58話 思わぬ展開
大変申し訳ありませんが、明日から仕事の都合で暫く投稿が遅くなります。
「本当にすまなかった!」
私こと佐沼健三は現在リビングにおいて、娘の麗香とその婚約者である魔王ゲルクルシュ=アッシュノート=ルルシフェル君の目の前で、渾身の土下座をして謝罪の意を示している。
「いや…‥……うん…‥……私は別にパパ達が無事だったらそれでよかったんだけど…‥……」
そう言う麗香は、口ごもりながら横目でチラリと横を見る。
「ウム…‥……我も、二人の身の安全が無事ならば…‥……それで良かったのだが…‥……その」
魔王もまた、口ごもりながら横目でチラリと横を見ていた。
「あぁ…‥…うん…‥…まぁ…‥……やり過ぎたというか…‥……その…‥……二人にもしっかりと謝罪をしておくよ…‥……意識が戻れば」
そう言って、私もチラリと見た先には…‥…。
「急げ!!早く治療魔法をかけるんだ!手遅れになるぞ!!」
「分かってるわ!でも、第3位階程度の治療魔法じゃどうしよもないわ!!もっと高位のじゃないと!」
「仕方ないだろ!高位の治療術師は皆、前戦に出ているんだから!今出張っていた王宮治療術師を呼んでいるから、それまで保たせろ!」
「オイ!イノセリア様がまた痙攣しだしたぞ!!」
「押さえろ!もう一度、状態異常回復魔法を掛けるんだ!」
「くっ!頑強で知られるイノセリア様をここまで苦しめるとは…‥……一体どんな毒を?」
「王宮治療術師はまだか!?」
リビングの脇では魔王君が呼び出した白い服を着た彼の部下達…‥…何でも治療術師というらしいが…‥…その彼らが床に倒れ伏しビクンビクンと痙攣を繰り返す二人…‥…ハルン君とイノセリア君?だったか?を慌ただしく治療していた。
「まぁ…‥…とにかく謝りたいと思う気持ちは分かるけれど…‥……謝罪するならあの二人だよね…‥……」
「あぁ…‥……分かってる…‥……」
私はどうやらリリちゃんの話を色々と誤解していたらしい…‥……それで彼を性犯罪者と勘違いして散々に打ちのめしてしまった…‥……。
彼には本当に悪いことをしてしまった…‥…。
怒りで我を忘れていたとはいえ、あそこまでやることはなかった…‥いや、妻が何故か擦り降ろし生姜を持ってきたりとナイスアシストをしてきて調子に乗りすぎたしな…‥…。
妻も妻で、帰ってきてからリリちゃんの話を聞いて『リリちゃんは私も守るわ!』って張り切っていたからな…‥……多分、以前にハルン君が生姜に弱いと聞いて事前に準備していたのだろう…‥……我が妻ながら恐ろしい…‥…。
「ママもイノセリアに謝ってね?」
「そうねぇ。ゴキブリと似ていて間違ったとはいえ、魔王さんの部下の人に殺虫剤を振りかけたのは失礼だったわね。ちゃんと謝っておくわね」
「…‥……それ本人には言わないでね」
うむ。言わない方がいいな。
というか、あれをどう見ればゴキブリに見えるんだ?私から見ても、カブトムシと蟷螂を足して割ったような姿なんだが?
どこぞの星から来た人型ゴキブリよりかは、ゴキブリぽっくはないのだがな…‥……。
やはり妻の感性がいまだに分からない…‥…。
「フム。まぁ此度は様々な誤解により生じた事故ではあるからな…‥……だが…‥……それら全ての原因は…‥……」
そう言って魔王君は私の背後に隠れて服の裾を掴んでいるリリちゃんを一睨みしてくる。
話によれば、このリリちゃん…‥……。
幼い外見をしているが、魔王君の部下達の中でも相当の力を持った実力者らしく、魔王君でも油断できない程の相手だったらしい。
そして以前から魔王君の座を狙っていたらしく、今回魔王君と麗香が留守にしている隙を突いて行動を開始し、まずは狙いとして麗香の家族…‥……つまりは私達を人質として取って戦況を有利にしようとしたらしい。
こんな小さな女の子なのに…‥……。
「リリちゃん…‥……」
「お…‥…おじちゃん…‥……」
視線を背後へと向けると、リリちゃんが酷く怯えた目で私を見てくる。
「義父上よ。此度の騒動は、全てそこにいる我が配下たるものが引き起こしたこと…‥……元々は義父上達を人質に取り利用し、我や麗香を陥れ魔王の座を奪わんとした危険思考の者だ」
確かにそうらしいな…‥……あまり信じたくはないが、駆けつけて来た時の魔王君や麗香の慌て具合から、嘘を言っている訳じゃなさそうだしな…‥……。
「何故に人質を取るという目的を変え、義父上に取り入ったか分からぬが…‥…危険な者であることは変わり無いし、新たに何かを企てているのかもしれぬ。こやつは息をするかの如く虚言を述べ、他者を裏切るような精神の持ち主だ。有能であったとはいえ、これまで放置していた我にも問題があった…‥……故に、我が責任を持って連れ帰り、犯した罪に相応しい裁きを与える」
確かに…‥…なんで目的を変えたのかは分からないな…‥……骨夫に怯えて目的を忘れたとか?
