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68話 変貌せし者

ご意見・ご感想をお待ちしております。

「それで突然だが、義父上と義母上に紹介したい者達がおるのだ」


  ある晩、夕飯を食べにきた麗香と魔王君だが、夕食後に魔王君がそんな事を言ってきた。


「紹介したい者達?なんだい突然だね」


  夕食後の恒例のお茶の時間、私はお茶を啜りながら疑問を口にする。


  別に紹介されるのは構わないが、藪から棒な話だったので、少し心の準備をする意味での質問だ。


「うむ。この前から義父上との面会を頼まれてはいたのだがな、中々に日程が合わなかった故にな……。それで今日はどうだろうかと思ってな……。で、どうであろうか義父上よ?」


  面会を頼まれていた?私に会いたいとは誰であろうか?全く心当たりがない。


  だが、会いたいと言ってる者を断る程に私の器量は小さいつもりはない。だが………。


「会うのは構わない。しかし……それだったら夕食の時に紹介して貰って、一緒に食事でも食べればよかったんじゃないかい?」


  わざわざ食後に紹介しなくとも、食事をしながら紹介してくれれば良かったんじゃなかろうかという私の提案に、魔王君は苦笑いをして答えた。


「いや……急に押し掛けるのも迷惑だと思ったのでな………」


  と、異世界では迷惑の権現たる魔王のセリフとは思えない気の使いように、なんとも言えない気持ちになりつつも、敢えて『気にしなくともいいのに』と気にしない素振りを見せてスルーすることにした。


  じゃなければ、ツッコミだらけの会話になるからな。


「それにな……一名は義父上と顔見知りだから大丈夫だが……。もう一名が…その……食欲を無くすというか、何と言うべきか……。ま、まぁ、有能で良い奴なのだが……う、うむ!会えば分かるか!」


  ………なんだこの不安になる前フリは?1人は顔見知り……魔王君の所で顔見知りなんて数える程しかいないが……まぁ、会えば分かるだろう。しかし、もう1人……食欲を無くす奴ってなんだ?決して紹介の挨拶では使われない単語だろ?後、『良い奴ではある』ってのは大概が信用できないぞ?大体は何らかの癖がある人間に使われる言葉だぞ?


  それに………。


  チラリと横を見ると………。


  魔王君が『食欲がなくなる』って言った瞬間に、リリちゃんとエル=ムー、それに麗香までもが何だか警戒色満々でピクリと反応しだしたぞ………。


「魔王くん……それって、アイツの事だよね?私、聞いてないんだけど?」


  先程まで妻のお手製クッキーを食べて、ご満悦だった様子など嘘のように不機嫌な口調で語る麗香。


「魔王様、魔王様……。アイツだよね?僕もアイツと会うなら事前に心の準備の準備が必要だと思うなぁ………」


  リリちゃんも、眉をひそめながら魔王君を責めるように麗香へと同意する。


  何だ?心の準備の準備って?


「肯定・マスター・及び・レイカ様・に・同意・シマス。アノ方は・些か・刺激が・強すぎ・マス」


  エル=ムーまでもが妻の隣で取り皿にクッキーを分けつつ、そう反論をする。


  おぉ……何だか女性陣の目付きが険しいぞ?それほどにヤバい奴なのか?


「むぅ……ま、まぁ落ち着くのだ。我も皆と同様に、そう思っておるし、レイカに話していなかったのは悪いと思っておる。しかし…あやつに間近で迫られて頼まれる我の身になってみよ………」


  これまで見たことも無いような暗い顔の様子で語る魔王君に、麗香達は………。


「「「それは仕方がない」」」


  と、満場一致で納得した。


  いやちょっと待て!なんでそこで納得するんだ?『間近で迫られる』で納得するってどんな奴なんだ?


「あらあら?何だか面白そうな方のようね?会うのが楽しみだわ」


  妻よ………。ここまでの前フリをされて何故に楽しみと言えるんだ?普通は怖いんじゃないか?


