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56話 怯えさせし者への、父の怒り!

ご意見・ご感想をお待ちしております。

「何をしているんだ?」


  そう声を掛けるしかなかった。


  本当に何をしているのか分からなかったからな。


  リリちゃんの着替えを取りに、麗香の使っていた部屋に行ってタンスをあさって戻ってみれば…‥……。


  そのリリちゃんを挟んで、骨夫と()のギンコが何か言い合い?をしていたようだ。


  奴らの声が聞こえないからあくまで「ようだ」という見た感じの感想だが…‥……。


「お…‥……おじちゃん…‥……」


  そして、一番の謎はリリちゃんだ。


  彼女は床に座り込み、震えながら泣きそうな‥……いや既に泣きながら鼻水や涎も垂らして私を見ている。


  その顔は恐ろしいものを見たかのように恐怖で真っ青になっていた。


『シャァァァァァァァ…‥……』


  …‥……彼女の辺り…‥…正確には股の辺りから何か水漏れのするような音が聞こえてきたが…‥ウン…‥…彼女の名誉の為に、敢えて何も言うまい。


  ただ、私が来たことで緊張の糸が切れたらしい。


  あっ…‥俯いて更に泣き出してしまった…‥…。


  仕方があるまい、年頃の子ならば見られたくない事だろうからな…‥……というより…‥……。


「リリちゃん…‥……もしかして…‥……その…‥……骨とか…‥……見えてる?」


  私の問いかけに、リリちゃんはコクりと小さく頷いた。


  そうか…‥……私だけの幻覚かと思ったが…‥……どういう訳か、どうやらリリちゃんにも視えているらしいな。


  ウン。そりゃあ動く人骨と謎の狐に囲まれたら怖いよね。


  さて…‥……確かここに…‥……あったあった。


  私はサッと妻が畳んだままに置いていったタオルケットをリリちゃんへと被せてあげた。


「おじ…‥……ちゃん?」


「ごめんねリリちゃん…‥……こんな怖い中で1人にしてしまって…‥……」


  本当に彼女には申し訳がなかった…‥……。


  まさか見えるとは思わなかったからな。


  とは言え、こんな人外がいる空間に、幼い彼女を残していったのも問題があったな…‥……。


  まぁ…‥……取り敢えず…‥……。


「さて…‥……」


  えっと…‥……バール、バールはどこに?


  おっ?あったあった!これがなければ始まらないな。


「リリちゃん。ちょっと待っていてね」


「えっ?お…‥……おじちゃん?」


  んっ?何か骨夫達が慌てているような?まぁ気のせいだろう!私には奴らの声も聞こえないしな!


  よし!じゃあ張り切って!


















「この腐れカルシウムがぁぁぁぁぁぁ!!」


  怯え、恐怖し、辱しめを受けた幼子の怒り!

 思いしるがいい!!



 ◆◆◆◆

 

  ~リリ視点~


  えっえっ?一体なにが起きてるの?これは何なの?


