74話 魔剣デスガイア 『目覚めの巻』
スマホの不調により、更新が遅れてしまいました。遅くなり大変にすいませんでした。
「あらあら?困ったわねぇ?」
その日の夕方。
流しで夕飯の準備に取り掛かっていた秋子は、目の前の状況をどうすべきかと困っていた。
言葉のニュアンスや、普段通りの声音から、あまり困っているようには見えないが、内心は焦っていた。
「まさか、こんな風になるなとは思わなかったわぁ。どうしましょう?」
秋子は手に持ったソレを眺めながら、どうすべきかと考える。
これの予備があれば良いのだが、生憎と長年に渡って今ある物のみを愛用していたので他は無い。似たような物はいくつかあるが、それらは用途が違う為に、普通に使うのが困難な為に却下。
新しいものを買う……それは可能だが、今から買いに行って、間に合わせで適当な物を買うのは、秋子のプライドが許さなかった。買うならば、厳選した手に合ったものを買いたい。しかし、そんな事をすれば時間が掛かり夕飯が遅くなる。
しかし、これがなければ夕飯の準備が困難になるのも事実………。
どうすべきか………。
「ママー!ただいま!今日もご飯食べに来たよ!!」
「義母上よ。今宵も世話になりにきた。存分にもてなすがよいぞ」
そんな悩んでいる秋子の耳に、娘とその旦那となる男の夕飯を求める声が聞こえてきた。
◇◇◇◇
フン……今日も現れぬか………。
ワシは変わらぬ景色を眺めつつ、溜息を吐く。というても、我には景色を視る目も、息を吐く口もないのだがな。
何故か?それはワシが剣だからだ。
剣に目も鼻もあるわけがないだろう?
ただし、ただの剣ではない。
膨大な魔力を持ち、我という自我を持ち、絶大なる破壊力を持つ剣。
我が名はデスガイア。魔剣デスガイア也。
かつては初代魔王と共に、世界中を荒らし回り、あらゆる伝説を築いてきた最強の魔剣である。
我を一振りすれば、大地を割り、海を裂き、天を突く。頑強を誇るドラゴンの鱗でさえも、紙の如く切り裂き、その肉も一刀両断し、刃溢れすらしない。
その正反対に、軟質なスライムや、精霊などの形無きものも、楽々と切り裂くことが可能だ。
どんな硬質な物も軟質な物も斬れる我が斬れ味は、我の魔剣としての最大の自慢だ。
更には、我が剣で斬ったものを吸収して能力を得たり、持ち主の身体能力や治癒力を上げたり等、他にも様々な特殊な能力を有している。
自分で語るのは何だが、我以上の最強の剣など存在せぬと思う。
そんな最強な剣たる我は、現在は魔王が代々継承する異次元収納型の古代魔導具『大宝物庫』内にて保管され、次なる主と出会う日の目覚めを待っている。
魔王が持っているのに、出会いを待つのはおかしいのではと思うだろうが、今の魔王はあくまで我を所有しているだけであり、我の主ではない。
我は我が認めた者にしか主と認めぬ。
それが例え魔王であろうと、我の目に叶わないならば、我は一切其奴を主とはせぬ!
