82話 大陸情勢と魔王の秘密
随分と遅くなりすみませんでした。今年初めての投稿です!今回から暫くは、異世界側視点となります!
突然であるが、魔王達が住まう世界………つまりは、現代日本から見る所謂『異世界』と呼ばれその世界には、東西南北に位置する4つの巨大な大陸と、その大陸の半分程の小大陸が3つ存在している。
まず、4つの大陸について大まかに説明すると。
北方に位置し、数多くの魔族達が住まい、年中厳しい自然環境にさらされている黒の大陸。
西方に位置し、黒の大陸と北側の一部が地続きとなっており、人間・亜人・魔族などの様々な種族が分け隔てなく住まう青の大陸。
東方に位置し、最も多くの純然たる人間種が住まう、白の大陸。
南方に位置し、鬼人と呼ばれる亜人の中でも特殊な種族が支配する赤の大陸。
これらが4大大陸と呼ばれ、主要な国家が存在する大陸である。そして、それに続いての小大陸が………。
四つの大陸の中心にあり、個としては圧倒的な力を持つとされる竜族が住まう黄の大陸。
青の大陸の南西側に位置し、エルフやドワーフといった多種多様な亜人が住まう緑の大陸。
黄の大陸の南側……赤と青と白の大陸などの調度中心に位置し、大陸の中では最小であるが、白と青の大陸を繋ぐ中継地点として商業が非常に盛んに行われている紫の大陸である。
他にも、小さな島々や天空に浮かぶ浮遊大陸や、海中にあるという幻の都市国家などというものも存在しているが、それについては今回は割愛する。
これらが主要な国家が存在する大陸であるが、その中でも今現在において、特に強い軍事力や経済力を持っているのが、先に説明した四大大陸に存在し、その大陸を代表する大国家と呼ばれる4つの国々である。
その四大大陸にある、大国家と呼ばれる国とは………。
黒の大陸にあり、初代魔王が造り上げた大陸全土……いや、世界中のほぼ全ての魔族を統治する魔王が治めし魔族国家『魔国パドラム』。
白の大陸では、人間の最大宗教である創世教の総本山であり、同時に人間至上主義を掲げ、人間の人間による人間の為の世界を造ることを目標とし、白の大陸内の国々を管理・統治する連合国の代表国『聖王国イスタアール』。
青の大陸では、人間・亜人果ては魔族といった様々な種族が共存し、共に造り上げた国。四大大陸の中でも最も広大かつ多様な種類が住まい、大陸全土を支配する、国家としては最大の規模を誇る大帝国『オル・マニカ帝国』。
赤の大陸では、鬼人と呼ばれる人間に似た種族が、他との大陸とは違う独自の政治体制や文化を築き上げて生まれた『鬼那之王国』。
これらの王国・帝国が、それぞれの大陸においての代表ともいうべき主要な国であり、他国からは大国家と呼ばれ、畏れられる強大な国々である。
そんな国々であるが、現在の互いの関係や情勢はそれぞれ別れている。
青の大陸のオル・マニカ帝国は基本はオープンな国であり、来るものは拒まずで他国とは率先して外交を結んでいる。白の大陸の聖王国とも国としての思考の違いはあれど、紫大陸を通じての外交や取引が行われている。しかし、地続きの黒の大陸の魔国とは数十年前から不可侵の休戦協定が結ばれ、北方には巨大にして長い壁を築いて互いに干渉しないようになっている。
南の鬼那之国は、数十年前から理由は定かではないが、『鎖国』という制度をとっており、大陸から出ることも入ることも禁じ、他大陸との国交を完全に閉鎖している状況であり、今の国内の情勢は知られていない。
さて、では残りの魔国と聖王国の2つの国であるが、この国々に関しては犬猿の仲……または、水と油………つまりは決して交わることない完全な敵対関係として長い間争いあっている。
それこそ、互いの国の建国以前の神代と呼ばれる時代から今日までの間、大陸間で永遠と決着が付くことなく争い続けている。
余りにも昔から争いあっているので、最早争う理由は定かとなっていないが、大まかな理由としては人間側は『魔族は悪しき不浄なる者であり、世界の害悪。故に滅ぶべし』であり、魔族側は『攻めてくるので、これに対抗している』といった理由を掲げている。随分と人間の主張は武力的である。
しかし、この主張は互いの国の代表……つまりは魔王と聖王の考え方や、国の情勢によって時代時代に変わっており、その時代の魔王が武闘派な場合は『世界を支配する為』などと掲げて他国への侵攻を開始したり、穏健派な聖王であれば『魔族との和解』を求めて魔王へと使者を送ったりと、時代によってその主張や行動は様々であった。