  僕は目の前で繰り広げられている事態がしんじられず、ただ唖然と座り込んで見ていることしかできなかった。


  いや、だって…‥……。


「死ぃねぇぇぇ!この骨がぁぁぁ!!」


『待て待て!お、落ち着くのだケンゾウよ!これには訳が…‥……ぐわぁっぷ!?』


『む、無駄じゃ!ケンゾウに儂らの声は聞こえぬ!まだそこまで親和性が高まっておら…‥コオーーーーン!?』


『な!め、女狐?!ちょ!待て!何故に奴の攻撃が余らに…‥……って危!?』


『お、恐らくは想いじゃ!強い想いが籠った一撃が、儂らへの攻撃を可能としておるのじゃ!信じられ…‥……コォン?!』


『ヌォ!?クハハハ…‥……さ、流石は余が見込んだ男だ!こ、こんな事が可能とはな!』


『ゆ、言うてる場合か!?』


『確かにそ…‥……あっ!待て!待って…‥……‥!それはマズ…‥グギァァァァァァァ!?!?』


『ほ、骨の…‥……あっ!け、ケンゾウそれは…‥コォォォォォォン!?』


  普通の人間が…‥……僕が弱そうだと思ったあのおじさんが…‥……神とも言うべき存在達を圧倒しているんだもの…‥……。


  あれほど恐ろしく、敵わないと思った存在が、普通の人間相手に逃げ惑い、更にはおじさんが手に持った鉄の棒で打ち倒されている…‥……。


  余りにも現実離れした光景だ…‥……。


  てか、おじさん…‥……骨のガシャコック様を追い掛け回すのは…‥……まぁいいけど…‥……銀髪の美女を鉄の棒を持って追い回すのは…‥……魔族の僕から見ても…‥…ちょっとアレだよ…‥。


  でも…‥……。


「凄い…‥……凄い…‥……」


  もうそれしか言葉が出てこないよ。


  僕が視た瞬間に、初めて感じた恐怖で屈服するしかできず、情けなくも恐ろしくて漏らしてしまった強大な存在を、普通の人間が…‥……一方的に…‥……いや、あのおじさんは普通じゃないんだ…‥……僕がおじさんを計れていなかったんだ!!


  きっとアノおじさんは…‥……僕なんかが計れるような小さな人間じゃないんだ!


  もっと…‥…もっと大きいんだ!あまりにも大き過ぎて、僕は見謝っていたんだ!!


  だったら納得できる!あのおじさんはとても強い戦士なんだ!僕なんかよりもずっと、ずっと強くて勇敢で…‥……そして優しい…‥…僕を助けてくれた…‥……僕の…‥……英雄(ヒーロー)


  そう思うと、なんだかおじさんの背中が急に大きく見えてきたような…‥……。


  あれ?なんだろう?僕の心臓はとうの昔に止まっている筈なのに…‥……な、なんだか胸が高鳴るような妙な感覚が?


  えっ?どうしちゃったんだ僕は?


「待てやぁ!この骨がぁぁ!その頭蓋骨叩き割って、杯にして酒を飲んじゃるぞぉ!」


『意味が分からぬ?!どこの戦国大名の真似ごとだ!!いや…‥…待て!それはマズイ…‥……アッーーーーーー…‥………‥……』


『ほ、骨のぉぉぉぉぉぉ!?』


「次は狐…‥…お前だぁぁ!!毛皮を剥いで、それでトイレの便座カバーを作ってくれるわぁぁぁぁ!!」


『ちょ…‥待って!待ってくれ!何で便座カバーなんじゃ!?儂の毛皮ならせめて、敷物とか…‥……って本当に待ってたもれー!!お主には今は狐の姿に見えるかもしれんが、儂は本来はとってもびゅーてぃーな…‥……って!?アッーーーーーー…‥………‥……』


