79話 回る回る世界は回る!!
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「たまには外に食べに行くか」
仕事が早く片付き、早めの帰宅をした夕飯前の時間に、フッとそんな提案を妻にしてみる。
私は夕飯は家でゆっくり妻の手料理を食べるのが好きなので滅多に外食をしない為、私からこのように提案をするのは珍しい。
しかし、そんな提案をした理由がある。
妻が私の帰りはもう少し遅いと思っていたので、夕飯の支度がまだ出来ていなかった事と、今日が給料日だという理由だ。
なので、たまには外食も良いかと思い提案をしてみた。
それに、たまには妻にゆっくり休んで食事をしてもらいたいという思いもあった。
恥ずかしいから言わないが。
「あらあら?珍しいわね?でも、たまにはいいわね。じゃあ、何を食べに行きましょうか?」
おっ?妻も結構乗り気のようだ。となると、何を食べるかだが………。妻が食べたいものが一番だが………。
「私は何でもいいが………」
「あっ!じゃあ、お寿司食べたい!寿司!」
すると、今日も夕飯目当てに帰省している我が娘………麗香から寿司のリクエストが出てきた。
んっ?寿司か………確かに寿司はいいな。麗香も昔から好きだったしな。
しかし、妻はどうか?
「あらあら?いいわね。お寿司なんて随分食べてないからいいわねぇ」
んっ?妻の反応も上々だな。それじゃあ決定かな。
「寿司か………じゃあ、それにしようか?」
「あらあら?じゃあ決定ね?」
「やったー!久しぶりのお寿司だー!異世界じゃあ食べれないからね!」
「ねぇねぇ?スシって、スシってなんだい?僕知らないんだけど?」
「私・の・知識・にも・存在・しま・セン」
「我も知らぬな。我が知識にも存在せぬスシなるもの……何たる未知な響きか………」
「名前からは想像できませんね。一体如何なる食物なんでしょうか?」
「ワカラヌナ。肉カ?魚カ?ハタマタ我ラガ知ラヌ異世界ノ未知ナルモノカ……」
「ニャハハハ!アタイは魚だったら嬉しいニャ!」
「ゴルフフフ!私は、魚も好きだが、肉が良いな!油が……滴るような脂肪たっぷりの肉が食べたいでゴルフフフフフ!!」
「ンフフフフフ。吾が輩は野菜が食べたいですねぇ。最近、肌が荒気味ですのでぇ」
「陛下の御身の警護はお任せ下さいませ!」
『カタカタカタカタ』
『コーン』
「オデェタベルゥゥ?」
おっ?皆の反応も上々………。
「いや待て。後半おかしくないか?」
待て待て。なんだか後半におかしな集団がいたようだが?
まぁ、分かっている。誰だかも分かっている。分かっているんだが、ツッコマずにはいられなかった。
見れば私の前にはいつもの妻と麗香とリリちゃん、それに加えて一緒に寿司を喰う気満々の魔王君、エル=ムー君、ハルン君、イノセリア君、リカム君、ザイール君、ガルハダ君と以前に私を駅まで迎えに来てくれた魔王君の警護のヨーマン君といった魔王配下の面々に、骨夫とギンコとタケシを加えた愉快な仲間達ならぬ奇怪な仲間達。
これまでの総集編のように、全員がリビングに集まって茶を飲んでいる。
ちょと待て。ザイール君があの馬鹿デカイ体で、どうやってリビングに来たんだ?そして何故に当然のように茶を啜ってるんだ?
湯飲みがお猪口のように見えるぞ?
といより、このメンバー全員来るつもりか?
「あらあら?後半ってどういうこと?」
「いや………どうもこうも………」
この全員を連れていける訳がないだろ?
こんな全員に奢っていては財布どころか通帳まで赤字になってしまう。といより、ザイール君が大量に食べそうで怖い。
そもそも、リリちゃんやエル=ムー、ハルン君は人間の容姿に近いので、外出しても大丈夫だろう。リカム君は耳と尻尾と手足を何とかすればギリギリいける。
しかし、ザイール君やイノセリア君はアウトだろう?