…‥…良く分からないな…‥…しかし…‥…やはり、罰は与えるのか…‥……。
「さて…‥……リリよ。覚悟はできているな?」
「ヒィ…‥……」
魔王君がリリちゃんの手を掴み、強引に自分の元へと引き寄せていく。
リリちゃんが泣きそうな顔で私と妻の方を見てくる。
その顔を見ると、胸が締め付けらるような感覚が私を襲ってきた。
あまり…‥……というか、全く身に覚えは無いが、彼女は私達夫婦を害して娘を危険な目に合わせようとした…‥……。
何か思うことがあって行動を中止したが、彼女が私達を危険な目に合わせようとしたのは事実だし、それならば然るべき罰を与えるのは当然だ…‥……。
確かに最初に会った時は彼女の服装に動揺してしまったが、冷静に考えれば色々と怪しむべき所があったと思う…‥……。
他者を騙す裏切り者…‥……。
だが…‥……あの時の怯えた顔…‥……泣いていた顔…‥……美味しそうにオムライスを食べていた顔…‥……笑って嬉しそうにしていた顔…‥……。
あのどれもが私には嘘だとは思えない…‥…。
こんな考えがある時点で、もしかしら私は既に騙されているのかもしれない…‥……。
しかし…‥……だが…‥……。
むぅ、分かっている…‥分かっているが……。
「お父さん」
「んっ?」
妻が、いきなり手を重ねてきた。
はて?どうしたんだ?やけに優しげな笑みをしているが…‥……。
「お父さん…‥そう悩まないでください」
「母さん…‥……」
「お父さんが今、何を悩んでいるのか…‥…まぁ大体のことは分かってます。だからこそ言わせてくださいな。悩まないで。あなたに悩んだ顔は似合いませんよ?だから…‥…あなたが思うままに…‥…信じるままに動いてください。私はそれを助けますから…‥……だって夫婦じゃないですか?」
「かあ…‥……さん…‥……」
…‥…そうか…‥…そうだな。
やらずに後悔するよりも、やって後悔したほうが万倍もマシだ。
‥……‥……うむ!
私は本当に良い妻と結婚できたな。
本当に私には勿体無い位に…‥……。
「魔王君待ってくれ!」
私はリリちゃんの手を掴む魔王君の腕を更に掴みながら、待ったをかけた。
「義父上?」
「パパ?」
魔王君と麗香の二人が訝しんだ顔で私の方を見てきている。
まぁ、いきなりこんな行動を取れば、そんな顔もするだろうな…‥……だが、どんな顔をされようが、ここで行動しなければ私は後悔することになる。
だから言わしてもらおう。
彼女に罰を与えないでくれ…‥……と。
確かに彼女は私達を貶めようとした。
私の考え事は甘過ぎるのかもしれない。
だが、結局はそれも未遂に終わり、私達には一切の被害が無かった。
だというのに…‥……彼女が厳しい罰を受けるだなんて私には耐えられない!
例え私の考えが自己満足な偽善だとしても…‥……私は…‥……あの無垢な笑顔を向けてきた彼女を…‥……捨てておく事などできない!
私は彼女を信じよう。だが、それでも彼女が何か悪事を働こうというならば、私が責任をとろう!!
私が彼女を止められかは分からないが、いざとなればこの体を犠牲にしてでも止めてみせる!!
私は妻の方をチラリと見ると、妻も理解してくれたのか、笑顔でコクりと頷いてきた。
よし!妻も分かってくれたようだ。
では!言わして貰おう!!
「その……彼女に罰を与「魔王さん!リリちゃんの身は私達が引き取ります!」えぇ?」
WAHT?
今妻はなんと言った?
「義母上?」
「えっ?ママ?」
ほらっ!魔王君や麗香もリリちゃんも、鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしているぞ。
「えっと…‥……母さん?」
「お父さん…‥……分かっていますよ」
いや…‥…ニッコリと良い笑顔をしているが、分かってないよな?えっと、あの?