おっと?目は無かったのだったな。クハハハハハ!まぁ、我にも分からぬ理屈で周りの景色は見えているのだがな。
まぁ、それは置いておき、時折力を貸さずとも、無理矢理我を振り回そうとする者もいるが、力を発揮せぬ我は、そこらのなまくらより斬れなくなるから、まるで意味をなさなくなるのだ。
そうして我は、この殺風景な保管庫にて次なる主を待っているのだ。
しかし、最近……いや、初代以降からの全て者達はハズレばかりであるな………。我を持とうとする以上、並の魔族よりは力も魔力もある者達が多いのだが、今一つ格というか覇気というか……何かが足りないのだ………。
それは歴代魔王すらも然り。
今代の魔王も、歴代の魔王の中でも中々に魔力は高いし、力も知力も高いので悪くはないのだが、やはり我を持つには何か格が僅かばかり足りていない。
全く嘆かわしい。
だが、一度だけ我が持つに相応しき気配を感じたことがある。それも、つい最近だ。忘れせぬ………といより、絶対に忘れぬ。
つい最近といっても、昨日今日とかという話ではなく、何十年か前ではあるがな。
あれは……現魔王が王位を継ぐ前……先代魔王の時代……。先代が何かしらの理由で我を取りだした時だ。勿論、先代も我を使えぬのだが、持つくらいはできるので、今は飾り気の無い普通の剣の見た目の我を取り出し掲げていた。
それで、辺りを見れば、魔王が掲げた我の前には四人の者達が並んでいた。そして、1人1人が尋常ならざる魔力を感じた。
恐らくは、その者らは前任の四天王達であったのであろう。その中の1人は、今代の魔王であったからな。
まぁ、その時点で察しはついたが、大方は我を扱えるかを試したのだろうな。我という魔剣を、いつまでも腐らせておく訳にもいかぬと、時折そうやって力ある者1人1人に持たせて試すのだ。
その時は『またか』と思い、期待も大してせずにいたのだが、その内の1人から魔王以上の膨大な魔力を感じた。しかも、明らかに有象無象とはかけ離れた凄まじい覇気のようなものを感じた。
それに見た目にも、我を持つに相応しかった。
こやつだ!こやつこそ、我の新たな主に相応しい!そう歓喜に内震えてた。
そして我は、其奴が我を手にした瞬間に、この数百年の間に考えていた『新・魔剣主選定合格演出』の発動準備をした。
『新・魔剣主選定合格演出』とは、我を持つに相応しき者が我を持った瞬間、凄まじい威圧感を放ち、同時に光と音とスモークによる演出をする。そして、そのスモークが晴れた瞬間に、今は平々凡々な剣の姿の我が『我が体を主が扱いやすい剣の形に変える』能力…というより仕様を発動させ、その手に神々しい姿を顕現するというものだ。
この数百年……あまりにも暇すぎて、そのような事しか考える楽しみがなかったのだ…。
下手に自我があるというのも、考えものだ。
そんな訳で、我は其奴が我を手にする瞬間を今か今と待ち焦がれた。
端の方にいる者から我を持っていく。我が待ち望む者はその反対の端……つまりは最後。
最高のシュチエーションじゃないか!
我が演出に驚くであろうか?喜ぶであろうか?一番は、泣いて歓喜してくれるのが我のツボだがな。逆に、無反応は止めて欲しい。
やられたら本気で泣くかもしれん。
それに、我の形状はどうなるだろうか?先代は大剣であったが、今回はどうなるであろうか?この、持ち主に相応しき姿になる仕様は、我の製作者たる者が付けた仕様であり、一種の呪いのようなもの故に、我にもどうなるか分からんのだ。
我としては刀とか突剣のようなスマートな形が良いのだが、破壊剣のようなゴツイのも捨てがたい……。
そんな色んな夢想をしながら、我は其奴が我を持つ瞬間を待った。
早く……早く……。
そして、次に其奴に順番が回り、いざ我に手を掛けるのかと思った瞬間………。
「要らぬ」
其奴は一言だけそう言うと、何故か我を手にすることもなく立ち去っていった。
暫し、呆然としていた我と魔王や他のメンツであったが、直ぐに我は我を取り戻し、心の中で叫んだ。
『ちょっと待て!待てってば!!少し、少しだけでも持って!ほら、少しだけでも!今日という日の為に、色々と考えていたんだから!ほら、少し!さきっぽだけでいいから?だから、カムバッァァァァァァク!!』
声にはならないが、魂の慟哭を叫んだ。
魔王も、去り行く其奴の名を呼んだ。
しかし……彼は帰ってこなかった。
その夜……我は泣いた。
実際は目が無いから心で泣いた。
この数百年、考えに考えたシュチエーションの中でも、これはあまりに想定外すぎた。
酷い……酷すぎる……伝説の魔剣を『要らぬ』とは……一体我を、何だと思っているんだ………。
許さぬ……許さぬぞ!!あやつめが!絶対に許さぬぞ!名は確か……魔王が叫んでいたが、バルハルト=アッシュ……駄目だ、後半が出てこないが………まぁ。いいだろ。
そんな屈辱と怒りを何度も反芻しながら、最後には『次に我を欲しいと来ても、絶対に認めてやらないからね!』と、決断をし、バルハルトが泣いて詫びを入れにくることを妄想することで、自分を落ち着かせることができた。
だが、そろそろその妄想も限界が近い。
あらゆるシュチエーションを考え過ぎて、逆に飽きてきた………。
もう、バルハルトが我の脳内でトリプルアクセルからのジャンピング土下座を100万回決めた辺りで、流石に飽きが頂点に達してきた………。
だというのにバルハルトは姿を現さぬし、我の新たな主も現れぬ。
ハァ……どちらでも良いから、早く現れぬものかな。このままでは、暇と寂しさで孤独死してしまいそうだ………。
まぁ、死なんがな………って、んっ?何やら宝物庫内の空間がざわめきだしたな?これは……魔王が宝物庫の門を開けようとしているのか?金貨でも取り出すつもりかの?
