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The prayers  作者: 星うさぎ
29/44

第26幕 決着/悪魔祓い




「いってぇ・・・・」


巻き上げられた土煙が収まると、周りは酷いことになっていた。

ずたずたに引き裂かれた大地。そして俺の外套もぼろぼろになっている。

双剣を握る手が千切れ飛ばなかったのが不思議なくらいだ。

なんだあの剣は。人の手によるものだとしたら、とんでもない代物だ。・・・・っと。


がぎん!

休ませる間も無く灰狼が襲い来る。

もう半身が悪魔化しており、意識があるのかどうかも怪しい。

「おい、言っておくがな、万が一俺を殺したところで、お前の悪魔が俺を喰って、さらに力をつけるだけだぞ」

「オレ、ハ、帰ル・・・・あイツの、とコロ、ニ・・・・」

ダメだこりゃ。

「るおぉぉオオオ!!」

また明星を手に躍り掛かってくる灰狼を迎え撃つ。


こいつを唆して俺を討とうとしているのは、間違いなく右手の悪魔と判断していい。

これを何とかしない限りは、灰狼が純粋に俺と闘える日はこない。

それは、困る。

俺はこの殺し合いが好きだ。

あいつとなら楽しめる(・・・・・・・・・・)


射抜くような殺意を感じる。

ああ、最高だ。

でもノイズが混じってる。

それじゃあダメだ。

在っていいのは、お前の燃える憎悪だけ。

仕方ない、一肌脱いでやるか。


双剣を戻して長剣を取り出す。

うむ、やはりこっちの方がやりやすい。

「来いよ、半端モノ。お前等の王の前に跪け」



「・・・・・アアアァアアァアアアアアアアアァアアァァァアアア!!!!」



突然灰狼が雄叫びを上げた。

それに呼ばれるように、あらゆる家や店、建物の扉が開け放たれた。

「何!?」

飛び出す『影』共。

凄まじい数だ。

『影』共は灰狼の周りに集うと。

「アァアァアアアァァァァア!!!」

喰い出した。

右手が。

『影』を。

「マジか・・・・」

共食い、いや吸収か。

灰狼の腕に憑いた悪魔が、その元の『影』を喰って自分の濃度を上げている。

「グ・・・アァアアァガ・・・・」

灰狼の姿が変わっていく。

全身を闇が覆い、骨格、筋肉まで代用品を作り上げて、おぞましい人外が形を成す。


「ヒ――――グァアアアアアアアアア!!!!」


悲鳴のように産声を上げたソレは、そう、まさしく絵に描いたような悪魔。

体長は俺の倍近く。馬鹿でかい手には鋭い爪。顔は角の生えまくった仮面。背中には黒い皮のような翼。


奴の得物は二本とも打ち捨てられている。

(プライド)を捨てた以上、こちらが対等にやりやってやる必要はない。

絶叫しながら灰狼が突っ込んでくる。

大きく振り下ろされた腕を受け止める。

「ぐ、おお・・・・」 凄まじい怪力だ。

弱っているとはいえ俺の剣が押し返されそうになる。

「ッ!?・・・・がはっ」

奴の股から何かが伸びて、俺を宙に放り出した。

あれは――――尻尾!?

何でもありだなちくしょう。

「ウオオオ!!」

「おっと」

さて、どうするかね。




がぎぎぎぎぎん!!

ものすごいスピードで攻防を繰り返すジンと悪魔。

もうわたしの視力では捉えきれない。


ぐわっと広げた手を叩き付ける悪魔。

跳びすさってよけるジン。

ばがん!!

大地に亀裂がはしる。

すごい怪力だ。

よく見るとジンもつらそう・・・・じゃない。

笑ってる。

歓喜の感情がにじみ出ている。


ジンが剣を振りかぶる。

素早く悪魔が防ぎに入る。

「残念」

次の瞬間には背後に回り込んだジンが悪魔を斬りつける。

「グォオオオオオ!!!」

吠える悪魔と距離を置いて着地するジン。

ばきん。

「なんてこった」

ジンが手にした黒剣は、刃の中程から先が無くなっていた。

「面倒臭い野郎だ。ちょいとサービスしてやるか、なっと!」

言うやいなや、ジンの体が炎に包まれる。

燃え盛る炎を纏い現れたのは、黒い騎士甲冑、が消えた。


どがん!

「グァ?」

悪魔が横凪に吹き飛んだと思ったら、今度は上に叩き上げられた。

最早わたしに見えない速さでジンが舞い狂う。

相手は悪魔。まるでお手玉のよう。


例えるなら、ジンは真の黒。

どんな光を浴びても輝くことはなく、見る者すべてを狂気に引き込む魔の色。

それに対して、悪魔の色は褪せた黒。

ジンの色に比べたら偽物もいいとこ。


そして、真黒がすべてを呑み込む。



「―――――森羅万象」









街の建物が根こそぎ吹き飛んだ後に、ぼろぼろになった悪魔だけが倒れていた。

「ふむ。あんなままごとではこれが限界か」

今の俺ではこれが限界。それでも倒しきれなかった。

悪魔――凄まじい力だ。

この世界で何が起こっている?