まんま、人外の容姿だ。
そんなのを外出させたら、猟友会を呼ばれてしまう。
特にザイール君。間違い無く、明日の朝刊の一面を飾るぞ?
魔王君もスーパーに行った実績はあるが、あの時は私の感覚が麻痺していて『大丈夫か?』と安易に考えていたし、何故か着ぐるみと思われていたからことで切り抜けたが、冷静に考えればアウトだろ。
ヨーマン君も………その黒い甲冑を脱げば大丈夫………いや、中身が人型とは限らないから安心できないな………。
タケシも………お前はどちらかといえば食べられる側じゃないのか?
それにガルハダ君は………ただただアウトだろ。
半裸にピッチリレザーのホットパンツを履いた筋肉ダルマなんて………こんな歩く猥褻物陳列罪………玄関から出て直ぐに通報ものだぞ?
「この人外の姿のザイール君達は流石に……」
私がそう難色を示すと、流石の魔王君も気付いてくれたらしく、難しい顔で考えだした。
「ムゥ……確かに義父上の言うとおりであるな。この姿のままに外へ出れば、無用な混乱を招くやもしれぬ」
おっ?魔王君が納得してくれたようだな。魔王君達には悪いが、ここは留守番を………。
「故に、人化の術を使うか」
「はい………?」
◇◇◇◇◇
「いらっしゃいませ!ようこそ天狗寿司へ!本日はお客様は何名様でしょうか?」
「えっと……13名で………」
というわけで、私……いや、私達は近くにあるリーズナブルな回転寿司チェーン店の『天狗寿司』へとやってきた。
美味い!安い!新鮮!をモットーにしている店であり、手軽に美味く、豊富な種類の寿司が楽しめるという事で、昔から人気の店である。
私も久方振りであるが、麗香達が小さい頃は、よく来たものである。
「あらあら?随分久しぶりに来たわねぇ」
「本当だね!昔は家族でよく来たよね」
「ママ、ママ!凄いよ!お皿が一杯回っているよ!!」
受付をしている私の背後からは、妻達の何気ない会話が聞こえてくる。
フフフ………リリちゃんがはしゃいでいるな。確かに、初めて回転寿司を見る者には驚きの光景だろうな………。昔は麗香や綾香も、驚ろいていたものだな………。
「皿・の・上・に・乗って・いる・のは・食べ物・デショウカ?」
「そのようですね。色とりどりで何とも見目美しいですね」
「ほう……皿を回しているとは何とも珍妙な……これは如何なる儀式なのだ?」
「ゴルフフフ!この匂いは魚でございますな?正直期待外れですが、何やら美味そうな匂いでゴルフフフ」
「ニャハハ!!魚だ、魚だなニャ!この匂いは魚に間違いないニャ!!」
「ホウ……アレラハ全テ魚ナノカ?何ヤラ黄色ノモノヤ黒イモノモアルガ………」
「ンフフフ。どうやら魚だけではないようですね……こんな未知にして美麗な食材を前に、吾が輩の食欲がムクムクと沸いて、興奮が上がって仕方ありませんねぇぇ」
「周囲に異常はありません!魔王様の御身は私の命に代えて御守り致します!」
そんな昔の思い出に浸る私の背後からは、それぞれの感想を述べながら、目の前で回る寿司に目を輝かせる個性豊かな面々がいた。
少し心配をしながら振り替えって見れば、そこには見慣れたメンバーである者達……麗香の私服を借りて着ているエル=ムーや、尻尾と耳を隠しているリカム君……それと、悪目立ちをするので、私の黒のスーツを着ているハルン君達が目に入る。
そして、そんな彼等の直ぐ背後には、見慣れぬ者達が付いて来ている………。
長身で痩せ型の体型に黒いスーツを着ており、黒髪をオールバックにし、顎髭を生やし、鋭い目付きだが、どこか紳士的な印象を与えてくる男。何処かのバーで、イケメンバーテンダーとして活躍してそうな容姿の男だ。
その横には、二メートル近くの長身にガッチリした筋肉質の男がいる。白く長い髪を四方八方に爆発させたかのような髪型に、獣のような顔付き………そんな見た目が危険人物っぽい男は、ピチピチした黄色いTシャツと緑の上下のジャージを着ている為、プロレスラーのような印象を与えてくる。
