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The prayers  作者: 星うさぎ
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第15幕 カラーズ/悪魔




「揃ったようだな」


真っ黒な空間の真ん中で、金の少年が口を開く。

その前にはまるで、そこにテーブルがあるかのようにティーカップが浮いている。


「さあ、始めようか」


何もない空間に腰を掛けた金時計が宣言する。



「黒天の奴は《ロストアサナト》を中心に活動しているらしいな」

金時計の言葉を受け、少し離れた場所に座るラミエルが答える。

「そうね。あの世界は彼が産まれたところだもの」


「知っての通り、今あの世界で異変が起こっている」

「それが分からないわ。『彼女』は何も教えてくれないの」


金時計が深々と溜息を吐く。


「とある世界が反乱を起こした」


ラミエルの目が驚愕に見開かれる。


「世界が・・・反乱・・・・?」

有り得ない。

全ての世界は、『世界』の意志の下に統合されているはずだ。

あるとすれば・・・・



「そう、《混界》だ」



金時計が厳かに告げる。幼げな少年の顔立ちにはいつもの不敵さとは違った表情が窺える。


「このことは漆黒大天には知らせていない。だが、直に奴の業務は増えることになるだろう」


そこまで言って、金時計は背後に声を掛けた。


「君の方はどうだ?銀詩」


その時初めて、暗がりにいた人物が発言した。


「僕の方は大丈夫だよ。三回程アクセスがあったけど、防壁が巧く働いてくれたようだ」


その男は空間に背を預け、寝そべるように手に持った本を広げていた。

逆立てた銀髪と顎髭に、鼻先に乗せた眼鏡。 

年の頃は二十代前半。落ち着いた風体とくたびれた衣装が、推定される年齢よりも老けた雰囲気を醸し出している。


「彼には悪いけど、今このことに気付かれるのは得策じゃない。どうやら、彼も、相当荒れてるらしいじゃないか」


「全く。人間共がちょっかい出すおかげで更に死人が出る」

ま、私たちには関係ないが。そう言って金時計は紅茶を啜る。


「とは言うものの。ラミエルちゃん、何かジン君用の抑止力は用意しているのかい?」 


《銀詩》が口を挟む。


「ええ、一つだけ。でもまだ完成してないの」


金時計が懐から三冊の本を取り出し、見えないテーブルに置いた。


「『ネクロノミコン』、『セラエノ断章』、『エイボンの書』。なかなか興味深い物だった」


金時計の袖から伸びた金の鎖が本を吊り上げ、銀詩の手に送り届けた。


「どれもこれも《侵界者》共について記されている。驚きだ。人間は自分たちを滅ぼしかねない存在をこんなにも信仰しているのだ。全くもって救いがたい。――――多少減った方が『彼女』のためではないか?」


「そんな・・・・!!!」


ラミエルが見えない椅子を蹴って立ち上がる。


ひたすら金時計に反論しようとするが、どうしても言葉が続かない。


「――――だけど、」

銀詩が唄う。


「放っておく訳にも行かない。そうだろう?」


金時計は、しぶしぶといった体で首肯する。


「『世界』から嘆願されたのだよ。黒天を止めるようにとな」

「じゃあ・・・・」


「ああ。私も協力しよう。・・・それで、混界についてだ。今情報を送る」


目をつむるラミエル。

頭の中に大量の情報が流れ込んでくる。

その一つ一つを選り分け、解析、理解する。



「・・・なんて・・・こと」



額に汗を浮かべ、ラミエルは手をつく。


『影』 悪魔 穴 黒の王


混界 悪魔憑き 闇剣 


 

