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61話 聖王国議会1

投稿が遅くなり、すみませんでした。

やっと仕事が落ち着いてきましたので、少しずつ投稿を再開します。

「それでは…‥……ヴィルデハ将軍。報告をお願いします」


  聖皇がそう言うと、一人の男が『はっ!!』と答えながら、勢いよく席から立った。


  白髪の入り交じった髪を短く切り揃え、細身であるがガッシリと鍛えられた肉体をした鋭く青い瞳の壮年の男…‥…聖王国騎士団将軍であるヴィルデハは、聖皇へ一と礼をすると、報告を述べはじめた。

 

「まずは残念な報告からです。先日、我が聖王国の同盟国であり、守護国の1つであった武王国バグラムが、四天王の一角である『死王』の手により…‥……陥落いたしました」


「な、なんと…‥……」


「ば、馬鹿な…‥……」


  ヴィルデハからの報告に、その場にいた者達からどよめきが上がった。


「た、確かなのか?!死王の軍がバグラムへと攻めいったという情報は知っているが…‥……あれから10日も経っておらぬではないか?あのバグラムがそう簡単に陥落するとは‥…」


  坊主頭の紫色の法衣を着た老人が目を見開き、信じられないものでも見たかのようにヴィルデハへと叫んだ。

 

「真ですクルム大司教。私がこの目で確認してまいりました」


「な、なんと…‥……」


  ヴィルデハの真剣な表情の報告に、クルムは肩を落として天を仰いだ。


「報告を続けます。死王軍のバグラムへの侵攻を知った聖皇様の命により、私が聖騎士軍3万を率いて救援に向かいましたが…‥……着いた時には既に死者の都と化しておりました…‥」


  ヴィルデハは、その時の光景を思い出したのか、苦虫を潰したかのような顔となった。


「それへ…‥…そほには死王の…‥……あのリリ=リリメシュリー=リリメームもいはのか?」


  ゾルック大司教が、気の抜けない様子で…‥……しかしながら、気の抜けた声で死王の所在を確認してきた。


「いえ…‥……離れた地より確認した為、死王の、存在は確認出来ませんでしたが…‥……黄金の頭蓋骨の魔族…‥…恐らくは魔界12師団長の一体である『金骨のシャクロ』を、バグラムの城門の上で確認しました」


「金面のシャクロ…‥…かつては英雄だった者の成れの果て…‥……か…‥…やはり12師団長が来ていたか…‥……厄介な…‥……」


  顎に手を当てながら、そう答えたのは腰まで届く長い白髪に、長く白い顎髭をはやした赤い法衣の若々しい雰囲気の老人であった。


「はい…‥…しかし、そこにいたのはシャクロだけではありませんでしたフレイス大司教」


「他にもいたのか?」


  赤い法衣の老人…‥……フレイス大司教から催促されるように聞かれたヴィルデハが、その顔色を暗くしながら報告を続けた。


「はい…‥……バグラムの騎士団長…‥……ガザルド殿が…‥……アンデッド化して、シャクロの側に控えていました…‥……」


「なっ!?」


  この報告を聞いた一同は、一斉に目を見開き、顔色を青くした。


「ガ、ガザルド殿が!?あの爆斧と恐れられるガザルド殿が魔族に堕ちた…‥……と?」

 

  クルム大司教は席から勢いよく立ち上がり、肩を震わせ、口をパクパクしながらヴィルデハへと情報の再確認をしてきた。


「はい…‥…私は一度、演習で彼の御仁と会ったことがありますが…‥……肌が青白く生気の無い目、背から妙な触手のような物が生えている他は、間違いなく当人でした」


  間違いない、との念押しの報告に、クルムは力無く席へと座り込み、両手で頭を抱えだした。


「馬鹿な…‥……バグラムが陥落?ガザルド殿が死んで、アンデッド化した?そんな…‥…こんな無慈悲な…‥……おぉ…‥…神よ…‥……」


  そのままクルムは嗚咽を吐きながら、ブツブツと神へと祈りを上げはじめた。


  その奇行は、会議の場で行うようなことでは無かったが、誰もそれを止めることはなかった。


  それも、その姿が皆の総意であったからだ。


  皆も皆、会議中故に気丈な姿を見せていたが、本当は今すぐにでも神へと祈り、その心を問いたい程の思いに駆られていたのだ。


  それほどまでに、同盟国であるバグラムの陥落と、勇者ではなくとも、名だたる英雄の1人であるガザルドの死と魔族化の報告は、皆の心に衝撃を与えていたのだ。


「その後は、バグラムの生き残りを数百名程発見しましたので保護し、彼の地を危険地域に指定して立ち入りを禁じております。現在は国境付近に兵を派遣し、バグラムからのアンデッド共の侵攻を防いでおります。以上で報告を終わります」


