表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The prayers  作者: 星うさぎ
20/44

第18幕 逆転/闇の鎧

全員が目を開けたとき、そこに破壊し尽くされた街はなかった。


視界一杯に広がる白。

白い玉座へ向かう路の両側には、白柱が無限に連なっている。


「これは・・・・・」

ジンの驚きにラミエルが応じる。

「そうよ。貴方の『城』をモチーフにさせてもらったわ・・・・・でも」


傷付いたラミエルの体が見る見る癒されていく。

供給された魔力が自己再生を可能にしたのだ。


「この世界の属性を『光』にしたわ。これで貴方の力は激減。そして―――」

言うまでもない。

明らかに力を漲らせて天使たちがラミエルと並ぶ。


「形勢逆転ね」


・・・・・ラミエルの純白大天としての二つ目の能力。

世界創造の力は修復だけでなく、彼女が思い描いた空想をも現実化する。


名付けられたことで世界の一つとなった『白亜神殿(偽)』は、ジンを閉じ込める都合の良い檻となった。


「・・・・俺に何を求める」

「命の尊さを思い出して」


ジンは酷薄な笑みを浮かべる。

「『思い出して』ね・・・・」

全身から黒い気が溢れ出す。


「捨てたよ。そんなモノぁ!!」


勢いを増した漆黒の翼がラミエルを襲う。

が、ミカエルとウリエルがそれを阻む。


「行くよ、バルムンク!」

「・・・起きて・・・ソロモン・・・・」


ジンの黒剣を受けたミカエルは、全力で剣戟を捌きながら一瞬の隙を見出した。

「覇龍剣・斬空破!!」

研ぎ澄まされた風を纏った一撃が、ジンの頬を掠める。

つと、細く滴る紅。

常に魔力で強靭に強化されているジンの皮膚を切り裂いたのだ。


「・・・・・ちっ」

後退するジン。だが。

「・・・・ケラヴノス・・・・フォス・・・・・トラグダオ・・・!・・・・雷神賛歌サンダーソング!!」

雷の群れが雪崩かかる。轟音を立てて降りかかる落雷を防ぎきれず、ジンの外套の裾が焦げ、煙を上げる。


(やっぱり、体が軽い。それに・・・・)

(・・・・魔力が・・・満ち溢れる・・・・・・)


ラミエルが造り出した世界の決定権―――その世界の属性を特定できるという権利。

今彼女が指定したのは『光』。

それに類するラミエルを含む天使たちの能力の向上は、このためである。これがラミエルの唯一の必勝法――――――『自分の領域内で戦うこと』なのだ。


そして遂に、光の女神が動く。


「暁の光輪は我に従え!大天使来迎エンゼルラッシュ!!」


宙に現れた輝く光の十字架が、ジン目掛けて降り注ぐ。

ジンは咄嗟に闇で盾を創り出すが、真反対の概念を持つ神殿では、十分な魔力を運用出来ず、幾つもの十字架の直撃を受けていた。

「う、おおおぉ!!」

無理矢理造った黒剣を飛ばすが、ウリエルの障壁に弾かれ、ミカエルに斬り込まれた。


苦悶の表情を浮かべ、黒翼を前に掲げて盾にするジンに心を痛めながらも、彼を止めるにはこれしかないとラミエルは割り切った。


ほぼ一方的に攻撃を仕掛けるミカエルとウリエルは、これなら、と勝利を確信した。



――――それは、余りにも早計過ぎる判断だと気付くことは、誰にも出来なかった。







『黒は、純粋な色ではない』


ジンが金時計と再会した日、彼はそう言った。

『黒とはその他あらゆる色が混ざり合って生まれた色。故に全ての混沌。全てを統べる王の色だ』

また、こう言った。

『白は純粋な色だ。の色は、その他全ての色に何一つ交わることなく君臨する、孤高なる王の色だ』


『黒は全ての色を克服するが、ただ一つ白にだけは侵される。彼の色の持つ純粋さは、黒にとって毒なのだ』


『だがその白も、黒を克服することは出来ない。何故なら白はその純粋さ故に、最も染まり易い色だからだ。如何なる孤高の色と云えど、染まり続ければやがて黒となろう』


『これは喰らい合い(ゲーム)だ。『彼女』が創った本来存在し得ない世界同士がぶつかり合う、暇つぶしに過ぎない。君たちは世界の半分の王として、互いを喰らい合うのだ。さぁ、己の役割を演じるが良い』