  あぁ駄目だ…‥……おじさんの勇敢な姿を見ているだけで顔が熱くなってきちゃった…‥…。


  あのガシャコック様と銀髪の女性が、なすすべも無くおじさんの足元に力無く転がっている…‥……。


  本当に…‥……なんて凄いんだ…‥……。


「リリちゃん、もう大丈夫だよ」


  ドキッ?!う…‥……きゅ、急に振り向かないでよ…‥……ビッ…‥……ビックリしたじゃないか。


「もう、怖いのはおじちゃんがやっつけたからね!」


  う…‥……うん見てた…‥……とっても格好良かった…‥……。


「もう、リリちゃんを怖がらせるやつはいなえから…‥……安心してね?」


  ふわっ?!きゅ、急に頭を撫でないでよ!そ、そんな事をされたら…‥……ぼ、僕…‥…。


「大丈夫だよ。もうリリちゃんを1人にさせないし、何かあってもおじちゃんが守ってあげるからね!」


  うぅ…‥……うぅ…‥……そんな笑顔で…‥……そんな事を言われたら…‥……僕…‥……。


「お…‥…お…‥…おじちゃぁぁぁぁぁん!!」


  もう我慢できなくなって、僕はおじちゃんの胸へと抱きついた。そしたら止めどなく目から涙が溢れてきた。


「おっと!リリちゃん…‥……よしよし…‥……もう大丈夫だからね…‥……」


  そんな僕を、おじちゃんは優しく抱き止めて頭を撫でて受け止めてくれた。


  そうしたら涙が更に溢れてきた…‥……なんだろうかこの気持ち…‥……こんな事は初めてだし、こんな姿は四天王として失格だろう…‥……。


  ただ…‥……悪い気はしなかった…‥……。


  何だか心の中にあったモヤモヤした何かが、溶けて流れていくような…‥……そんな心地良い感覚が胸の中に溢れているようだった…‥……。


  いつまでもこうしていたい…‥……本気でそう思える程に、凄く心地良かった…‥……。


「グスッ…‥……グスッ…‥……」


「落ち着いたかい?」


「うんうん…‥……ずこし…‥……グスッ」


  暫くして、おじちゃんは僕からゆっくりと離れていった。


  ムゥ…‥……もう少し抱きついていたかったんだが…‥……。


  でも、おじちゃんのおかげで、大分落ち着くことができたし、何だか憑き物が落ちたようにスッキリした気分になれた。


「じゃあ…‥……アレだね…‥……」


「どうしたのどうしたのおじちゃん?」


  何だか鼻先をポリポリしながら言い淀んでいるな?どうしたのかな?


「ウン…‥……それじゃあ…‥……お風呂に入ろうか?その…‥……スッキリするだろうし…‥……」


  お風呂?急にどうして…‥……って!!?!


  僕はその時になって、下半身がビシャビシャになっている事を思い出した。


  それを、おじちゃんに間近で見られたと思うと…‥……。


「ど…‥……どうしたのかな?顔が真っ赤になって…‥……て、そう…‥……だよね…‥……」


「おじちゃんの…‥……ばかぁ…‥……」


  恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて恥ずかしくて…‥……。


  助けてくれたおじちゃんにそんな事しか言えなかった…‥……。


  ゴメンね…‥……おじちゃん…‥……。








 ◆◆◆◆◆


 ~魔王城転移の間~


  ドカァァァァア!!


「ガピッ?!」


  凄まじい音とともに、衝撃によって吹き飛ばされた、何かが壁に激突してから地面へと倒れこんだ。


  その何か…‥……いや…‥……魔王軍機甲軍師団長エル=ムーは、任務を果たそうと起き上がろうとするも、その頭を何者かによって踏まれ、再び地面へと組伏せられた。


「あんたの力で私達を止められる訳がないでしょう?ねぇエル=ムーちゃん?」


  その足の主…‥……佐沼麗香が、冷たい視線をエル=ムーへと向けながら挑発するように言いはなった。


「ギギ…‥……・たし…‥……確かに・ワタ・ワタ・私の…‥……・ビギッ・力…‥……力デハ・と、と、ト、止めキレませ…‥マセん・しょ・しょショう率は・僅か・3・3・3%でス…‥…」


  ノイズ混じりの声で、目だけを麗香へと向けながら、エル=ムーは自身の事実上の敗北を認めた。


「そう…‥……じゃあ…‥……これで0%ね!!」


  そう叫んだ麗香は、足に全力を込めて、勢いよくエル=ムーの頭を蹴りつけた。


「ガピッ?!」


  麗香の蹴りにより、エル=ムーの頭部は簡単に千切れ飛び、細かい部品を首の切断面からばら蒔きながら壁に激突し、そのまま地面に落ちると、完全に停止したのか瞳から光が無くなっていた。


「ふぅ…‥……舐め腐りやがって…‥……」


  そう言いながら、麗香はエル=ムーの胴体を、更に何度も踏みつけた。

 

