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ピエール瀧の薬物使用による逮捕によって、瑣末な事とは言えとばっちりが飛んでくる件について

作者: 山乃末子

 こういう文章は一応ジャンル・エッセイになるらしいです。そういえば既に二つ「エッセイ」を書いていました。「その他」になっていたので修正

 ピエール瀧というタレント芸人が薬物使用で逮捕されてゴシップネタを賑わしている。私は氏に全く興味がないため、あまり詳しくは知らない。ああ、薬に喰われたんですね、お気の毒に。できれば「完治」するといいですね、ぐらいにしか思っていなかった。


 ところが、某お笑い芸人が、お笑いは薬はやらない。ピエール尊敬していたのに、本当は薬の力でおもしろかったんや、音楽業界は薬飲んで音楽作ってる、薬の力でいい曲を作れる、ビートルズとか薬やってて、ああいう音楽好きなビートルズとか崇めてる、あんな人たちとは分かり合えない、みたいな論旨のことを言っていて、苦笑させられてしまった。


 別に一お笑い芸人の放言に過ぎず、まあ自分の利害を度外視すれば何を言い放っても特に問題はないと思うし、取り上げることでも目くじらを立てる程の事でもないが、当の人物の無教養さと言うのか、残念さは漂っている。


 たたき上げの人の技術や能力・思想は尊敬に値すると思うが、考えられないようなところがぶち抜けていたりする。そして、偉くなってからトンデモ発言・行動をしてくれるので、はたから見ている分には面白いが、自分の方に飛んでくるとなると、そこらの塵芥である我々には迷惑なことはあるだろう。そういう意味では日本のお笑い芸人もブルーカラー出身のビートルズも同類感はある。


 この問題において、いくつかポイントがあるが、例えば、業界ごとの麻薬侵食度とか、日本のコミュニティの排他性、後、既に述べた、たたき上げのトンデモ発言・行動などがある。あと薬物の恐ろしさか。以下簡単に並べてみた。


 まず業界による麻薬の侵食度だが、これは氏の放言の中にもいくらかの真実が含まれている。ポール・マッカートニーは今や若干の皮肉も込めて一人ビートルズなどと言われたりもしているが、実際大麻所持で日本に入国できずに送り返されたこともある。彼の中には、大麻はヘビー・ドラッグではないからいい、みたいな論理があったが、はっきり言っておくと、依存性がある、と言う意味では、酒も煙草もSEXも大麻も違いはない。ただ、人間の精神に与える影響がより強いか・弱いかで、程度の差に過ぎない。


 ここで、音楽業界やポール・マッカートニーの名誉の為に述べておきたいが、彼に限らず、他の音楽関係者も、大麻をやって作曲している訳ではない。彼は氏の放言で述べられている、お笑い芸人がネタを考えるのと同様に、素面しらふで(まあ酒ぐらい飲んでもいいと思うが)、自らのセンスと努力によって作曲を行っている。特にポール・マッカートニーは、聞き手を意識した曲を作る作曲家なのに、そんな薬任せでうまくできようはずがない。


 日本のアーティストだと一番に目に付くのは岡村靖幸だろう。彼は薬物使用で捕まったり出てきたり、それで落ち込んだり、またヒットを出して復活したり、を何度か繰り返している。彼の音楽的才能が薬による物だとは全く思わない。薬なんかなくても作曲も、もちろんあのパフォーマンスもできるだろう。ただ、彼の人生が薬物によって振り回され、蹂躙じゅうりんされ、無茶苦茶になっている、ということは言える。それは絶対に消せない性質タチの悪い呪いのようなものだ。


 何でこういう偏見がまとわりつくかと言うと、音楽業界で全体的にどういう訳か薬が蔓延しているという事実があるからだろう。おそらくかつてのヒッピーブームなどと結びついているんだろうと思うが、詳しくは知らない。でも確かに、音楽関係は薬物使用が多いと感じる。それは日本でも同じだろう。確かに麻薬をやると音楽に対する感覚センスがより鮮明で鋭くなる、というようなことが言われているが、その状態で曲を作って本当にモノになるのかは私は知らない。確かにビートルズのナンバーにもヤク中の曲か、と思えてしまうようなのもある。(ジョン・レノンは一応否定していたが)サイケはそういうちょっと変わったというか、それっぽいのが多いが、はなから偏見を持って見るのもどうかと思う。


 音楽関係は薬中、薬飲んで曲を作る、みたいな発言を聞くと思い出すが、ある著名人がゴッホの絵をあげつらって、あんな狂気から生まれるようなマイナスのエネルギーを持ったものは良くない、みたいなことを本気で言っているのを聞いて耳を疑ったことがある。その人もやはりその世界では相当の技術と見識を持った人物だが、こと芸術に関してはトンデモと言わざるを得ないだろう。


