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閑話 リリの学校生活 その1

ご意見・ご感想をお待ちしております。

「リリちゃん!一緒に帰ろう?」


  放課後となり、ランドセルという背負うタイプの鞄を背負って、これから家路に着こうとした所を、1人の女子にそう声を掛けられた。


  髪の毛をツインテールにし、若干タレ目でどこか気の抜けたような、天然そうな顔の女の子だ。


「また、また君か………」


「ねぇ、一緒に行こう?」


  僕は、またこいつかと内心呆れながら、ため息が出てくる。


「はぁ、えっとえっと……フユミちゃん……ぼくは1人で帰りたいんだよ。だから別の子と帰りなよ」


  かろうじて覚えていたその女子の名を呼びながら、ハッキリとした断りを入れる。


  正直、あまりクラスメイトとやらとは関わりたくないというのが本音だ。


  魔王さまとのいざこざの後、ママの計らいによって、異世界(こちら)でママとパパの元で暮らすこととなり、それに合わせてこの学校とやらに通うこととなった。そして、私は暫くしてからレイカ様も通っていたという小学校の三年として入学することとなった。


  最初は学業を学ぶ場と聞いて僕の探究心が疼いたし、レイカ様の強さの秘密に迫れるかもしれないと思ったんだけど、いざ来てみれば低能な餓鬼共の集まる、程度の低い教育の場所であった。


  やれ算数だの国語だのと……要点さえ掴めば後はどうとでもなるような低能な教育しかやっていないのだ。


  そんな低能な教育にも関わらず、他のクラスメイトは頭を悩ませ、テストという知力を測る審査では、半分も解けない奴らばかりなのだ。


  悪い奴は、一問も解けず、0点という最低評価の赤い丸をもらっているのだ。


  私は勿論ほぼ100点満点だ。


  最初の頃は、国語につまずいたが………。


  そんな訳で、進んでそんな低能な奴らに関わる気にはなれないのだ。


  そもそも、ママやパパからのお願いじゃなければ、こんな学校なんかには来たくもない。よっぽど、家で研究に没頭する方が建設的である。


  そして、そんな僕の思いや態度が伝わっているのか、他のクラスメイトも僕を敬遠しており、率先して関わろうとはしないし、明らかな陰口などを叩かれる。


  というより、最初に転入した時から、僕の白い髪や肌等の見た目が他の人間と違っている為か、異物でも見るような嫌悪の眼差しで僕を見ていたからね。


  全く………人間なんて何処の世界でも変わらないもんだよ。


  自分達と見た目や考えが違うものは排斥しようとする………本当に度しがたい生物だよ。


  全員僕の死体人形(おともだち)にしてやろうか?


  おっといけない。パパに学校で魔法や人殺しはしちゃいけないって言われてたんだっけ?あやうく殺っちゃうところだった。


  魔法が使えないのは不便だけど、約束だから仕方がないな。


  まぁ、そんな訳で、僕に話し掛けてくるのは学校の連絡で仕方なくか、下らない嫌がらせの時くらいなのだが、中には例外もいる。

 

  それが目の前の少女、シライ フユミだ。


  このフユミに限っては、転入した時からやたらと僕に関わろうとしてくるのだ。


  やれ友達になろうとか、やれ一緒の班になろうとか、やれ一緒に遊ぼうとか………。


  とにかく、僕の心の壁を破ってこようとするのだ。


  そして今日も、こうやって一緒に下校しようと誘ってくるのだ。


  本当に迷惑な話だ。


  僕は人間のガキなんかと関わりたくないし、話もしたくない。


  まして、友達なんて真っ平ごめんだ。


  僕の友達になりたいならば、一度死んでから出直してきて欲しい。そうすれば、本当の死体人形(トモダチ)になれるんだけどね。


  そう思い、ジト目で目の前のフユミに不満を込めて睨んだのだが………。


「わぁ!リリちゃん私の名前覚えてくれてたんだ!嬉しいなぁ!」


  だが、そんな僕の考えを他所に、フユミは名前を呼ばれたのが嬉しいらしく、胸の前で両手を組ながら陽気に喜んでいる。


  何故にそんなことで?といより、話を聞いていない。


「いやいや………クラスメイトの名前程度はね………」


「だってリリちゃん、私達にきょーみがないみたいな感じだったんだもん」


  いやいや、現在進行形で興味はないよ?


