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3話 娘の婚約者と飲み交わしました。

よろしくお願いします。

「まぁ、アレだね文房具とは、このボールペンやノートといった、筆記用具やなんかの事だよ」


  現在、私は魔王に対して、片手にボールペンを持ちながら、文房具の講義中であった。


  どうやら彼は、会社員や文房具という単語を知らなかったらしい。必死に考え込んでいたらしいが、結局答えにたどり着かず、恥ずかしながら解答を求めてきたのだ。


  何でも、魔王は力・知識等のあらゆる面で王として相応しき姿を見せなければならないらしい。その為、他者に何かを聞くのはとてつもない恥ずかしい行為とのこと。


  故に先程は、彼なりに羞恥に照れながら、聞いたらしい。


  そうか……私は『照れ』てる相手に死を覚悟したのか……。


  遠い目をしながら、考え込んでいる私の目の前では、魔王が渡したボールペンで紙に色々と書きながら、感嘆の声を上げていた。


「これは……素晴らしい。通常は羽ペンの先に墨や血を浸けてから書くものだが……。

  ペン自体の中に墨が入っているとは、単純だが実に画期的だ!!」


  と、子供のようにハシャイでいる。


  墨は理解できるが、その………血って言ったよな?普通は血で書かないよね?使わないよね?


  せ、せめて人間の……では無いよな?


 ま、まぁ………会社員についても簡単に説明したら「ほぅ……つまりは奴隷のようなもの………なのか?ま、まぁ我は人間の立場等には興味がない故に、気にはしないがな」と気づかわしげに言ってきたから、多分悪い奴ではない………と思う。


 しかし………会社員の説明をしたら奴隷と間違えられるって………。


 き、気にしないようにするか?………しよう………私は社畜ではない筈だ。


「……まぁ取り敢えずゲルクルシュ=アッシュノート=ルルシフェル君、一杯飲まないかい?私は少しばかり喉が乾いてしまってね」


  そう言いながらビールの瓶を持って、2つのグラスへと注ぎ、片方を喉の渇きの原因たる魔王へと勧めてみた。


  魔王は一瞬戸惑いながらも、グラスを受け取り、注がれたビールをマジマジと見ていた。


「それじゃあ……乾杯」


  魔王が持ったままのグラスに、私のグラスをカチンと当てて乾杯をしてから一気にビールを飲み込んだ。


  冷えたビールは体へと染み渡り、乾いた喉を一気に潤してくれた。


  美味い。


  只、その一言に尽きる。


  それに何故か今日のビールは余計に美味く感じる。


  あれかな?死を覚悟した後だから、生きてることに感激して、体が余計に美味く感じる的なやつかな?


  ハハハ!だったら2度と味わいたく無いな!


  そんな事を思いながら、二杯目を注ごうとした時にフッと魔王を見ると、未だにビールの入ったままのグラスを凝視していた。


「……どうしたんだい?飲まないのかい?」


「義父上……未だ愚かな我に教えてくれまいか?この金色の液体は一体なんなのだ?

 辛うじて、飲み物なのは分かるが……。エールのようにも見えるが恐らく違うだろう。

 このように、透き通った泡立つ飲み物を我は知らぬからな………」


  魔王は至って真剣に聞いてきた。


  だって、また例の威圧感が私を襲ってきたのだもの……。


  ハハハ……2杯目も美味いビールが飲めそうだよ……。


「これは……ビールといって、炭酸の入ったお酒だよ。すっきりした味と炭酸の刺激が癖になる酒さ。まぁ取り敢えず、飲んでみればいいさ」


「酒……これが……」


  魔王は再度、ビールを凝視し始めた。

  そんなに珍しいのだろうか?


  というか、さっきの文房具といいビールといい、もしかして麗香曰く異世界は、そんなに文明レベルが高くないのではなかろうか?


  今もやたらとビールを観察しているし。


  と魔王を見ると、若干肩がワナワナと震えている。


  あれ?どうしたんだ?もしかしてビールが気に入らなかったか?と思ったが……。


「ククク……面白い。世界中古今東西の酒を味わい尽くしたと思っていたが、まだ我が知らぬ酒があろうとはな。

 流石は異世界ということか……。

 しかし!!だからと言って美味いとは限らぬ!!異世界の酒が、どれ程のものか……この魔王が見極めてくれようぞ!!!」


  たかがビール相手に、大仰な口上を述べる魔王。そして、手にしたグラスを口へと運び、中のビールを一気に飲み干していった。


 大袈裟な様子だったが………まぁ、良い飲みっぷりだと思おう。


  あっ……そういえば、魔王って顔が骨だけど普通に飲み食いできるんだな。などと一瞬考えた後に、魔王を見てみれば何故かテーブルに肘を付きながら両手で顔を覆っていた。


「ど……どうしたんだい?もしかして口に合わなかったかい?」


 私が慌てて聞くと、魔王は震えた声で答えてきた。


「……小便だ」


「はっ?」


  あっ……やっぱり口に合わなかったのか?

  さっきも色んな酒って言っていたし、きっと高級な酒ばかり飲んでいるのだろう。

  そんな魔王に安酒を飲ませたのは失礼だっただろうか?


 いや、それにしても小便はないんじゃないかな?私が普段、小便で晩酌をしていることになるぞ?なんだその罰ゲームは?


「く……口に合わなかったのなら……」



「我が、これ迄に飲んできたものは……全て馬の小便だ……」


  どうやら美味かったらしい。


  余りの美味さに、ショックを受けて「これ迄飲んでたのは一体……」とか「異世界恐るべし……」とか呟いている。


  美味いと思ってもらえるのは嬉しいが……。


  何か自信喪失している。


  そうか……向こうの酒は馬の小便か… 飲みたくは………無いな……小便は……。


「ち、義父上!!もう一杯頂けるだろうか?」


「あ…あぁ、幾らでも飲みなさい」


  魔王のグラスへとビールを再度、注ぐと一気に飲み干し、再びグラスを差し出してきた。


「もう一杯!!」

「あ…あぁ……」


  普通は、彼氏が父親に注ぐものじゃないのか?と思ったが、何も言うまい。


  下手に虎の尾を踏みたくは無い。


  暫く、この繰り返しが続き、あっという間に瓶に入っていたビールは空となった。


「フゥ……中々に堪能させてもらった」

「それは……良かった……」


  魔王は飲み続けて満足したようだ。


  だが、私は魔王の威圧を受けて、喉がカラカラだ。主に魔王のせいで。


「母さん!ビールもう1本頼む」

「は~い」


  もう1本頼んで、それで喉を潤そう。


  すると視線を感じ、魔王を見れば、目の炎が凛々と燃え盛っていた。


「義父上よ……まさか、先程の至高の神酒が、まだ有るのか!?」


  魔王は身を乗り出し、威圧をしながら問いかけてくる。


  止めてくれ、只でさえ喉がカラカラなんだ。

  それに、ビールを神酒って……。


  ビールが神酒なら、近所のドラッグストアとコンビニで大量に売っているぞ。随分と神の酒が安売りされてるものだ。


「あぁ……まだ、有るから……飲むかい?」

 

  その後、魔王の求めるままにビールを振る舞った結果、冷蔵庫にあったビールは全て魔王の腹の中へと収まってしまう。


 どうしても渇いた喉を潤す為に私は流しへと行き、水道水をグイッと飲んだ。


  その日、飲んだ水道水は、格別に美味く感じた。

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