しかし、不思議なことにこの互いの主張は一回も噛み合ったことはなく………いや、互いに争うという点では噛み合っている。とにかく、どんな主張だろうと戦争の規模が変わるだけで結局は争い合い、互いに多くの憎しみや負債を重ね続けているのだ。
尚、現在の魔王は比較的に穏健派な魔王であり、率先して争うことは良しとしていない。故に、彼が魔王となってからは白の大陸や青の大陸への進出は自粛していた。しかしながら、聖王国側の頂点……現在の聖王は武闘派中の武闘派………最早、過激派としか言えない程の反魔族精神の持ち主で、ことあるごとに大規模な軍を黒の大陸へと送って侵攻させている。そのため、やむ無く今代の魔王はこれに対抗するしかない。
だが、この聖王国の過剰な侵攻も、それこそ先代魔王が武闘派だったが故に遺した負債のため、仕方なしとも言えるものであった。因果応報というべきだろうか………。
そんな黒の大陸まで攻めてきた聖王国の軍は、兵の実力はそれほどではないが何せ数だけは多く、実力で勝る魔族でも手が足りずに防戦に回っていた。この数と質による戦いは奇跡的に拮抗し、暫くの間は互いに攻めきれずにいた。
だが、そんな争い続けている2つの国であるが、近年に大きな変化があり一気にその戦況は一変する。
それは魔族側に、とある1人の人間女性が加わったことに始まる。この女性は、非常に戦いの知識が豊富で、魔族側に付くと直ぐに様々な画期的戦術を考案した。すると、その結果は直ぐに現れ、魔族側は一気に攻勢へと周り、単純な数の戦術しかできていなかった聖王国軍を次々と打ち破り、果てには遂に押し返すことに成功する。更に、その女性は最前線へと赴き、その圧倒的な戦闘力を持って止めとばかりに聖王国の軍を薙ぎ払い、撤退を余儀なくさせた。
そして、気付いた頃には黒の大陸から聖王国軍を追い出し、更には大陸を越え白の大陸の西側沿岸部周辺まで支配領域を広げる程までに至っていた。
穏健派な魔王が、これほどに侵攻するとは何とも皮肉な話である。同時に、この女性の恐ろしさが垣間見えるものでもあった。
まぁ、ぶっちゃけて魔王の嫁となった麗香であるが。
だが、これでもその侵攻速度は遅い方であり、本来であればもっと内部まで侵攻できる程なのだ。しかし、その侵攻の遅さの原因も、その麗香自身によるものであり、彼女のとある判断により、どうしても緩やかなものとなっていたのだ。
しかし、緩やかながらも、魔王軍は着実に西側から聖王国の近隣諸国を陥としていった。聖王国からすれば、じわじわと広がる毒のようなものであった。
そして今、そんな着実に侵攻を進める魔王軍の部隊の1つは、聖王国の同盟国のとある防衛都市へと攻め込んでいた………。
◇◇◇◇
聖王国軍同盟国『エルネルバ』………。
白の大陸の西側に位置する国であり、リリの軍である死王軍に陥落させられたバグラムよりも内陸側にある国である。
軍事力はバグラムよりも劣る国であるが、防衛能力と行軍速度に優れた国として有名である。特に城がある王都には、四方をバグラムの城壁よりも高い壁に囲まれていた。更には城壁上部の四方に建設された塔の内部には、結界晶という結界を発生させる水晶により、王都全体を結界が包み込み、外部からの侵入を完全に遮断していた。故に、王都のこれらの攻城の難しさから『不落のエルネルバ国』として有名であり、聖王国の防衛国の要となる国の1つでもあった。
他にも、国内に大小様々な防衛都市や街道を数多く築き、どのような場所から攻め込まれても臨機応変に対応できるのがこの国の自慢であり、決して防衛ではバグラムに劣らぬと自信を持っていたものであった。
………だが、現在そのエルネルバは、亡国の危機に瀕していた。
西側から侵攻してきた魔族の部隊により、破竹の勢いで次々と防衛都市を陥とされていった。魔族の部隊は、予めから複数の部隊に別れて同時進行でエルネルバ国内の複数の小さな防衛都市へと攻め混んでいたのだ。これにより、防衛都市間の援軍を送るインフラを分断・混乱させ、あっけなく都市は陥落。その後に部隊を合流させ、次々と中規模以上の城塞を陥落させていき、エルネルバが気付いた頃には城のあるこの王都のみとなっていた。
更には、バグラムを陥落させた死王軍までが後ろには控えており、エルネルバの状況は益々悪くなろうとしていた。
エルネルバの城壁の上にいる兵達は国を……民を守らんと、必死に剣を振り、槍を突き、弓を射って抵抗している。だが、魔王軍の規模や強さから、城壁の陥落は最早時間の問題であった………。
◇◇◇◇◇
魔王軍聖王国侵攻部隊獣牙1団。
それは、現在このエルネルバ国を陥落させようと侵攻中の魔王軍の部隊の1つである。
