前編
ある遺跡にこんなものが見つかった。
壁に描かれた7人の大罪人。
学者たちはこの壁に描かれた意味はすぐに分かった。
左から憤怒の罪サタン、強欲の罪マモン、
怠惰の罪ベルフェゴール、 傲慢の罪ルシファー、
暴食の罪ベルゼブブ、嫉妬の罪レヴィアタン、
色欲の罪アスモデウス。
つまり七つの大罪だ。
七人の大罪人は争い続けた、
理由は単純。自分の強さを証明するため。
しかし、決着がつくことはなかった。
そのため大罪人たちは自分の子孫たちに
罪を背負わせ戦わせた。
しかし、魔術師たちが協力をし七人の大罪人たちは捕らえられ
死刑となり大罪人の遺族も全員が殺され平和になった。
それを記念し魔術師たちは0年とその日から年号を定めた。
だがそれから2000年たったある日のこと……
また戦いが始まった。史上最悪の。
◇
「ぐはっ……」
腹に何かが刺さっている…これは…鉄パイプ…?
血が止まらない…痛い…いや…熱い……。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いっ。
手も服も赤く染まり道路には水たまりができている…
どす黒く…泥水のように濁っている。
「灰牙……どうして……」
「ごめんな灯夜
仕方のないことなんだ」
灰牙…僕の幼なじみ…幼稚園から今通っている中学校でも
一番仲のよい親友。
そんな灰牙に僕のお腹は貫かれた。
先が尖った、折れたパイプが
外に出たがっている僕の血の通り道になっている。
「だって灯夜は罪を背負っているから」
「罪…なんのことだよ…
僕は生まれて一度も罪を犯したことはない…!」
「そらそうだろうね、そんなの親友である俺が一番分かっている」
「だったら…!」
「灯夜は先祖の罪を背負ってるんだよ」
「先祖の…罪…俺が…?それってどういう……!」
「話しはここまで。
もたもたしてたら他の奴らに狙われかねない。
じゃあね…」
灰牙の目は今までに見たことがない目をしていた。
冷たい殺人鬼の目…親友だから分かった…
灰牙がこういうことをするのは初めてではないことを…
そして…本気で僕を殺そうとしていること……
その時僕の中で何かが切れた。
◇
「ニュース見たか?……灰牙が殺されたんだってよ……」
「まじでっ!?最近学校にいないと
思ったら……あいつがなんで…」
「それともう一人…灯夜も殺されたらしい」
学校中でこの情報は広まり後日2人の葬式が開かれた。
犯人はまだ見つかっていない。
証拠がまだ何一つとして見つからないからだ。
◇
「ーーー市のーー中学校に通う15歳の少年2人が
遺体として見つかりました。
なお警察は殺人事件と判断し
捜査をすすめているもようです………………」
テレビに流れていたニュースを見ていたが
自分が死んだニュースなんて見たくもないので消した。
「灰牙~、なんで僕たち死んだことになってるの?」
「その方が都合がいいからな、
俺たちのコピー体を死体として置いてきたから
警察も勘違いしたんだろう」
現在僕と灰牙は山奥の人気がない場所にある屋敷にいる。
そこまで大きいという訳ではないが
普通の木造の一軒家だ。
家具などはそろっており生活していくのには何も問題がない。
「こんなところにわざわざ来た理由はなんだよ」
静かで無音な時間につつまれたが少しして灰牙は口を開いた。
「灯夜…お前には話さなくてはならないことがある…」
いつもの明るい雰囲気が灰牙からはまったく感じられなかった。
深刻そうな顔だ。
「な、なに……?」
「落ち着いて聞いてくれよ……これは灯夜…お前の運命だ。
お前はこの先、罪を背負い戦わなくてはならない…」
「詳しく教えて…」
「はるか昔、それも三千年以上前のこと
七人の悪魔がいた。
憤怒の罪人サタン、強欲の罪人マモン、
怠惰の罪人ベルフェゴール、傲慢の罪人ルシファー、
暴食の罪人便利、嫉妬の罪人レヴィアタン
色欲の罪人アスモデウス。
元々はただの悪魔だった七人だが追放され
人間界にやってきた。
運動能力、潜在能力、異能力などすべてにおいて
人類の頂点だった。
しかしある日をさかいに七人で戦い始めた。
理由は本当にバカなのが自分の強さを証明し
本当の人類の頂点に立つため。
そんな欲望のためにすべてを巻き沿いにして
戦争が起きた。