  『漆黒大天』



ついた手を汗が流れていく。

ラミエルの顔色は蒼白になっている。


「感想は?」

金時計が促す。


「・・・・狙いはなんなの?」


「わからん。なにしろ私たちの内、誰も接触したことがないのだからな」 

それを聞いて、ラミエルは心なしか安堵の表情を作る。だが。



「・・・・・・待って」


先日、ジンと刃を交えた青年は、確か―――


「どうした?」

金時計が悪魔のように笑う。


知っている。

彼は、ジンが――と接触したことを知っている。そして、同じぐらい、彼とソレが接触してはいけないことを知っている。

さらに―――目を閉じて、こめかみに手を当てていた金時計が笑みを深める。



「――――ああ。今ちょうど漆黒大天が――と接触したそうだ。彼も災難だね。世界の内も外も、遂には身内さえも敵に回ってしまうなんて」



そう言ってラミエルを見遣る。しかし、その時にはもう彼女の姿はなかった。


「・・・・・やれやれ。最近の若いのは落ち着きがないね」

「君が老け過ぎなだけだよ」







「どういうことだ!!」 

苛立ち紛れに体を預けていた壁を殴りつける。


どこかの街の路地裏。

暗がりに溶け込むようにジンは歯噛みしていた。 

あれから―――灰狼という男と戦ってから妙に落ち着かない。

あの黒い腕、気に掛かる耳障りな言葉おと。 


いらいらする。


接続アクセス・・・『万象の綴り手』・・・・検索サーチ・・・・・『悪魔』・・・・」


『世界』が所持する図書館データベース潜行ダイブする。

彼らにのみ許された『世界』の記憶の閲覧。


「該当項目・・・・574件・・・・・追加検索・・『悪魔憑き』・・・該当項目・・・・・・一件・・・見つけた・・・・!」

幾つもの光る本の間を飛び抜ける幻視イメージ


最後に現れた一冊を手に取ろうとした瞬間。


「・・・・・ちっ!また・・・・」

その手と本の間に、蝶のように羽ばたく本の群れが湧き出した。

無数に現れた蝶はジンの視界を覆い尽くすと、更に彼の意識を図書館から締め出しにかかった。



「・・・・・ぐ・・・はぁっ!!」


俺は一人、薄暗い路地裏にいた。

遠く喧騒が響く。


上気した額を汗が伝っていく。

無理矢理接続(アクセス)を断ち切られた影響で、過度に負担がかかったせいだ。


三度目の接続アクセスの収穫は零。

明らかに情報制限がかけられている。こんなことが出来るのは――――――。



どくん。



「――――――あ?」


ふと、更に深みの闇を見詰める。


そこに、ぴしりと罅が入る。


ぼろぼろと空間の欠片が散っていく。



やがて、世界が割れた。 


「これは・・・・『世界』の『傷』・・・・?」

路の闇に開く黒々とした穴を覗き込む。


『傷』――『世界』がかかる負荷に耐えきれなくなった時に起こる現象。

この『傷』を修復(なお)すのが純白大天(ラミエル)の仕事な訳だが―――。



「・・・・・・・」


ほんの思い付きで、穴の湛える黒い淵に手を伸ばす。



瞬間。

黒い何かが溢れ出した。 


目にも留まらぬ速さで、その不定形を斬りつける。


べしゃ、と地面に落ちたソレは、ずるずるとよくわからない獣の形をとった。まるで、ヒトの形になり損ねたかのような。 

穴から無限に這い出す『影』。


路地裏を飛び出す。


―――――、―――――――!!


低い唸り――ともすれば怨嵯の声にも聴こえる音を発しながら、『影』が追いかけてくる。


「おいおいおい。なんだこりゃ」

四つ脚で這いながらジンを追いかける『影』。

唐突に現れた怪物に逃げ惑う人間たち。


そして、それは起こった。


「あ・・・ぎゃああああああ!!」


一人の男が幾つもの『影』に捕まる。

『影』は男と喰らいつくように一体化していき。 


『―――――――――!!』


ゆらり。全身を黒く染め上げた人影が立ち上がる。


「・・・・・・これは」

男はもう判別のつかない貌で哂うと、凄まじい脚力で迫った。


「・・・・・・・・ちっ!」

問答無用で切り捨てるべく剣を振るう。が。


ぎん!

男を乗っ取った『影』が剣を阻む。

だが、ジンの膂力に適うはずもなく、一瞬で両断された。


「・・・・?」

今までただ向かっては切り裂かれた『影』が、男の体を得た途端、突如知性のようなものを見せた。


そして理解した。



「これが、悪魔憑き・・・いや、悪魔か」



あの灰狼という男の症状と酷似している。

相違は意識があるかないかの差だろう。


倒れた悪魔が骨を残して蒸発する。


自分の黒い手を見る。

闇に覆われた黒い手。

見覚えのある穴の闇。


仮称・悪魔。


「・・・・・・なんだかな、これ・・・っと」


気付けば辺りは悪魔と『影』で埋め尽くされていた。


「来いよ、出来損ないども。似たもの同士仲良くやろうぜ」


鋭く刃を構えて呟いた。



あけましておめでとうございます。

年が明けたことに凄まじい喪失感を覚える星うさぎです。

筆の遅いうさぎですが、今年もよろしくお願いします。

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