獣牙………つまりは魔王の中でも、獣人種とよばれる動物に酷似した容姿の二足歩行の魔族で構成された軍団であり、四天王の一柱たる陸王ザイールの傘下であり、12師団長リカムの直轄部隊の1つである。
そして、獣牙隊は、魔王軍の中でも最も数が多く、侵攻力があるとされる精鋭部隊であるとされ、今回の侵攻作戦の要ともされる部隊の1つである。
そんな、獣牙隊の1つであるこの1団は、現在はザイールもリカムも不在の為、リカムの副官たる獣魔族の猛者が指揮を執り、5万にも及ぶ軍をもってエルネルバを取り囲み、国を陥落させんとしていた。
その指揮官………今、この場における最高指導官たる者は、身の丈は5メートル近くある象の頭をした筋肉質な人間に酷似した体の獣魔族の戦士。ナゲーナ=ハーナ団長という魔族であった。その、ただでさえ厳つい容姿に、片方の折れた牙や体中に負った傷が、彼が歴戦の強者の証であることを伺わせていた
実際に、このナゲーナは、現魔王軍の中でも指折りの実力者であり、かつては先代魔王の時代から戦場に名を馳せる歴戦の勇士である。本来であれば12師団長として名を列ねても良い程の猛者であり、それが故に今回のようなリカムなどの師団長不在でも、戦場の全てを任せられる程に信頼篤きものである。
そんな猛者たるナゲーナは、軍の後方にある陣地にて、特注の椅子にドカリと座りながら、今も尚城壁に殺到する自身の軍と、エルネルバの城塞を無言で眺めていた。
「中々に人間共も粘りますな………」
そんな無言を破り、ナゲーナへと一人言ともとれる呟きを漏らしたのは、彼の隣にいる狼の容姿に酷似した獣魔族………所謂、人狼の副官たるウルファルモ副団長であった。
「他の都市を陥とし、援軍の憂いを無くし、これほどの強大な魔族の軍に進撃されれば、直ぐにでも陥ちるもんだと思ったのですが……いやはや何とも渋といものですな。結界により飛行型の兵を使えぬとはいえ、これは人間の兵を多少見直すべきですかな?」
ウルファルモは、顎に手を当てながら感心したような声で今も尚、城壁の上で戦う兵士をそう高く評価した。
確かに、普通であれば援軍もなくこれ程の軍に囲まれていれば、戦意を失い白旗を上げてもおかしくないものである。
だが、城壁の上の兵達は、諦めることなく必死に応戦をしている。その姿に、敵でありながら、ウルファルモは素直に感心を示したのだ。
しかし、そんな副団長の様子をハーナ団長は横目で見た後、再び視線を城壁へと戻してから大きな溜息をついた。
「………ナゲーナ団長?どうかされました?」
余りにも大きなナゲーナの溜息に、ウルファルモはどうしたのかと声を掛けた。
すると、ナゲーナは正面を見据えたまま、口をゆっくりと開いた。
「………フン。忌々しい………」
その声は、心底憎々しげな感情が伝わってくるようなものであった。そして何よりも、ゴツい見た目に反してかなりの高いソプラノ声であった。
もし、ここに異世界………現代日本の者がいて聞いていたならば、きっととある三人組某サーカス芸人の〇ロちゃん辺りを連想していただろう。
そんな高くも憎悪を放つナゲーナの言葉に、ウルファルモは上がりそうになる口角を必死に堪えながら、何故にここまでの憎悪を放つのかと理由を考えた。
しかし、その理由を考える前に、ナゲーナの方が首だけをウルファルモがいる方へと動かしてきた。
「………何が忌々しいか、気になるか?」
高い身長故に、自然とウルファルモを見下ろしながら、そう問いてきた団長にウルファルモは一瞬………。
『はい。その高い声が気になります』
と言いそうになったが、何とか堪えることに成功する。そこそこの間、彼の副官として働いているウルファルモであったが、いつまで経ってもその声には慣れず、常に自身との笑いを堪える戦いに際悩まされてきた。故に、これは彼にとっての日常の戦いであった。
そして、そんな彼は、その憎悪の理由と、声質の高さの不思議さという色んな意味を込めて………。
「気になります………」
とだけ、呟いた。
これで彼の中にあったストレスは多少は軽減できることができた。これは、彼なりに考えたストレス減少方であり、その声に対する疑問や鬱憤を、日常会話に混ぜてぶっちゃける事で、少しは気が紛れるといったものであった。
とんでもない副官である。
「そうか………気になるか。当然か」
「はい………」
(副音声:その高い声が………)
「我らが本気を出せぬ理由が………か」
「………本気を出せない?」
(それで本気を出してないと?本気を出したら歌手にでもなれるのでは?)