だがこの七人の力はほぼ互角。
決着がつくはずもなかった。
そして七人は思いついた、
子孫たちにこの罪という名の力を継がせていき
頂点を目指すと。
子孫は大罪人だけではなく配偶者の血もまざり
究極生物には生まれてこない。
つまり強さは異なって生まれてくる。
長き戦いに決着をつけることができると考えた。
大罪人たちは生まれた子に罪を背負わせ戦わせた。
そして子はまた子に罪を背負わせた。
しかし、決着はつくことはなかった。
何度を罪を背負わしていくなか時は千年流れた。
大罪人以外にも力を身につけ始めた魔術師たちが
増えてきた世の中になり魔術師たちは同盟を結んだ。
同盟の内容は大罪人の血を持つものの虐殺。
力を持った大罪人たちでも何千人という魔術師たちには
敵うことはできず土にかえっていった。
そしてそれを魔術師たちが祝いその日を時代の始まりとした」
「ちょっと待ってくれ」
「なんだ灯夜?」
「その話と僕になんの関係が?」
すると灰牙は呆れた様子で
「まだ分からないのか…つまりお前は大罪人の血を
受け継いでんだよ。罪を背負ってるんだ」
「はっ…?そんな訳…だって大罪人の血を持ったものは
全員殺されたんだろ?」
「この話には続きがある。
大罪人たちの意志はまだ受け継がれていたんだ」
「どういうこと?」
「大罪人たちは力で何百人もの配偶者がいたんだよ。
だから、一人ぐらい生きていてもおかしくはない。
つまりその生き残りが遺伝子を残していき今にいたる」
「本当に僕が?僕なのか!?」
「昨日こともあってまだそんなことが言えるか?」
「…………」
◇
(灯夜…早く罪のFirstを…)
「話しはここまで。
もたもたしてたら他の奴に狙われかねない。
じゃあね」
(しかし、もう間に合わない
今回は諦めて他の機会に…)
灯夜をあとにして立ち去ろう。
「灰牙……僕は……信じてたんだ……」
「ごめんね、君は俺を信じすぎたんだよ」
どこまで灯夜は優しいんだ。
本当に灯夜が大罪人なのか…?
「だけど……僕は……俺はっっっっ!!!!」
「えっ……?」
異変を感じ振り向いた。
そこにはさっきの灯夜とは違った。
見えない気が灯夜を包んでいた。
空気が灯夜を中心に広がっている、
熱気が呼吸の邪魔をする。
サウナの中にいる幻覚を感じる。
(Firstが覚醒した…間違いないっ…)
「俺を殺そうとしたんだ……殺されても
文句はねぇよな」
灯夜は胸に刺さったパイプを抜いた。
筋肉が膨張し傷口が塞がり止血された。
「まじかよ…これが憤怒の罪っ……」
「ほら、お前のパイプだ…返してやるよ」
「っ!?」
灯夜がパイプを投げてくると思ったら
一瞬にして視界のすぐ目の前に飛んできた。
「ぐっ…」
ギリギリかわすことができた。
鼻の付け根らへんから血が軽く流れる。
もう少しかわすのが遅かったら頭を貫かれていた。
「今ので死んでいたほうが楽に死ねたぞ」
「あいにく俺は死ぬつもりはないんだ」
まばたきをそのときした。
たった一回ほんの0.01秒の出来事
再び目を開けた時には灯夜の蹴りが
お腹に受けていた。
「ぐはっ!?」
嘘だろ…三メートルをほんの一瞬で間合いをつめ
しっかり振り切った蹴り。
約二十メートル身体は吹き飛び壁に叩きつけられた。
壁は崩壊し、内臓を傷めかなりの吐血の量。
「どうしたこの程度か…?」
またしても目の前にもう姿を表している。
こいつは想像以上だ…。
「もういい…死ね」
これは一回死なないとダメみたいだな。
かなわねぇ…。コンテニューの準備をしないと……。
◇
「あぁ……あぁ……あああああああああああああああっ!!??」
自分がやってしまったんだ。
これは現実。妄想でもなんでもない。
自分がやってしまったんだ。
自分が灰牙を殺したんだ。
なぜか穴の塞がった胸には自分のではない
血が染み付き、手と顔にも血が付いている。
目の前には血まみれとなり倒れた灰牙。
何度呼んでも返事が返ってこない。
「灰牙ーーーーーー!!!!」
「呼んだ?」
「えっ…?」
喉がもう限界を迎えてきておりかすれた声に
後ろから幼い頃から聞き覚えのある声がする。
「ごめん、遅くなった」
振り向くと灰牙の姿があった。
なんの変哲もないいつもの灰牙が。
「灰牙…どうして…灰牙はここにいるのに…」
「灯夜…知りたくはないか?