「レイカよそれぐらいにせよ。間もなく転移門が繋がる、準備をしとおけ」


  その様子を背後から見ていた異形…‥……魔王ゲルクルシュ=アッシュノート=ルルシフェルが、麗香の肩に手を掛けながら落ち着くようにと言葉をかけた。


「チッ…‥……分かったわよ…‥……」


  そう言って、最後に一蹴りだけ入れた後、麗香は魔王の隣へと並び立ち、転移陣で作業をしているハルン達を険しい目付きで睨んだ。


  その鋭い視線に、幾人かの作業中の魔族が怯えて硬直したが、そのような作業員には麗香の早くしろと言わんばかりの更に鋭い視線が送られてきた為、皆が大急ぎで作業を進めていた。


「そう苛つくな…‥……奴等に当たっても仕方あるまい…‥……」


「…‥誰のせいで苛ついてると思ってるの?」

 

  少しでも落ち着いてもらおうと話し掛けた魔王に、麗香は絶対零度の威圧をぶつけながら、冷たい声で呟いた。


  その威圧は、離れて作業をしていた魔族達にも伝わり、直接ぶつけられた訳でもないのに、幾人かは泡を吹いて失神する程に鋭いものであった。


「分かっておる…‥…全ては我の管理不足が招いたものだ…‥……」


  零度の視線を直接浴びながらも、魔王は決して臆することなく、謝罪を口にした。


  魔王の言う管理不足…‥……それは今回の四天王であるリリによる反逆とも取れる行為のことであった。


  今回、魔王と麗香は聖王国制圧の足掛かりをつくる為に、聖王国の周辺にある国々の順次制圧を行っていた。そして順調に進軍をしている最中に魔王へと警報(アラーム)の魔術信号が届いたのだ。


  届いた警報(アラーム)の設置した場所や、侵入したものが誰かと魔王が解析し、場所は魔王城転移門の間、侵入者は以前から危険視していたが故に、最も手こずると思われる場所バグラムに送った筈の四天王リリであった。


  魔王は、リリが自分の魔王の座を狙っていることには薄々と気付いてはおり、彼女には幾人かの監視は付けていた筈であった。しかし、その監視のことごとくは、リリによって操り人形となり、魔王へと偽りの報告を上げていたのだ。


  このリリが侵入したという状況に強い危機感を感じた魔王と麗香は、直ぐ様魔王城へと戻り、転移門の間へと駆け付けると、師団長であるエル=ムーが妨害してきて戦闘となったのだ。


  この、リリが造ったエル=ムーが魔王へと向かってきたという事で、リリの反逆は確実なものとなった。


  そしてエル=ムーとの決着は直ぐについたのだが、厄介なことにエル=ムーによって転移門の魔術回路がメチャクチャに書き換えられていたのだ。


  魔王も転移門が書き換えらているとは予想外であり、まさかリリが以前に宝物庫から盗まれていた古代魔導具(アーティファクト)の『意に介さず』を所持品して使用していたとは思ってもみなかったのだ。