「フン、察せぬか。まぁ、若い貴様らには分からんか」
「申し訳ありません………」
(声だけでしたら団長が一番若いですが)
「まぁ、いい。理由はアレだ」
そう言ってナゲーナは親指で自身よりも後方にあるものを指指した。
釣られてウルファルモがその方向を見れば、そこには薄汚れた数多くの天幕が陣地内の一部に広がっていた。一見すれば、兵達を休ませる為の天幕のようであるが、その天幕の周りには多くの魔族の兵達が武器を持って内側を………つまりは天幕を警戒するように立っており、その様子から兵達の宿舎代わりの天幕でないのは明らかであった。
更によく見れば、天幕内のあちこちには粗雑な造りの檻があり、その中には魔族ではない者………つまりは人間の姿が数多く見ることができた。
そんな天幕を確認したウルファルモは、視線をナゲーナへと戻して呟いた。
「あぁ………人間の捕虜ですね」
そう、その檻の中いるのは、この戦場において捕虜にした人間の兵達である。
人間の兵達は鎧や武器といった武装を全て解除され、布の服を着た状態で檻の中にいた。戦闘によるせいか、それぞれがボロボロの状態であり、目に生気が感じられなかった。しかしながら、必要最低限の治療等は施されているようで、檻に入っている以外は決して不遇な扱いを受けているという訳ではなさそうである。
そんな捕虜達から視線を戻したウルファルモに、ナゲーナは苛つきを隠さない口調で呟きだす。
「そうだ………全く忌々しいものだ。『人間の殺傷は最低限に収め、余程の抵抗無い限り捕虜とすること』………とはな。更には『非戦闘員たる民間人に対する攻撃は一切禁止する』だとな………おかげで攻城が遅くなってたまらんわ」
「は、はぁ………確かに。ですがあの奥方様………レイカ様のご指示ですから………」
ウルファルモの言葉に、ナゲーナは眉間に青筋を立てながら『ゴギリ』と、鈍い歯ぎしりの音を鳴らすことで答えた。
そう、この人間の捕虜をとることは麗香の指示によるものであり、魔王軍の兵士全員は『可能な限り人間は捕虜とし、やむを得ない事情を除き、決して殺さず犯さず辱しめぬこと』との厳命を受けていたのだ。
そのため、魔王軍の兵達は人間の兵と戦う際には余程ではない限り手加減を行い殺しは最低限とし、基本は無力化して捕虜とすることとなっていた。更には、陥落させた道中の都市などを捕虜の収容所として利用し、その中に元々いた民間人や後から兵士等の捕虜を送り、反撃だけはさせぬように監視や管理なども行われているのだ。
故に、自然と進軍速度は遅くなるし、都市や城塞の陥落も遅くなるというものであり、それが現在の侵攻が緩やかな原因となっていたのだ。
「全く………戦争を何だと思っているのか。殺しを禁じる戦争など……戦争でなく、ただの『ごっこ遊び』ではないか………ふざけおって………」
ギリギリと歯ぎしりをしながら不満を語るナゲーナに、ウルファルモは若干の身の危険を感じて数歩後退りをした。
この麗香の指示に対し、ナゲーナのように当初は魔王軍内でもかなりの反対意見や文句が出ていた。魔王に認められた麗香はともかく、敵として向かってくる人間を捕虜として………つまりは命を助けるなどもっての他だと多くの声が上げられていたのだ。
だが、今ではナゲーナを含めてほとんどの者が渋々ながらも麗香の命に従っていた。その理由としては、ある者は魔王の力の前に屈服して従い、またある者は麗香の戦術にて挽回できた戦況に少なからずの恩を感じて従っていた。そして、それ以外の者………つまりは魔王の意見にも耳を貸さず、尚も『人間殺すべし』と掲げていた者達は、例外なく麗香によって物理的に黙らされていた。
一見無茶苦茶に見える暴力的な方法であったが、魔族における『強き者こそが正義』という暗黙のルールにおいて、麗香のとったこの手段は有効であり、今やほとんどの魔族が麗香の指示に完全に従うこととなったのだ。
