45話 正体を隠す奴は、大体強い
「おい…‥……聞いてんのか?早くそこを退け」
更に威圧的に発せられた言葉に、一瞬呆然としていた金髪達はハッと我に返り改めてフードの男を睨んだ。
「お…‥…おいおい?今の…‥…まさか俺たちに言ってんのか?」
キャップの男が千秋から離れながら、威圧するようにフードの男へと歩み寄っていった。
しかし、その言葉は若干震えており、彼がフードの男を恐れながらも精一杯に虚勢を張っているのが理解できた。
鈴美は金髪に押し倒された状態のままであったが、首だけを動かしてそのキャップの男の姿を見て、彼が恐怖するのも仕方がないと思った。
目の前のフードの男はキャップと比べても頭1つ分高い高身長の上に、その体は服の上から分かる程にガタイが良かったのだ。
若干に肌が見える腕などは、分かりやすく鍛えられた筋肉がついており、明らかに相当な力を持っていることが理解できる。
更に、先程から感じる尋常ではない威圧感から、彼が相当に荒事の場数に慣れているのだと想像することができたのだ。
ハッキリ言って、見た瞬間にフードの男と金髪達の力には圧倒的な差があるのは分かるので、そのフードの男に喰って掛かるキャップの行動は愚かとしか言いようがないが、彼らなりに何らかのプライドがあるのか怯みながらも金髪達はフードの男を囲みはじめた。
「オイ…‥…ここは今シヨーチューだ。さっきのは聞かなかった事にしてやるから回れ右して帰りな!」
「あっ?何、意味分かんねぇこと言ってんだ?いいから、さっさと退けよ。猿が盛るんなら別の所でやれ。通行の邪魔だ」
金髪達に対して臆することなく、逆に挑発するように放ったフードの猿発言に、金髪達は分かりやすい程に顔を真っ赤にしながら怒りはじめた。
「あぁ?テメェ死んだぞ?俺らを猿だと?多少ガタイがいいからって舐めてんなよ!!」
そう言いながらキャップの男がフードの男へと激昂しながら殴り掛かっていった。
「あっ…‥……危ない!」
フードの男へと金髪が向かって行ったために解放された鈴美は、その場に座り込みながらフードの男へと咄嗟に声を発した。
フードの男が殴られる。
そう思ったが…‥……。
『ドサッ!!』
そんな鈍い音を立ててキャップの男が殴る姿勢のまま、前のめりに倒れたのだ。
「「「えっ?」」」
鈴美も千秋も金髪達も、一体何が起きたのか分からなかった。
キャップの男が殴り掛かったかと思えば、そのまま倒れたのだ。
キャップを見れば、運悪く顔から駐車場のアスファルトの地面に倒れたらしく、鼻から大量の鼻血をドクドク流しながら白目を剥いていた。
「たくっ…‥…いきなり殴り掛かってくんなよな…‥…つい『手』が出ちまっただろうが」
すると、フードの男が頭を掻きながら、面倒臭そうにボヤいていた。
「えっ…‥……手を出した?」
鈴美はフードの男の言葉に疑問を覚えた。
フードの男は手を出したと言ったが、彼が何らかの動きをしてキャップを倒したようには見えなかったのだ。
寧ろ、キャップが勝手に転んで倒れたと言った方がまだ自然に感じる程であった。
「なっ?!テ…‥テメェ何しやがった?!」
金髪は激しく取り乱しながらフードの男へと何をしたのか問い詰め出した。
そんな慌てる金髪に対して、フードの男はたった一言で答えた。
「殴った」
「はっ?」
フードの男の言葉に心底理解できないといった様子の金髪に、フードの男は更に分かりやすい形で説明した。
「だから…‥…こうやって」
フードの男は、そう言いながら背後に向けて目にも止まらぬスピードで裏拳を放った。
「グヒュ!?」
その裏拳は、フードの男の背後から迫っていたサングラスの男の顎を的確に捉えて、サングラスの間抜けな叫びと共に、その意識を完全に奪われて、キャップと同じく地面へと倒れ伏してしまった。
「なっ?」
「んな?なっ!なっ?!」
何てことないだろ?といった感じのフードの男の態度に、金髪は驚愕に目を見開きながら後退りした。
「す…‥……すごい…‥……」
それを見ていた鈴美は、素直に称賛の言葉が出てきた。恐らく先程も、自分達が気が付かなかっただけで、キャップの男に対してカウンターで反撃をしていたのだろう。
あまりに一方的な戦い…‥…いや戦いともいえぬ展開に見いっていると…‥……。
「マジ…‥…カッケェ…‥……」
と呟きが聞こえてきた。
見れば、友人の千秋が座り込んだまま、憧憬の籠った熱い眼差しでフードの男を見ていたのだ。
(あっ…‥……チアキもしかして…‥……)
鈴美が千秋の心情を想像していると…‥……。
「テ…‥……テメェ!!マジでぶっ殺してやるからな!!」
金髪の叫びが聞こえてきたので視線を向けると、なんと金髪が懐からナイフを取り出してフードの男へと向けていたのだ。
「なっ!刃物?」
鈴美と千秋は、突然の金髪の凶行に顔を青ざめさせて驚いていたが…‥……。
「オイオイ…‥……それはガキには過ぎた物だなな…‥……洒落になってないぞ?」
と口では言いながらも、フードの男は臆する様子を見せずに心底呆れた様子で金髪を見ていた。
「う…‥ウルセェ!!バカにしやがって!ぶっ殺してやる…‥……ぶっ殺してやるぅ!!」
金髪は叫びながら、ナイフを構えてフードの男へと駆け出して行った。
「なっ!危な…‥……」
千秋が顔を青くしながら叫ぼうとしたが、その叫びを上げる前にフードの男は軽く金髪のナイフを回避すると同時に、金髪の腹部へと拳をめり込ませた。
「ゴブフゥ?!」
金髪はボディに喰らった一撃で膝をついた。
「オゲェ…‥……ゲロハァ…‥……」
金髪は、口から大量の吐瀉物をだしながら痛みに喘いでいたが、やがてよろめきながらもフラフラと立ち上がった。
その顔は痛みによって涙やら鼻水やら涎、脂汗でグチャグチャになっていたが、目はフードの男を鋭く睨んでいた。
「なんだ?まだやるのか?」
フードの呆れたような声に、金髪は歯をギリギリと噛みしめながら、叫んだ。
「ハァ…‥ハァ…‥…ぶっ殺してやるぶっ殺してやるぶっ殺してやるぶっ殺してやるぶっ殺してやるぶっ殺してやるぶっ殺してやるぞおおおおおおおお!!」
完全に錯乱した様子の金髪が、ナイフを高々と掲げながら、フードの男へと飛びかかろうとした。
フードの男も、流石に危機感を覚えたのか、金髪に対して構えを…‥…鈴美達にも理解できる『ボクシング』の構えをとりはじめた。
(そっか…‥……さっきのはボクシングの…‥……てっことは、この人はボクサーなの?)