  ヴィルデハは報告を終えると、聖皇へと一礼をして、自身の席へと戻った。


  彼が席に付くと同時に、その報告を目を瞑りながら黙って聞いていた聖皇が、ゆっくりと目を開いた。


「悲しいことです…‥……同盟国のバグラムが陥落したことも…‥……勇敢なる英雄が闇に堕ちたことも…‥……」


  悲しげな様子で語る聖皇の姿に、他の者達も悲哀に満ちた表情で俯き、同盟国の陥落を嘆いた。


「しかし…‥……だからといって、悲しみで足を止める訳にはいきません。我々が止まれば、それだけ民が犠牲となるのです。第2のバグラムを作らぬ為にも、魔族に対する対抗策を考えるのです」


  聖皇はそう言いながら、その場に流れる悲しみの空気を打ち払うかのように、シャリンと錫杖の鈴を鳴らした。


  その聖皇の言葉に、皆が一瞬だけ呆けた表情になったが、直ぐ様に気を引き締め、会議を行う姿勢に戻った。


「それでは報告に戻ります。それでは…‥…次はミャケロ博士」


「はい…‥……」


  聖皇に呼ばれ立ち上がったのは、30代半ばの眼鏡をかけたハゲ頭の、白衣を着た如何にも博士ですといった風貌の男であった。


  彼は、聖王国において右に出る者はいないとされる程の魔導兵器の開発者であり、これまでも数多くの対魔族兵器を作り続けている、聖王国で重宝される、その道のエキスパートであった。


「それでは報告を…‥…と、その前に………先程から気にはなっていたのですが…‥……その姿はどうしたのですか?」


  聖皇は訝しげな顔で、ミャケロの姿を指差した。

 

「あっ…‥……これですか?あの…‥……これは今からご報告することに関係するものでして…‥……はい…‥……」


  そう言いながら、額から流れ出る大量の汗をハンカチで拭う彼の姿は、聖皇が気にする程に悲惨な姿をしていた。


  彼の眼鏡の片側はひび割れ、頭には包帯を巻き、左腕も吊り上げられた、怪我でボロボロな姿だったのだ。


「そう…‥…ですか…‥…確かあなたは…‥……新たな対魔族兵器の製造にあたっていたのですよね?それが何故に、そんな怪我を?もしや、何か事故でも?」


「いえ!あの…‥……その事故と言えば…‥…事故…‥……なのでしょうか?あれは余りも予想外な事でして…‥……」


  何やら要領を得ずに、オドオドとするミャケロを聖皇は真っ直ぐに見つめながら…‥……。


「話しなさい」


  と、早く報告を話すように真顔で催促した。


  催促されたミャケロは、冷や汗を流しながら、そこから自分に…‥自分達に何があったのかを話始めた。


  曰く、彼が率いる研究団は聖王国から西にある悪魔系の魔物が頻繁に出没する平野で、新兵器の実験をしていた。その新兵器とは、対悪魔系を想定した兵器で、希少なホーリー=シード擂り潰し聖水で希釈し、それを特殊な魔術が施された卵程の大きさの容器に入れたものとのことだ。


  使い方は、その容器の魔術回路を作動させてから悪魔の群れに投擲すると、着地と同時に小規模な爆発を起こし、中の液体を霧状にして周囲に噴霧するというものらしい。


「この兵器の実験結果としましては、Cランク以下の悪魔系の魔物には効果は絶大で、実験を行ったEランクのレッサーインブの集落では、そこにいた100体近くを、瞬く間に全滅させました。更にはAランクの魔獣…イビル・タイガーの弱体化にも成功し、少数の騎士で討伐することができました」


  ミャケロ博士は先程までの様子が嘘のように自信満々にニヤニヤと笑いながら、自慢気に自身の造り出した兵器の成果を報告した。

 