ついでに言えばナゲーナも物理的に黙らされて口であり、その時に自慢の片方の牙を折られていた。
そんな物理的に黙らされ、力によって従うようになったナゲーナであったが、やはり納得いかない気持ちはどうすることもできず、このように苛つきながら不満を溢すのであった。これは、ナゲーナに限ったことではなく、少なからず今の魔王軍内の一部の者に見られる様子であり、特にナゲーナのような歴戦の者こそ、その傾向が強かく、不満が少なからず高まっているのだ。
だが、それでいて麗香の指示はきっちりと守っているナゲーナである。生真面目なのか麗香が怖いのか………いや、恐らくどちらもであろう。
とにかく、エルネルバを陥とさんと指揮をとりながらも、苛ついた様子で不満を垂れ流しているのだ。
「た、確かに色々と面倒ではありますし侵攻が遅くなるのも理解できます。し、しかし、レイカ様は様々な戦術を持って我ら魔王軍を指揮し、戦況をひっくり返した実績もありますし、実力も折り紙付きです。そんな方のおっしゃる事ですから………ごっこと言うのは些か………」
そんなナゲーナに、ウルファルモが横からそう言うと、ナゲーナはギロリと彼を睨みつけてきた。
睨まれたウルファルモは、『しまった!余計な事を言い過ぎたか?!』と後悔し、恐怖から体を震わせだした。更には尾が股の内側へと隠れて、完全に怒られた際の犬状態となっていた。
だが、そんなウルファルモの様子を他所に、ナゲーナは再び視線を戻してからゆっくりと話だした。
「………フン。そんな事は言われずとも百も承知よ。あの女が魔王様に匹敵するぐらいの力を持っていることも、我々が想像だにせぬ知略を持っていることも………奴の実力に関しては俺も認めている」
「は、はぁ………なるほど………」
「だがな………所詮あの女は人間だ。人間故に、同じ人間の死を快く思っておらぬ。故に我々に人間は最低限殺さず、捕虜にせよなどと枷を与えてくるのよ!それで、どれ程の侵攻速度の弊害と、兵達に無駄な労力を与えているのか!!」
ギリギリと拳を握り込むナゲーナ。それに対し、ウルファルモは確かにと思いつつ頷く。
「確かに………。捕虜を取れなどといった枷がなければ、今頃は聖王国の王都まで攻めていたかもしれませんね。やはり、同じ種族としての甘さがあるのでしょうか?」
「あぁ、間違いなくな。まったく………そんな甘さに付き合わされる此方の身になってみろというのだ。いくら強者の指示と言えど、我慢の限界だわい。それに、戦で強者が弱者を殺し、犯し、貪ることの何が悪いというのだ?それこそが戦の醍醐味であろうに……」
腕組みをしながらそうぼやくナゲーナ。彼ら古い戦士からすれば、戦とは強者が弱者を下し、己の采配にて物資や食料・果ては弱者の命そのものすらを奪える行為であり、それこそが強者の特権かつ権利であるというのが当然の認識であった。
特に、ナゲーナは武闘派だった先代魔王の時代に、当たり前のように蹂躙を行ってきていたので、一際その不満が強かった。
故に、麗香の考えを理解できず、強い苛立ちに溢れているのだ。
だが、先代の時代を知らない比較的若い世代であるウルファルモには余りピンとこず、何となしにウンウンと頷くだけであった。
「そもそも、そんな考えに賛同する魔王もどうかと思うのだ」
だが、このナゲーナの台詞に、ウンウンと頷いていたウルファルモはピタリと止まった。流石に、魔王様を否定するような言葉に賛同はできないと考えたからだ。
「あの………ナゲーナ団長?さ、流石に魔王様に対しては………」
「フン!何か言ったところであの魔王に何ができると言うのだ?」
ナゲーナは、ウルファルモの制止の声など知ったことかと魔王への不満まで口にし始めた。
「正直に言えば、俺はあの魔王を魔王として認めておらぬのだ!あれは本来、魔王としての器に収まるべき者ではないのだ!」
「あ、あの………」
この発言まずいんじゃね?