自分のその力と俺がなぜ生きていて2人いるのか」
なぜかつらそうな顔をし言う。
何かこれには深い理由が……。
「知りたい…教えてくれよ」
「…分かった、だけどここでは話せない。
ついて来てくれ」
そして今いたる。
「お前には七つの大罪、憤怒の罪を背負っている。
そしてサタンの血を受け継いでいる」
憤怒……対象となるものにいらだちを感じ
怒りに身をまかせ爆発すること。
確かに…僕はあの時灰牙に対して裏切られたという
悲しみが心の中にみちてストレスを感じ
それが爆発しそうきなった。
そしたら心の中にある糸のようなものが切れた。
そして意識が戻ると目の前に血まみれで灰牙が倒れていた。
「確かに僕は憤怒の大罪人だ……
たった一つの感情で親友を殺してしまった」
「確かに灯夜は俺を殺した。
だけどそれは俺がそうなるよう仕込んだ。
それに今までの憤怒の大罪人は
何人もの関係ない人たちを快感として
殺してきた。
だから灯夜は今までの大罪人とは違う」
「……灰牙はどうしてそんなことが分かるの?
それにどうして生きてるんだよ?
おかしくないか?」
「それについても説明しなくてはならない…
だからついてきてくれ…見せたいものがある」
「分かった」
まず向かったのはさっきまでいた部屋の隣にある
書庫に向かった。
書庫は小さな図書館と言っていいほどの量の
本が並んである。
みた感じだが全て辞典のように分厚いものばかりだ。
「ここにある本は何の本だと思う?」
「歴史書?」
「当たり、だけど普通の歴史書じゃない。
ここにある本は七つの大罪についての歴史ばかりだ」
「これ…すべてが…?」
「ああ、3000年の歴史が3000冊にしるされている。
そして俺の使命は憤怒の罪の後継者に罪を伝え
見守ることだ」
「見守るって、どういうこと?」
「俺が灯夜が幼なじみなのは偶然じゃなく必然。
灯夜が罪を背負うのと同じように
俺は使命を受け継いでいく。
だから俺の父は灯夜の父を、
俺のばあちゃんは灯夜のばあちゃんをと
ずっと見守ってきた。
2000年前に憤怒の罪人は魔術師たちの目を盗み
殺される前に一番信頼していた側近に
自分の罪を伝えていけという使命をくだした。
そして現在が俺らの番ってわけだ」
つまり灰牙はその使命のために
自由を奪われ僕を見守り続けた。
毎日毎日一緒に遊んだりしたのも………。
「でも俺は灯夜や祖先、憤怒の大罪人を憎んだことはない」
「どうして?使命と僕のせいで人生そのものが
縛られてるんだよ?」
「始めその使命を聞いたとき絶望した。
なんで俺はここに生まれてきたんだろうってな。
だけど灯夜だったから大丈夫だったんだ。
初めて会ったときには灯夜を殺してやろうとも思った。
だけど灯夜との一緒にいる時間は楽しかった。
だから俺は憎んでなんかいない」
僕の疑問に灰牙は笑顔でそしてやさしく答えてくれた。
ずっと一緒にいていつも見ていた笑顔だ。
それが本当に嬉しかった。
「ありがとう、そう言ってくれるととても気が楽になったよ。
僕は灰牙と一緒は楽しいし
その…なんというか……
灰牙が使命を持っていてくれて良かった」
「はは、なんだよそれ……まあいいや、
次に進むぞ」
「おう!」
「転移魔法を使うから俺の背中に手を当てていてくれ」
「転移魔法って何?」
「様々な種類があるけど俺のは自分で書いた魔法陣を
行き来することができる」
魔法陣を書いた場所を行き来できるんだったら
色んなとこに適当にかきまくったらもっと便利だろうに。