この力は何かを護る為のものではない。

ただ、憎んだものを殺し壊し砕くためのもの。

この破壊の力を、この自分の課された役割を、恨んだことはない。

それは、この世界の何処かで自分が引き継がなかった分の苦しみを、彼女が請け負ってくれていることを知っているから。


だから、この誰かから奪うだけの使命をこなし続けた。

きっと自分は独りではない、そう信じ続けて。


――――それでも、お前までそんな目で俺を見るのか、ラミエル・・・・・!!


ジンの瞳の弱った炎が、再び燃え上がる。

彼の魔眼の能力―――負の感情を魔力に変える力は、本来、他人の感情を魔力に変えて自分のものにするためのものではない。

『世界』に選ばれた、己が激情を最大限にまで活用するためのもの。


不意に動きを止めた龍神に、ミカエルが斬りかかる。

「殲王剣・紅炎斬!!」

ミカエルの属性の火の顕れた燃え盛る剣が叩きつけられる寸前、ジンの体が炎上した。

「うわっ!」

慌てて飛びすさったミカエルは信じられないものを見るように、目の前で黒い炎に捲かれる龍神を見つめていた。


「・・・・ミカエル・・・彼を止めて・・・・・・!!」


膨大な魔力を感じたウリエルが叫ぶ。

すかさずミカエルの剣が唸る。

「やっ!!」

裂帛の気合いと共に繰り出される一撃。

それが黒炎に向けて放たれた時、炎の中から黒い手甲に包まれた手が現れ、がっきと剣を受け止めた。


「なっ・・・・!?」


ミカエルが驚きの声を漏らす。

そして、黒炎がその帳を解いた。


姿を現す黒い甲冑。

全身に漆黒の鎧を纏い、頭は龍を模した鉄仮面で覆い隠している。

浮かび上がっているのにその背中には翼は無く、ただ紅い双眸が覗いている。



「・・・・『黒騎士の闇鎧』・・・・・・」



しかし、本当の驚き、いや、恐怖はラミエルにしか解らない。

初めて見るがしっている。

『アァ・・・・・アアァァァアアアァァァア!!!!』


くぐもった咆哮が轟く。

それは、紛れもない殺意を乗せた、破壊の旋律だった。


「早く!私の傍へ!!」


ラミエルが叫んだ瞬間。


「あっ!!?」

「・・・・・うっ!?」


突然二人の天使が吹き飛んで、通路を挟んだ左右の柱の群れに突っ込んだ。

一瞬の出来事だった。

ラミエルの呼び掛けに反応したほんの少しの隙を突いて、まずミカエルを殴り飛ばし、次いでかなり離れた場所にいたウリエルを蹴り飛ばし、次の瞬間にはラミエルの目の前に迫っていた。


