8話 娘の婚約者との絆が深まりました。
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「もう、お父さんたら………男同士で親交を深めるのは良いですが、年甲斐も無くハシャギ過ぎですよ」
「ホーントにパパって子供だよね」
うつ伏せになって寝そべる私に、妻は傷付いた背中に薬を塗ってくれている。麗香は魔王に仕置きをしながら、容赦無い言葉を浴びせかけてくる。
「言っておくが……別にハシャいでた訳じゃない……ゲルクルシュ君が突然魔法なるものを使ってきてだな……」
「まぁ魔王くんも悪いけど、魔法を使わせる程にテンション上げさせたパパも悪いわよ」
魔王が魔法を使ったのは私が悪いのかと理不尽に苛まされるも、我が家の裁決の決定権は女が握っているので黙って従うしかないのだ。
あの後、風呂場で背中を流すという謎の名目で私の背中目掛けて魔法をぶっぱなしてきて、危うく背中の皮膚ごと流しかれかねない所を、悲鳴を聞きつけた麗香によって救助されたのだ。
皮膚どころか命が流されていてもおかしくはなかったが………。
魔王曰く、「嬉しげな叫びを上げていた故に、不覚にも興が乗ってしまった」という。私が上げた悲鳴は魔王にとっては、歓喜の声に聞こえたらしい。とんでも無い所にわかり会えない文化と思考の壁があったものだ。
何とか軽微な擦り傷等で済んだが本当に危なかった。
あと少し遅ければ、私はこの世にお別れするところであった。
その魔王はというと現在、浴室に現れた勇者麗香によって簀巻きにされ、娘曰くペンペンの刑というお仕置きを受けていた。
尚ペンペンの刑とは、簀巻きにした魔王を宙吊りにして永遠と殴る……いわばサンドバッグの刑であった。
最初は「もう!魔王くん駄目だよ?お仕置きとしてペンペンの刑ね!」と麗香が言った時は、女性らしくなった態度に嬉しさ半分、ペンペンじゃ割に合わないぞと怒り半分であったが、開始10秒で『もう止めて上げて』と叫びそうになった。
何せ1発1発の殴る音が『ドゴォン』って腹に響くような轟音なんだもの。
どこにもペンペン要素が全く感じられるなかった。
逆さ宙吊りになっている魔王も最初は抵抗していたが、3発程喰らった所で無言となってしまった。
「でも良かったねパパ。後少し遅かったら皮膚どころか、全体的にスプラッターな事になってたよ?」
何の気なしに、父親の命の危機を告げてくる娘に脅威を感じつつ、助けてくれた事に感謝もする。
「あぁ有り難う……助かったよ」
「どう致しまして。でも魔王くんがあんなにテンション上がるなんて、一体お風呂で何を話していたの?」
「それは……」
これは言えないな。
あの事は麗香にとって黒歴史だ。
下手したらトラウマを引き起こしてしまう。
何か別の話題で誤魔化すか……。
「何………たいした話ではない……レイカよ……」
宙吊り魔王が意識を取り戻し、会話に参加してきた。
「あれ?もう目覚めちゃった?まだ暫くは起きないと思ってたんだけど?」
「ククク……我も日々進化しているということだよ、レイカ」
意味深げに含み笑いをする魔王であるが、簀巻きの逆宙吊りになっている為、威厳もへったくれもない。
「そう?じゃあ次からは30%の力でいくね」
あれで30%以下だっただと?!
麗香……本当に恐…頼もしく育ったものだ。
ニッコリと見惚れるような笑顔を向ける麗香に対し、遠回しの死刑宣告を受けた魔王は悲壮感溢れる顔でその笑顔を眺めていた。
「それで?結局何を話していたの?」
「男同士の秘密だ」
おぉ……一応は魔王も空気を読めるらしい。
「女の子にしてあげようか?」
「ま、待て!それは止めよ!!幾らなんでもそこは止せ!!分かった話す!話すから!」
魔王陥落。
決め手は麗香による玉つかみだった。
「じゃあ何を話してたのかなぁ?」
「そ、それはだな?あーっと……」
会話に入ってきた割に、良い言い訳やら何やらは考えていなかったらしい。
くっ!このままでは麗香のトラウマが、麗香自身の手で開かれてしまう!それだけは阻止しなければ!!