「まぁ、義父上よ。会うだけ会ってやってくれぬか?どうしても部下と同僚が犯した罪について謝罪したいと言っておるのだ」


「んっ、謝罪?何のことだい?」


「うむ……。この間の……そこにいるタケノコのことでだ………」


「ン"ア"?」


  チラリとタケシを一瞥した魔王君に、タケシは『呼んだ?』とばかりに顔を向ける。


  筍の事……つまりはタケシが起こした『筍屋根突破事件』の事を言っているのか?ということは、確かあの筍を送ってきたのは……。


「ハルン君と……イノセリア君の関係者ってことかい?」


  紫スーツの魔人と、虫人間の姿を思い出しながら、最早馴染みつつある2名の名を口にする。


「うむ、その通りだ。1名はハルンの上司である、もう1名はイノセリアの同僚なのだ。この2名がどうしてもハルン達に代わり、直接会って謝罪をしたいと言っておってな………」


「謝罪……ま、まぁ、あれは大変だったけど、そんな気にする必要はないんだぞ?ちゃんと修理費は貰っているんだし……」


  そう、しっかりと魔王君からの謝罪と屋根の修繕費を貰っているので、それほど気にする必要はないだがな………。随分と律儀な上司達のようだ………。


  それでも、何らかの問題があるようだが。

 

「そういえば、その当のハルン君達はどうしたんだい?最近姿が見えないが………」


  あれから彼らの姿を見ないので、そう尋ねると、魔王君はバツが悪そうな顔をしながら頬を指先でポリポリと掻いた。


「あぁ……うむ。あのハルン達だがな……その……暫くは動けないというか、吊る……ゴホン、自由に出来ないのでな」


  今……吊るって言ったか?吊るって?どういう状況なんだ?


  そう考えながら魔王君を見ると、その目線は麗香へと向けられていた。もしやと思って麗香を見ると、スッと目を背けられた。


  麗香……一体彼らに何をしたんだ……。



 ◇◇◇




  その頃のハルン&イノセリア


  魔王城中庭・天空突破竹頂上付近………。


『ピュゥゥゥゥー』


「ハルン……生キテルカ……」


「な、なんとか………」


「耐エロ……後、モウ少シダケ耐エルンダ」


「えぇ…イノセリアも…頑張……て……」


「寝ルナ、ハルン!寝タラ死ヌゾ!ハルン!?」


「大丈夫……私は大丈夫…そう、今行くから……川を渡る?…うん、大丈夫だよ……今行くから………」


「ハルゥゥゥゥゥゥンン!!逝クナァァ!」




 ◇◇◇◇◇




「分かった会おうか………」


  取り敢えず、会いたいと言っている者を無下にもできないしな………。


  まぁ、麗香達は何だか様子がおかしいが、実際に会ってみなければ分からんしな。


「助かる。では、今呼んでまいるので、少し待っていてくれ」


  スッと立ち上がった魔王君は、漆黒のローブを翻して、二階へと上がっていった。


  無駄にこういった仕草は魔王っぽい貫禄があるんだよな………。モノホンの魔王だけど。


「ねぇ、ねぇ………パパ………。本当にアイツに会うの?」


  隣を見ると、リリちゃんと麗香……それにエル=ムーまでもが、何とも言えない顔付きで私を見ていた。


  そんな顔をされる程に問題のある人物なのだろうか?そういえば、どんな人物か聞いていなかったな?


「なんだか皆して、その人物?に警戒感が半端ないが………そんな危険人物なのかい?」


「危険……危険……というか…その……ねぇ?」


  リリちゃんは言いにくそうに半目で麗香へと視線を向けると………。


「うん……その……まぁ、悪い奴ではないし、寧ろ魔王君に対しては忠義を尽くす奴なんだけどね………ただ………」


  麗香までも半目で言いにくそうな顔で口ごもる。忠義心に厚いならば、良い奴なんじゃないか?そう考えていると………。



「濃い・デス」


「………えっ?」


  エル=ムーが、何か妙な事を言ってきた。


「今、なんて?」


「濃い・と・申し・上げ・マシタ」


  聞き間違いじゃないよな?今、『濃い』って言ったよな?なんだ『濃い』って?


「濃いって………一体?」


「えっとね、その……ハルンの上司にあたる奴で……そこにいる、リリと同じ四天王の一角なんだけど………」


「うんうん………正直、一緒にされるのは嫌なんだけどね………」


  四天王の一角?それじゃあ、リリちゃんや、前に会った白ライオンのザイールってのと同じ上位の存在ってことか?てか、リリちゃんが非常に嫌そうな顔をしているな………。


「あらあら?ハルンさんの上司さん?ということは魔王さんの側近みたいな方かしら?それじゃあ将来有望な方じゃないの?」


  やはりずれた意見を述べる我が妻。


  うん。ここは無視しよう。


「簡潔に・述べれば・存在・そのもの・が・濃い・の・デス」


「存在が濃い?」


  淡々と述べてくるが、まだ何とも要領を得ないな………?