その男の背後には、これまた同じ位の長身で細身で褐色の肌の男がいる。長い髪を結い、猛禽類のように鋭い目付きであり、ネイティブアメリカンのような印象が特徴の男だ。
そんな男達の後を、黒髪短髪、サングラスを掛けた黒のスーツの男が周囲を警戒しながら付いて来ている。典型的なボディーガードを絵にしたような男だ。
そして極めつけは、現在妻に手を引かれている茶髪の少年だ。フワッとした茶髪にクリッとした愛らしい目。そのあどけなく、天使のような顔付きは、道行く年上女性達の視線を釘付けにしている。中には、この少年を見ながら顔を赤らめてモジモジしている方々もいる。
そんな見慣れない方々と、何故に私が行動を共にしているか?
うん、確かに見慣れない………知らない人達なのだが、その中身はよく知っている方々なのだ………。
というのも、この方々………外見こそ人間であるが、その中身は人外の者達………つまりは魔王君の魔法で人間に変身した魔王君達一行なのだ。
寿司屋に行くのに、人外の者達を連れていけないと難色を示す私に対し、魔王君が『ならば人間になれば良い』と、編み出した解決策であり、一瞬にして皆が皆、見事なまでに人間の姿に変身してしまったのだ。
あれを見た時は驚いた………魔王君が何やら呪文?を唱えた瞬間に、ザイール君達の体が光り、あの巨体が縮んでいき、最終的には人間の姿へとなったのだ………。
何故、人間の姿になれるのか?
どういった原理なのか?
そもそも、質量保存の法則はどうなっているのか?
そういった疑問は山程あったのだが、そんな私の様子を察した麗香に『一々気にしてたら、また後退するよ?』と肩を叩かれたので考えることを止めることにした。
うん、そうだな。全ては魔法だ。魔法という言葉で全ては解決するのさ。一々考えていたらキリがないな。不思議なことは全部魔法という単語で謎が解けるのだ。
決して考え過ぎて、前髪が後退することを恐れた訳じゃないのだ。
ただ、敢えてこれだけは言っておこう。
さよなら物理・慣性・質量・その他諸々の法則達よ。君達の存在は忘れないよ………。
……………さて、心の整理が何とかついた所で、この人化した者達なのだが、このままでは誰が誰か分からないので、その中身が誰か紹介すると………。
まず、バーテンダーっぽい色男は、なんと魔王君なのだ………。普段の山羊の骸骨顔からは想像もできない変化だ。
というより、大分顔に補正が入っていないかい?それとも、人間にすればこんな顔になるのだろうか?………うーむ分からん………。
ただ、1つ言えるのは、最初に出会った時から人化の魔法を使ってほしかった………。ありのままをさらけ出して見てほしい………というのであれば、その気持ちが嬉しくもあるが、初対面でいきなり人外の婚約者を紹介される父親の身にもなってほしかった………。
正直、心臓に悪いからな………。
さて……では次だが……。まぁ、もう大体察しているだろうが、白髪のプロレスラー風の男………彼が白ライオンのザイールだ。
……何と言うか……まんまというか、こちらは納得の姿である。尚、彼の着ている服は繁信が高校の時に着ていたものだ。
ネイティブアメリカンのような男はイノセリア君であり、あの虫人間が何故にこのような変化をしたのか理解できない………。
一体どんな基準で変化をしているのだろうか?基準が分からないな………。
黒服のボディーガード風の男はヨーマン君だ。彼は鎧を脱げば大丈夫かと思ったのだが、脱いだ兜の下から出てきたのはTHE悪魔といった顔だったので、速攻で変化してもらった。
そして、極めつけの茶髪の少年なのだが……。
「オザラァガ、イッパイマワッデルゥ?」
タケシである。
もう一度言おう、タケシである。
妻の使い魔?とやらの、筍から進化?した、あのタケシである。
何故にハニワ顔の1頭身の筍が、あんな美少年の容姿になっているのだろう?全くもって変身後の基準が理解できない………。
ただ………まぁ………魔法だから仕方ないか?………うん、仕方ない魔法だから。