「まぁ、まぁ……否定はしないよ」


「ぷぅーそこはひてーしてよ!」


  腕をブンブンと回して頬を膨らませるフユミ。


  ウザくってかなわない。


「それで、それで、僕は1人で帰りたいんだよ………」


「えー1人より2人、2人より3人で帰った方が楽しいよ?」


  良いことを言ったとばかりに腰に手を当てながら胸を張ってドヤ顔のフユミ。


  別に良いこと言ってないからね。


  その顔に地獄火球(ヘルズブラスト)をぶち込みたくなるが我慢する。


  パパとママに迷惑はかけられないからね。


「それは、それは人によって違うと思うけど?僕は1人が好きだから、1人で帰りたいんだよ。分かる?」


  暗に関わってくるな、と拒絶の姿勢を見せるも、フユミは不思議そうな顔でこちらを見てくる。


「なんで1人が好きなの?」


  そんなの低能なガキと関わりたくないからだよ。全く……ハッキリと言ってやろうか?


  そもそも、こいつは何で僕に近寄ってくるんだ?仲良くなるようなきっかけは無かった筈だぞ?


「だいたい、だいたい、君は何で僕と関わろうとしてくるんだい?他にも友達がいるんだろう?」


「それは………」


「あー!!冬美がまた『あるびの』と話してるー!気色わりー!白いのがうつるぞー!」


  フユミが何がを言おうとした瞬間、横から無駄にデカイ声で叫んでくる馬鹿がいる。


  なんだ白いのが移るって?僕は粉まみれか何かか?


  そう叫んでいたのは、体が他の奴より一回り大きな小太りの男子。確か……ツヨシとかっていったかな?


  このクラスのガキダイショウとかいう男子の取り纏めのような存在らしい。


  そいつがフユミと僕を指差しながら、取り巻きの連中と一緒に、ダミ声で騒いでいる。


  こいつらの言う『あるびの』……それは僕の見た目から付けられたアダ名とかいう奴だ。


  なんでも、生物の異常個体の1つであり、皮膚の色素が極端に薄くなってしまったもので、肌や毛は白くなり目は赤くなるのが特徴らしい。正に、僕の見た目のままだ。


  ただし、決して良い意味のアダ名などではなく、貧弱そうな見た目を比喩した意味らしい。


  なんでも、アルビノとなった生物は、免疫力や抵抗力が低く、どれも脆弱で短命とのことだ。


  ようするに、僕は馬鹿にされている訳だ。


  まぁ、だからといってガキの戯言だと思い、何とも感じていないが、こう毎日毎日顔を合わせる度に騒いでくるのは煩わしい。


  非常に鬱陶しいし……漆黒滅炎(ダークネスフレイム)をぶち込んでやろうか?


「何よ!私がリリちゃんと話してわるいの!それに、あるびのって言っちゃ駄目なんだよ!」


  ちょっと手の中に漆黒の炎を産み出している途中で、フユミが顔を真っ赤にしながらツヨシへと怒鳴りだした。


  何故にこの娘が怒るのだろうか?彼女には関係ないだろうに?