「その……済まないが、まだ人物像が浮かんでこないんだが?というか、その人物の名前は何て言うんだい?」


「あぁ……そいつの名前は………」


  麗香が、これから紹介されるであろう人物の名前を言おうとした瞬間………。


  トトトトト………シュタ!!


「ニャハハハハ!!」


  ガバァ!!


「んなっ!何だ!!」


  突然、リビングへと何者かが妙な笑い声と共に飛び込んで来て、私に覆い被さるように抱きついてきた。


「ニャハハハハ!お久しぶりだニャ!」


  久し振り?って誰だ………って顔をペロペロと舐めてきやがった!!


「ちょ?!誰?顔………顔を舐めるな?!」


「ニャハハハ!ペロペロ!どうだ!思いだしたかニャ?」


  思い出したも何も間近で顔を舐められていて誰かも見えない!しかし、声からすれば女の子だろうか?って、女の子が私の顔を舐めているのか!?


  いや、それは不味い……でも悪い気は……って私は何を考えてるんだ?!冷静になるんだ!


  頑張れ佐沼 健三!頑張れ私の理性!!


「いい加減離れなさい!」


「ニャハ!」


  抱きついてくる謎の女を引き剥がすべく、手を前に突き出すが、その前に女が飛ぶように跳ねて、私の手を避けた。


  何とか理性が本能を上回ることができた。


  よくやった私!


  しかし、何て身軽な女なのだ?


  女は私の手を逃れた後、空中をクルクルと回ってからシュタっと床に着地した。


「ニャハハハハ!久々にあったのにつれないニャー!!」


  女は手を床につき前屈みの格好の着地姿勢のまま、心底楽しそうに笑いながら言ってくる。


「さっきから久し振りって……誰なんだ?」


  涎まみれになった顔を袖で拭きながら、改めてその女の姿を視界へと入れた。


  その女は……いや、彼女は、まだ十代後半ともいえる程に、まだ、あどけなさを残す顔付きの小柄で細身な少女であった。


  黒髪のショートヘアに勝ち気そうな吊り上がった目、その瞳は獣のような金色に輝いている。鼻先には横一文字の傷があり、口元からは八重歯が出ていて、更に彼女の獣らしい特徴に拍車を掛けているが、全体的に美少女と言える部類の可愛らしさがあった。何となくだが、麗香に似た雰囲気が感じられる。服装は動きやすさに重点を置いているのか、黒のノースリーブにホットパンツという身軽な格好である。


  だが、何よりの特徴……それは彼女の頭からは黒く尖ったフサフサな物……‥‥そう、黒い猫耳が生えていたのだ。それに加えて肘から上、膝から下もフサフサの黒い獣毛に覆われ、腰の辺りからは長い尻尾がウネウネと動いていた。


  つまり一見すれば人間に見えた少女だが、その猫らしき特徴から、魔王君の関係者だという事が分かった。


  そんな謎の少女は、急に悲しそうな顔になりながら、うるうると潤んだ瞳を向けてきた。


「ニャア……本当にアタイの事……忘れたのかニャア?アタイは一度だって忘れたことはニャいのに……酷いニャ………」


「い、いや……そう言われても全く………」


  こんな特徴的な少女を一度見れば忘れる筈は無い。確かに最近物忘れが激しいが、そこまで耄碌したつもりはない。


  しかし、現に目の前の少女の事を思い出せない………本当に誰だ?


「ニャニャニャ!酷いニャ酷いニャ!アタイを忘れるなんて酷いニャ!!」


  やがて少女は泣きながら、子供のようにジタバタと駄々をこね始めた。


「いや……すまないが本当に覚えが……」


「酷いニャ酷いニャ酷いニャー!!」


  更に泣き喚きながら暴れる猫耳少女。


  まいったな………全く手がつけられん。


  しかし、こんな可愛い少女……見れば忘れる筈………不味い!しまった!!