この宝物庫には、我以外にも様々な財宝や魔剣の類いなどが数多くある。故に、大概の宝物庫が開くのは、その財宝等を取り出す時であり、我のような特殊な魔剣を取り出す時はあまり無い。
さて……今回は何を………。
『刀剣の類よ。我が命に応じ集結せよ』
なんだと?
我の驚愕を余所に、宝物庫に光る穴……『門』が開き、我の体は重力に引かれるようにその門へと向かい引っ張られる。
この宝物庫は、手にしたい物を念じることで、自動的にその物や、それに類するものが魔王の手に渡るようになっている。その力が今発動し、『刀剣の類』という括り故に、我も含まれ引っ張られたのだ。
しかし、刀剣の類だと?なんだ戦争でも始まるというのか?
そんな疑問を感じながらも、我の体は穴へと引き込まれていく。
そして穴に段々と近づいていった瞬間に、それをを感じた。
穴の先……向こう側から感じられる尋常ならざるプレッシャー………そして、凄まじいまでの覇気。
こ、これは何だ!?魔王?いや、現魔王の覇気ではない!別人の誰かだ!な、ならば誰なんだ?いや……そんな事はどうでも良い!
今重要なのは、この者は我を持つに相応しき者……我が主になり得る者だ!
そんな存在が外にいる!!これは歓喜せずにはおれぬ!!
そうか!!我を持つに相応しき者が現れた故の呼び出しか!!
何故に他の刀剣類まで呼ばれているかは分からぬが、そんな事を考えている場合ではない!!もう、バルハルトの事もどうでも良い!!
今は、この新たな出会いに対する喜びと、長年温めてきた『第二次新・魔剣主選定合格演出』を発動する時である!!
待っているが良い、我が新たな主よ!!今、この魔剣デスガイアが参るぞ!!
我は喜び勇みながら、宝物庫の入り口たる門へと吸い込まれていった。
そして、光の門を抜けた先には………。
「義母上よ……これはどうか?」
「うーん……刃渡りが長すぎるし……何より手元の竜?の装飾が邪魔で仕方ないわねぇ?なんの為に付いてるのかしら?」
「………一応それは、かつての魔族の名工バル=ソロニアの作なのだが………」
「ママこっちは?これなら使い易いんじゃないの?」
「それねぇ……長さはいいけど、何か変なドロドロしたものが付いていて気持ち悪いわねぇ」
「あっ!ほんとだ!バッチイ!!」
「レイカ……それも、魔族の名工であり、大魔術師として有名なエフェル=ロマンの毒魔術付与の一品なんだが………」
「毒って……そんなもん出さないでよ!」
「どぐわぁ?!レ、レイカ!そんな物を投げるな!」
「でも、毒が付いてたら使えないわねぇ。食中毒になっちゃうわぁ」
「いや……そんな問題でなないと思うが?」
そんなやり取りをする現魔王と若い女。そして、尋常ならざるプレッシャーを放つ、妙齢の女がそこにはいた。
えっ?何これ?
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