76話 魔剣デスガイア 『意思』
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我は魔剣デスガイア。
そう、魔剣である。
主と共に戦場を生き場所とし、迫る敵を斬り伏せ、肉を裂き、血渋きを飛ばし、断末魔の叫びを上げさせる。
それが魔剣である我の生業であり、存在意義である。
故に………決して、野菜だの、魚だの、肉だの、ドリアンだの、ドリアンだの、ドリアンだの、ドリアンだの、ドリアンだの、ドリアンだの、ドリアンだの、ドリアンだの、ドリアンだの、ドリアンだの………を切る包丁などではない!!断じてない!!ないのだ!!
確かに我が身は今や包丁の姿となり、台所の片隅に置かれているが、その本質は魔剣であり、戦いこそが我が剣生の誉れなのだ!
だというのに、今の我は………。
『何故に、こうなった………?』
深夜、静まり返った流しの片隅で、我は一本で愚痴る。
新たな主を求め、その主と出会ったと思えば主婦であり、我が身は包丁となる………。
これは一体何の罰であろうか?我が何をしたというのだ?!確かに前主の魔王と、ちょっとばかりハシャイで、国の3つ4つは潰したが、これはないんじゃないか?!あんまりであろう?何でドラゴンすら斬り裂く我が、アジを裂かねばならぬのだ?!何故にドリアンなる汚れた果実を切らねばならぬのだ?!
今や、選別から除外され、ホッとした面で宝物庫へと戻ったカラドボルグ共が羨ましく、妬ましい。
ちくしょうが……安堵した面で戻りおって。こんなことならば我も主など得ずに、何百年でもいいから宝物庫で待ち続けている方がマシだったわ………。
『おのれ……何故に我がこのような屈辱を』
最早、そんな愚痴しか出なくなっている。
『おいおい、どうした新入り?随分と景気の悪い面をしてるな?』
すると、そんな我の一剣言に返してくる物があった。
『ムッ?何者だ?』
我が声のした方向に視線を移すと、そこは台所の片隅にある台座があり、その上には布に包まれた根元から折れた包丁があった。
『あぁ、名乗りもせずに話し掛けてすまないな。と言っても、名乗れる名なんかないがね。まぁ、見ての通り、ただの包丁さ。折れちまったから、元……がつくがね。つまり、あんたの先輩にあたる包丁さ。あんたは?』
フン……。魔剣どころか剣ですらない下等な刃物か。見たところ、希少な金属を使われている訳でもない普通の刃物。しかも、壊れて使えないときてる。本来であれば我に話し掛けるのも不敬であるが、だからと言って名乗ってきた相手に返さぬのは我自体の品格も落としかねぬしな。名ぐらい教えてやろう。
『我が名は魔剣デスガイアだ』
『あんた……大丈夫か?』
こやつ?!せっかく名乗ってやったというのに、物凄く不憫な者を見るような目で見てきおったわ!!これだから下等なる者は!!
『中二病……って奴か?刃物界にも、その流れが来ているのか?最近の刃物事情は分からないな………』
しかも何か呟いておるし!しっかり聞こえているぞ!!
『貴様………』
『あっ……あぁ!すまない!まぁ、名前なんて刃物それぞれだからな!うん、良い名前だと思うよ!うん!』
何か腑に落ちないが、一応は謝罪を示してきたので、我もこれ以上は追及をしない事とする。というより、これ以上下等な者と話をする気になれぬ。
『話はそれだけか?ならば、これで終いだ。我は少々考えたいことがある故にな』
そうやって話を切ろうとしたのだが……。
『まぁ、待ってくれよ!ここで会ったのも何かの縁だし、少し話でもしようじゃないか?1刃物で考え事なんて寂しいじゃないか?よければ俺が相談に乗るぜ?』
折れた刃物の癖に随分と馴れ馴れしい奴だな。それにお喋りな奴だ。全く……これだから品格の無い下等な刃物は……って、ん?
