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The prayers  作者: 星うさぎ
16/44

第14幕 gray wolf /黒色の魔腕

「さて・・・・と」


つまらない感傷に一頻り浸りきったジンは、首を鳴らしながら言った。




「そこにいるの、出て来い」




がしゃ。


そして、少し離れた崩れかけた家の陰から一人の男が現れた。


年は若く、まだ成人していないだろう。

逆立った灰色の髪。

襟の高いコートの上のから回されたベルトには、刀と剣を一振りずつ差している。


黒い切れ長の眼がジンを見据える。



「何者だ、それで何の用だ」



「オレは『四聖』灰狼はいろう




『四聖』?

聞き覚えがない。片目を閉じて検索を掛ける。


「・・・・接続アクセス・・・万象の綴り手・・・・検索サーチ・・・『四聖』・・・・・該当項目・・・・一件」


瞼の裏に検索項目が浮かび上がる。


「・・・・ああ、東の島国の最高権力者の称号か。で、俺に何か用か?」


灰狼は剣を構えると言った。


「オレに殺されてくれ」



ぎぃん!!


鋭い金属音。

一歩の踏み込みで距離を詰めた灰狼の剣と、文字通り自分の体から引き抜いたジンの黒剣がぶつかり合う。



ジンに弾き飛ばされる灰狼。

速い。緩やかな曲線を描いた刀身が、再びジンに迫る。


しかし、黒剣が難なく受け止める。

当然だ。

この程度のスピード、あくまで人間の限界の範囲内でしかない。

超人たる龍神にとっては止まって見える位だ。




「なんて、思ってるんだろうな」




「!!!」


獣じみた直感で飛びすさる。

五メートル程間を空けて自分の頬に手を遣る。


薄皮一枚が裂けた感触。

(どういうことだ、確かに今奴の剣は押さえられていた筈)


だが、斬撃が彼の首を狩りかけたのも事実だ。


ならば。


「はぁぁぁ!!」

気付けば灰狼が眼前にいた。


―――振り上げられた剣が降りる前に、奴の息の根を止める。



「《精霊の守護よ》!!」

黒剣の勢いが削がれる。

不可視の壁に当たり、一瞬の隙が生まれた。



灰狼の右手が、未だ鞘に収められたままの刀の柄に触れる。


「・・・・・・!!」


再度、見えざる刃が黒剣に弾かれる。

それも三回。


一瞬の内に迫る三度の攻撃を阻めたのは、龍神の業の為せる奇跡だった。


すかさず灰狼を蹴り飛ばす。

両者の距離はまた開いた。



「そうか。そういうことか」


ジンは灰狼の腰に差された刀を見る。




「その刀、魔剣だな」



灰狼は苦しげに腹を押さえながらも笑った。


「流石だな。そう、この刀の銘は『艶月あでつき』。オレの魔力を刃に変える刀だ」


そう言って、刀の柄を握る。



「行くぞ」








「・・・・・あら?」


聖母の塔で天使たちと会議をしていたラミエルの右目には、使い魔から送られて来た映像が映っている。

龍神を監視するために張らせた使い魔は、彼と、その決闘相手を捉えていた。









「・・・・は、は・・ぁ、・・・・はぁ」


乱れた息を隠せない。

満身創痍の灰狼を前に、龍神は余裕の笑みを浮かべている。



「どうした。もうへばったのか?」



「・・・・・くっ!!!」


飛び出した瞬間に背後を取る。

剣を振るうと同時に、艶月に手を掛けた。


一太刀と二筋の剣撃が迸る。

だが、龍神はそのすべてを受けきった。



「限界か。人の身にしては良くやった。―――少し休むか。俺を狙う理由わけを話してもらおう」



ぎり、灰狼が歯を噛みしめる。

そして、剣を鞘に収めた。



「では、見るが良い。貴様が残したこの呪いを!!」


掲げられた右手には、白い包帯が巻き付けられていた。

灰狼がその包帯を解く。肌の色が覗く。



その人並みの肌色が―――――――――――


黒く変色した。



「おおおおぉぉ!!!」


肩まで黒く染まった腕は、まるで龍神のものだった。


「これが!貴様が生みだした悪魔の呪いだ!!」



灰狼が爆ぜる。

今までとは比べものにならない速度だ。


撃ち出された魔腕を受け止め、龍神が口を開く。 


「悪魔・・・・?何のことだ」

「戯れるな!!あの怪物は、貴様と同じ匂いがしたぞ!!」


灰狼の魔腕がざわめく。主の怒りに呼応して、姿を変えていく。


さらに禍々しく成長する腕。

なるほど、と龍神は納得する。

原因は解らないが、これは間違いなく『闇』だ。 


「おおおぉ!!」


灰狼の鋭い爪の猛攻をかわし続ける。


「どうした、こんなものか?お前の感情は」

「――――――くっ、ああああぁ!!!」



灰狼の攻撃が一段と勢いを増す。

それでも、ジンの体には掠りもしない。


「はあああぁぁぁァァァァァ!!!」


黒腕を振るう度に、灰狼の叫びは獣性を帯びていく。


「実に興味深い。どれ、ここらで切り上げるか」 


ばさり。

ジンは翼を広げて飛び上がる。



「!?」


「従え」





・・・・・・ォ・・・・ン





その時、全てが止まった。

まるで頭を垂れるように、世界が沈黙する。


「何だ・・・・これは・・・・」


只一人、灰狼だけが取り残される。

彼はこの場では完全に孤立していた。



「我が手に下りし万象よ、己が王の名を讃えよ」 

 


ごう。

龍神の詠唱に応えて、世界が回り出す。

火が水が土が風が緑が、世界の全てが唸り出す。 



「――――――――森羅万象」



翳された右手から黒い極光が溢れる。



「くっ・・・『明星』・・・・・!!」

咄嗟にもう一振りの剣―――明星を解放する。

再び障壁が顕れ、灰狼の身を包んだ。



「ぐ・・・・おぉぉ・・・・・!!」


そして、灰狼は黒色の奔流に飲み込まれた。
















「・・・・ぐ・・・くっ」


魔剣の障壁は紙屑同様に破れ去り、灰狼は瓦礫に塗れながら吹き飛んだ。 

近くの瓦礫に背を預けて、よく生きていられたと感心していると。



目の前に龍神が降り立った。


「まだだ。まだ全然足りないな」

龍神は顔を突き出し、灰狼は正面から紅い眼を睨み付けた。


あの日のように、悪魔が哂いながら自分を見下ろす。


「覚えておけ。貴様の腕は怒りと憎しみを喰らう。俺を負かしたければ、俺以上の感情を育て上げろ」


――――――そうしたら、改めて喰ってやる。


そう言って、目の前から消えた。




「・・・・・くっ・・・・・・!!」


また、自分は無力だった。

何も、変わっちゃいない。


「・・・・・・・・ちくしょおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」






















































最初は小さな欠片だった。


しかし、欠片は集まり、やがて一つのパズルを組み上げた。


それが、始まり。


この世界の王に倣うように。

彼を羨むように。

亀裂の向こうの世界に惹かれるように。


彼らは光を求めた。





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