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The prayers  作者: 星うさぎ
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第9幕 それから/side white

「さぁ、皆さん、お待たせ致しました!天才魔法使いジュリオ・ドルオラン氏の登場です!!」


歓声を上げる民衆達。

彼らは今日、国お抱えの魔法使いが、何か重大な発表をするというので集まっていた。


広場の壇上に上がった初老の男は、白い髭を撫で付けながら語りだした。


「お集まりの皆さん。遂に、私の長年の研究が成功しました。これが、私の造り上げた魔道器です」


広場の片隅に置かれていたモノに歩み寄り、覆っていた布を剥ぎ取る。

バサリ。その下から現れたのは、まるで例えようのない巨大な鉄の塊だった。


ジュリオは愛しそうに鉄塊に触れた。


「この魔道器は地中に眠るエネルギーを変換し、我々が利用できるようにする装置です。

  一度稼動すればこの国がエネルギー不足に悩むことはなくなるでしょう」


再び沸く歓声。

降って湧いた幸運に、誰もが期待に胸を躍らせる。


「装置が変換するエネルギーは、この星に無限に存在する『星の生命』と呼ばれるものです。

  これを運用することで、我々は莫大なエネルギー得ることができます」


魔法使いは誇らしげに両手を広げて言った。

「私はこの魔道器に《プロメテウス》と名付けました!」


歓声。歓声。歓声。

人々は幸運の運び手を称え、謳い上げる。



そのうちの一人が、空に不審なものを見つけた。



「おい、・・・・・・・あれ、何だ?」

「ん?何かあったのか?」


この喜ばしい空気に水を差す仲間の示す方向に目を遣って、


「なんだ・・・・・ありゃ・・・・・・・・・」


ただ、途方に暮れた。






ズドン!!!





一瞬にして首都は炎に包まれた。

突然現れた災害に逃げ惑う人々。


だが逃げ場などなく、容赦なく炎に飲まれていく。

ここに、この世の地獄が顕現した。



「なんだ、なにが起こっている!?」

未だ広場に留まり、魔道器を運び出そうとしているジュリオは叫んだ。


火の手は既に彼を取り囲んでいる。

魔道器を連れたままでは逃げ切れまい。

そう決意し、自身の周りに防護結界を張った瞬間。



ズドン!!!!


魔道器は、空から降ってきた巨大な脚によって踏み砕かれた。


目の前でバラバラと散っていく数十年の努力の結晶。

しかし、彼の目にはそれすら映っていなかった。



―――――――――――――――――――――!!!!!!



ソレは長々と雄たけびを上げ、彼に向き直る。


怒りも恐怖も許されない。

抱くのは圧倒的な絶望だけ。


その、長い面。毛と鱗に覆われた体。黒い翼。


「あ・・・・ああ・・・・・・・」


死ぬ。もうすぐ自分は、



―――――――――――――――――――――!!!!!!



もう一度咆哮し、ソレは長い尾を振り上げ、


哀れな魔法使いを叩き潰した。





     


