  そして、この報告に席に着く一同から『おぉ!』と感嘆の声が上がり、この会議が始まってから初めて笑みを見せる者もいた。


  それほどに、この報告は彼らにとっては吉報であった。


  Aランクの魔物…‥…通常であれば騎士団を派遣し、犠牲を覚悟で挑まなければならない程の強力な魔物を、犠牲無く少数で仕留めることができた…‥…これが事実であれば、この兵器はかなりの有用な物であることになり、今後の魔族への切り札になり得たのだ。


「素晴らしい成果ではないか!」


「あぁ!Aランクの魔物を弱体化…‥…より効果を高めればSランクの魔物を少数で仕留めることも夢ではあるまい!」


「魔族共に目にものを見せてやれるぞ!」


  その報告に一同は沸き立ち、先程までの暗い雰囲気が嘘のように、明るい表情を見せながら、口々に新兵器の有用性を語った。


  ただ一人を除いては…‥……。


「素晴らしい成果を上げたことは嬉しく思いますミャケロ博士」


  これまで黙ってミャケロ博士の話を聞いていた聖皇であったが、静かに口を開き彼の成果を誉める言葉を述べた。


  しかし、その表情は決して喜びを表した顔ではなかった。ただ冷静に無表情な顔でミャケロを見ていた。


  最初は誉めらているものだと思っていたミャケロも、聖皇の冷徹な程の視線の意味に気付き、ニヤニヤ顔から一変し、引きつった笑みの顔へと変貌した。


「あなたの報告が本当ならば、実験は大いに成功でしょう。しかし、貴方が怪我を負う理由にはなりません。という事は…‥……その後に起きたのでしょう?貴方が言う予想外の事態とやらが?」


  全てを見透かしたような聖皇の言葉に、ミャケロは暫く動揺した後に、一言「はい…‥……」と俯きながら答えた。


  この聖皇とミャケロの姿に、先程までは新兵器の成果に盛り上がっていた一同も、不穏な空気を感じ、黙って不安気な様子で二人を見ていた。


「何があったのですか?」


  優しくも、有無を言わせぬ迫力を持つ聖皇からの催促の言葉に、ミャケロは当時の事をポツリポツリと話出した。


「あの日…‥…予想以上の実験結果に満足した私は、直ぐに実験の詳細を纏めるべく、研究班と随行した護衛の騎士団に駐屯していた最寄りの城塞都市への帰還を命じました…‥」


  ミャケロは淡々と当時の事を思いだしながら、その詳細を聖皇へと語り、聖皇も真剣な様子でミャケロの話を聞いていた。


「そして、その帰還途中の開けた森の中で偶然にも見つけてしまったのです…‥……あの魔族を…‥……魔王軍12師団長が一柱である、ハルン=ルーンを…‥……」


  ミャケロの口から出たその名に、その場にいた全員に戦慄が走った。


  ある者は目を見開き、またある者は体を震わせて、反応はそれぞれであるが、誰もが共通して、その者に対する恐怖を明確に表していた。


「ハルン=ルーン…‥…転移魔法の使い手で、どこからともなく突如として現れ、霧か幻の如く姿を消す神出鬼没の魔人…‥……」


  静かに話を聞いていたヴィルデハ将軍が、眉根に皺を寄せ、握り拳に力を入れながらそう呟いた。


「奴の転移魔法の前では城塞を守る壁も兵士も関係がない…‥…転移で城塞の中に直接乗り込み、内部から攻め落としてくる。一体これまでに、いくつの城塞や都市が、奴の手に落ちたことか…‥えぇい名を聞くだけでも忌々しい『凶落の魔人』めが!!」


  以前に、余程の目にあったのか、プレイス大司教も机を叩きながら憎々しげに彼の怨敵たる者の2つ名を叫んだ。

 

「落ち着きなさい御二人共。今はミャケロ博士の話を聞きましょう」


  そんな荒れた様子を見せる二人へと、聖皇からのなだめる声が掛けられると、二人は何とか怒りを抑え、話を聞く姿勢に戻った。


「それではミャケロ博士、話を続けてください」


  聖皇はヴィルデハ達が静かになった事を確認すると、ミャケロへと話を続けるように指示をした。


「は、はい…‥…それでは続けさせて頂きます。そ、それで偶然にも、その森で彼の魔人を発見した我々だったのですが、研究班を主体とした部隊であった為に、あの魔人を相手にするには危険と判断し、直ぐ撤退することにしました。幸いにも、その時は向こうのハルン=ルーンは何かを探していたようで、我々には気付いていなかったようでしたので」


