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キンキョリ  作者: 駒子
悟り少女
7/8

05

帰宅して、着替えも億劫で、ベッドに倒れこむ。

細く、細く、息を吐いてぎゅっと目をつむった。


『ごめん、私はやっぱり―安藤君とは付き合えない。』

『あー、うん、そっか。』


傷つけた。

優しい人だ。

ずるい私には、もったいない、すごくいい人。

私が臆病で、向き合えなかったことにまっすぐ向き合える強い人だ。


『伊藤は、あの人が好きなんだよな。』

『わからない』

『…それってさ、逃げてんの?』


あいまいに笑って、ごまかした私は本当にずるい。

そうやって笑えば、優しい安藤君はそれ以上私に追及できないってわかってた。

抱きしめたクッションに強く顔を押し付ける。


カバンの中から携帯がくぐもった着信音を鳴らし続ける。

たった一人に設定したメロディが2週目の半ばで途切れた。


透くんからのメールは、まだ読んでいない。

フォルダの中で1行だけ見えた文章は、私を心配する文章だって知らせてた。

お兄ちゃんは、優しいのに。

心配しているってわかってて、大丈夫だといわない私はずるい。


このまま、眠ってしまおうか。

明日には、平気な振りができるだろうか。

安藤君とは気まずくなってしまったけど、もともとクラスメイトとしての接点しかなかったのだから、大丈夫かもしれない。

宇野ちゃんにはどうやって話そう。

面白がっていた節はあるけれど、きっとちゃんと話せばわかってくれる、かもしれない。

ちゃんと話すって、何を話せばいいんだろう?


―あの人が好きなんだよな


あの人、と言われて浮かぶのは言わずもがな透くんだ。

固有名詞を出されたわけでもないのに、ほかの人は一切浮かばなかった。


わからないんじゃないくせに。


頭の中で安藤君が私を責める。

違う、安藤君はそんなこと言わなかった。

ただ、傷ついた表情で笑っていただけだった。


伊藤はずるい。


その声は、だんだんと高くなって、誰より聞き覚えのある声になる。

その声は、私だ。


「ひな、起きてる?」


ドアの向こうから控えめなノックとともに聞こえたテノールに、ばちっと目を見開いた。


「なんで、透くんが居るの…。」

「ひなが電話に出ないから、帰ってきてるか心配になって…出てきて、ひな。話があるんだ。」

「いやだ、聞きたくない!」


やわらかい透くんの声に慰めてほしくなるけれど、ドアには近づかない。

彼女―ひとみさんの前で泣いたことを、どう説明されているのか想像もしたくない。

心配してくれてるのに、こんな態度をとって、嫌われるかもしれない。

ぽろぽろと涙が出る。嗚咽だけは必死で押し殺した。

クッションが湿って、気持ち悪い。


「わかった。」


温度のない、声だった。

思わず、息が止まる。

透くんのこんな声、初めて聞いた。

怒ってる。


どきどきと激しい鼓動に、しばらく動けないでいたが、何も起こらなかった。

きっと、あきれて帰ってしまったんだろう。

もう、何を考えるのもおっくうで、頭が痛くて、疲れ果てた。

湿ったクッションに頭を預けているうちに、意識はなくなっていった。

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