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The prayers  作者: 星うさぎ
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第25幕 再戦/kill you!!

「つっぎーの街のー名物はー、おいしい林檎のフルコースー。パイ焼きタルトに丸かじりー」


今日も俺たちは、地図の直線に従って新しい街を目指していた。今度の街は森を横切り、少し都市から外れた所にあるそうだ。

龍神の書によると、その街は林檎の名産地らしい。食い意地の張ったヨエルは上機嫌で歌なんぞ歌っている。

それよりも、龍神(おれ)を従えるのに必須で、心得さえあれば史上最強の魔導書にもなる本をこんな使い方しないで貰いたい。

しかしまあ、人を焼くことも出来るこの本を観光案内に使うのも、この娘らしいと言えばそう言える。


もしかしたらこの契約というのは、本来一つしか使い道のない俺に、また別の可能性を示してくれるものなのかも知れない。

(なんてな。だからって観光案内ってガラでも無かろうよ)

頭を振って、夢のある妄想を払った。






「何なの、これ・・・・」


はっきり言おう。

目的地のテルミヴィルトは廃街だった。

唖然としているヨエルは放っておいて、俺は検証を始めた。


テルミヴィルトは、どちらかと言うと街よりも村に近い。

この辺りを横断する山脈の麓にある中規模の村で、産物を家畜を使って運び、近所の街と交易をしていたらしい。

今は人っ子一人いない。街に破壊された跡はなく、ただ空気が死んでいた。

村の中に踏み込むと、嗅ぎ慣れた闇の匂いがした。間違いない。この村は『影』に滅ぼされた。


「ヨエル、ここは危険だ。引き返そう」


振り向いて息が詰まった。

何の警戒心もなく近くの宿屋らしき建物に入ろうとするヨエル。

最近分かったことだが、『影』共は日光に弱い。

照らされてすぐに蒸発することはないが、基本的に物陰に隠れるなどしているようだ。

つまり―――――――――――


「きゃああ!!」

ばん!

扉が勢いよく開いてヨエルを吹き飛ばす。

そして這い出る『影』。

百足のような姿のそいつはギチギチ鳴くと、猛然とヨエルに襲いかかった。


当然、俺は間に割り込むと、剣を掲げる。

流石の『影』も俺の姿を認めると、身を引いて様子を窺った。


「俺のものに触れるな、三流が・・・・!!」


黒剣が振り被られる。


が。


きん!

断末魔を上げて『影』が消滅する。

まるで見えない刃に切り裂かれたように。


再び宿屋の扉が開く。

出て来たのは『影』ではなく人間だった。


「久し振りだな、龍神」

現れたのは、くすんだ薄手のコートを着た灰髪の青年。

「お前は・・・・灰狼か」

すでに臨戦態勢の灰狼。

俺はヨエルに仕草で遠くに避難するよう命じると、時間稼ぎに話しかけた。


「この村はお前が潰したのか?」

「いや、闇の気配がする所にお前がいると思って来ただけだ」

「何故俺を狙う?」

「何度も言っただろう・・・・・」


軽く振り返ってヨエルがちゃんと離れたか確認する。

ヨエルはぎりぎり安全圏でこちらを見ていた。


「ジン、前!」


「!!」


ぎぃん!

間一髪、頭上に落とされた剣を受け止めた。

「お前を殺すためだよ」



灰狼を弾き飛ばすと、苛たたしそうに剣を振って言った。

「だーかーらー、俺を殺しても悪魔は落とせないって・・・」


「嘘だ!!」


独特の歩方で迫る灰狼。

前回は惑わされたが、ネタが割れればどうということはない。

左手の剣はブラフ。本命は右手の魔刀にある。


・・・・・ん?


今、こいつはどちらの手に剣を持っている?