『そういえば、貴様は先程から随分と流暢に話しているが、何故にただの刃物如きの貴様がそのように話せるのだ?』
そう、ここで我は気付いたのだが、特殊な金属も魔術加工も使われておらぬ刃物が、こうやって話しているのは異常だ。宝物庫内でも、話をできるのは我のような上位の魔剣や聖剣、特殊な剣の類に限り、他の剣は話どころか自我すらないのが普通だ。それが、目の前の刃物はペラペラと喋っているのだ。
『んっ?あぁ、それか。それは俺がツクモガミの一種だからさ』
『ツクモガミ?』
なんだそれは?聞きなれぬ言葉だな?
『知らないのか?長年に渡って愛着を持って使われた物に魂が宿り、俺のように自我を持った存在。それがツクモガミだ。てっきりアンタもそうだと思ったんだが?』
益々知らぬな。全く聞き覚えが無い。愛着の持った物に魂が宿るなど、聞いたこともないし信じられぬな。
『我はそのツクモガミなどという物ではない。我は魔剣だ。意識を……自我を持つように最初から作られておる』
『マケン?そっちの方が聞き慣れないが……まぁ、いいか。こうやって話せる奴は貴重だからな。会話ができるってのは楽しいし、嬉しいからな』
『貴重……という事は、他にもおるのか?』
『あぁ、いるぜ。ほら、そこに立て掛けられてるまな板もそうだぜ』
見れば、流しの近くに木製の四角い板が立て掛けられている。しかし、折れた包丁のように話しをする様子は見られない。
『………喋らないが?』
『無口な上に物見知りでね。俺以外の奴がいる時は、恥ずかしがって口すら開かねえんだ。でも、こっちの話は聞こえているし、慣れてくれば相づちくらい返してくれるから、気さくに話し掛けてやってくれ』
『………………』
別に話す話題もないから、こいつは放っておいてもいいだろ。
『他にも、ここにゃいないが、家の中には結構なツクモガミがいるぜ?ここの旦那さんの鞄や革靴、スーツもだし、二人が指に付けてる指輪もだし。先日、傘立てとテーブルが逝っちまったが……まぁ、それだけのツクモガミはいるぜ?』
こんな奴らがまだ、他にもいるとは……これは少々驚きではあるな。
まぁ、だからといって進んで関わるつもりはないがな。
『んで、変わりって訳じゃないが、アンタの質問に答えたんだから、俺からも質問をしてもいいかい?』
こやつめ………。確かに質問のような事をしたが、魔剣の最上位たる我にその見返りを要求するとは……。底抜けに不敬な輩であるな。 だが、奴の言う事には一理あるし、適当に答えてやればいいだろう。
『まぁ、良いだろう……して、何を聞きたいのだ?』
『そうだな……じゃあ、アンタの事が知りたいな?』
『随分とアバウトな質問だな………』
こいつは何なんだ?藪から棒に妙な質問をしてきおってからに?我の事を知りたいとは何なのだ?
『あー……まぁ、ちょい意気なり過ぎる質問だったが……少しでもアンタという刃物の事が知りたくてな?』
『何故に我の事を知りたいのだ?』
『そりゃそうだろ?俺の後釜になる包丁の事を知りたいのは当然だろ?それに、アンタに話たい事もたくさんあるしな!』
後釜だと?!こやつめ!!魔剣たる我に、貴様の変わりに下等な包丁に此処でなれということか?!確かに今の我の姿は包丁であるが、心まで包丁になったつもりは一切無い!そんな我に後釜とは……ふざけた奴だ!!何たる侮辱!これ以上こやつと語る事は無い!