「うむ。適格な判断だ」


「確かに」


  話を聞いていた大司教や将軍達も、普通の魔族相手であれば「逃げるは騎士の恥だ!」と一喝するところであるが、流石に12師団長という強大な相手に無理に戦いを挑むよりも、情けなくとも逃げて戦力の温存をした方が英断であると考え、ミャケロの判断を誉めた。


「は、はい…‥…しかし、逃げるタイミングを見計らう為に、暫しハルン=ルーンを観察していたのですが…‥……そこで気付いた…‥…いや、気付いてしまったのです…‥……奴が部下を引き連れず、単独でいることを…‥…そして、何故か全身を包帯で巻く程の重症を負っていることに…‥……」


  再び一同に戦慄が走った。


  しかし、今回皆に走った戦慄は、先程までの恐怖や怒りが入り混じったものではなかった。


  皆の心の内にあったもの…‥……それは、純粋なる驚愕…‥…。


  自分達が倒せない…‥…まして、手傷すら負わせられなかった強大なる魔人が、全身に怪我をする程の重症を負っていた…‥……誰もがその事実に、驚愕せずにはいれず、皆が皆、先程よりも驚きに染めた顔でミャケロを見ていた。


  そして、暫くするとドッと皆から声が上がった。


「ま、真にあの魔人が重症を負っていたのか?あの神出鬼没の悪魔が?」


「一体誰が?勇者か?騎士か?誰が奴を追い詰めたか分からんのか?」


「何という…‥……やはり、神は我らを見捨ていなかったか…‥……」


  皆が皆、口々に自分が知りたいことをミャケロへと質問しだした。


  だが、その質問の多くが共通して『本当に重症だったのか?』か『誰がやったのか?』といったものであった。


「み、皆さん!落ち着いてくださいませ!順を追って話ますから、落ち着いて聞いてくださいませ!」


  一気に質問攻めにあったミャケロは、質問には答えるからと皆をなんとか宥め、皆が渋々ながら下がり静かになった所で話を続けた。


「ゴホン!えっと…‥…率直に申せば、誰がハルン=ルーンにそこまでの深手を負わせたのか…‥……それは分かりませんでいした。そのとき、周囲には私達以外の者はおりませんでしたし、何より奴の体に治療が施されている様子から、怪我を負ったのは数日前だと推測できましたので、誰がやったかなどを知ることはできませんでした」


  そう語られた瞬間、明らかな落胆した空気が場を支配した。


  それもその筈である。誰もが、もしかしたらあの12師団長達に対抗できる策、もしくは人物の情報が手に入るかもしれないと淡い希望を抱いていたのだ。


  落胆した雰囲気を出されながらも、ミャケロも皆のその気持ちが良く理解できたので、敢えて何も言わず、場の空気が一度落ち着いてきたのを見計らって、再び話を続けた。


「えぇ…‥それでは続けますが…‥…とにかく、私達は深手を負い、単独で行動している奴を発見しました。更には、奴は何かを探しているのか、私達には一切気付いている様子がなかった…‥……そして、私達の手元には、試作ながらも新型の兵器があった…‥…それも、悪魔族に極めて有効な兵器が…‥……」


  つまりは、必勝の手札が完全に揃っていたということだ。


  その場にいたほとんどの者が、そう考えた。


「皆様も、既に察しているかと思いますが、私はこれだけの好条件が揃う事はまず有り得ない、これは神からの悪魔を倒せとの天恵であると考え、直ぐに攻撃態勢を整えて、ハルン=ルーンへと攻撃を開始しました」


  皆が考えていた通りであり、中には『やはりか』と、呟くものもいた。


  それはそうであろう。憎っくき魔族の、それも上位に位置する者を、これ程の好条件で討ち取れる機会など、そうそうあるものではない。誰もが、自分も同じ立場であれば、同じように行動したであろうという考えを持っていたのだ。


「なるほど…‥……それだけの条件が揃っていたならば、相手があのハルン=ルーンであろうとも、討ち取らんと行動に移したことには頷けます」


  ミャケロから話を聞いた聖皇は、頷きながら皆の代弁をするように同意の意見述べた。


  しかし、直ぐに目を細めて真っ直ぐミャケロを見据えた。


「しかし…‥……その様子を見るに、結果は失敗したのでしょう?」


  聖皇からの直球の予想に、ミャケロは数度口をパクパクさせて何かを言おうとしたが、結局は何も口に出せず、俯きながらコクリと頷き、肯定の意を示した。


「はい…‥……我々が戦闘態勢を整え、あるだけの新兵器を投入して挑んだのですが…‥……察する通り、新兵器は奴に効果が無く、反撃をくらって全滅しました…‥……幸い死者が出なかったのは奇跡でした…‥……」