  こんな少女に………しかも可愛いらしい娘に私は抱きつかれた上に、ペロペロと舐められた!!し、しかも……鬼……じゃない、妻がいる前で?!これはヤバい!!


  そこで甦るは先日のエル=ムー事件の記憶。


  危うく妻に去勢される寸前の恐怖。


  血の気が引いて、高血圧が一気に低血圧になるのを感じながらハッと妻を見ると……。








  何故かニコニコと変わらずにお茶を啜っていた。




「あ……れ?母さん?」


「あらあら?何ですかお父さん?」


  全く怒った様子を見せない妻に、安堵と疑問、そして言い知れぬ不安を感じつつ声を掛けるも、返ってきたのは普通の返事であった。


「あれ?怒って……いないのか?」


「怒る?何でですか?」


  恐る恐ると問いかけるも、不思議そうな顔で逆に問われてしまう始末………。


  一体どうなっているんだ?普段ならば、怒り狂って鬼神状態になった妻に、空中連続コンボを喰らっている筈だが?


「それよりもお父さん……その子を忘れてしまうなんて……酷いですね」


「えっ?ちょっと待て!か、母さんは覚え……いや、彼女を知っているのか?!」


  あたかも泣き喚く猫耳少女のことを知っているかの様子に、つい語気を強くして聞くと、妻は訝しむような顔となった。



  な、なんだ?ちょっと語気を強く言ったから機嫌を悪くしてしまったか?


  そんな風に些かビクつきながら妻の様子を窺っていると、ボソリと呟いてきた。


「………彼女?」


  んっ?なんだ?何故に『彼女』という単語に反応しているんだ?


「お父さん……確かに少し可愛くなったけど……いくらなんでも『彼女』はないんじゃあないんですか?ねぇ?」


  と、意味不明な事を言いながら妻が少女に目を向けると、少女はビクリと反応した後に、寝てる態勢から器用に飛び起きながら、一気に私の背後に回り込み、妻から見えない位置に隠れてしまう。


  な、なんだ?何故にこんな妻に過剰に反応しているんだ?といより、何で私を盾にしているんだ?


「お、お、お久しぶりで、ご、ご、ございましゅニャ……ア、アキコしゃま………」


「はい。お久しぶりですね」


  私の背中にしがみつき、カタカタと震えながら妻へと挨拶をする少女。


  ………この少女。何でこんなに妻を恐れているんだ?妻に何かされたのか?


「あの………君。妻に何かされたのかい?」


  あまりにも気になったので、背中越しに少女へと問いかけてみる。すると、少女は涙目でガタガタと震えながらも、何とか口を開いた。


「ニャ、ニャニって……ア、アキコしゃまにアタイは………ってニャ?!」


  突然に背中が軽くとなると同時に、少女の短い悲鳴が聞こえたので何事かと振り向くと、エル=ムーが片手で少女の首元を摘まんで持ち上げていたのだ。


  正に、猫を摘まんで持ち上げるが如く。


  見た感じ体重40か50はありそうな少女を、華奢な見た目の女性が片手で持ち上げてしまうとは……凄まじい力だ。改めて、彼女が人外の存在だと認識する。


「ニャ!ニャ!ニャ!なんだニャ!エル=ムー!何すんだニャ!!痛いニャ!!」


「何を・するのだ・では・あり・マセン。・ケンゾウ・様・迷惑・デス。・いい・加減・に・離れ・なさい………………














  ………………リカム殿……… 」




「へっ?」


  りかむ?リカム?リカムって………。


  その名を聞いた、瞬間………とある休日の昼下がりの光景が思い出された………。





 ………『失礼!吾が輩は魔王様に仕えし戦士が一人リカム=ミケールと申す者である!此度は奥方様の至急の命により、頼まれし小箱を届けに来たしだいである!此処に奥方様が御父上であるサヌマ=ケンゾウ様はおられるか?』




  ………そう、麗香に頼まれて荷物を届けに来た異形………。



  身長2メートルを越える、あのガチムチマッチョの黒豹人間を………。


 

「………リカム………くん?」



「ニャ!思い出したかニャ!」


  と、花が咲くような笑顔を見せるリカムくん?



  そうか……彼女?彼?はリカム君か!


  そうか、そうか!そりゃあ、顔見知りだな!ハハハ!そうか、そうか………。
















「リカムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?!?!」

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