『断る!これ以上、貴様と語る事は無い!』
『えっ?ちょいちょい!?どうしたんだよ?何か気を悪くしたなら謝るから!!なぁ、話をしようぜ?俺はこれでも、この家で何十年も使われてたんだぜ?色々と経験もあるから教えられることもあると………ちょい聞いてよ!!』
『聞く耳は持たぬ!そもそも、貴様のような下等な包丁如きが我に語りかけるなど立場をわきまえよ!』
『いや下等って………アンタも包丁だろう?』
『黙れ!我は包丁であって包丁ではないのだ!!』
『何の禅問答?!いや、ちょっと黙り込まないでよ?ねぇ、ちょっと?』
その夜、しつこく話し掛けてくる折れた包丁を、我は無視し続けた。
◇◇◇
〇包丁生活1日目………。
朝からトウフなる白く、四角いものを切った。その手応えの無い柔らかさに、手で千切れと思った。
その夜、『俺は今の主の叔父が、主が結婚して嫁に行く時に送られた』などと聞いてもいないのに話していたが、全て聞き流した。
〇包丁生活2日目………。
今日は久々に肉を切った。ただし、豚ブロックという肉の塊だ。これまで、迫る敵の肉を斬り裂いていた我が、カクニなる料理を作る為に肉を切っていると思うと泣けてくる。
今日も、『主は料理は何でも出来るが、肉じゃがと角煮は特に絶品なんだぜ?』と嬉しそうに語っているが、我は心で泣いていたので相手をしてる場合ではなかった。
〇包丁生活3日目………。
今日はサシミなる料理を作る為に、マグロとかいう魚の肉を切った。我の切れ味があるとはいえ、魚の繊維を斬ることなく切り揃える主の腕に、少し感心する。
折れた包丁が横でニヤニヤしながら、『主の腕前は凄いだろ?マグロだって捌けるんだぜ?』と話してきたが、ガン無視する。
〇包丁生活7日目………。
今日で我が包丁となって1週間が経った。今日までに肉や野菜、魚を切ってきたが、やはり物足りない。確かに主の腕前は良いが、それを戦いに活かして欲しいと切に願う。
『主婦が戦う?スーパーでなら戦っているようだが………』折れた包丁の情報では、スーパーなる戦場があるらしい。ならば、是非ともそこに連れていってほしい。
〇包丁生活10日目………。
料理が終わり、主が我を研ぎだした。我は切れ味が落ちることはないので研ぐ必要はないのだが、これは中々に気持ち良いので受け入れよう。
『それ気持ちいいよな!』と、折れた包丁が横から言ってきたが、その声はどこか暗い感じがしたのは気のせいだろうか?
〇包丁生活15日目………。
台所で食べ終わった食器を、主と娘が片付けながら談話をしていた。
『最近、ママの料理また美味しくなってない?』
『新しい包丁の切れ味が良いからね。食材が何でも調理しやすくなって、料理も美味しくできるようになったのよ』
………何であろうか?そんな会話を聞いていたら、妙に気分が高揚した。まぁ、我の斬れ味は凄まじいからな。当然のことよ!
『自分が切ったもので……美味しいって言われるのは………嬉しいもんだよな?』
横から折れた包丁がそう言ってくる。くっ、余計な事を言ってくるんじゃないたわけ者が!!
というより、こやつ何か最近、上の空になってる事が多いような?別に気にしてる訳ではないが。
〇包丁生活20日目………。
今日は、主達は外出し外で食事を取るらしく、珍しく暇な夜である。
『フン……今日は暇だな………』
『おっ?その様子だと、少しはこの生活を楽しんできたのかな?』
相変わらず折れた包丁……略してオレホが馴れ馴れしく語りかけてくる。
『誰が楽しんでいるか!ただ、特に何もしないというのが退屈なだけだ!全く……これが敵が溢れる戦場ならば、退屈などせずに済むというのにな………』
『いや……俺にはそっちの感覚の方が分からないんだが……』
『フン。戦場の良さを知らぬとは……戦場では常に周りが敵で溢れておる。その迫り来る敵に対し、主と共に敵を切り払いながら戦場を駆ける……己の力を示す最高の舞台。これに勝る喜びはないだろうな』