先程『夫婦だから分かってる』と言っていたが、全く夫婦としての意思の疎通が取れていないのだが?
「魔王さん…‥…貴方達の話は良く分かりました。つまり、このリリちゃんが今回悪戯を働き周りの大人に迷惑をかけたのも…‥…それを彼女を叱り止め、導く親がいなかったという事ですね」
違う。絶対に違う。
話のレベルが違う。これはあれだ…‥…我が妻は未だにリリちゃんを普通の女の子として見ていて、今回の事も悪戯や万引きした程度の目線で見ているな…‥……。
「あの…‥……母さん?」
「親がいない…‥…子供達の中にはそんな子達もたくさんいるわ…‥。そして中には、今回のリリちゃんみたいな子みたいに、止める大人がいなかったからブレーキが効かず、犯罪まがいの悪戯をしてしまう子もいる…‥でもね…‥そのような子達は自分を見て欲しい…‥認めて欲しい…‥そんな『助けて』のサインを遠回しに送ってきているんです!!」
あっ…‥…うん…‥…確かにそうだが…‥……。
「は、義母上?」
「そんなサインにも気付かず、いざ悪戯をしたら罰する?裁く?そんなの違うわ!まずは話を聞き、導き、助けを出し、人格を認める!それが大人に課せられた義務であり、やるべき救済方法じゃないんですか!!魔王さん!!政治家なたる貴方が、未来を担う子供達を蔑ろにしてどうするんですか!」
「えっ?!あの…‥…ウ…‥はい…‥……」
魔王君が項垂れて撃沈した…‥……。
妻よ、凄く良いことを言っているが…‥……というか、妻の中では魔王君は未だに政治家扱いなのか…‥……。
「あ…‥…あの…‥…ママ?ママの言いたいことは分かるけれど…‥…今回のは事情が…‥……」
「麗香!あなたもあなたです!昔あれだけ辛い目にあったというのに…‥……その経験を活かさず、今を苦しむ子供達を助けず放任するなんて…‥…母さんは悲しいわ!!」
「えっ?!えぇぇ…‥……?」
麗香よ…‥……悲しそうな顔で私を見てもどうしようもできないぞ。
最早、今の母さんを止める術は無い。
「私は1人でもそんな子を救いたい…‥……例え偽善と言われようとも、やらぬ偽善よりやった偽善の方が後悔しないわ!」
あっ…‥……そこは同意見だな…‥……。
「だから…‥…時に叱り、正しき道に導くために…‥……リリちゃんを私達の養子として迎えます!いいわね!!」
「おばちゃん…‥……」
うむ。今の母さんは何だか輝いていて女神のようだな。
リリちゃんもキラキラした目で妻を見ているし。
…‥……いかんな…‥…現実逃避をしては…‥……。
「あの…‥…母さん…‥…気持ちは分かるが…‥…色々と問題があるんじゃないか?その…‥生活費とか…‥…養育費とか…‥…あとは…‥…戸籍とか?」
異世界に戸籍があるかどうかは知らないが、こっちで引き取るとしたら、そこらの問題が必ずついてまわるだろうし…‥……。
「そこは魔王さんに援助してもらいますし、戸籍関係も魔王さんが何とかしてくれますよ!政治家なんだから、そこらは何とかできるでしょう。ねぇ魔王さん?」
「へっ…‥……?!あっ…‥……はぃ…‥……」
「まさかの人任せ?!」
いや…‥……流石に魔王君でもそこらの問題は解決できないんじゃないのか?戸籍とかを魔法でどうにか…‥……できそうな気がする…‥…な。
恐ろしいことにだが…‥……。
しかし、妻も妻で、有無を言わせぬ笑顔の圧力で言質を取りおった…‥……もう雰囲気的に妻が魔王でいいんじゃなかろうか?
「まぁ、ここまで言ったけれども…‥…結局は後は本人次第ね…‥……」
妻はそう言うと、真剣な目でリリちゃんを見た。
「リリちゃん…‥……後はあなた次第だけれど、どうする?私達の子供になってくれる?」
「僕は…‥……僕は…‥……」
「ゆっくりと考えて?ただ…‥……私達はあなたを心から自分達の子供として迎えいれたいわ。だって…‥…あなたみたいな可愛い子が家族に増えるって…‥……嬉しいじゃない?」
「おば…‥…おば…‥…ちゃん…‥……」
リリちゃんが目を潤ませている。
妻よ…‥……良いことを言っている…‥……。
言っているのだが…‥……。
魔王君と麗香がポカーンとした表情で見ているぞ…‥……。
あんな麗香の顔…‥……久方ぶり見たぞ。
まぁ…‥……当然だろう…‥……何せ、リリちゃんが麗香の妹になるかもしれないのだからな。
うん。私も衝撃だがな…‥……。
この歳で更に娘が増えるかもしれないんだからな…‥……。
「お父さん」
「んっ?えっ?な、なんだ?」
「ボッーとしてないでリリちゃんに何か言ってあげて下さいな」
えっ?何かって…‥……何を言えば良いんだ?