「なんだお前!剛君に逆らうのかよ!」


  ツヨシの取り巻きの1人……出っ歯で妙に顔がとんがって鼠みたいな顔で、妙に腰が低い奴……確か、え、え、え……えん……なんだっけか?そいつがツヨシの背中に隠れながら喚き立てている。


  僕の世界でもよくいる腰巾着だな。


炎慈江留エンジェル君も、逆らうとか意味分かんないよ!」


「下の名前で呼ぶなぁ!!苗字の亜々アークって呼べよ!!」


  そうだ、そうだ!エンジェルだ!上の名前を含めてアーク・エンジェル。


  完全に名前負けしている奴だ。


  名前は神聖な雰囲気なのに、本人は絵に書いたような鼠顔で三下の残念なエンジェルだ。


  何でも、親が天使のように可愛かったという理由から名付けたらしいが、鼠顔にエンジェルと付けるなど、その親の目は腐っていたに違いない。それに、そんな名は当の本人からすれば酷な話であろう。


「そんなのどうでもいいよ!」


「よくない!よくないんだ!!お、お前なんかにキラキラ名前ネームを付けられた俺の苦労が分かるかぁ!!」


「お、おい!炎慈江留エンジェル落ち着けよ!!」


「うるさぁい!!炎慈江留エンジェルって呼ぶなぁ!!」


  エンジェルが顔を真っ赤にしながら、狂ったように喚き、それをツヨシが宥めようとしているけど火に油を注いでいる。


  なんだこの茶番は?もう無視して帰っていいかな?


「はぁ…はぁ…な、なんだよ冬美。あるびのはあるびのだろ?そいつをあるびのって言って悪いのかよ?あっ?!」


  エンジェルを何とか落ち着かせたツヨシは、少し息を切らせながらも、フユミへと凄んだ顔をしながら迫り出した。


  本人は相手を脅しているつもりなんだろうが、僕から言わせれば子供が精一杯に虚勢を張っているようだ。実際子供だが。


  凄みを見せるなら、せめて圧倒的威圧感オーラを纏うぐらいして欲しいものだ。


  まぁ、子供同士であれば調度良いのかもしれないが。


  しかし、そんなツヨシの凄んだ睨みに、フユミは全く引く様子がない。意外と肝が座っているのかもしれないな。


「悪いに決まってるでしょ!先生も言ってたよ!人のしんたいてきとくちょーをバカにするような言い方は悪いことだって!」


  フユミはツヨシに負けない勢いでそう言い返すと、ツヨシと取り巻きの連中が気圧されたのか、ズイッと半歩下がってしまう。


  女の子相手に気圧されるとは……何とも情けないガキダイショウだ。


「う、うっせーよ!俺は事実を言ってるだけだからな!そいつ肌や髪まで白くて気持ちわりーし、目は真っ赤だし!まんま、理科の教科書に載ってたあるびのじゃねーか!」


「そーだ!そーだ!」


「ツヨシ君の言うとおりだ!」


  またツヨシと取り巻き達がギャーギャーと喚き立て始めた。


  全く……本当にうるさい奴らだ。


  人間は自分達と違う者を排斥したがる習性があるのは知っているが、幼い頃から、こんなにも口うるさいとは思っていなかったな。


  小さい頃からこんなんだったら、それは聖王国のような人種差別万歳の国もできあがるよ。


  人間なんて何処も同じかと考えていると、フユミがでかい声で反論しだした。


「それが駄目だって言ってるの!だいたい肌の色が白いからってなんなの!?そんな理由でリリちゃんが気持ち悪いなんて言われる必要はないでしょ!何でそんなリリちゃんにからむのよ!?」


  ほぅ………このフユミは随分と他の人間と見識が違うようだな。大多数の人間が僕を異物として見る中で、1人だけ僕という存在を受け入れているとは………。


  まぁ、だからと言ってなんだという話なんだけどね。


「こいつ……うるせぇな……!別に誰にからもうとテメェには関係ねぇだろ?俺はこいつが気に食わねえんだよ!気色悪い外見も、すかした態度もよぅ!」


「なによそれ?!意味分かんない!そんな理由でリリちゃんを苛めないでよ!だったら剛君も気色悪いわよ!その太った体とか短い足とか!」


「て、てめぇ!?」


  フユミに指摘された事は、彼も相当に気にしていたんだろう。顔を真っ赤にしながら、今にも殴りかからんばかりの剣幕でフユミを睨んでいる。


「なによ?やるの?」


  フユミもフユミで、ファイティングポーズをとって拳を構えている。


  まさかここで喧嘩を始めるつもりか?