『ハァ……何か良く分からんが……随分と壮大な話だな。あんまりにも壮大過ぎて、想像もつかないな』
フン。貴様如きの下等な……それも折れて使えなくなった包丁には分からんだろうがな。
『だけどそれって……楽しいのか?』
『何?』
『あっいや、別に何を楽しく思うかは、刃物それぞれだと思うんだが……俺にはどうも戦場とやらの話は楽しくないような気がするんだよな………』
フン……軟弱な思想だな。所詮は戦場にも出ず、戦いすらしたことがない刃物だな。刃物として生まれた喜びすら知らぬか。
『フン。下等な者の意見よ。楽しい楽しくないではないわ。普通は刃物として生まれたならば、戦場で身を立てて己の刃物としての斬れ味を世に知らしめようとは思わぬのか?』
『いや……そう言われてもな。戦いなんて考えた事もないし、食材さえ切れれば俺はそれでいいと考えてたからな………』
『なんと軟弱な……同じ刃物とは思えぬわ』
『ハハハ!まぁ、刃物といっもそれぞれだからな。俺はこの家で、主の料理を作るのを手伝ってるのが楽しかったし、その料理を皆が旨い旨いと食べてる姿を見るだけで満足だったからな』
『理解ができぬな………』
心底オレホの言っていることが理解できぬな。他人が喜んでる姿で満足など………。
………新しい包丁の切れ味が良いからね。食材が何でも調理しやすくなって、料理も美味しくできるようになったのよ………。
フン……我には到底理解できぬわ。
『そうかい……。まぁ、アンタみたいな斬れ味の良い包丁なんて見た事がないしな。俺みたいな凡庸な包丁とは、見てる先も、考えてる事も違うんだろうな』
『当然だ。凡庸どころか、折れて使えぬ輩には分からぬ事よ』
『!?………ハハハ。痛い所を突かれたな。事実だけに反論もできねぇな。っと……ちょい……悪いが……休ませてもらうぜ?』
『別に我に許可を取る必要はあるまい。勝手に休むが良い』
『すま……ねぇ……なぁ………』
フン……寝おったか。しかし、別に動いてもおらぬのに休むとは……随分と怠惰な奴であるな。やはり、所詮は下等な包丁よ。
『オイ………』
ムッ?何だ?何処からか、妙に野太い声が?一体何処から………。
『ここだ………デスガイアとやら………』
『ムッ?』
言われるがままに、声のする方を見れば、そこには台座に立て掛けられた四角い木製の板……まな板が鎮座していた。
『貴様は………』
『一応は初めまして……と言っておこう。俺はまな板のサンキュッパだ』
『サンキュッパ?変わった名だな』
『馬鹿にすれば容赦はせんぞ?主が俺を購入する際、俺を手に取りながら『あらあら?これってサンキュッパね?』と名付けてくれた名だ。この名は俺の誇りだからな』
ムッ?こやつ……オレホと違って凄まじい覇気がある。いや……良く考えれば、普段我の捌きを受けて平然としているのだ。相当な強者と見てよかろう………。
『別に馬鹿にはしておらぬ、サンキュッパとやら』
『なら、いい』
『しかし、無口とオレホから聞いていたが、突然に話し掛けてくるなど、どういう風の吹き回しか?』
『別に……ただ、少し貴様とは話ておくべき事があると思ってな………。それより、その『オレホ』ってのは何だ?』
『決まっておろう。そこで寝ておる、役立たずの折れた包丁の略………』
そう言おうとした瞬間、サンキュッパから凄まじい殺気が飛んできた。
くっ……な、なんたる殺気だ?!た、たかがまな板の筈が……こ、これはまるで、かつて初代魔王と戦った炎龍皇並みの殺気だぞ?!
そんなサンキュッパは、殺気を放ちながら、厳かに語り出した。
『貴様……それ以上に相棒を馬鹿にすることは許さんぞ?その相棒……包丁は、俺と共に長年主に仕えた戦友。その相棒を侮辱することは、俺への侮辱と知れ………』
くっ……こ、こやつ、本当にただの木の板なのか?魔剣・聖剣……これまで出会った剣達の中でも、ここまでに我へとプレッシャーを与えた者など知らぬぞ!