  だが、幸いに転移門の専門家であるハルンがまだ近くにいた為に、直ぐ様彼に転移門の修正を命じて、今へと至るのだ。


  ついでに、その待ち時間て麗香はエル=ムーをサンドバッグ代わりにしていたのだ。


「私は以前から、リリは危険だと言っていたよね?なのに魔王くんは彼女を四天王として使い、奴に権限を与えたままにした…‥……それが今の状況をつくりだしたのよ?」


  麗香は最初にリリと会った時から、『こいつはヤバイ奴だ』と勘ずいていた。


  子供のような容姿に無邪気な笑顔。


  一見したら無害なように見えるが、リリの本質には底知れぬ悪意が有り、相当に頭がぶっ飛んだ奴だと睨んでいたのだ。


「分かっておる…‥…奴が危険な事も…‥…狂った思考の持ち主だということも…‥……」


「だったら…‥「だが、それ以上に有能な者であるという事も事実なのだ!」…‥っ」


  怒声を放つ麗香の言葉を、魔王もまた怒声で遮った。


  その二人の様子に、周囲にいた魔族達は恐れおののいた。


「リリは確かに危険思考の持ち主であり、歪んだ思想や性格でもある。しかし、無能ではなく、これまで幾度も魔族の危機を救ったのも事実なのだ…‥……」


  魔王の言葉に麗香は黙るしかなかった。


  確かにリリは、今回手こずると思われたバグラムを僅か3日で陥落させたし、以前に魔族の領内で疫病が流行った際も、持ち前の知識で領民を救うという救護活動も行っていたのだ。


「そんな者を、『危機だと思う』というだけの理由で、四天王から外すことはできないのだ…‥……」


  魔王は申し訳なさそうに麗香へとそう答えた。


  そんな、申し訳なさそうにに語る魔王に、麗香は胸が締め付けられる思いになった。


  麗香も子供ではないから、魔王の立場も考えも理解ができた。愛する彼が、様々な悩みや思いを抱えていることも分かっていた。


  そんな苦悩し、謝罪する彼を責める自分に嫌気が差した。


  しかし…‥……。


「分かっている…‥…分かっているけれど…‥…」


  頭では理解していた。


  だが、今回のリリの反逆に、麗香の家族が巻き込まれるかもしれなかった。


  いや…‥……既にリリが転移した時点で、巻き込まれている事は間違い無い。


  下手をすれば…‥……。


  それを考えるだけで、麗香は何かに当たらずにはいられなかった。


「クソッ…‥……私が転移門なんかを設置したせいで…‥……」


  あの時は、向こうにいつでも帰れると浮かれて、後先の事を一切考えていなかった。


  こんな風に、反逆者によって、家族が人質として取られる可能性もあったのに、それも考えていなかった。


  麗香は、あの時の浮かれた自分を思いっきり殴ってやりたいと激しく後悔し、拳を強く握り締めた。


  拳からは、一筋の血がポタリと地面へと流れた。


  そんなリリに、魔王は背後から包み込むように抱きつき、その握った拳を自身の手で覆った。


  すると、手から淡い光が生じ、麗香が自身で付けた爪の傷痕からの出血が治まった。


「回復魔法?…‥……使えたんだ…‥……」


「不慣れではあるがな…‥……」


  本来であれば、今魔王が使用した魔法だけで、綺麗に傷が消える筈であった。


  しかし、自身に強い再生能力を持つ魔王は、普段回復魔法を使う必要は無いため、攻撃魔術特化となっていたが、己の愛する者の傷を治す為に、不慣れながらも麗香へと使用したのだ。


「…‥………‥……ありがとう」


  麗香はそんな彼の優しさに、少しばかり落ち着き、薄っすらと笑みを見せた。


「やっと笑ってくれたか…‥………‥……麗香よ、そんなに自分を責めるな」


  麗香の笑みを見て、一瞬ホッとした顔をした魔王であったが、直ぐに真面目な顔となり麗香へと言葉をかけた。


「魔王君…‥……」


「非は全て我にあるのだ。責めるならば我を責めよ」


「それは違…‥……」


「いや、違くは無い。危険だと知りながらリリを放置したのも、レイカに転移門の設置を勧めたのも…‥……全て我の判断だ…‥……」


「魔王くん…‥……」


  真剣な目で見てくる魔王に、麗香は嬉しさと寂しさ…‥……そして申し訳なさを感じた。


「故にレイカが自分を責め、傷付くことは無い…‥……。我は…‥……レイカのそんな姿を見ることこそが辛い」


「…‥………‥……」


「それに、そんな主の姿なぞ、義父上と義母上は望んでおるまい?何よりも、転移門が設置された時、最も喜び迎えてくれたのは、あの二人ではないか?あの二人の笑顔を見れば、転移門を設置したのは間違いではあるまいと分かるだろう?」