  そう思った瞬間………。


「二人共やめなさい!!」


  そう叫びながら、1人の女子がツヨシとフユミの間に割って入ってきた。


「あっ、委員長」


「な、なんだ!止めるなよ久留美!!」


  間に入ってきた女の子に、二人は一緒唖然としていたが、直ぐに気を持ち直すと、それぞれの反応を見せた。


  二人の間に入った女の子……このクラスでガッキュウイインチョウなる役職について皆を纏めるクルミという奴だ。


  長い黒髪に、勝ち気な目が特徴の奴で、実際に男勝りな性格をしていて、ツヨシが頭の上がらない数少ない人間だ。


  そんなクルミは、鋭い目付きで二人をジロリと見た後、キッとツヨシを睨み付けた。


  その鋭い視線に、ツヨシがたじろぐ。


「うるさい!喧嘩なんてやらせる訳にいかないでしょう!!この委員長たる私の目の黒いうちは、そんな野蛮な事はさせないわよ!」


  クルミはビシッとツヨシを指差しながら、そう宣言する。


「な、う、うっせーな!べ……」


「『別に関係無いだろ?』なんて言わせないわよ!関係大有りよ!だって私は委員長なんだから!貴方達クラスメイトのいざこざを解決するのも私の役目よ!」

 

  腰に手を当てながらそう宣言するイインチョウの姿に、また面倒なのが来たと肩を落としてしまう。


  このイインチョウ……責任感が非常に強く、クラスのいざこざには何でも顔を出して解決しようとするのだが、逆に騒ぎを大きくするのが常なのだ。

 

  なので僕としては最も関わりたくない人間なのだがな………。


「大体さっきから見てれば、リリさんに失礼なことばかり言って……。そんなに弱い者を苛めて楽しいの?!幼なじみとして恥ずかしいわよ!リリさんに誤りなさい!」


  うーん……僕、弱く見られているのか?


  本気出せば、この辺り一帯を焦土にできるんだけどな。


「そうだ、そうだ!委員長の言うとおりよ!恥ずかしいよ剛君!リリちゃんに謝って!」


  委員長の言葉に、フユミが便乗しはじめた。


「う、うっせーな!女のクセに生意気だぞ!ぶん殴るぞ!!」


「そんな女性に対する差別的な発言も見逃せないわよ!」


「そうだ差別だー!」


「テ、テメーら!剛君に対してなんて……」


炎慈江留エンジェルは黙ってて!」


「そーよ!炎慈江留エンジェルは下がっててよ!」


「本名はやめろぉー!!!」


  やいのやいのと皆が騒ぎ出す。


  あー………面倒臭い。何で人間って、どうでもいいような事で揉めるかな?


  これ……もう放っておいていいよね……。


  僕は自分のランドセルを背負うと、教室の出口に向けて歩きだした。


  もう、いちいち付き合っていられないよ。


「だから!早くリリちゃんに………ってリリちゃん!どこに行くの!」


「どこって、どこって帰るんだよ?それじゃあね」


  背後からフユミが呼び掛けてきたが、振り向く必要も感じなかったので、そのまま返事を返してやる。


「ちょ、リリさん待ちなさい!まだ、剛君に謝らせてないわよ!」


「リリちゃん待ってよー!一緒に帰ろうよ!最近、この辺には変質者も出るらしいから、1人は危ないよー!」


「いらない、いらない。じゃーね」


  そう言って扉を開けると、僕はそのまま廊下を小走りで進んで、家路を急いだ。









「行っちゃった………」


「何よあの娘!?」


「やっぱ気に食わねえ……すかしやがって」


炎慈江留エンジェルって言うな……」


  リリの去った教室では言い争っていた皆が、リリが去った教室の扉を見ながら、それぞれの思いを口にしていた。





 ◇◇◇◇



「ただいま、ただいま!」


「おかえり・なさい・マセ」


  此方の世界に住んでる家……パパ達の家の玄関の扉を開くと、そこには僕の従者のエル=ムーが、手首から先を長い管のようなものに変形させ、ズズズッと耳障りな音をさせながら何かをやっていた。