筍が美少年になることもあるさ。昔話では、竹からかぐや姫という美少女が出てきた話もあることだしな。
決して考えるのが面倒になった訳ではない。
さて………これで全員が今どういう格好で、どんな容姿になっているか理解しもらえて………。
「ンフフフ?何故でしょうか?妙な疎外感を感じてしまうんですがぁ?」
………敢えて紹介しないようにしていたのだが、見た目とは裏腹に敏感な直感で、それを感じ取った変態………ガルハダ君が、私の真横………ほぼ0距離でピッタリと寄り添ってくる………。
あぁ………はい………分かりました。きっちりと紹介しますので、ちょっと離れてください。
いや、マジで。
そんな私に今尚寄り添ってくるガルハダ君は、ハルン君と同様に角や尻尾を隠し、肌の色も人間に近い色へと変え、人間に偽装していているので、まず誰かに疑問に思われることはないだろ。
その濃い容姿以外は。
そして、よっぽど角だの尻尾より問題がありまくる彼の服装だが………何故か彼は頑なにレザーのピッチリホットパンツを変えようとはしなかったので、仕方がなく下半身はホットパンツのままにし、上半身には繁信が昔着ていた黒い長袖のTシャツを着てもらった。
だが、繁信は体格が大きかったので大丈夫だろうと考えてのTシャツであったが、それでもガルハダ君の厚い胸板には小さかったらしく、そのTシャツもピチピチであり、僅かに下からは彼の腹筋が垣間見えている。
正直、かなり絵面的にキツイ。
それに、Tシャツの真ん中には白い文字で大きく………『COME ON BABY!』と書かれており、怪しさ………というより、別の意味での危険性が上がっている………。
某二丁目やアメリカのニューヨーク辺りを歩いていれば、間違い無くそれ系のお兄様方が涎を垂らして仰視する風貌だ。
繁信………何故にあんなシャツを買ったんだ?父さんビックリだよ………。
「ンフフフ。どうしましたケンゾウ様?何やら顔色が青いですが?何か、悩み事なことでもあるのですかぁなぁ?」
悩みの権現が、笑顔でそう聞いてくる。
「いや………何でもないよ………」
流石に面と向かって「君のことで悩んでいるんだ」などとは言えないので、ここは大人の対応として流すことにする。
「ンフフフ。そうですか?悩みがあるならば、いつでも吾が輩に相談してくださいねぇ?」
いや………絶対にないよ………。彼と話ていると、大人の対応を投げ出しそうになる。
それはもう、槍投げの如く。
「あの………お客様?よろしければ、お席に ご案内しますが?」
すると目の前にいた店員の女性が、少し不安そうに声をかけてきた。
しまった………。思考の渦に嵌まりすぎて、店員の人の存在を忘れていた………。
店員さんを待たせてしまったな………失敗したな………。
「あっ?はい、お願いします」
「はい、それではご案内します」
案内を直ぐに頼むと、店員は直ぐに笑顔となって、クルリと反転して席へと案内をしてくれた。
これだけ異色の一行だというのに、顔色1つ変えないとは………中々行き届いた接客教育を受けているらしな………。感心だ。
そんな店員さんの変わらぬ態度に感心しつつも、私達一行は店員の後を付いて行った。
やがて案内された席は、店の奥にあるテーブル席であり、詰めれば3人程が並んで座れる緑の長椅子がテーブルを挟んで対面にあり、1つの座席には6人ほどが入れるようなところであった。
「それではこちらのお席………22、23、24番の3席をご利用下さい」
ほう………この3席を使えるのか………ということは………4,4,5人で座るのが妥当だろうな。
「醤油や醤油皿、湯飲みといったものは席に備え付けてあります。何か必要になったり、ご注文がありましたら、席に備え付けてあるモニターからお呼び下さい。モニターのご利用方法についてのご説明は必要でしょうか?」
店員さんが親切に説明をしてくれながら、席に備え付けてある注文などができるタッチパネル式のモニターの操作方法の使用法の説明をするかの確認をとってきた。