鈴美がそんな事を考えていると、金髪に動きがあった。
金髪がナイフを掲げたままに、フードへと駆け出しそうになった。
だが…‥……。
「あっ?」
フードの男が何やら呟きながら、金髪の男を…‥……いや、その背後を見ていた。
「あん?」
流石の金髪も、フードの男の奇妙な視線に訝しげに思い、一体何を見ているのか?と振り向こうとしたした瞬間…‥……。
「オイオイ…‥……ガキの喧嘩に道具は無しだろうが?」
そう背後から聞こえると同時に、金髪のナイフを掲げた腕を何者かが掴んで動きを止めてきた。
「なっ!離…‥……」
離せ!と言おうとしたが、金髪は背後にいる者を見た瞬間、戦慄した。
そこにはゴリラが…‥……いや、ゴリラのような顔つきの無精髭を生やした巨漢の大男が金髪の腕を掴んでいたのだ。
ガタイはフードの男よりも一回りもデカク、その眼光は猛禽類の目のように鋭く、最早人間というよりは、人間になり損ねた類人猿といったほうが正しい程のものであった。
「まったく…‥……最近のガキは喧嘩の仕方も知らねえのか…‥……取り敢えず、これは没収だな」
ゴリラはそう言うと、金髪の腕を掴んだ手に力を込めた。
その瞬間、金髪の腕に万力で絞められたような激しい痛みが襲ってきた。
「いてぇぇぇぇぇ!!」
あまりの痛みに、金髪はナイフを手から離して落としてしまった。
その金髪が落としたナイフを、ゴリラは思い切り蹴飛ばして金髪から距離を離した、
「よし…‥…これで道具は無しだな」
「いや…‥…先輩…‥……なんでいるんっすか?」
そんな一人で納得しているゴリラに対し、フードの男が呆れた声で話しかけた。
「うん?いや、追加で酒とツマミを買ってきてもらおうかと思ったんだが…‥……お前、携帯置いていっただろ?だから直接きたんだよ」
ゴリラはポケットからスマホを取り出してフードの男へと投げて渡した。
「あぁ…‥……忘れてたっすね、すいません」
フードは投げらたスマホを片手で受け取りながら、謝罪の言葉を述べた。
「いや、別に構わんよ。そしたら物騒な叫びが聞こえるから来てみれば…‥……ヒーローがピンチのようだから助っ人に参上したんだよ」
ゴリラはフードの後ろに座り込む女子高生二人を見ながら、ニカッと笑顔を見せた。
しかし、本人は恐らく場を和ませようとしたのだろうが、その笑顔は幼子が見れば確実に泣き喚く程の迫力があり、その笑顔を向けらた鈴美達は恐怖で互いに抱き合って震えだした。
「先輩…‥……俺は巻き込まれだけで、別にピンチでもヒーローでもないっすよ…‥…それと、その殺人的な笑顔は止めた方がいいっすよ。この女子高生二人が震えてるっすよ?」
「んな!お前!せっかく助けてやったのに!俺が気にし…「ウルセェ!!この…‥早く手を離しやがれオッサンゴリラがぁ!」て…‥…」
そんな二人のやり取りに、金髪は我慢できずにゴリラの胸元で暴れながら大声で叫んだ。
「とっとと離しやが…‥……」
更に叫びながら暴れようとした金髪であったが、叫び終わるより前に彼の意識は遠退くことになった。
何故ならば…‥……。
「この…‥……俺はまだ20代だぁぁぁ!!!」
と魂の叫びを上げながら振るわれたゴリラの拳によって、駐車場の仕切りの金網へとサッカーのゴールの如くぶっ飛ばされて失神してしまったのだ。
そのぶっ飛ばされた金髪の姿を見た鈴美達は、ゴリラの男が20代であることに驚愕しつつも『絶対にオッサンと呼ばないようにしよう』と胸に固く誓ったのだった。
【紫スーツ伝説:その2】
【駅員:飯沼 研太の証言】
あの日を忘れもしません。その日は、いつものようにホームで乗客の誘導をしていたんですが、突然に「いざ、尋常に勝負」などと聞こえ、見れば女子高生相手に謎の奇抜な紫スーツが飛び掛かっていくじゃありませんか!更に女子高生は「アイツ痴漢なんです!」と叫んでいたことから状況を把握して、もう無我夢中で男を押さえ込みに行ってました。
しかし、痴漢がバレて逆上して襲い掛かるなんて…‥……本当に日本のモラルも地に落ちたものですね。