そうウルファルモは思いつつも、ナゲーナの迫力に押されて止めることもできず、ただただ聞くことしかできずにいた。
「貴様も知っておろうが、先の魔王が亡くなり、次の魔王を決める際には魔王の四天王だったもの達が戦い争う。そして勝利した者が新たな魔王となる」
「魔王大戦ですね………」
魔王大戦………それはナゲーナの説明にあった通り、魔王を決めるための四天王による魔王継承争奪戦のことである。
陸王・海王・空王・死王………これら四人の魔王候補たる四天王が、持てる力と兵力等の全てを使い戦い合う。勝てば栄光ある魔王の座を………負ければ死を………正に真なる強者を決める、誇りと生き残り懸けた魔王の座争奪戦である。
現魔王であるゲルクルシュも、かつては四天王の一角たる死王としてこの戦いに身を投じ、見事勝ち抜いて今の魔王の座となったのだ。
だが、このゲルクルシュが魔王になったことに対し、ナゲーナは………いや、ナゲーナだけではない、かつてを知る少なからずの魔族からは疑問の声が上がっていた。
なぜならば………。
「そうだ。その新たな魔王を決める強者と強者による偉大なる戦いだ。だが、俺は常々考えていたのだ。何故によりによって、先代の時代の四天王の中で最弱の者が魔王となったのか………とな」
「最弱?ま、魔王様が………ですか?」
魔族における強者の中の強者………最強の筈である魔王を弱者と罵るナゲーナに、ウルファルモは驚きを隠せずにいた。
強者であるが故に魔王となった筈………。それなのにその魔王を弱者と言う………。ウルファルモはその矛盾した話の内容に、全くその意味を理解することができなかった。
「そうだ。今の魔王たるゲ………………魔王は、先代魔王の時代の四天王の中で、他の三者と比べて圧倒的に弱かったのだ」
「ゲ………………魔王様が弱かった?し、しかし、現魔王様は実際に魔王大戦を勝ち抜き今の座についておられるのでは?それならば………」
「フン………今の若い世代は知らぬか。いや、知らなくて当然か………。確か一部の者以外に箝口令が………」
「えっ………………カンコウレイ?」
一瞬、ナゲーナが何を言っているか分からなかったが、その意味が理解できると、ウルファルモは冷や汗を流しながら慌てた。そんな重大な話をここで話して良いのか?というより、自分が聞いてしまって良いのかと。
「当時の魔王大戦の実情だ。先代の時代の四天王の方々のことは知っているか?」
しかし、そんなウルファルモの様子など気にも止めず、ナゲーナは淡々と話だした。
どうやら、もう聞くしかないらしい。
「は、はい………それならば。現魔王であり当時の死王であるゲ……………魔王様を含め、陸王ボルゴトゥス様に海王セリュニーネ様、それと空王バルハルト様………ですよね?」
ウルファルモの答えにナゲーナは大きく頷いた。流石に先代の魔王や四天王の名前くらいなら知ってはいた。
「そうだ、その四方だ。当時、この御方達………いや、死王を除いた3名は、尋常ならざる力を持った方達ばかりであった。それこそ、先代魔王が霞むくらいのな………」
「先代魔王が?!」
だが、この驚くべき言葉に、ウルファルモはつい大声で叫ぶ。それは当然だろう。力の象徴たる魔王が、配下の四天王よりも強いと語られたのだ。驚かない方がおかしい。
「そうだ。当時の魔王様は、正直言って凡庸………ごく普通の平凡な魔王であった」
「ぼ、凡庸………?」
まさかの魔王を凡庸呼ばわり。この発言にウルファルモは固まらずにはいられなかった。
「言い方が悪かったな。確かに先代は魔王として相応しき風格と力を持っていた。だが、四天王たる3名は、そんな魔王様を越える風格と力………そして何より、皆を惹き付ける『何か』を持っていた………」
「何か………?」
ナゲーナは昔を思い出すように空を見上げながら、更に言葉を続けた。
「それが何だったのかは俺には分からん。だが、当時の各々の配下達は、その『何か』に惹かれ陸王様方四天王に高い忠義の限りを尽くした。それこそ、命すら惜しまずに笑って投げ出す程であった。その忠誠心は、魔王様に対して以上のものだ。何を隠そう、この俺も陸王であるボルゴトゥス様に忠義の限りを尽くした………」