「いや、構わないよ。後は、必要になったら此方から呼ばせてもらいます」
この手のモニターの注文方式には慣れているので店員さんには断りを入れて下がってもらう。最近の回転寿司や居酒屋では、タッチパネル式の注文方法は普及していて、よく行く居酒屋などでもこれで注文をしているので、比較的に扱いには慣れているからな。
店員をいちいち呼ばなくても好きな時に注文ができるようになるとはな………。便利な世の中になったものだ………。だか、人と人の触れあいが減ってしまう感じがして、些か寂しくもあるな………。
まぁ、これも時代の流れだから仕方あるまいな。
「そうですか。それでは、ごゆっくりとお楽しみください」
「あぁ、ありがとう」
案内を終えた店員さんは、そう言って一礼すると店の入り口の方へと戻っていった。
「さて………3席あるが………どういった席の割り振りにするか………」
「うーん………取り敢えず、この中で回転寿司に慣れてるのって私とパパとママなんだから、その3人がそれぞれの席に1人ついて、皆に教えてあげればいいんじゃないかな?」
ほう。麗香がなんとも建設的な意見を述べてきたな。確かに、魔王組は誰も回転寿司のルールやら注文方法は知らないだろうからな。
うん、その方法が一番いいだろうな。
「よし!じゃあ、麗香の意見を採用しよう。とすると………それぞれの席に、魔王君達をどう振り分けるかだが………」
◇◇◇◇◇◇
ー22番席 ー
「じゃあ、この席は私が色々と教えてあげるからね。分からないことや、注文がしたい場合は私に言いなさい?」
「分かった、分かったよママ!うわぁ!色んなお皿が回ってるよ!楽しみだな!」
「見た・ところ・米の・上に・魚介・を・乗せた・料理・の・よう・デスネ?・他にも・様々な・食材・が・乗せて・ある・よう・デスネ?」
「オデェ、黄色イノ食ベダイナァ」
ー23番席ー
「じゃあ、この席では私が教えて上げるからね!何でも聞いてちょうだい!」
「うむ。頼りにしているぞ麗香よ」
「ニャハハ!は、早く食べたいニャ!が、我慢できないニャ!」
「リ、リカム様!落ち着いて下さいませ!陛下と奥方様に失礼ですよ!あ、あぁ……お、奥方様!お飲み物の準備は私に任せて下さいませ!主に準備を下働きをさせるなど、騎士の恥でございますから!!」
ー24番席ー
他の席では皆が皆、楽しそうな声を出し、回転寿司を楽しもうとしている。
妻の席では、妻が幼い容姿のリリちゃんやタケシ、姉のような美女のエル=ムー達に丁寧に初めての回転寿司の食べ方を教えている。
何とも和む光景だ。
麗香の席では麗香が魔王君に若干ドヤ顔でレクチャーをしている。いずれは夫婦になる二人と考えれば何とも初初しい光景だな。
その脇ではリカム君が涎を垂らしてコンベアを流れる寿司を仰視し、それを黒服のヨマーズ君が嗜めている。これはこれで何とも微笑ましく感じる。
フフ………どの席も、随分楽しそうだな。
「ンフフフ。どうしましたケンゾウ様?何やら、他の席を遠い目で見ていますが?」
他の席を眺めて、現実から目を背けていたのだが、現実の方が私に掴みかかり引き戻しに掛かってきやがった………。
「あぁ………うん………なんでもないよ」
現実に戻された私は、自分のいる席へと目を移す。
そこには………。
「ンフフフ。なれば良いのですが。それでは是非にとも、このカイテンズシなるものの作法を教授して頂きたのですが?」
「ゴルフフフ!!は、早く食べたいでゴルフ!って、あぁ!い、今、非常に旨そうなものが………あー!!と、取られたでゴルフゥ!?」
「ほぅ………カイテンズシ………と一重に言っても様々な種類があるようですね。実に興味深い料理ですね………」
「コノ黒イ液体ハナンダ?ソレニ、緑ノ粉ガ入ッテイル金属ノ筒モ………コレモカイテンズシノナルモノノ一種ナノカ?」
私の目の前………つまりは私の席にはガルハダ君にザイール君、ハルン君とイノセリア君といった4名が回転寿司の始まりを、今か今かと待ち構えている。
何故にこうなったのだろう?
