを忘れさせてしまう力があるようですね」


 はあ、そうですか……そして天使ちゃんは続ける。


「あなたのお父さんお母さんは、今でもあなたの帰りを待っていますよ?それにあなたの大事なひとだって」


 ぴくり、と私の心が動く。


 お父さん、お母さん━。こっちからは何も連絡はできないし、あちら側からもできないのだろう。会いたくないと言ったら嘘になる。それに私の大事な人。思いつくのはただ一人。


 でも、どうやって━


「とにかく、あなたは自分の役割、人々を救うことの意味を見つけ、果たさないと帰ることができません。まずは、あたなの使命を見つけてください。話はそれからです。確かに言いましたよ。あとは、もうあなたの判断です」


 よく分からないけれど、天使ちゃんを失望させてしまったことは理解できた。


「それじゃあ、私はひとまずこれで。また様子を見に来たいと思います。頑張ってくださいね」


 と


 いきなり現れて、勝手なことを言う。もう少し話をしたかったけど、天使ちゃんは元の世界へと帰ってー






「あれ?あれれー?」


 帰って行けなかった。

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