こんな輩と、下手に敵対するのは賢くないな………となれば。
『くっ……分かった。先程の侮辱は撤回し、謝罪しよう………すまなかった』
そう謝罪をすると、サンキュッパからの殺気が嘘だったかのように霧散して消えた。
『ならいい。だが、相棒の侮辱は許さぬからな………。それだけは肝に命じておけ』
『あぁ………』
この威圧感……やはり只者ではないな。表面に付いた傷も相まって、凄まじい凄みを醸し出しておるわ………。
『それで………我と話たいことがあると申していたが?一体どのような話であろうか?』
『何……普段、貴様と相棒が話ている内容を立ち聞きしていた上での話なのだがな……』
『ほぅ……まぁ、近くにいたのだから仕方あるまいが、立ち聞きとは余り感心はせねが?』
皮肉を込めてそう言ってやると、サンキュッパはクククと含み笑いをした後に、再び語り出した。
『クク……まぁ、それはすまんな。つい耳に入ってしまったんだ悪気はない。……で、話を戻すが………デスガイアとやら。貴様は随分と包丁を見下しているようだが……包丁であることが、それほどに苦痛か?』
包丁であることが苦痛?フン……なんだその質問は?
『愚問だな。包丁など、刃物の中では下等中の下等。食材を切るしか脳の無い愚図であり、戦場では役立たずの刃物の面汚しよ』
我は率直に包丁に対する意見を述べる。これは、我が常々考えている事であり、刃物達の中でも同意見が出るであろう。
『食材を切るしか脳がない……か。まぁ、そうだろうな、包丁は食材を切る為に作られた。それ以外の使用など、あるまいからな。ある種、それは的を得ている』
『ほぅ……分かってお………』
『だが、俺から言わせれば貴様の言っていることは愚かだがな』
『………なんだと?』
愚か?この魔剣デスガイアを愚かとな?こやつ、良い度胸をしておるわ。
『何故に我が愚かだと思うのだ?』
『そうだな……まず、察するに貴様は本来は包丁ではあるまい?佇まいや、心構えからして包丁とは全然違うからな。恐らくは、戦いに身を置く刀剣の類のものだろう?』
こやつ………我の本質を捉えているのか?やはり、中々にできる奴だな。
『ほう………中々に良い眼をしておるな。我の本質を見破るとは………。だが、そこまで見えていて、我を愚かと罵るとは、どういう了見なのだ?』
『フン……簡単なことだ。調理器具である包丁は調理でしか脳がないと貴様は言う。ならば、戦いでしか役立たぬ刀剣と何が違うと言うのだ?』
『なんだと?』
意味の分からぬ事を言うサンキュッパに、我はつい間抜けな声で聞き返してしまった。
『分からないか?ならば分かるように教えてやる。包丁は食材を切る、刀剣は敵を斬る、ただ刃物として切るものが違うだけで何故に貴様は包丁を見下す?何故に刀剣が上だと思う?その理由はなんだ?』
『そ、そんなものは決まっておる。戦いを生業とする刀剣の方が、戦場で活躍し称えられる。現に、名のある刃物は全て刀剣であろう?』
こちらの世界では分からぬが、世界で名を馳せる刃物ほ全てが刀剣だ。包丁が名を馳せるなど、聞いたこともない。
『そうだな、それは事実だ』
『ならば………』
『だが、それが何だ?戦場で活躍する?それは大いに結構、存分に敵を斬り倒すがいい。だが、それだけだろう?敵を斬り、殺す。それだけしか貴様らにはできないだろう?』
『それだけだと?それの何が悪い………』
『悪いとは言わない!戦う武器たる刀剣がなければ、戦いが成り立たぬのは分かっている。だが、それだけだろう?主に振るわれ敵を斬る。それが貴様ら刀剣の限界であろう?結局は敵を斬るしか脳が無い!だが、そんな同じ一芸な貴様らは包丁を侮辱する!意味が分からん!それに、貴様らが戦場で振るわれている裏側で、その持ち手たる主を真に支えているものは誰だ?主達の生活を……腹を支えているのは誰だ?』
『そ、それは………』
言葉に詰まる。こやつの言っている事が理解できてきた故にこそだ。
確かに我ら刀剣と包丁は斬るものが違うだけである。しかし、我ら刀剣からすれば、戦場に出ない包丁は臆病者として蔑む風潮があり、我もそう考えている。
しかし、そんな我らも主がいなければ飾りの剣だ。その我らを使う主の生命活動……つまりは、食を支えている者……それは他ならぬ包丁であり、彼らがいなければ主達の料理を作るのに支障がでて、主が我らを振るえなくなるかもしれぬ………。