そうだ………麗香の意見を採用し、いざ魔王君達を席にどう振り分けるか………という話になった時、妻が………
「あらあら?それじゃあ、私は小さい子達とエルちゃんを連れていくわ」
と、早々にリリちゃん達を連れて席に着き………。
「あっ。じゃあ……私は未来の旦那と……一応は要人だから、警護にリカムとヨーマンを連れてくわ」
と、麗香も麗香で早々と魔王君達を連れて行ってしまった。
そして、唖然とする私にガルハダ君が肩に手を置きながら………。
「ンフフフ。宜しくお願いしますぅ。先生」
………という訳で、現在の席割りとなってしまったのだ………。
妻は………多分悪意はないだろうが、麗香は完全に逃げたな………。
私に筋肉の塊達や悪目立ちする組を押し付けていったな………おのれ麗香………。いつからそんなずる賢くなったんだ………。
父は悲しいぞ。
ふぅ………だが、まぁ、なってしまったものは仕方がない………。彼等に回転寿司についての作法などを教えるとするか………。
しかし………教えるのはいいのだが、今の席の座り方………なんかおかしくないだろうか?いや、おかしい。
今、私達の席は、どういう風に座っているかといえば、私の目の前………つまりは対面には白目ロン毛のハルン君とネイティブアメリカンのイノセリア君がいる。
これはまだいい。
だが………私の左側………回転寿司のコンベアが流れてる側を見れば………。
「ゴルフフフ………どうしたゴルフか?」
白髪パンクヘアの筋肉達磨ザイール君が。
右側の通路側を見れば………。
「ンフフフ。どうしましたミスター?」
口髭を蓄えたオールバックの筋肉達磨ガルハダ君が。
………つまりは私の両隣が筋肉達磨に囲まれているのだ。
前門の筋肉に後門の筋肉………筋肉に囲まれて逃げ場無し。
………なんでだ?!普通は、教える奴がコンベア側じゃないか?そして、私を囲むのもおかしくないか?只でさえ、3人掛けでギリギリの席なのに、体格のデカイ二人のせいで完全アウトだよ!具体的に言えば、完全に密着しているよ!筋肉に潰されてるよ!
しかも、ザイール君は何か獣臭いし、ガルハダ君に至っては何か湿っているんだよ!何だ汗か?脂か?どちらにせよ勘弁してくれよ!ハルン君かイノセリア君よ!変わってくれ!後生だから!!
