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The prayers  作者: 星うさぎ
32/44

幕間 Heaven's cry

「あー。見事に全滅しましたねー」


騎士団遠征の様子をモニターに写して見ていたミカエルが呟く。

聖母の塔のモニターは、罅割れたノイズしか映っていない。

同じ様に画面を見つめるヤハウェル、ウリエル、ガブリエル、ラファエルの面々も、結果自体には何の疑問も無さそうだ。ただ、その顔は沈鬱な表情に染まっていた。


「あー疲れた」


そのとき、扉を開けてラミエルが現れた。

表情は暗く、疲れきっている。

「ラミエル様!」

振り返って天使たちが叫ぶ。

ふらふらと部屋を横断したラミエルは、ヤハウェルの下――――大きなベッドに倒れ込んだ。

「早かったわね、ラミちゃん」

場所を譲りながらヤハウェルが声をかける。

「根性で復活してきたわ」

しかし、消滅後数分の復活はかなりの負担となったらしい。声には張りもなければ艶もない。


「私の最期を見せてちょうだい」

ラミエルはずるりとベッドから頭を上げると、背中を預けた。

「・・・・そういう言い方・・・しないで」

ウリエルが呟きながら抱えた本に触れると、モニターに録画が再生される。




結界が破壊され、龍神が飛び出す。

巻き起こる血の旋風。

龍神が腕を振るう度に、閃光が迸って爆発を起こす。

背中の翼は四枚に増えて長大に伸び、手足は黒い装甲に覆われる。

龍神は、犠牲の血を浴びながら進化していく。

狂気に燃える眼は紅く、どこまでも深い。

そこに、ラミエルが降り立つ。

龍神が腕を突き出すと同時に、鋭い閃光が雲を切り裂き、そのときにはもう、ラミエルは消し飛んでいた。


映っているのは龍神だけ。

騎士団は壊滅し、生き残りの姿も見えない。

龍神が咆哮する。

さらに彼の姿が変貌する。

翼は四枚から八枚に変わり、その眼が一瞬こちらを視て―――――――――――――



映像は終わった。

どうやら監視していた『眼』を壊されたらしい。

一同皆、魅入られたようにノイズの走る画面を見つめている。

ようやくウリエルが画面を畳んでから、恐る恐るラファエルが口を開いた。

「ラミエル様、思いついたこと、言って良いですか?」

「なぁに?」


「アレは・・・・『神』、ですか?」


他の天使たちは押し黙っているが、皆、同じことを考えているのだろう。

「違うわ」

ラミエルは即答した。

しかし、ラファエルは食い下がる。

「では、彼は・・・彼は、何者なんですか」


私たち(・・・)は、『世界』の半身。仮にこの世の全てを半分にしたとき、『正』を担うのが純白大天(わたし)。『負』を担うのが漆黒大天(かれ)