  あれは……エル=ムーを修理する際に、足りなかった部品の変わりに、壊れたカデンなる機械の部品を、ママに貰って使った物の1つだな。


  確か、ダイスンノソージキ。


  力強い吸引力で、ゴミを吸いとる機械だ。


  という事は、ママの手伝いで掃除をしていたのか?


  エル=ムーは、修理が終わってからは家事ばかりやってるなぁ……。最近では、ご近所付き合いまでやっているみたいだし………。


  本来の戦闘用の影が薄くなってるような気もするが……まぁ、ママの手伝いなら仕方ないね。


「ただいま、ただいま。ママは奥?」


  そう聞くと、エル=ムーは腕のソージキを停止させ、僕へと向き直った。


「イエ・ただいま・サー=マム・は・買い物・に・出て・おり・マス・何か・御用・で?」


「ううん、ううん。ただ、迎えの挨拶が聞こえなかったから、あれっ?って思っただけ」

 

  いつもだったら、二階の奥にいようと『おかえり』と言ってくるからね。ママは一体どんな聴力をしてるんだろ?


「そう・ですか・では・マスター・サー=マム・より・言伝てが・あり・マス」


「んっ?んっ?なんだい?」


  そう聞くと、エル=ムーの顔が一瞬虚ろになったかと思えば、急に普段の彼女からは考えられないようなニッコリした微笑みの表情へと変化した。


「『あらあら?それじゃあエルちゃん、リリちゃんに伝言をお願いね?私は買い物に行ってるから、おやつはテーブルの上にあるから好きに食べるように。あっ、その前にはうがいと手洗いはしっかりさせてね?後は……それくらいかしら?それじゃあお願いね?』以上・です」


  ママの声で喋りだしたエル=ムーは、一通りの伝言を伝え終わると、瞬時に普段の無表情へと戻った。


  これは、彼女に搭載してる模倣機能で、録音したママの声で喋り、その時の動作や表情を忠実に再現しているのだが、正直ここまでの機能はいらなかったなと後悔する、


  この無表情な彼女が、突然笑いながら喋りだすのは結構な驚きと恐怖だ。


「うんうん分かったよ。それじゃあ、手を洗ってくるよ」


「承知・しま・シタ」


  そう返事をすると、彼女は再び掃除の任務へと戻った。


  さてさて、早く手を洗っておやつとしようかな。向こうの世界にいた時は、食に関してこだわりはなかったけど、異世界こちらに木寺からは美味しいものが一杯で、すっかり食べる事が好きになってしまった。


  特に、ママの作るおやつは絶品だからね。


  さてさて、今日は何かな?クッキー?ドーナツ?それともケーキかな?


  手を洗い終えて、ウキウキ気分でリビングへと向かうと………。


『ほう。帰ったか小童子こわっぱ


「ガ、ガシャコック様!」


  リビングの入り口で、黒いローブを纏った人骨……ガシャコック=ハーデス様とばったり会ってしまった。


  今の僕の左目は鑑定眼のままになっている。その為、普段は不可視の恐ろしいガシャコック様達を見ることができる。


  なんで恐ろしいのに鑑定眼をつけているかといえば、こんな強大な存在が見えずに近くにいた方が、もっと恐ろしいからだ。


『ばったり会ってしまった?恐ろしい?小童子こわっぱよ随分な態度だな?』


「す、すみません!つ、つい!」


  いけない!ガシャコック様は心の中を読めるのを失念してた!ただでさえ、最近になって魔眼でパパを支配しようとしていたのを許してもらえたというのに!こんな事でガシャコック様の御気分を崩したくないぞ!