「むっ?このテーブルから生えてる金属の管は一体………って熱っ?!」
「ムッ?ハルンヨ、何ヲフザケテイルノダ?コノ金属ノ管ガドウシタト……ッテ熱ッ?!」
………どうやら私の願いは届かないらしな。だが、天罰は下ったのか二人はお茶用の湯口から溢れたお湯に悶えている。
フフ……思いしれ。ただ、火傷だけはしないように。
フゥ………熱さに悶える二人を見たら多少は溜飲は下がったな。まだ少し納得できない事は多々あるが………まぁ、気にしないようにしよう。それより早く食事にしよう、流石に私も腹が減ってきたからな………。
「さて………皆も腹が減っているようだし、これから回転寿司のルールや注文方法を教えるよ」
「ンフフフ。よろしくお願いしますぅよ」
ガルハダ君やハルン君達といった面々が、軽く一礼をしてきながら真面目な顔を向けてくれ。
見た目はあれだが、一応は魔王君の配下で魔王軍の一員ということなのか、上からの指示や命令には真剣に望むようにあるらしい。
こんな真剣に聞いてくれるなら、教えがいもあるというものだ。
まぁ、1つ問題があるとするならば、ガルハダ君とザイール君の顔が近いということだが………まぁ、この際気にしないようにしよう。
うん。無心だ、無心。
「まぁ、そんな難しいものではないんだが、見ての通り流れてくる皿から好きなものを選んで食べるって方式なんだ」
「好きなものを………成る程、無理に嫌いなものを食べなくて良いというのは実に合理的ですね。しかし………そうなれば値段や支払い方式はどうなっているのですか?まさか、いくら食べても値段は均一………なんて事はありますまい?」
おっ?ハルン君から当然の質問がきたな。流石は魔王君の下で伊達にインテリ系で通していないな。
普段は色々残念だが。
「それは、食べた後の皿で見るんだ。皿を取った後は、その皿をテーブルに残しておいて、会計のとき皿の数や色やなんかで値段を統計して取るんだよ。ついでに今、回っているものの大半は一皿100円だよ。一部の特別な寿司やサイドメニュー、デザートはそれより他界がね」
「ほう………成る程。何とも斬新な支払い方法ですが………理にかなっておりますね。よく理解できました」
どうやら説明に理解は示してくれたらしいな。これさえ分かれば回転寿司のルールの8割は説明したものだからな、一安心だ。
より、このまま必要なことをジャンジャン教えていこう。
「後は、テーブルには醤油………さっきイノセリア君が触っていた黒いソースがあるから、それを小皿に入れて、寿司に付けて食べらるんだよ」
「ホウ。コレガソースナノデスカ?」
「飲み物は………湯飲みに金属の筒に入ってる緑の粉………粉末化したお茶を入れて、ハルンが触っていたお湯がでる管からお湯を入れて、お茶にして飲むんだよ」
「この粉が………ついでに一杯のお値段は?」
「無料だ」
「なんと!?」
「で、次にこれだが………」
次々と回転寿司に備え付けてあるものの説明をするが、意外にも彼等は飲み込みが早く、どんどん学習をしていってくれる。
これは私的にも何度も説明する必要がないために、嬉しい限りだ。
さて………次はタッチパネルでの注文方法を教えるかな。
「で、最後にこのタッチパネルなんだが、これは食べたい物が回ってこない時に、これで直接店員に食べたいものを注文できる機械なんだ」
そう説明すると、意外にもザイール君が興味を示したのか、しげしげとタッチパネルを眺めている。
「これで食べ物を呼び出せるでゴルフかぁ?」
「あぁ、その画面を直接触れば操作ができて、食べたい物をタッチして………」
『ピッ』
んっ?『ピッ』?
突然の電子音に音の発生源を見れば、まだ説明途中だというのにザイール君が画面のボタンを押していたのだ。
「ちょ、ちょっとザイール君!まだ説明途中だろう。勝手に触らないでくれないか?」
「ゴ、ゴルフゥ………す、すまないでゴルフゥ………つい我慢できなくて食べたい物を押してしまったでゴルフフフ………」
そう言って、すまなそうに頭を下げてくるザイール君。まぁ、腹が減ってるから仕方がないんだろう………。
「はぁ……まぁ、仕方がないか。私の話も長過ぎたかもしれないしな………」
「ゴルフフフ………申し訳ないでゴルフ」
「別に構わないよ。それで何のボタンを押したんだ………」
「失礼します。お客様、お会計でしょうか?」
突然に声を掛けられたので見れば、店員さんが小型のバインダーのような物を持って、ニコニコと私達の席へとやって来ていた。
「えっ………?会計?」
「えっ?あっ………はい?会計のお呼びだしがあったのですが………?」
私の言葉に、店員さんが不安そうな顔をしながらも、確認の意味を込めてそう言ってきた。
会計?ということは、ザイール君は店員を呼び出して会計をする呼び出しの所をタッチしたという事か?
