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The prayers  作者: 星うさぎ
30/44

第27幕 不穏/大樹の家

・・・・・翼・・・・。

暖かい白――――。

懐かしい白――――。

胸を抉るような白――――。


・・・・・白い翼・・・・・・・。




「ジン!起きて!」

「む・・・」


目の前で焚き火が爆ぜる。

うたた寝をしていたようだ。

ぼんやりしていると、なおもヨエルが騒いでいた。

「ジン!手!」

・・・・ん?おお。

見れば、火箸代わりに持っていた枝もろとも、それを掴んでいた右腕が燃えていた。

腕を引き抜いてばたばた振ると、すぐに鎮火した。闇の外套は不燃性なのだ。


「大丈夫!?火傷してない!?」

「ああ、大丈夫だ」


先の闘いではかなりの力を使ったらしい。

唯でさえ制限があるというのに、めいいっぱいはしゃいでしまった。

おかげで、最近眠くてたまらない。


仕方がないので、閉じかけた瞼を押し上げて地図を広げる。

――――――――やはり。

灰狼と別れた後も幾つかの街を経てきたが、恐らくヨエルの指示通り進めば、少なくとも二日後にはある国へと到達するだろう。

ザンザット王国。

或いは、初めからそこへ至るための旅だったのだろう。

つまり、そこが旅の終着。

俺は、この不思議な旅の終わりを感じていた。



焚き火の傍ら景色を眺めると、夜空を映す湖が透明に輝いていた。

森を抜ける途中で日が暮れてしまったため、野宿を余儀無くされてしまったのだが、

「たまにはこんなのもいいかもね」

ヨエルの言葉に頷く。

この落ち着いた穏やかな時間も、悪くはなかった。


「わたし、水浴びしてくるね」

ヨエルが立ち上がる。

「うむ」

「覗いちゃダメだからね」

「はいはい」

さて、薪でも拾ってくるか。






森の木々に遮られ、湖の方は見えない。

が、何かの危険があった際は、すぐに呼ぶよう言いつけてある。

そう心配することもないだろう。


森は微かに湿っており、薪に適した枝はなかなか見つからなかった。

湖から離れる訳には行かないので、闇の中を目を凝らしながら、ぐるぐると周りを練り歩く。

・・・・・お、あれなんか良い具合だな。


「どれ・・・・・・・!!ッ」


屈んで乾いた枝に手をかけた瞬間、全速力で剣を造って振り抜いた。

ぎぃん!

暗闇に火花が散る。

二度三度、迫る脅威を感じる。

ぎん!ぎん!ぎぃん!

全て捌ききり態勢を整えた時、月明かりが差して襲撃者の姿を照らした。 

白銀が月光を眩く返す。 

全身を鎧で覆い、研ぎ澄まされた長剣を携えた騎士がそこにいた。

エンブレムは付けていないが、間違い無く天界騎士団。


「天使が何の用だ」

黒剣を構えたまま問いかける。その間に、周りの闇に干渉して天使を仕留める仕掛けを造っていく。

「・・・・・・」

天使の姿がかき消える。

ぎん!

激突する剣と剣。

「あの娘は天界(われわれ)のモノだ。返してもらおう」

何?ヨエルが天界のモノだと?・・・・ふざけやがって・・・・。 


「あいつは貴様等のモンじゃねぇ。俺のモンだ!!」

 

ドン!

吹き飛んだ天使の体が木々をへし折る。

「ぜやっ!」

夜気を切り裂いて黒剣が撃ち放たれる。

がぎん!

防御した天使の剣が砕けた。

「貴様等の目的を聞こう。あの娘は天界とどういう関係だ」

新たに剣を造り出して天使に突き付ける。

「極秘だ。だが龍神、貴様は後悔することしか出来ん・・・・」

天使の姿がブレる。

転送魔法!?

