一夜目『ホテル』
こんばんは。頸華です。
なんか「変な夢」を題材として小説を書きたくなったので、書いてみました。出演は「背面黒板のラブレター」より華蓮ちゃんたち。
背面黒板のラブレターと一緒にするか迷ったんですけど、あっちのコンセプトとはちょっと違うなあと思ったので分けました。よろしくお願いします。
『登場人物紹介』
古屋華蓮
高校生の少女。ひなのことが好き。最近よく変な夢を見る。
青葉ひな
高校生の少女。華蓮がそのうち狂いそうでちょっと心配。
少年
美しい少年。華蓮の夢に時々出てくる。ちょっと頭のネジが外れ気味。
ああ、今日泊まるところを探さなければ。
なんの脈絡もなくそう思った。
私はショッピングモールにいる。周りの店は見たこともないような看板を掲げていて、店名もまるで頭に入ってこないし、ましてや何を売っているかもよく認識できない。しかしここは紛れもなくショッピングモールであるはずで、その中のどこかに泊まれる、いわばホテルのような場所があるはずだった。そして私はそれがどこにあるかを知っている。
私は歩き出した。不自然なまでに迷いなく歩いていくと、フロアの隅の白い壁になんの表示もない茶色いドアがあった。私はドアを開けて中の空間に足を踏み入れた。
どこもかしこも白い空間だった。30メートルほどの白い廊下が奥まで続いていて、左右にずらりと真っ白なドアが並んでいる。患者の心を癒すということに無頓着すぎる病院、あるいはインテリアに興味のない市役所といった風である。
その中から自分が入るべきドアを見つけ、私は部屋の中に入った。背負っていた重い荷物を下ろす。やっと一息つくことができた。そして次に顔を上げた時、目に飛び込んできた異様な光景に私はぎょっとした。
部屋には装飾も何もない真っ白なベッドがいくつか置いてあった。そしてそれらには2人ずつ、全裸の少女が横たわっていた。一つには、見も知らぬ少女が二人、すやすやと眠っている。もう一つにはまたもや知らない少女と――ひな。こちらも目を閉じて、眠っているようだ。
あまりの衝撃に声も出せなくなっていると、ひながぱちりと目を開いた。ぼんやりとした瞳で周囲を見回した後、私の姿を捉える。にやり。彼女が笑った。
「ああ、華蓮ちゃん。来ちゃったんだ」
おいでおいで、と手招き。私は吸い寄せられるように二人に近づく。ひなはなぜ、こんなところでこんなことをしているのだ。私から言えば、それは裏切りに他ならない。混乱する思考が一つにまとまることはなく、私はふらりとひなの傍らに立った。
ひなはゆっくりと身体を起こし、両手で私の頰をするりと撫でた。さらさらした少女の質感が肌をくすぐる。彼女はしばらく私の顔を好き勝手に触ったのち、何を思ったのかちゅっと唇を重ねた。驚愕した私は慌てて頭を引こうとするが、信じられないような力で押さえつけられている。粘膜の柔らかい感触と、やがて強引に差し込まれた舌の生温かさ。私はなすすべもなくそれに従う。長い長い口づけの後に、ひなはようやく私を解放した。彼女は相変わらずうっすらと微笑みを浮かべて私を見ていた。私の記憶の限りでは、ひなはこんな風に笑う子ではない。それでも、私はただぼんやりと彼女の目を見つめていた。
ごそり。
無音の空間に、突如物音がした。嫌な予感とともにそちらに目を向けると、隅に置かれた葉の白い観葉植物の裏から何かが這い出てくる。細い緑色の蛇だ。一匹にとどまらず、後から後からずるずると姿を現わす。ちろちろと赤い舌が見え隠れしている。
「ひっ」
私はとっさにひなの手を掴んで部屋を飛び出した。先程通った白い道を駆け抜け、ショッピングモールの通路に出る。ところがそこはすでにショッピングモールではなく、なにか寺とか旅館のような、古い和風の木造建築物の廊下だった。木製の床がギシギシと耳障りな音を立てる振り返ると、蛇はドアの隙間をくぐり抜けて私たちを追ってきていた。私はひなの手首をぐいと引き寄せ、彼女の体を力一杯前に突き飛ばした。直後、足の裏に鋭い痛み。ひながもうどこかへ行ってしまったことを確認しながら、私は床に倒れる。
どうやら猛毒の蛇だったらしい。身体が痺れていうことを聞かないのだ。朦朧とする意識の中で、私は自分の傍らに人が立ったことを認識した。霞む視界に映るのは、とても美しい顔をした少年。彼は興味深そうに私の顔を覗き込み、にっこりと愛らしく微笑む。桜の花のような唇が開いた。
「僕の人生で一番ハッピーだったことは……顔が良かったことかな!」
私の命はおそらくそこで絶えた。
「いや……知らねえよ」
そう呟きながら目覚めると、いつも通り自室のベッドに横たわっていた。朝の五時。スマホのアラームがぴろぴろと甲高い音楽を流している。一瞬混乱したが、すぐに先ほどまでの世界は夢であったと理解した。
わけのわからない夢を見てしまった。疲れているのかもしれない。ひなと見知らぬ誰かが寄り添う光景を思い出し、ぶるりと身を震わせる。そんなことがあれば、私はもう生きていけない。ひなとのキスは私の願望ということで片付けられるかもしれないが、なんというかロマンも雰囲気もビーフシチューもありはしなかったなとぼんやり思う。やけに感触がリアルだったことも。しかしあの少年はなんなんだ、人が死にかけてるっていうのに。お前の顔のことなんて構ってる暇あるもんか。
とにかく夢でよかったと安堵しながら、私はむくりと起き上がった。
これってジャンルはなんなんでしょうね。ちょっと頭おかしめなんで一応ホラーにしてあるのですが。