 ヴィンセント・ヴァン・ゴッホは確かに狂人ではある。しかしながらそれをもってして彼の美意識まで狂っているとは言えない。彼は今となっては「古き良き」時代の、いかにも画家らしい画家であり、美に対する感覚センスもまともで、純粋なものだ。あのタッチも当時の新技術・技巧に過ぎない。こと芸術において狂人の芸はいかんとか、悪人の作品はどれほどすばらしくても評価に値しないとか、薬中の作った曲はチートであり、けがれている、みたいな考え方は、ただの偏狭な差別主義であり、危険な考え方でもあると思う。


 日本のお笑い業界は、悪名高い音楽業界とは異なり、幸い薬物による侵食度は低い。基本的に「常識コモン・センス」あってのお笑いであり、自分があっちの世界へいってしまってはどうしようもない、といういたってまっとうな考え方があるかららしい。どん底芸人も借金や博打や酒はやっても、ごく最低限の矜持きょうじとして、薬だけはやらない、というのが本当にあるのかどうか知らないが、そうであってほしいと思う。逆に言えばかの有名なT氏も、タレントとしてはともかく、お笑いとしては半端者はんぱもの、ということは言えるのだろう。


 お笑いというのはその本質が批評精神クリティシズムに近いところがあり、お笑いにも批評が得意な人がいるし、逆に批評の得意な作家はお笑いに近い作品を残していたりする。例を挙げるなら、夏目漱石(吾輩は猫である)、スウィフト(ガリバー旅行記)、マーク・トウェイン(トム・ソーヤーの冒険等)などだ。落語などもほとんど小説みたいなのもあり、風刺的な性格を持つ話も多い。


 お笑い芸人にも薬はやってほしくないし、(もちろん若いアーティストの方々にもめて置いて頂きたい。薬でセンスが良くなったり、イイ曲ができるなどというのはまごかたなき妄想だ)これは致し方ないところもあるが、逸脱したような批評もあまり聞きたくないという思いはある。お笑いであると同時に的確な批評精神クリティシズムも持っていて欲しいと思う。それがイってる芸人ではなくて、本当にイケてる芸人だろう。


 氏の放言は自分の属するお笑い界に対する愛情ナショナリズムから来ており、ある意味純粋ではあるが、同時にいかにも日本のコミュニティ的な偏狭さもにじみ出ている。これも失礼な表現だが、卑近なオッサンのイタイ発言を聞かされているような、なんともいえない感じがした。


 私も年齢的に結構そういうところまで来ているが、立場も何もないので、何をほざいていようが、幸いそれほど周囲に迷惑をかけることはなさそうだ。それでも、なるべくそういうふうにはなりたくないと改めて思う。神になんか誓うな、約束なんかするな、知っていることは知っている、知らないことは知らない、でもありたい。後、間違えたら謝るw


 薬物の恐ろしさはその依存性にある。先に述べたが依存性は何にでもあり、酒も煙草もそういう意味では変わらない。ただ、覚せい剤や麻薬は、依存性と身体・精神への悪影響がそれらの比ではない。一度薬の味を覚えてしまえば、自力でめることはまあできないだろう。普通の人間の精神力ではとてもあらがえるようなものでないのはまちがいない。煙草をめたはずの人が、思わぬストレスにさらされるとまた吸ってしまうように、薬も一度やってしまえばもう完全にめることはできない。


 しかしここのニュアンスが煙草や酒とは違うところで、例えば飢え死にしかかっている前に現れた好物をポリシーにより食わないとか、据え膳食わぬは男の恥などと言われるが、性欲ビンビンの若者に、自分が好きにできる好みの世界最高の美女(美男)を無意味にあきらめさせるよりも、ずっと、ずっと(何倍?あるいは何十倍、何百倍か。薬によっても違うのだろう)もキツイらしいということは一応述べておく。薬に手を出す即ち完全に社会的信用を失ってしまうことになる。そんな奴は明らかにトラブルの種だし、完全な「更生」などあり得ない事がわかっているからだ。社会の落伍者になるだけではない。身体も精神も大変なダメージを負うことになるだろう。


 普通日本でそれなりの教育を受けていれば、薬物の危険性は知識としてわかっているはずだが、それでも薬物使用はなくならない。それはいびつな現代ストレス社会と人間の弱さ・愚かさをもろに表した一つの結論だとは思う。


 関係ないですが、薬系の笑いは私の中ではツボで、ドーピングでマッスルマンになるキャシャリンとか、学生の頃に見た、ゾンビのレンノ君とスケルトンのマカト君の薬中漫才みたいなのは面白くて、今でもおぼろげに覚えています。薬中ネタは、お馬鹿な人が見たら勘違いするような内容ですから、不謹慎で教育上良くないとかでメディアから排斥されるんでしょう。それぐらいシャレにならない、シリアスで、笑ってられない状況があります

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