  内心焦りながら、ガクガクと膝を震わせてガシャコック様を見上げると、ガシャコック様はフッと嘲笑を漏らして僕を見下ろしてきた。


『まぁ、良い。余はそんな些末なことで気分を害する程に器は小さくないわ。それに、貴様に手を出せばケンゾウが何をしてくるか分からんからな………』


「は、はぁ……ありがとう、ありがとうございます………」


  ガシャコック様が契約とともに加護を与えている存在……パパにはガシャコック様も僕の件があってからは中々頭が上がらなくなったらしい。


  流石はパパだ。


『フム……また妙な事を考えおって……。まぁ、良い。そんな貴様の不敬な態度も、既に得た供物に免じて許してやろう。では……余は至高なる狩猟の巡礼に参ってくる』


「く、供物?えっと……なんのこと……」


  ガシャコック様の言葉の意味が分からず困惑して見上げていたが、ガシャコックは最早僕には用がないとばかりに、一瞥もせずに玄関へと向かっていった。そこには、いつの間にか同じような存在たる銀髪の美女……ウカタノミコト様がいて、二人で黒い板……スマホを持って何かをやっている。


『クックックッ……』


『なんだ女狐?気持ちの悪い笑いをしおってからに?』


『いやはやすまんのぅ、死の者よ。つい浮かれてしもうたわ。なにせ、ついにガリューラを手に入れて嬉しくてのう』


『なっ?!ば、馬鹿を申すな!そのような稀少なるものが何処にいたというのだ!?』


『クックックッ……偶々駅前で散歩をしておったら見つけてのぅ。何とか捕獲できたんじゃよ。ほれ、余りの嬉しさに、写し絵まで撮ってしもうたわ』


『なっ?!ほ、本物のガリューラだと?!お、おのれぇ……余より先に捕獲するとは……駅前と申したな!行って参るぞ!』


『クックックッ行ってくるがよい。その隙に、貴様が後生大事にしておる事務を攻めてくれるわ』


『き、貴様ぁぁぁぁぁ?!』




  ……本当に何の話なんだろろ?


  まぁ、あの方々のことだがら、僕の想像できないような事をしているんだろうな。


  さて、それよりも……おやつ、おやつと。


  頭を切り替えて、おやつのあるリビングのテーブルへと向かうと、そこには………。





  大皿のど真ん中に、申し訳程度にクッキーが1枚だけポツン残った、僕のおやつらしき残骸があった。


「えっ?えっ?これだけ………って、あっ!供物って?!まさか?!」


  そこで僕は思い至る。


 ガシャコック様の言っていた『供物』という言葉。


「ガッツリやられたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


  そう、ガシャコック様にガッツリおやつをつまみ食いされていた。確かに、ガシャコック様もママの作るおやつ……特に焼き菓子系が好きだからな………。


  こうして僕は、泣く泣く残ったクッキー1枚を、寂しく頂くのだった。



 ◇◇◇◇




「母さん……助かったよ誤解を解いてくれて」


  夕御飯の時間、食卓についたパパが随分と疲れた顔でママに礼を述べていた。


  何かあったのかな?


  何だが一気に老けたようだけど?


「あらあら?いいんですよ。そもそも、私がエルちゃんにしっかりと説明しなかったのが悪かったんですから」


「ケンゾウ様・申し訳・あり・マセン」


  ママとエル=ムーまで?