「それほどまでに………」
「あぁ………。故に、先代が亡くなった際には誰が魔王の座に就くのかと大騒ぎだったものだ。当然だろう………どの3名も、魔王に相応しき圧倒的な力と品格を備えていたのだ。生まれる時代が違えば、それぞれが歴史に名を残すほどのな……」
そう言ったナゲーナは、フッと顔を落とすと今度は怒りに燃えた顔となった。
「だが………その3名は誰も魔王とはならなかった………」
「な、何故ですか?」
ウルファルモの疑問に、ナゲーナは血走った目をしながら、怒りを噛み殺すように呟きだした。
「魔王大戦が始まり、四天王は当然争いだした。まず、我が主たるボルゴトゥス様とバルハルト様が戦いだした。それも兵を使わぬ1対1の決闘方式でな………」
「陸王様と空王様が………」
ウルファルモもここから先の話は知らなかった。基本、魔王大戦における戦いの流れは、配下や関係者以外にはその詳細は知らされず、国民には誰が勝って魔王となったのかの結果しか知らされないのだ。故に、当時子供だったウルファルモには当然知らない情報であった。
「戦いは3日3晩続き、大地は蹂躙され天は割れた………それほどまでに凄まじい戦いであった………だが、僅かに………いや、悔しいが、確実にバルハルト様の方が優勢であったな…………彼の方は、ボルゴトゥス様が唯一認めた強敵手であらせられたからな……」
大地が蹂躙され天が割れる?最早想像できる範囲を越えた戦いの説明に、ウルファルモは困惑を隠すことができずにいた。
「だが………突如としてバルハルト様は戦いを中断し、満身創痍の陸王様を残してその場を去っていった。そして理由は定かではないが、もう1人の魔王候補たる海王セリュニーネ様へと挑みかかり、見事に討ち取ったのだ」
陸王から海王に突然何故?いきなりの急展開に、ウルファルモの頭は益々混乱していった。
「な、何故に急に海王様へと?」
「それは知らぬ。何かしらの理由があったのだろう………。一応はある理由は上げられているが………いや、よしておこう」
そう言ってナゲーナは口をつぐんでしまった。どうやら、何かしらの心当たりはあるらしい。
「で、では………その後はどうなって?」
「その後か………その後は、空王バルハルト様はな………海王様との戦いで負ったケガを理由に、あろうことか自ら魔王継承権を放棄したのだ」
「ほ、ほ、放棄?!」
あまりにもあまり過ぎる事実に、ウルファルモは奇声を上げながら驚愕する。当然であろう、まさかの陸王に優勢な勝負となり、海王を討ち取り、実質魔王に最も近かったであろう空王が継承権を放棄したというのだ。驚かぬ筈がない。
「そうだ………継承権を放棄した空王様はそのまま戦場から去った。そして必然的に残りの四天王同士の戦いとなった。………そう、空王との戦いで満身創痍となった陸王様と、戦うことのなく万全の状態である死王とのな………」
ウルファルモは、ここになってやっとナゲーナの言わんとする意味が理解できてきた。
満身創痍となった身と万全の態勢の身。いくら力に差があろうと、これだけのハンデを負っていれば勝負は見えているようなものだ。
つまり、勝負の行方は………。
「奴は満身創痍の陸王様を死王が討ち取り、魔王の座に就いたのだ。分かるか?つまりは奴は、ほとんど己で戦わずに魔王となったのだ。横から勝利を掠め取るような行為をしたんだ………。まるで猟師が仕留めた獲物を横から奪う盗人のようにな。故に、俺はそんな魔王を魔王として認められない」
この発言にウルファルモは口をつぐむことしかできなかった。まさか、これまで強者と信じてきた魔王に、そんな話があったのだという、少なからずのショックを受けていたのだ。
「本来であれば陸王様か空王様………このどちらかが魔王の座に着き、我々魔王軍を真に導いて下さった筈なのだ!それが………あんな軟弱な輩が魔王となったせいで、人間の女に指揮権や発言権を奪われている………。全く情けなくて涙が出そうだ………。それに、あの空王様にも失望したものだ………怪我を理由に栄えある魔王継承権を放棄するなど………」
ギリギリと歯を食い縛りながら拳を握るナゲーナからは、相当な怒りや悲しみ、または悔しさといったものが、非常に強く感じとることができた。