「くっ・・・!」

剣を振り下ろした時にはもう、天使はどこにもいなかった。


「・・・・・ッ!!ヨエル・・・!!」








「ヨエル!!」


「きゃあああ!!バカ!!」

ヨエルはまだ湖で水浴びをしていた。

投げつけられた石を避ける。良かった無事か。

「何かなかったか?怪我はないか?」

「いいからあっち行って~~!!」

ヨエルが白い肌を手で隠しながら追い払うので、俺は渋々退散した。

「すぐに上がるんだぞ」

「分かったってば!」






「・・・・・く・・ぅ、はぁ・・・・」


苦しげな溜め息を漏らしたヨエルは、はらりはらりと水面に浮かんだ羽を沈めた。

「・・・・・・ごめんなさい・・・・」

苦悶の表情のまま呟いたヨエルは、すぐにいつもの顔に戻し、ジンの待つ陸に向かって歩いていった






焚き火を囲みながら、ヨエルが旅の話を楽しそうにしているが、俺は曖昧に相槌を打つことしか出来

なかった。


ヨエルが天界と関係がある。


天界と言えば、元々ラミエルを産むために創られた為か、通常有り得ない『全ての世界と繋がっている』世界という特徴を持っている。

天界の連中はその特徴を利用して、増えすぎた人口をあらゆる世界に捌いている。

なので、何処に行っても鉢合わせる。

俺はすっかり目の敵にされてしまい、何度も討伐隊を送り込まれた。


その天界と、ヨエルは関係がある。

どうしたものか―――――――――――む。


語りに飽きたのか、ヨエルは柔らかな地面に横たわって、穏やかな寝息を立てていた。

俺はその体を起こして闇の寝具に包んでやり、小さな寝顔を眺めた。


例え、ヨエルの正体が何であれ関係ない。

何があろうと、この少女の笑顔を守るだけ。


この、たった一つの希望ために。









また、帰って来た。

荒廃した生地の瓦礫を踏んでも、感慨らしきものは何一つ浮かばない。

ただ、疑問だけ。


「ヨエル、何故ここに連れてきた」

少女は、瓦礫を踏み砕く感触を楽しみながら答えた。

「偶然だけど?」

嘘を吐け。何もかもを知っているはずだ。

「何にせよ、旅はここで終わりだろう」

その言葉を待っていたかのように――――或いは、そう言うと信じていたかのように――――ヨエルは言った。


「まだよ。ほら」


指差す先には―――ああ、確かに、ある。

・・・・・島に連れて行けと言うのか。

少女の顔を見れば分かる。

そこが本当の終着だと。ならば――――――――――


「さあ、お姫様。手を」


ヨエルの手を取り、翼を広げ、海原を越えるために羽ばたいた。










「ふわぁー。大きな樹ねぇ」

大霊樹を見上げてヨエルが感嘆の声を上げた。

久しぶりに見た樹は、変わることなく悠然と聳えていた。


「・・・・で、こんなとこに来てどうするんだ」




「ここに住みましょ!」




・・・・・あ?

今なんて言った?

「二人でこの樹に家を作るの。それでずっと暮らしましょう」

「家を作るって・・・・鳥じゃあるまいし」

肩を竦める。

まったく何を言っている。


「簡単よ。こうすればいいの」


ヨエルが本を取り出して広げる。

その開かれたページが仄かに光ったと認識した瞬間。


「うおッ!?」


溢れ出した閃光はヨエルを飲み込み、俺を飲み込み、そして世界を飲み込んだ。




「・・・・・・・!!?」


光が失せると、一見何も変わっていないように見えた。

しかし。


「さ、入りましょ」


ヨエルが大霊樹の幹に現れた扉に手をかける。






扉を開くと、そこは・・・・敢えて言うなら屋敷だった。

入ったすぐそこはエントランスであるらしく、広い空間に、正面と左右に扉、二階へと続く階段とまた扉があった。


「世界創造だと・・・・?」

ヨエルはあの本を用いただけで、純白大天にしか出来ない魔法(キセキ)を成し遂げた。

信じられない。

呆然とした面持ちで部屋を見て回るヨエルの後に付いていく。

リビング、書斎(ヨエル、「ここがジンの部屋ね!」)、食堂、浴場、手洗い、ホール、物置、その他多くの部屋。


幾ら樹が巨大とは言え、明らかに空間を無視しているが、それだけの世界を創り上げたのだろう。


きらきらと輝く瞳でヨエルがこちらを見ている。

褒めて褒めてとオーラ丸出し。


「あーはいはい。すごいすごいよよくやった」

ぽんぽんと頭に手を置いてやる。

「えへへー」

嬉しそうに顔を蕩けさせるヨエル。



・・・・・もう、成るように成るば良いさ。



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