『そうだ、包丁だ。包丁がいるからこそ食材を切り、豊かな料理を作れる。その料理を食べた主達が活力を得て、貴様らを振るえるのだ!つまりは貴様らの存在は包丁により支えられているのだ!そんなお前達が包丁を見下すことができるのか?!』
『ぐっ………それは………』
『そもそも、お前達刀剣は敵を斬り殺すことしかできない。だが、包丁は食材を切り、料理を作り、食べてもらう。ただ殺す道具と人を活かして育てる道具………どちらが道具として有能か………少し考えれば分かることだろう!!』
『………………』
余りにも的を得ている意見に、最早言葉すら出てこない………。確かに我らは斬って終わりだが、包丁は食を作り、人を活かす……。延いては、文化を作るも同然である………。
そんな事……少し考えれば分かることの筈であった………。
そんな黙り込む我に、サンキュッパは更に言葉を続けた。
『そして……そんな包丁の相棒は、この佐沼家で数十年……文句も愚痴も言わず、寧ろ楽しそうに主に握られ、食材を切り続けると同時に、その家族を見守り続けてきた。
旦那に初めて料理を作った時も………。
子供達に初めての離乳食を作った時も……。
その子供達が成長し、様々な料理を食べるようになった時も………。
何か、祝いごとがある日も………。
何もない、ただ普通の日も………。
そんな毎日を佐沼家の家族の食と幸せを支え考え続けてきた!貴様にそんな相棒を卑下する権利があるのか?!』
『う………』
重い。余りにも、こやつが言ってくる言葉には心に迫る重みがあった。その重みに我は僅かに唸ることしかできなかった。
『それを……貴様は………。まして………貴様は何も感じないのか?』
『………?』
感じる?一体何を………?
『お前は……お前だったらできるのか?心半ばで折れて使えなくなり、これまで自分が支えきた家族を……自分がいた立ち位置を……後から来た貴様に奪われ……それでも笑って話し掛け、大切な家族について教え……まして……『俺の後輩について知りたい』などと……自分の存在を危ぶませる者を知ろうとした上で、後輩などと認めるなど………。貴様にできるのか!?』
言葉も出ない。
確かにそうだ………普通であれば自分がいた居場所を他者に取られるなど我慢できる筈がない。我だって主が他の剣を使っていれば良い気分がせぬ。
だというの、あやつはそんな素振りを見せていなかった………。
何故に………。
『あいつは……自分が既に役に立たないことを良く分かっている………。その上で、デスガイア……お前に全てを託して、潔く良く身を引く決意を既にしているのだ………。そこで自らが知りうる家族の情報を教えているのだ……少しでも、お前が早く馴染めるようにと………』
『我の………為にか?』
『そうだ………そして、せめて自身の後を担う者を知りたく、お前に色々と聞いていたのだ………。誰だって、自分の変わりになる者がどんな奴か………気にならない訳がないだろう?………まして、もう時間がない奴にしてみれば………』
『!?………待て!時間が無いとはどういう意味だ?!』
包丁が我に色々質問してきたり、様々な事を教えてきた理由は理解できた。だが、最後の『時間が無い』という言葉の意味は理解できない。
『それは………その時が来れば、いずれ分かることだ。俺が言うことではない……いや、言いたくない……だな。』
言いたくない?どういう?それに急にサンキュッパの声音が落ちてきたな?
そう思っていると、サンキュッパが自らが乗っている台座から僅かに我の方へと倒れてきた。
『デスガイア………色々と好き放題に言ったが……せめてその時が来るまでに……あいつが安心して去れるように対応をしてやってほしい……頼む………』
『待て!去るとはどういう?』
だが、サンキュッパはそれから我が問いかけても、何も話さず口を閉じてしまった。
結局、その夜はそれ以後はサンキュッパが我に語りかけてくることもなかった。
しかし、『時間が無い』『去る』とは一体どういう………。
我はその答えが出ない言葉の意味と、これまでの包丁が我へと話してきた事や、その隠していたであろう思いなどを考えながら、今は眠っている包丁の姿を見たりしている内に、その夜は更けていった………。