「今回は出し惜しみなしだ。飛ばして行くぜ」

ごう。灰狼の右手が爆ぜる。

黒く変色したそれは悪魔の手。

「さぁああ!!」

繰り出された一撃を受け止める。

先程とは段違いの重さ。

人間とは思えないスピードで刃が舞う。

どうやら、新しい魔腕の使い道を見つけたらしい。

強力かつ俊敏な剣舞。そして忘れた頃に――――――――――


視界の端で、灰狼の左手が腰の刀に触れたのを見逃さなかった。

迫る見えざる刃をかわし、弾く。

まったく同時に繰り出される魔剣は、この俺さえもやり辛い。


剣技も知力も申し分ない。

ただ、少し人間の常識を捨て切れていない嫌いがあるが、そこはまだ見込みがあるだろう。


この類い希なる好敵手に、俺は少なからず賞賛と感謝を贈っていた。


よくぞ俺の前に現れてくれたと。



「うおおおお!」


大上段な振りかぶった灰狼を迎えるべく、黒剣を振る。


がきん。


あ?

見れば、振りかけた柄の部分が赤い半透明の壁に当たっていた。

視線を灰狼に戻すと、奴の今まさに振りかぶっている剣が薄く輝いていた。


「じゃかぁしい!」

間一髪、壁を叩き壊して防ぎきる。

「まだだ!」

魔刀が唸る。

不可視の刃が三つ牙を剥く。

俺の剣は防御に回っていてそれを防ぎようがない。

「殺った!」

そう、俺の剣が一本きりだったならば。


ぎん!

黒剣が刃を弾く。

俺の手にもまた、二本の剣が宿っていた。


「お前が相手ならこの方がいいと思ってな。こちらも出し惜しみはなしだ」


くるりと回してサイズを整え、構える。

漆黒の双剣は、日の光を受けてなお茫々と浮かび上がっていた。

「面白ぇ・・・・」

灰狼は、凶暴に口端を吊り上げて笑った。




ヨエルは建物陰から二人の死闘を見守っていた。


ジンは楽しんでいる。

相手を殺すだけだったら魔法の一撃で終わりなのに、何故わざわざ相手のやり方に合わせているのか。

それはやはり、彼の未練か。

彼にとって人間と対等に接することが出来るのは、ただ命を賭けて互いに殺し合っている時だけなの

だろう。


その事実に、彼女は少し寂しさを覚えた。

そして、自分では代わりになれないのがもどかしくもあった。


次に、相手のツンツン頭を見た。

最初は、どうしてジンがあんな変な動きをしているのかと思ったが、どうやらツンツン頭の持つ剣が原因だと分かった。


目を凝らすと、薄青の煙のようなものがジンに向かって奔っていくのが見えた。


彼は―――ている。


「あれ?」

彼の感情が読めない。

いや、様々な感情がごちゃ混ぜになっていて、最終的に一つのところに帰結していないのだ。


怒り憎しみ嘆き絶望、そして、圧倒的な歓喜と殺意が彼の右腕から流れ込んでいる。


存在汚染タイプB。

彼を悪魔憑きと認定。

『翼』の限定解除を―――――――強制キャンセル。


まだ早い。

ジンが戦っている限りは、彼に任せよう。

わたしの正体に気付いて欲しくはないし、第一もう、わたしは――――――――


その時、戦局に変化が起こった。


「この悪魔を祓って、オレはあいつのところに帰るんだ・・・!!」


呪詛のように呟くと、灰狼は右手の『明星』を鞘に戻し、腰の『艶月』を目前で横に構えた。

「う、おおぉおお!!」

灰狼の魔力が高まっていく。

それに連れて、右半身が黒い模様に覆われていっていることに彼は気付いていない。

「がぁああぁあアアアア!!」

遂に右目が赤く変色した時、今まで一度も抜かれることのなかった艶月が、中程までその白刃を見せた。


凄まじい魔力の波がジンに叩き付けられる。

「・・・・・!!」

咄嗟に双剣で頭部と胸部を防御する。



『艶月・王狼熾華閃八分裂き』



直後、刃の豪風が彼を飲み込んだ。



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