「なんでもっといろいろな場所に書かないんだろう
とか考えただろ」
「ばっばれた?」
「付き合いも長いしそれなりに分かる。
魔法陣を書くと消すまで魔力を消費し続けてしまうんだ」
「魔力って?」
「魔力っていうのは魔法とかを使うためのエネルギーの
ようなもの。魔力が0になってしまうと死んでもおかしくない
状態になってしまうからな」
「結構めんどくさいね」
「まあな、さあ早くいくぞ」
「分かった」
灰牙の背中に手を当てた。
「゛ゲート゛」
◇
「ここどこ?」
転移魔法で移動した先は暗くて何も見えない。
「ちょっと待って明かりをつけるから」
少しして壁に取り付けてある松明が
手前から順に燃え明るくなる。
明るくなり見えたものは石でできた壁と階段。
「行こう」
「これも魔法か何か?」
「そうだよ」
松明の炎は本物の炎。熱を感じる。
しかし全く火元が焦げていないし
木の長さが変わらない。
魔法というのは本当に便利だ。
階段を降り続けること三分ぐらいで
奥の方から松明とは違ったエメラルド色の光が
差し込んでくる。
そこから階段ではなく入り口が見え中に入ると
広い空間に出た。
中心部分には円柱のかたちをしたガラスがある。
中にはこのエメラルド色の光の光源だと思われる緑色の
野球ボールほどの大きさの球体が
謎の液体と共に保管されている。
「これは何…灰牙?」
灰牙はガラスに手を当てる。
「これは俺の生命エネルギー。
さっき灯夜は俺に質問したよな。
一つ目はなぜ七つの大罪について知っているのか
そして二つ目はなぜ生きている理由。
一つ目の理由は使命を持って生まれてきて
あの書庫にある本をすべて読んだから。
二つ目の理由はこの球体が俺を復活させてくれる」
「復活させるって?」
「まず俺が死ぬ。そしてその死んだ体から魂だけが抜けて
この球体に取り込まれる。
そしたらこの球体は俺に新たな前と同じ体と命を授けてくれる」
「生き返ることができるなんてすごいね」
「でも復活にも有限はある。
俺の残りの復活回数は一回しかない」
「えっ……それじゃあ…」
「別にもともと命は一人一つの平等だろ。
なんでそんな顔するんだよ」
このとき俺が言いたかったのは
もう一回しかないの大丈夫?ではなく
なんで一回しかないのか…。
きっと最初は何回も生き返ることのできる回数はあっただろうに。
何回死んだのだろうか…そしてなぜ死んだのか……。
◇
「灯夜は自分の能力がどんなのか分かってる?」
地下からリビングに戻り向かい側のソファーに座った
灰牙が口を開いた。
「全然分かんない」
「自覚なしか…」
僕の返答はあまりよろしくなかったのか
灰牙はため息をついた。
「えっこれってまずいの?」
「そりゃあまずいよ。
能力が使えないとただの人間と変わりないから
他の大罪人たちと戦っていけない」
「何か分かる方法はないの?」
「普通は能力が覚醒したときに
自然と理解することができるんだけどな……。
方法がないか調べるしかない。
あまり外出はしないようにしよう。
今狙われたら厄介だ」
「分かった」
少し自分が情けなく感じた。
自分のことなのに灰牙に迷惑をかけてしまう。
何もできない自分が少しいらだちを感じる。
「まあ焦らずゆっくりしよう」
「そうだね……」
この日は特に成果はなかった。
しかしこの時僕たちは知らなかった。
一人の大罪人が近づいていることに…。
「この山の奥からわずかに魔力を感じる…
一人…いや二人…?