リリちゃんも、そんな潤んだ期待を込めた眼差しで見ないでくれ…‥…そんな目で見られたら…‥……。
うぅむ…‥……。
「えっ………と、まぁ…‥…私も…‥…嬉しい…‥……かな?」
「お…‥……おじ…‥……ちゃん…‥……」
咄嗟になんとなしに答えたが…‥……。
あっ…‥……これ駄目だ…‥……リリちゃんの目が…‥……決壊した。
「…‥……‥……なる…‥……僕…‥……なる…‥……」
アレ?これって‥…あれか…‥認めてしまったのではないか?
「おじ…‥…おじ…‥……‥……パパァァァァ!!」
うん。公式決定になってしまった。
「よしよし。よかったわね?リリちゃんは今日から家の子よ」
「うん!ママァァァァ!!」
リリちゃんが泣きながら妻の胸元へと抱きついていった。
そうか…‥……今日から私は4児の親か…‥…。
部屋割りとかどうしよう?麗香の使っていた部屋を使ってもらおうか?あと学校とかはどうしようか?やはり、見た目から小学校からかな?
「ちょっとパパ!遠い目で現実逃避してないで何か言ってよ!」
「いや…‥……何か…‥……と言われても…‥……」
「そうであるぞ義父上よ!あまりにも話が唐突過ぎるぞ!何故にリリが義父上の娘となるか!?リリもリリとて何を受け入れておるか!そもそも、まだリリへの裁きを無くすとは言って…‥……」
「魔王さん?」
「ハヒィ?!」
妻がリリちゃんを抱き締めながら、笑顔の圧力を魔王君へと向けている。
うん…‥……あれは私でもビビるな…‥……。
「魔王さん…‥…家の娘に変な手を出したら…‥……ただじゃおきませんよ?この子が何かしたならば、私が責任を持ってお仕置きしますから」
「ウ…‥…ウム…‥……」
魔王を威圧で黙りこませるって…‥……。
我が妻が本当に恐ろしい…‥……。
「麗香も」
「ふぇ?!な、何?」
今度は妻がグルンと首をからくり人形のように動かして、麗香へと視線を向けた。
「あなたも家族が増えることに何の疑問があるの?せっかくお姉ちゃんになるんだから、妹を守ってあげる援護射撃くらいしてあげなさい!」
「いや私は認めていないし!てか、そいつは私よりも年上だからね!!てか、ママ達より年上だからね!!」
あぁ…‥……うん。まぁ、そうだろうね…‥…。
麗香は簡単には認めることはできないだろうしな…‥……。
というか、リリちゃんはやはり年上なのか?
義理の息子と養子の娘が親よりも年上というのは、どうなんだろうか?
「そんなの関係ないわ。親子の絆に年齢なんていうのは何の問題にもならないわ」
「そういう事じゃないのよ!そもそも…‥…ってリリ!!あんたもママから離れなさい!あんた近いのよ!!」
「ヤダヤダ!ママから離れたくない!!」
「黙りなさい!ママは私のママよ!!というか、あんたキャラ変わってんのよ!そんな幼児キャラじゃなかったでしょ!!」
「あらあら?麗香ヤキモチ?」
「そうじゃないわよ!もう!アァア!!」
「何なのだこれは…‥……」
「ハルン様の呼吸が止まりましたぁぁ!」
こうして我が家の騒がしく、衝撃的な夜は更けていった…‥……。
って!ハルン君?!
【用語解説その20】
【治療術師】
治療魔法や回復術を専門とする術師。様々な医療の知識や技術、魔法を習得しており、戦場などでは無くてはならない存在である。
治療術師は魔族・人間共に採用している法式であり、特に聖王国では高度な治療術を教育する学校すらあり日々優秀な治療術師を育成をしている。
尚、治療術師には腕前によりランクが付けられており、上から王級、特級、上級、中級、下級と分けられており、特に王級の治療術師は王属付きとなる事が多く、そうなれば一生が安泰である。