「・・・・グ・・・オ」

「まだ動けるか。では、お前の中の憎しみを寄越せ」


手をかざす。

それを脅威と感じたのか、僅かに悪魔が身を竦める。

悪魔の顔を掴む。

「さあ、来い」


オオオオオオオォオオォォォォオォオオオ!!!!


悪魔の体から離れた『影』が、俺の手に喰われていく。

「おー、大量だこりゃ」

見る見る悪魔の鎧が剥がれ落ち、遂に灰狼の体だけが残った。

「ぐ・・・・く・・・」

生きてる生きてる。

まったく、精神力が強い奴だ。・・・・・・ん?

何だこりゃ、一つ。ただ一つだけ吸収できない『影』があった。

「腕・・・の『存在』に取り憑いてる?」

どちらにせよ俺が取り込むことは出来ない。なら、やれることは一つなのだが。


「う、く・・・・なにを、している・・・?」

気が付いたのか、灰狼が呟いた。

「今、お前の悪魔を祓ってるんだよ。大人しくしていろ」

「祓えるのか!?」

「最後の一つが落とせない。何だこれは」

「オレに最初に憑いた奴だ。あいつは、オレの腕を喰ったんだ・・・・」

駄目だ。

やはり、殺すしかない。

だが今の俺では――――――


「悪いな、今俺はモノを殺せないんだ。お前の悪魔は殺すしかないのだが、それが出来ん。諦めて――――――」



「わたしがやるわ」



「・・・・・ヨエル?」

隠れていたはずのヨエルがいつの間にかやって来て、俺の隣に立っていた。

「わたしがこの人の悪魔を祓う。やり方を教えて」

わたしがやるってお前・・・・・。

「止めておけ。こんな奴にお前が労力を払うこともない」

「だって、ジンの友達でしょ?」

「そんな訳、」

ないのか?

生まれてこの方、男友達というものを持った試しがない。

いや、どうなんだ?

俺とこいつは友達なのか?


「よく分からん。まあいい。仕方ない、手伝って貰おう。ヨエル、本を持て」

「うん」



跪いたヨエルが、倒れたままの灰狼に触れる。その手には黒いナイフが握られている。

俺は、ヨエルの持つ本に悪魔殺しの魔法式を記させる。

本来、魔法の心得があれば、この本を通じて俺が使う魔法を使うことが出来るのだ。

ヨエルに魔法の使い方が分からない分、俺が手助けをすれば十分実現は可能だ。

あとは、素質か。


「聴け、闇の欠片よ」


ヨエルが足りない分の魔力をイメージで補うために、呪文詠唱を始める。

「祖は白龍。我は森羅万象を司る天秤の代行者なり。汝、世に迷いし闇の欠片よ。我は我が大罪を以て汝が罪を赦そう」


ヨエルの魔力が高まっていく。

「くっ・・・・」

俺から魔力が吸い上げられていくのが分かる。

驚いた。これほどまでに負担が大きいとは。

だが、そんな驚きもその後に起きたことに比べれば些末なものだった。


「何!?」

なんと、ヨエルの背中から純白の翼が生えたのだ。

「・・・・天使・・・」

眩しそうに目を細めて、灰狼が呟く。

「闇の欠片よ!我が牙を受けよ!」

ヨエルが叫び、ナイフを振り下ろす。

灰狼の右腕にナイフが刺さる。と。

凄まじい勢いで黒い霧が噴き出した。



オオオオオオオオオオオオオオオオ!!


断末魔を上げながら、黒い霧が未練がましく灰狼の腕に絡みつく。

「さらばだ、我が力の権化よ」

きん!

見えざる刃が霧を断つ。

そして、遂に霧はか細くなって消えた。


「やはり、お前にはそちらの方が似合うな」


艶月を手に灰狼が立ち上がり、右腕を眺めている。

「本当に、これで悪魔が落ちたのか」

見た感じ何も残ってない。

紛れもない真っ当な人間の腕だ。すると、灰狼は俺とヨエル―――翼はいつの間にか無くなっていた―――の前に跪いた。

「今まで済まなかった、龍神。ありがとう、翼を持つ少女よ」

「いえいえ、これからもジンの友達でいて下さいね」

目を丸くして顔を合わせる俺と灰狼。どちらともなく苦笑した。




「これからどうするんだ?」

奴の目的は自身の悪魔を祓うことだったはず。

「そうだな。国に帰るよ」

国―――東の天照国か。

「待たせている奴もいるからな。そろそろ帰ってやらないと」

「うむ。達者でな」

「此度は本当に世話になった」

再度、頭を下げてから灰狼が踵を返す。その姿がどんどん離れていく。

そういえば、獲物を逃がすのは初めてだ。


「さて、行くか」

「うん」


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