貴女たちの言う『神』がどんなモノかは知らないけど、そんな大層なものじゃないわ。私たちはただの模造品。与えられた役割以外は何一つ為せない。・・・・本来はね」

「『本来は』?」

「なんで私たちが人間としての感情を与えられたか分かる?世界を護るだけならそのためのシステムを造れば良いだけなのに。それはね、『彼女』が実験してるの」


自分を護らせるためだけなら、『世界』は忠実に従うシステムを造るだけで事足りる。そこを敢えて人間をベースにしたのには、あるものの可能性を計るという思惑があった。


感情。


『彼女』が理解できないそれが、世界にどのような影響を与えるのか。

結果は既に表れつつある。

それは、ラミエルが命懸けで龍神を止めようとしたことなどが良い例だ。


「こうやって、私たちはどんどん自分の領域から離れていく。それぞれの極天を目指して」

「極天・・・・とは何ですか?」

ヤハウェルは、むくりと身体を起こして二人の会話を聞いている。

その目には普段のからかうような色はなく、真剣な面持ちだった。


「極天は、私たちの最後の姿にして原点。半分に分けられた世界を統べる王。漆黒か純白、どちらかの極天が完成したとき、世界が終わるというわ」

「世界が終わる・・・?」

「そ。・・・・・私が怖いのはね、万が一ジンが極天なってしまうこと。もし彼が完全になったら、たぶん人間を消し去ろうとするんじゃないかしら」

「ちょ・・・待って下さい!龍神は分かりますが、どうしてラミエル様が世界を滅ぼすことになるんですか」

「世界に必要なのはバランス。私たちのうち、どちらかだけが力を持ってはいけないの。私が完成した場合、世界は飽和して滅びるわ」


まーだから気を付けてるんだけどねー。と再びベッドに倒れ伏すラミエル。

黙っていたウリエルが口を開く。

「ラミエル様・・・・もしも・・・龍神が極天になったら・・・・どうなるんですか・・・?」

「どうなるもこうなるも。彼が望んだままに世界が変わる、いえ、現実が彼に屈服するでしょうね」

「・・・・悪夢、ですね」


「そう。所詮、これは『彼女』が観る夢よ」

















識別世界名・《フェアファルエーレ》。


とある上空。


凄まじい勢いで、何かが雲の中を(かけ)抜けていく。

それは、奇妙な獣だった。

体は毛むくじゃらの巨大な鳥だが、その頭と長い尾だけは幾何学的にねじ曲がり、グロテスクな形を呈している。

言うまでもなく、この星には存在しない生き物だ。


怪鳥は脇目も振らずに飛んでいく。――――あるいは、何かから逃れるように。



そのとき、怪鳥の上に大きな影が落ちた。



次の瞬間、雲を突き破って黒い塊が現れる。

広げられた鳥の翼、短い毛に覆われた体、鞭のようにしなる尾を持つ龍は、怪鳥にその強靭な四肢で組み付くと、並び立つ鋭い牙で噛み付いた。

絶叫しながら怪鳥も、脚と尾を絡ませて抵抗する。


二匹は、離れては組み合い繰り返し、壮絶な朱で雲を染め上げる。

天候が荒れているのだろうか。雲間には稲光が見え隠れする。


ごあっ。黒龍が噴き出した紅蓮の炎が、怪鳥を直撃した。

奇声を上げてのた打つ怪鳥。

その隙を突いて、黒龍が怪鳥を押さえ込む。



黒龍の顎が怪鳥の頸骨を噛み砕くのと、怪鳥の尾が黒龍の腹を貫くのは、全くの同時だった。



断末魔も上げずに、怪鳥はざっと細かい粒子になって消えた。


それを見届けると、黒龍も羽ばたきを止めて落下していった。




ざあっ。龍の巨躯が崩れていく。

見る見る縮んでいく龍は、雲を抜けた頃には一人の青年の姿になっていた。

黒衣の青年は身動ぎもせずに落ちていく。


遂に地表の街並みが見えてきて、




ごしゃ。









頭蓋が割れて、温かい何かが石畳を伝っていく。

砕けた全身が動かないのを知覚しながら、ただぼんやりと灰色の空を眺めた。

と、水滴が一つ、頬に落ちてきた。


泣き出すように降り出した雨に身を晒す。


あの日から、現実から逃げ出すように『敵』を狩り続けた。

溜まっていた分の仕事はあらかた片付き、先ほど、現在把握している最後の『侵界者』を始末した。


己の性能を省みない過剰労働(オーバーワーク)

その結果は明らかだ。

傷を癒やす力も枯渇し、情けなく雨に打たれるがまま。

だが、それもいい。

もともとこの狂行は、自分を限界まで痛めつけたかったからだったのかも知れない。

それは、滅びることのないこの身への、僅かな抵抗だろうか。



意識が掠れてきた。

もう雨粒の感触も亡い。 

死ぬ。

また、死ぬのか。


でも、死んでもあの子の所へはいけない。

自分は永遠にこの薄汚い世界で這いつくばっているだけ。


―――――――――いっそ、全て壊してしまおうか。


空に手を伸ばし、半ば本気でそう考えた。が。



――――――――――世界がこんなに――――――だとは――――なかった――――――――――



出来る訳がない。

彼女が最後の瞬間まで愛した世界を、壊せる訳がない。


挙げた腕を下ろし、顔の上に置く。


(俺は、どうしたら―――――――)


そして、もう届かない笑顔を想って涙した。



体は冷たく強張る。

魂は灯火を消す。

意識は現実を拒む。




残された確かな死の手触りだけを抱いて、静かに目を閉じた。










ジン「なあ、この筆者のうさぎ、ツイッターやってるらしいぞ」

ラミ「・・・・あら、本当ね。でも、私たちのことも呟いてないし、数日に何回かのツイッターって、どうなのかしら」

ジン「さあ。・・・・・それにしても。本当にロクなこと呟いてないな」

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