理解する前に反射で防御する。

激突する拳。弾ける火花。

ちりちりとひび割れる障壁を、全身全霊を傾けて維持する。

『オオオ・・・・アァァオオオオォォ・・・・・・!!』

仮面の奥の紅い眼が、一途なまでに殺意を訴える。


『黒騎士の闇鎧』。

ジンが常に纏っている『深闇の帳』を形状変化させたもの。

剣・魔法を一切使わないという制限の下、全ての魔力を身体能力の強化に回すという概念武装。


『アアァ・・・・・・アアァァア!!!』


ジンが限界まで引き絞った拳を放つ。

ラミエルの障壁は耐えきれずに砕け散る。

最高の力を発揮する事の出来る状況に於いてなお、力負けしたという事実にラミエルは戦慄する。 


振り被るジン。

放たれる魔拳。

寸前、現れる青い盾。

刹那の間、押し止められる拳。

その間にラミエルを抱き抱えて、その場を離れるミカエル。

再び神殿に穴を穿つ二人の天使。


「ミカエル!ウリエル!」

叫びつつ剣を抜いて駆『オオォォォォォオ!!!』

玉座に叩き付けられるラミエル。

「・・・・・う・・・くぅ・・・・!」

ギリギリと締められる首。

侮っていた。

必勝を確信した瞬間に覆される現実。


戦術も戦略も関係ない。

あらゆる小細工を強引に押し潰す、圧倒的な力。

これが、漆黒大天の力・・・・・!


仮面の口が開き、ギザギザした牙が、ガチガチと勝ち誇るように打ち鳴らされる。

少女の体躯を持ち上げる黒い手に力が籠もる。

「あ・・・!あぁ・・・あ・・・・・」

紅い双眸が訴える。

裏切り者、と。

逃げたな、と。


「違う・・・・私は・・・・・」



「神牙・破断剣!!」

「・・・・・ブラスト・アロー!!」



血にまみれたミカエルが振り下ろした剣を手甲で防ぎ、返す手で放たれた矢を打ち落とす。

そして炸裂する矢。

『!?・・・・・ゥオオォ!!』

目潰しの矢に当てられて、ジンの集中が鈍る。

ラミエルは全力でジンの仮面に覆われた顔を蹴り飛ばし彼の手を逃れ、上空で向き直った。



「お願い、力を貸して」

ラミエルの周りの魔力の渦が輝く。

星屑の如き光輝に、ジンが仮面の奥の目を見開く。


「我が手に輝く万象よ、己が照らす世界を讃えよ」


集められた燐光が、日輪の輝きを得る。

両手を前に突き出すラミエル。

瞬間、黒の騎士甲冑を解いたジンも叫んでいた。


「――――森羅」

「万象――――!!!」


白と黒の世界がぶつかり合い、神殿は混沌色に呑み込まれた。











ウリエルが視覚強化の魔法を掛けて周りを見渡した時、そこは純白の神殿ではなかった。

瓦礫が広がる破壊された街。


「元の世界に戻った・・・・・?」

血が固まって乱れた髪を直しながら、ミカエルが起き上がる。

「龍神は逃げたみたいだね。あー痛・・・・・てぇっ!?」

空から降ってきた何かが、ミカエルの腕の中に落ちる。

「ラミエル様!?」

ずたぼろになった彼女はミカエルに呼び掛けられても、閉じた瞼を開かなかった。













遠く離れた塔の上から、慌てて天界へ帰って行く天使たちを見つめる影。


ぼろぼろになった外套をはためかせながら、ジンは左手に嵌めた銀の指輪を見つめていた。


「随分と手酷くやられたな」


塔の狭い足場に、もう一つの人物が現れる。

「・・・・・お前か」

ぼんやりと反応するジンに金時計が言う。


「闇鎧を出してまで相討ちとは、少々手加減し過ぎではないか?」

「・・・・・・・」

「まぁいい。とにかく、外敵を討つのは構わないが、くれぐれも羽目を外し過ぎるなよ。私も敵に回りかねかないからな」

「・・・・御託はいい。次の仕事は?」

「休まないのか?」

「休んでいる暇などない。空いていると余計なものに手を出しちまう」

「そうか。では頼んだぞ。この仕事、久し振りに厄介なものになりそうだ」


用件を終え、するりと姿を消す金時計。


(・・・・・ラミエル・・・俺は・・・・・・)


塔の上には、独り思い悩むジンだけが残された。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