魔王よ何でもいい!適当に嘘をついて場を誤魔化すんだ!!
私の発した想いが魔王に通じたのか、魔王はこちらに一瞬視線を合わせると、ウインクをして合図をしてきた。
……ウインクだよな?今の?何か目の炎が一瞬だけ煌めいたが?
「分かった……レイカよ。全て話そう……ただし言っておく……後悔するなよ?」
「な……なによ?」
おい、魔王?!まさか全部ぶちまけるつもりではなかろうか?追い詰められたのと、ボキャブラリーの少なさでもう降参か?
「こ……こら!魔……ぶぎゃ!!」
「お父さんは黙っていなさい」
妻が背中の擦り傷に、薬を手加減なく塗り込んできおった!
私に発言をさせないつもりか?!
気になったのだが、さっきから何の薬を塗っていたんだ?何気なく塗ってもらっていたが、確か麗香が出した薬だったよな?変な匂いがするのだが………。
「さて麗香よ。心の準備は良いか?」
「えぇ……いいわよ。何をそんな覚悟する必要があるか分からないけど、早く話なさい」
「ククク……豪気なものだ。下手したらレイカよ、お主が酷く傷つく事になるぞ?」
あっ?やっぱり言うつもりだ。
くっ!これは絶対に阻止しなければ!!
「ま……フグゥァァ?!」
立ち上がろうとしたが、妻によって逆に阻止されてしまった。
しかも背中に添えられた、たった一方の指によって。
馬鹿な……!指一本だけで?
妻よ……お前は一体?!
「もう、そういうのは良いわ!早く話なさいよ」
止せ!止めるんだ!!
「では言うぞ?我と義父上は……」
「ググッ!止めろぉ……」
「パパと魔王くんが?」
「好みの女の話をしておったのだ」
「「「はっ?」」」
いや本当にハッ?だよ!
何故そうなる!?そんな話はして……。
まさか!魔王!お前?!
「女性の話?」
「あぁそうだ。男同士、己が理想とする女の姿を互いに話しておってな!ついつい興奮してしまったわ! ハハハハ!まさか義父上が我と同じ巨乳のエルフが好みとはな!思い出しても笑えるわ!
なっ?大した話ではなかろう?」
大口を開けて笑いながら、嘘を吐く魔王。
確かに女性関係の話題ならば、男同士で通るし妻達の注意は『別』の方向に向かうだろう。
あぁ……魔王は最初から麗香の話を言う気はなかったのか。
魔王よ済まない……私は君をまだ信じきれていなかったようだ……。
更に、あえて私に何を言うか悟らせずに動揺させることで、より話に信憑性を持たせることができたのだ。
そこでフッと魔王と目が合った。
魔王はやりきった男の顔をしており、その目は明らかにあることを覚悟した目をしていた。
その目から、私は直ぐに魔王が何を覚悟したのかが分かった。
「おとうーさん?」
「マオーくん?」
私の背後にはニッコリと笑いながらも、目が笑っておらず、尋常じゃない殺意を放つ妻が。
魔王の背後には半目で笑い、拳を鳴らす麗香が。
ホラ。妻達の注意が別の方向……話の内容から我々への怒りに変わった!やったね!これで 麗香は傷付かない!
自らを犠牲とし他者を護る精神、魔王よ君こそ麗香に相応しい男だよ。
再び魔王と目が合い、互いに何を言いたいかが直ぐに理解できた。
((死ぬときは一緒だ!!))
ここに義父と義息子の熱い友情が確かに芽生えた。
直後、女性陣による男達への蹂躙が開始され、二人に末長く残るトラウマを与えるのであった。
主婦 佐沼 秋子
Lv:130
称号:【主婦】【節約家】【狩人】【守護者】
【魔王の母】【極めし者】【賢者】【女帝】
HP:2000
MP:3800
攻撃力【物理】:230
防御力【物理】:450
攻撃力【魔法】:700
防御力【魔法】:870
素早さ:640
知識:1400
運勢:830
装備:【鉄壁のエプロン】【研ぎ澄まされた包丁】
【古びたピアス】【シルバーの結婚指輪】
加護:【魔王の加護】