そこは、美しい都だった。


白い建物と適度な緑。

街の中心を流れる清水。


おおよそ絵の中でしかありえない風景がそこにあった。



天界。

数ある連なった世界ではなく、一つの世界として独立した珍しい世界。


その天界の最高権力機関・天界院。

他のものと一線を画した立派な建物に本拠地を置くこの機関は今、ある問題に大いに頭を悩ませていた。



二ヶ月前。とある王国が原因不明の滅亡を遂げた。

この事件を皮切りに次々と各世界で同じような事件が起こった。


一連の事件の共通点は、どれも不審な人物が観測されていること。

彼等はこの不審者を事件の執行者とし、捜索していた。


問題は、執行者に向けた部隊が(ことごと)く壊滅させられていること。


執行者の正体は依然として判明しない。

そして、執行者はある所以によりこう呼ばれた。


即ち、『龍神』と。






「《リレイダ》へ回した追撃部隊はどうなった?」

「確か全滅したはずだったな」

「龍神の情報は収集できましたか!?」

「わからん。だが、龍の姿をとるというのは聞いたことがあるな」

「私の聞いた話では獣にも変身するそうだぞ」

「汚らわしい。一刻も早く駆逐しなければ」


「皆さん、静粛に」

ぴたりと円卓に座る者たちのざわめきが止む。

号令を掛けた若い男は続けた。

「お集まりの皆さん、各管轄の仕事の忙しい中、ご足労有難う御座います。

  これより、私、サマエル議長の名において、緊急対策会議を開きます」


会議場の奥から一人の人物が円卓に進み出る。

「まず、龍神について詳しい情報を。ラミエルさん、お願いします」


新たに円卓に着いたのは若い女性だった。

成熟した体を白い衣に包んだラミエルは促されるままに語りだした。 


「私がお話するのは龍神の能力についてです。調査の結果をお聞き下さい」






「現在判明しているのはこれだけです。何か質問はありますか」


会議場は静まり返っていた。

無理もあるまい。世界最強と謳われた天界の戦力がたったそれだけが武器の者に歯が立たないのだ。


「彼の素性と目的については調査中です。以後報告があればこのような場でお伝えします」


「では皆さん、各部署の対策について・・・・・・」

「待って下さい。サマエル議長」

サマエルの言葉の言葉を遮ってラミエルは円卓の天使達に告げた。


「龍神は人の手に余る怪物です。下手に刺激せず、天災と割り切ることをお薦めします」


そして、反論さえ聞かずに円卓の間を後にした。


騒然とする円卓。

「サマエル議長!あの女は何者なのです、無礼にもほどがある!!」

サマエルは微笑して憤慨す天使を宥めた。


「落ち着きなさい、ラグエル。私たちは私たちで対策を練るとしましょう」







会議場を出たラミエルは、院の敷地の外れにある家に帰るべく、大理石の廊下を歩いていた。


(ああ言ったけど、どうせ彼に喧嘩売るんだろうなぁ)

彼女としては徒に馴染みある者達に死んでいって欲しくはない。

それでも自分が出来ることは限られている。

そんな風にラミエルが独り悶々としていると。


『ラミエル、どうして本当のことを話さなかったの?』


彼女を抜いては無人のはずの廊下に声が響いた。

「あら、ヤーちゃん、観てたの?」

ラミエルは別段驚いた素振りは見せずに見えざる相手に語り掛けた。

『もちろん。貴女がどこまで彼らを信用するか、測るにはちょうど良い機会だったから」

「ふ〜ん。で、どうだった?」

『論外。信用どころか警戒してたじゃないの』

声は呆れたように言う。


ラミエルは少し申し訳なさそうな顔をしている。

「ごめんなさいね。でも、私たちは結局人間の味方は出来ない。そこだけ、分かって欲しいわ」

『いいわよ。でもまあ、そんな格好はしなくてもいいと思うわ』

「そんなことないわ。印象って大事よ?」



声と別れて少し、ラミエルは自室に辿り着いた。

ベッドに箪笥に姿見など、必要な物が揃っているだけの質素な部屋だ。


ラミエルが部屋の中央に立つと、淡い光に包み込まれた。

暖かな光が部屋中に満ちていく。


「はあぁぁぁ―――。やっぱりこっちの方が楽でいいわぁ・・・・・」


僅かな衣擦れの音。

光が収まった時、そこには。



・・・・・・・たとたとたとたとたどたどたどたどたどたどたどたどがどがどがどがどがどがどがどがどがずががががががががが!!!!


ずばん!!!!


「ラミエル様!!!」


そこには。

床に落ちた白い衣と、一糸纏わぬ姿の少女がいた。


ドアを吹き飛ばす勢いで闖入してきた少女は、呆然と立ち尽くす。

そして、その少女の周りの空気が輝いたと思いきや。


「きゃああああああああああああ!!」


光の帯となって少女の腹の辺りを締め上げると、天井近くまで持ち上げた。


「ガブリエル・・・・・、部屋に入るときはノックをしなさいと、いつも言ってるわよね・・・・・・・?」

裸の少女は拾い上げた衣で前を隠すと、青く光る眼で見据えた。


「ご・・ごめんなさいぃぃぃぃ」

吊り上げられた少女が嘆願すると、もう一人の少女は溜息を一つ吐いて、瞳の色を翡翠に変えた。

光の帯が解けた少女は床に降り立つと、もう一度頭を下げた。


「すみませんでした、ラミエル様。お着替え中に失礼してしまい・・・・・・・」

それでも少女――ガブリエルは、

「でも、ラミエル様の美しいお姿が見れるなんて、役得役得」

そんな呟きを漏らし、再び眼を輝かせた彼女にぺこぺこしていた。


部屋にいた少女は、体格が一回り縮んでいるものの、ラミエルその人だった。


「・・・・・で。どうしたの?ガブリエル」

箪笥からサイズの合った貫頭衣を取り出して身に着けたラミエルは、床に正座している金髪の少女に問うた。

そこでようやくここに来た目的を思い出したのか、ガブリエルは慌てだした。


「そうでした!ラミエル様、龍神を発見しましたです!!」

ラミエルは表情を一変させて問い質した。

「本当!?院には?」

「いえ、おそらくまだ。私の捜査網に掛かったばかりなので・・・・・・・・」

「ありがとう!!」


そして、ラミエルは詳しい座標を聞きだすと、部屋を飛び出した。





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