席にあるタッチパネルのモニターを見れば、確かに店員を呼び出す為のパネルがあり、そこには店員さんをデフォルメされた、人型のキャラが描かれている。
うん。間違い無くこれを押したんだろ。
そうか………ザイール君はこれを押したのか………。って、あれ?待てよ?でも確か、ザイール君はさっき………。
『食べたい物を押した』
と言っていたよな?あれ?ちょっと待てよ?
食べたい物で、明らかに人の絵を書いた所を普通は押すか?えっ?まさかな………。
ギギギ………と、油の切れたブリキ人形のように首を動かしてザイール君へと視線を移す。
そこには、何故か店員さんをジッと見ているザイール君がいた。
えっ?ちょっと待てよ?えっ?何、この反応?
ま、まさか………。
「ザイール君?さっき君………」
私が確認を取ろうとした。その時………。
「ンフフフ。どうやら、白獅子は間違って押してしまったらしいですねぇ。」
「え、えぇ。ザイール様はうっかり者ですね。ハハハハ………」
「ソ、ソウデゴザイマスネ。慣レヌ体デ手元ガ滑リマシタカネネ?女ヨ、モウ下ガッテヨイゾ?」
「えっ?あっ………はい?し、失礼します」
私がとある事実確認をする間もなく、それぞれがザイール君のフォローに入りながら店員の女性を手早く返してしまった。
なんたる連携のよさか。
そしてザイール君がそんな去り行く店員さんの後ろ姿を名残惜しそうに見ている………。
えっ?ちょ………ザイール君?
「えっ?あれ?あの………ハルン君?さっき、ザイール君が食べたい………」
「おっと、ケンゾウ様!こちらの小皿にショウユを入れればよいのですかな?」
「えっ?あぁ、そうだけど………それよりさっき、ザイール君が店員さんを………」
「オット、ケンゾウ様!早速デスガ、コチラノオ茶ハ私ガ準備シマショウ!!」
えぇ?!な、なんだかハルン君達が挙動不審なんだが………?えっ?なんか誤魔化してきているようなんだが………これって………。
すると、そこで私の頭上からボソボソと声が聞こえてきたので気になって見れば、座っていても私より体格がでかいザイール君とガルハダ君が、私を飛び越してボソボソと話をしていた。
『流石に………ずい………です………よぅ』
『すまん………ゴルフ………』
『昔………人………食べ………今………魔王………奥方………殺され………』
『つい………も、もう………ないで………反省………ゴルフ………』
………何だろう。聞きたいが、聞きたくない内容の不穏なキーワードが、嫌がおうにも聞こえてくるのだが?いや、マジで何の話をしているんだい?
やはり、私の考えた通りなのか?だとしたら、今後私はどうザイール君と接すればいいのか?
後、こんな話はせめて離れた場所でやってくれないだろうか?私の精神衛生状にもキツイので………。
やがて話を終えたのか、二人は私にニッコリと微笑んできた。
「ンフフフ。申し訳ありませんケンゾウ様。白獅子には、吾が輩からよく注意はしておきましたのでぇ。もう、先程のような注文はしませんからご安心を」
「ゴルフフフ………申し訳ないでゴルフ。昔の悪い癖が出たでゴルフ………。もうしないと誓うので安心するでゴルフ」
と、私に安心するように二人は諭してきた。
「あぁ、そうか………」
フム………よく分かったよ、ザイール君にガルハダ君。
誰か席変わって?
私の悩みがまた1つ増えた瞬間であった。