そんな段々とヒートアップし始めたナゲーナに、ウルファルモは微かな危機感を感じ、何とか宥めようと口を開いた。
「で、ですが………侵攻が遅いとはいえ、その現魔王様とレイカ様のお陰でこのように聖王国の近くまで侵攻が進することができてますし………先代方も凄かったですが、現魔王も負けないくらい凄いのでは?」
「だからさっきから言っているんだ!!あの方々さえ魔王の座についておれば、人間を捕虜にするなんてまどろっこしい事をせず、殺戮の限りを尽くす!なれば、次々と侵攻して白の大陸だけではなく、青や赤の大陸まで制圧し、世界の覇権を握ることができるのだとな!!そもそも弱い生物………人間などを生かしておく必要など無いのだ!!」
ウルファルモの意見をナゲーナは真っ向から否定した。その顔は目が血走り、相当に興奮していることが伺えた。
このナゲーナは古い世代の魔族らしく弱肉強食の意識が非常に強い。そのため、脆弱である人間を嫌悪し、その弱き者の存在自体が許せないといった類いであった。
「あの者が………あんな奴が魔王となったせいで今の俺達はこのような人間を保護するような屈辱を味わっているのだ!全く忌々しい!!本当にあの方々さえいれば………」
「ナゲーナ様………」
尚も怒り心頭といった様子で呟き続けるナゲーナに、ウルファルモは何か話題を変えられないかと悩んだ。流石に公の場で魔王様を批判するような事を言い続けさせるのは不味いと感じたからだ。すると、そこでフッとある疑問が浮かびあがった。
「あの………ナゲーナ様?そういえば、前空王のバルハルト様は………継承権をを放棄したとおっしゃいましたが………。生死を懸けた魔王大戦において、そのように棄権をした場合はどうなるのですか?というか………まさか………?」
ここでウルファルモは急な寒気に襲われた。ナゲーナが語ってきた話の内容、それに箝口令が挽かれたという理由………。最早、そこから導きだされる答えが見えてしまったが為に感じた寒気であった。
もしや………いや、もしかしなくても、自分はとんでもない事に気付いてしまったのではないか?えっ?ヤバくないか?これ、俺の身が危ないんじゃないか?このソプラノエレファント………とんでもない事を俺に話やがったんじゃないか………と。
そんな青くなっているウルファルモを他所に、ナゲーナは先程の彼の言葉に対し、まさかの返答をしようと口を開きかけていた。
この象………見た目によらず、相当に口が軽いようであった。
「あぁ………それか。その場合は………」
このナゲーナのアクションに対し、ウルファルモは動揺した。これ以上知ったら、多分というか確実に上層部に目を付けられてしまう。後戻りというか、引き返さない事態になる。多分、それほどの重要機密をこの目の前のソプラノエレファントは話そうとしている。
ここまでの話を聞いても多分ヤバいであるであろうに、もうこれ以上はたくさんだ!!
ウルファルモは相手が上官であることも忘れ、目の前の軽口野郎の口を塞ぐべく行動を開始した。
具体的には、両手でナゲーナの口を塞ぐべく飛びかかろうとした。
だが、跳躍しようと足に踏み込みをいれた瞬間、ウルファルモはその足を止めた。
なぜならば、目の前のナゲーナが口を半開きのままに止まり、険しい目で自分の背後……自陣の右横側へと視線が釘付けとなっていたのだ。
ナゲーナの急な変化に、ウルファルモも直ぐ様顔付きを真剣なものへと変え、その視線を同様の方向へと向ける。
すると、視界の先の地平線より、大量の土煙が上がっているのが視認することができた。
勢いよく上がる土煙。横幅に広く、そして高く広がっている。明らかに風や竜巻などではない、人工的な………大量の何かが移動しているであろうものであった。
「ナゲーナ団長………あれは………」
ウルファルモの呟きに、ナゲーナはその日一番の獰猛な笑みを携えた顔で答えた。
「ククク………。あぁ………客のようだな………」
それは、調度苛つきが溜まっていたナゲーナにとって、合法的に鬱憤を晴らせる獲物の群れであった………。
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