大罪人の可能性があるな……。
行ってみる価値はある」
◇
「灰牙どこ行くの?」
朝食を終えると灰牙は外出の支度をしている。
「少し街の偵察にいく…、
昨日少し嫌な気配がしたから」
「えっそうなの、敵?」
「分からないけど…取りあえず行ってくる。
敵は一人とは限らないから灯夜も気をつけといて」
「分かった」
灰牙は玄関から屋敷を出て
姿は見えなくなった。
「僕は僕でちゃんと仕事しないと」
書庫に向かいひたすら目の前にある本を手に取り
読んでいく。一冊約読むのに二時間ほど。
年代ごとに整理されているかと思えば整理されていないため
読む順番は適当だ。
少し分かったことは能力の覚醒は計三回あり
順番にFirst、Second、Tiredとある。
そして能力を使うときは
先祖の悪魔の名称を叫べばいい。
使ってみようかとは思ったが
暴走してしまうのが怖い。
だから今はどうしようもなくなって
使うしかなかったときに使う。
これは灰牙との約束でもある。
一冊目を読み終え背筋を伸ばしていると
窓に何かが当たる音がした。
「なんだろう…今日は風もほとんど吹いてないから
枝とかはぶつからないと思うけど…」
気になり窓を開けると白い神でおられた紙飛行機が
ある。こんな山奥の屋敷にヒットするなんて不自然だ。
紙飛行機を拾い観察するが普通の紙飛行機。
「何なのかな…あれ何か書いてある…」
日差しに紙飛行機を向けると黒いものが
透けて見えた。紙飛行機を広げると中には
『狭霧神社に来い』
と書かれてある。
灰牙が書いたのだろうか?
ここを知っているのは灰牙しかいないし。
狭霧神社はこの山の中に二つだけある建物の
ひとつでそこまで遠くはない。
「取りあえず行こうかな」
玄関を出て狭霧神社へと向かった。
◇
狭霧神社はかなり有名であり年末やお正月には
たくさんの人たちが訪問してくる。
しかし今は季節の関係もあり
人一人といない。
「灰牙はまだ来てないか…」
灰牙を待つ時間つぶしをかねて祈ることにした。
三段だけある階段を上り
財布から五円玉を取り出し賽銭箱に投げ込む。
鐘を鳴らして拝む。
(この戦いが平和に終わりますように…)
「五円玉を投げるとご縁があるといいますよね」
「っ!?」
突然の後ろからの声に驚き振り向く。
同じぐらいの歳の男。
身長は少し僕より低く160センチぐらいだろうか…
黒髪で灰色のフード付きのジャケットをまとい
前のチャックは開け白いTシャツが見える。
ズボンはジャケットと同じような灰色の長ズボン。
普通の好青年にみえる。
「すいません、この季節にこの神社に訪れる人は
珍しいのでつい声をかけてしまいました。
いや~それにしても縁がありますね」
「ぐっ!?」
油断した、足を蹴られ体勢を崩された。
地面に体が叩きつけられた後
追い討ちをかけるようにお腹を蹴られ
体は宙に浮き転がっていく。
「何するんだよ!」
「お前憤怒の大罪人だろ、
ここにいるということは紙飛行機を開いて読んだな」
こいつ僕の正体に気づいている…。
それに紙飛行機はこいつの仕業。
灰牙じゃなかったのか…まずい…。
あとこいつ口調が急に上から目線に変わったな…。
「ささっと構えろ憤怒の大罪人。
ここからは真剣勝負だ」
「くそ…さっきはいきなり不意打ちしたくせに…」
立ち上がりかまえる。
お腹がズキズキする。
「貴様の名は?」
「言う必要があるのか?」
「当たり前だ。
貴様を殺した後に
墓を作ろうにも名前が分からんとな」
「灯夜だ…。
あとお前の名前も教えろよ。
この戦いに勝って宿題の作文に
敗北者のお前の名前を書いといてやる」
「ふっ……、青龍だ。
さっきの言葉後悔するなよ」
「お前もな」
静けさに包まれる。
さっきまで吹いてなかった風が吹き始め
木についた落ち葉が散っていく。
「いくぞっ!」
青龍は地面に左の手のひらを地面に叩きつける。
地面は青龍の手のひらを中心に
黄色の魔法陣が描かれ輝きだす。
くるっ…奴の能力が……。
「ルシファーソウル First 名刀 獅子王!!」
原理は分からないが青龍は魔法陣から剣を抜きとり
左こしに身につけ右手で勢いよく引き抜き
剣先をこちらに向ける。
見た目は日本刀で持ち手は黄色で
鞘は黒色で獅子が金色で描かれてある。
ルシファーと言ったことはこいつは傲慢の大罪人か…。
「ほらお前も能力を使え」
能力を使うか…?