「ねぇ、ねぇ、何かあったの?」


  興味本位でパパにそう聞くと、何だか遠い目をしながら微笑んで『色々だよ。色々』と呟いていた。


  この状態のパパは、本当に心の底から疲れている時なので、あまり深く追求しない方がいいな。後でエル=ムーに聞けばいいし。


「あっ、でも後でリリちゃんに頼みたいことがあるかもしれないから、その時はお願いできるかな?」


「うんうん?頼み事?別にいいよ」


  パパから頼み事なんて珍しいな。まぁ、でもパパの頼みだったら何でも聞くけどね。


  それこそ国の1つや2つ落としていいんだけどね。


「それじゃあその時はお願いするよ。……富田君……覚悟しておけよ………」


  んっ?今パパ何か言ったかな?後半が聞き取れなかったけど?まぁ、いいか。


「それはそうと、リリちゃん学校生活はどうかな?もう友達はできたかい?」


  不意にパパがそう聞いてきて、つい顔をしかめてしまう。


「ううん、ううん。いない……というより必要ないね」


「えっ?必要ない?」


  僕が率直にそう言うと、パパは目を見開いて驚いている。


「うん、うん。皆凄く頭も悪いし、考えも低能だし……あんなのと付き合っても、なんのメリットはないからね」


  事実、あんなガキ達と付き合っても、僕には何の得もないからね。接触は必要最低限にしたいのが本心だ。


  その思いを口にして出すと、パパは何だか難しい顔で僕を見ていた。


「リリちゃん」


  すると、横からママが感情を感じさせない無機質な声で呼んできた。


  あっ、これ不味い時のママの声だ。


  見れば、笑顔だが、目が笑っていないママの姿がそこにはあった。


「えっと、えっと………ママ?」


「リリちゃん……そんな事を言っちゃ駄目よ?」


  優しくも、何処か恐怖感を煽るような声で話してくるママに、体が畏まってしまう。


  見れば、パパも何故か正座をしているし、エル=ムーはママの背後で直立不動だし、ガシャコック様とウカタノミコト様はそそくさと退散している。


  タケシだけが腕を組んでウンウンと唸ってる。こいつはかなりの大物かもしれない。


「あ………ゴメンなさい………」


  直ぐに僕の本能が、下手に反論せずに謝罪せよと叫んでいたので、それに従い素直に謝罪する。


  すると、ママの顔は直ぐにいつもの優しげな雰囲気のものへと戻り、張り詰めた空気も同時に霧散した。


「リリちゃん。リリちゃんは頭が良いから周りが劣って見えるかもしれないけど、だからってそれを態度に出したり自分で壁を作ってはいけないわ」


  ママは真っ直ぐに僕の目を見つめながら、優しく論すように言葉を続ける。


「そんな事をすれば、周りの人達は馬鹿にされてると感じ、あなたから離れて冷たい目で見られる。そして、最終的には孤立してしまうわ。そんなの寂しいじゃない?

  それに、リリちゃんの言う『メリット』で付き合うのは友達じゃなくて、ただの協力関係よ?そんな関係は冷たいし、繋がりは直ぐに切れやすいわ」


  うん……まぁ、確かにそうだし、ママの言うような話は、僕の現状に当てはまる。


「友達っていうのは……一緒に苦楽を分けあえたり、損得なんて考えずに一緒にいて助けてくれる、助けたいと思えるような大切な存在なの。そんな人が隣にいてくれるだけで、世界は違って見えるわよ?」


「世界が………」


「そう、だから、リリちゃんも友達を一杯つくりなさい?そうすれば、味気ない日常が違ってみえるわよ。心配しなくても、リリちゃんがもう少し態度を柔らかして自分から接していけば、直ぐにでも友達が100人はできるわよ?なんたって可愛からね」


  ママはそう言って僕の頭を優しく撫でてくれた。


「偉そうに言っちゃったけど、要はリリちゃんには友達と一杯遊んだり、学んだりして、世界の広さを知って欲しいっていう、私のわがままなんだけどね」


「ママ………」


「さぁ、ご飯をたべちゃいなさい。冷めちゃうわよ?」


  そう言うと、ママは再び食事に戻り、パパは正座を崩して晩酌を再開した。


  世界が……違って見える………か。


  その日の夜は、何故かママのそんな言葉が頭から離れなかった。


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