「効果が無かった?どういう事だ?Aランクの魔物を弱体化したのだろう?ならば、いくら12師団長の1柱であろうとも悪魔であれば、その兵器が多少なりとも効果があるのではないか?しかも、手負いときたものだ」


  フレイス大司教は、眉に皺を寄せながら報告に対する疑問を述べた。


  彼の疑問は当然であり、昔からホーリ=シードは悪魔系の魔物に対して効果は絶大であり、例えどのような高位の悪魔であろうとも、忌避し恐れる聖なる種子である。

 

  その種子を使った新兵器…‥…まして、Aランクの魔物ですら弱体化できる兵器が、純然たる悪魔…‥しかも手負いである筈の奴に通用しなかった…‥……それは古来から伝わるホーリ=シードが、悪魔に効果が無くなったのではないかという衝撃的事実に違いなかったからだ。


「奴に効いていたかどうか…‥…実は良く分からないのです…‥……ですが、奴は兵器を投入し、ホーリ=シードの成分が含まれた霧の中を、悠々と歩いてきたのです…‥通常であれば、悪魔を内部から焼き付くす霧の中を…‥」


  その時の様子を思い出したのか、ミャケロは汗を流しながらブルブルと震えていた。


「そして…‥……奴は霧を越え、我々の元に到達するなり、その圧倒的魔力で我々を散々に打ちのめして去っていきました…‥……」


  震える声で語られる報告に、一同は何とも言えぬ表情でそれを聞いていた。


  ある者は驚愕、ある者は悲壮、またある者は猜疑の目でミャケロを見ながら話を聞き、その内容を個々の中で分析していたのだ。

 

「嘘のような話であるな…‥…薄めてあるとはいえ、ホーリ=シードが含まれた霧の中を越えてくるなど…‥……それとも、何らかの方法や古代魔導具(アーティファクト)で無効化していたとかだろうか?」


  ヒステ大司教は顎に手をやりながら、己の考えを述べた。


  ミャケロは、その意見を受けて、暫く考えた後に答えた。


「分かりません…‥…もしかしたら、我々が知らぬ内にホーリ=シードを無効化できる何らかの方法を編み出したのかもしれません…‥……ただ…‥……」


「ただ?」


  ミャケロは少しの間、高い天井を見上げた後に、自信無さげな顔でヒステ大司教を見た。


「私が倒され、意識が朦朧としていたのでハッキリとしたしたことは言えませんが…‥…奴は…‥…ハルン=ルーンは、去り際に呟いていました…‥……『忌々しい霧め…‥…喉がヒリヒリするな』…‥……と…‥…」


  それを聞いたヒステは、再びフムッと顎に手をやりながら、考えた。


  その発言が本当ならば、確かに効果が無いわけではないのだろう。しかしながら、効果が薄かったのは事実らしい…‥…だが、古来から悪魔避けとして使われ、悪魔が逃げ出す程の効果を持つ筈のホーリ=シードの効きが喉がヒリヒリする程度というのは、受け入れ難い報せではあった。


「それと…‥……こうも言っていました…‥……」


  思考を張り巡らせていたヒステに、ミャケロの更に自信無さげな声が届き、一度思考することを止めて彼の方向を見た。


  ミャケロは少し間を置いてから、思い出すようにその時にハルン=ルーンが呟いた言葉を報告した。







「確か…‥『フン!あの苦難からホーリ=シードへの耐性を得た私に、こんな薄めたものは通用しませんよ。って…‥あぁ…‥…不味い…‥思い出しただけでトラウマが…‥…こんな事をしている場合ではない!急いで例の物を探さなければ!ハァ…‥ケンゾウ様…‥実に恐ろしい方だ…‥…』と言っておりました…‥……」




 

【用語解説:その22】


【聖王国研究機関】

聖王国において、あらゆる研究を行う専門機関。全国から優秀な研究員が集められ、日夜魔族に対抗する技術や兵器の開発、便利な日用品の魔道具の生産を行っている。

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