「…‥……うん」


  魔王の言葉に、麗香は異世界にいる大好きな二人の笑顔を思い出した。


  麗香が帰ってきたことを、本当に心から喜んでくれた優しい母を…‥……。


  不器用ながら自分の事を心配してくれる弱そうで、本当は強い父を…‥……。


「…‥…大丈夫だ、義父上達を信じよ。あの二人はきっと無事だ。僅かであるが、我が与えた加護が働いているのが分かる」


  魔王は、初めて健三達に会った時に、二人の安全を守る為に、己の加護を与えていたのだ。


「…‥……本当に?」


「嘘は言わぬ。それとも、我がレイカに嘘をついた事があったか?」


「…‥……ううん…‥……無い」


  魔王の腕の中で俯きながら、麗香は小さく呟いた。


「だから信じよ、レイカの両親は無事であろう。それに…‥…あの二人ならば、リリを返り討ちにしてるかもしれぬぞ?」


  魔王がおどけたようにそう言うと、麗香は魔王の腕の中でクスクスと笑い、やがて小さな…‥……本当に小さな声で彼にだけ聞こえる声で呟いた。


「…‥………‥……ありがとう…‥……大好き」


  その言葉に、魔王は彼女を強く抱き締める事で答えた。


(麗香よ…‥……義父上達は、我がきっと助けてみせる…‥……だが、もし既に…‥………‥……そうであれば、我が直々に奴に地獄を見せてくれるわ)


  麗香を抱き締めながら、魔王は心の中で強い決意をした。


「魔王陛下!レイカ様!転移門が繋がりました!いつでも転移可能です!」


  すると、ハルンが転移門の復旧を伝えてきた。


「そうか…‥…それではレイカよ…‥…行くぞ」


「…‥……うん」


  二人はどちらかともなく離れ、並んで歩きながら転移門へと向かった。


「我はこれから異世界へと向かう!向こうでは戦闘になるやもしれぬ!ハルン、イノセリア!我に続き、我を援護せよ!」


「「ハッ!!」」


「カイーツよ!留守を任す!」


「承知したでごしゃりまする!」


  魔王は、転移の間に控えていた団長達へと指示を下すと、転移門の陣の真ん中へと足を踏み入れた。


「それでは麗香よ、行くぞ!」


「えぇ!行きましょう!」


  魔王と麗香の声と同時に、転移門が光出し、転移が開始された。


(どうか義父上達よ…‥……レイカの為にも、無事であってくれ…‥……)

 

(パパ…‥…ママ…‥……待っていてね…‥……)


  魔王と麗香は心の中でそう願った。


  やがて光が収束し、転移が完了した後の転移の間には、魔王達の姿はなくなっていた。

 

【用語解説その19】


古代魔導具(アーティファクト)のランク】

古代魔導具(アーティファクト)には、その威力や希少性、能力によりランクが付けられている。


希少級(レアクラス)

古代魔導具(アーティファクト)の中では比較的に入手しやすいクラス。威力や効果範囲は限られており、使用しようと思えば、一般人でも魔力を流し込めば使用可能。


国宝級(ランドクラス)

軍にも対抗できる程の大規模な威力を持つクラス。使用する魔力も精神力も生半可な者では扱うことは不可能であるため、強力な訓練された者にしか扱えない。


世界級(ワールドクラス)

広範囲に渡り大規模な威力を発揮するクラス。

このクラスになると、魔力や精神力だけではなく、古代魔導具(アーティファクト)自身との親和性が必要となってくる。


伝説級(レジェンダリー)

威力だけではなく、特殊かつ唯一無二の能力を有しており、使い方次第では簡単に国一つに影響を与えることも可能。


神話級(ゴッデス)

神の如き力を有した古代魔導具(アーティファクト)であり、使用には相当の危険が伴う。


創世級(ジェネシス)

あるとされているが、現在は確認されていない。


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