だがまだ死にそうというかピンチではない。
ギリギリまで耐える。
再びかまえる。
「能力を使わないのか…、なめられたもんだ…。
だがお前は大罪人だ。
手加減はしないからな?」
だんだんと間合いを詰めてくる。
落ち着け…相手の能力からするに
武器を召還しただけで
身体能力はほとんど変わっていない。
「はっ!」
横切り…このままだと上半身と下半身で二つに別れてしまう。
縦切りだったらまだ避けやすいのに…。
「……っ!」
上半身をそらした。
いつも体力テストで足を引っ張る長座体前屈を
来年こそはどうにかしようと毎日色々な
身体をやらかくする体操をしていたかいがあった。
ギリギリ避けれた…。
顔すれすれを通った刀に自分の顔が写った。
こいつに離れないと次の攻撃でやられる……。
上半身をそらした勢いのままバク転をし間合いをあける。
「いい動きだな」
「運動神経が僕の自慢だからね」
「だが避けることはできなかったな」
「えっ?」
横腹部分の服が破け赤く染まっている。
確かによけたはずだが
少し当たってしまっていたのだろうか。
後からになって痛みが襲ってくる。
「ぐっ……」
「ほらまだ戦いはこれからだ!」
再び間合いを詰められる。
肩を狙った縦切り、膝を狙った横切り
「今度こそ確実にかわしたぞ」
「ほお…?」
その時肩と膝から血が吹き出した。
「ぐあっ!?」
「かわせてないじゃないか」
おかしい…確かにかわした。
だが体には切られた後がついている…。
青龍の名刀ライオンキングには何か他の能力がある。
「さあそろそろ終わりだ…」
◇
能力を使うべきか?
でも能力を使えば関係ない人たちをも…
自我を失ってしまうんじゃ……。
もう人を殺したくはない…
大切なものを失いたくはない…
どうしたらいいんだ……僕は……
『使えばいいんだよ…そんなこと気にせず』
「誰だ!?」
気がつくと周りの景色が狭霧神社から変わり黒い煙に包まれ
よく姿が見えない何かが僕の前にいる。
『ここで戦わないとお前が死ぬぞ?』
「でもここで使ってしまったら…」
『お前が死ぬと灰牙はどう思うんだろうな…
お前のために何回も死んで
自由を奪われ今までお前につくしてきたのに
あっけなく死んでしまったらどう思うんだろうな?』
「だっ……だけど使い方が分からない!」
『教えてやる…ほらこう叫べ………………』
◇
「死ね…」
俺は人を殺すんだ……。
手が震えている…。
仕方ないんだ……。
これが俺の代々の罪なんだから…。
刀を強く握り直す。
俺は灯夜の首をめがけて刀を振り下ろした。
「サタンソウル First 竜の怒り!!」
「!?」
急に動かなくなったかと思うと能力を発動した。
刀を振り下ろすのを中断し灯夜から離れる。
灯夜が黒い竜巻に包まれ
赤い雷がバチバチと音をだしており
落雷もしている。
そして中からそれらをなぎはらうようにして
灯夜は姿を現した。
目が黒いの目からどす黒い血のような紅色の目を
光らせている。
服で隠れている所はどうなっているか分からないが
身体に赤い紋章が描かれてある。
「俺は平和にこの戦いが終わることを願っていた。
だがその考えはもう捨てた。
こっからは血祭りの時間だ!!
まずはてめえから地獄に送ってやる!!」
「おいおい能力を使ったからって
調子にのりすぎなんじゃ……」
「黙れ」
「はっ!?」
間合いは五メートルはあったはずだ
一秒もみたないうちにこんな目の前に…。
やばい…
「おらぁ!!」
ミサイルを飛ばしてきたと思わすようなパンチを
なんとか刀で受け止めたが
身体は勢いよく吹き飛びそのまま境内の扉をぶち破り
中に転がる。
「なんて馬鹿力だ…」
「ほら…戦いはこれからだぜ?」