表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The prayers  作者: 星うさぎ
12/44

幕間 それから/side black

彼女が囁く。


助けて。助けて。


彼女が囁く。


殺して。殺して。




「はぁ・・・・はぁ・・・・・」

息を切らしながら、山道を掻き分ける。

ラミエルと別れてから、どの位経ったのだろう。


ジンは小さな体を黒い衣で包み、全身から血を流している。


今では、昼夜を問わずに体が痛む。

ひび割れた皮膚の下からは、得体の知れない黒いもの―――それが闇だと、彼女は教えてくれた―――が覗いている。

目的があるわけではない。ただ、熱に浮かされたように歩き続ける。


《目的地は近い。この寂れた山道の先に、彼女の敵がいる》


色々なことが頭の中で渦を巻いている。

《力が溢れる。抑え切れない》

どうして、何がこんなことになったんだろう。

《どうでもいい。自分は役目を果たすだけ》


木の根に躓いて転ぶ。

もう、立ち上がる気力もない。

それでも、体は勝手に動き出す。


《自分は未だ、鎖に囚われている。『世界』の読み通りだ。やはり、人間には荷が重い》


この身を動かすのは執念。

最も死に近いからこそ、生への渇望は並みではない。


死にたくない。死にたくない。死にたくない。


それは生物の根幹を成す衝動。

最も基本的な自己防衛。



よろよろと山道を歩いていくジンを、見下ろす影があった。

「いよいよだな」

木の枝に腰を掛け、白に金の刺繍を施した正装をした少年は、時計を弄りながら微かに笑った。



「はぁっ・・・・はぁっ・・・・・あっ!」

山道を抜け、急に広がった視界。

眼下に写る、夕日に映える小さな村。


「よかった・・・・・あそこに行こう」

ジンは安堵のあまり、鋭く痛んだ両目を気にしなかった。


《村を視界に治めた瞬間、彼女の怒りが直に伝わり、眼が激しく痛んだ。もうすぐだ。自分は彼女の憂いを晴らす》



おかしい。

山を下り、村に近づく度に、体が痛む。

病気かも知れない。早く辿り着かなければ。


村の入り口が見える。

ぼたぼたと滴る血も、気にしない。

もう、あそこに行くことが目的になっている。果たして、それは誰の目的なのか?


倒れこむように村の入り口に入る。

瞬間―――――――――――――――――――


《三年前、旅行中の魔法使いが、土地を安定させる方法を伝える。

 以来、この村では、周辺地帯から『星の生命』を過剰に引き出す蛮行を続ける。

 結果、周辺地帯は枯渇し、均衡は乱された。

  以上、『万象の綴り手』の記録。『世界』はこの案件に対して漆黒大天による粛清を要請。

 漆黒大天、求めに応じて到着。これより粛清を開始する》


怒涛の勢いで、全く意味の解らない情報が頭に叩き込まれる。

頭痛は絶頂を迎えた。

激しい怒りは彼のものになって暴走する。

やり場のない怒り、憎しみの全てが彼のものになる。

《殺せ。殺せ。殺せ。殺せ》

咆哮を上げる。

驚いた村人達が、何事かと出て来る。


止まらない。

世界の全てを憎む衝動は、血飛沫を撒きながらジンを立ち上がらせた。


世界が紅く染まり、視界が逆転する。



そして、彼は思考を放棄した。








ジンは荒野に立っていた。

村だったものはただの荒地で、命の気配は亡い。


本当の意味で理解した。

自分がどんな化け物なのか。


無数の骸の山に立ち尽くす。


頬を伝う。

それは、夕日よりも紅い、真紅の涙だった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