30話 女帝 VS 愛の狩人
本日2話目です!
「やった……」
確かな手応えの感触が、腕から伝わってくる。
ママ友達5人が、四方から一斉に飛び掛かり女帝を拘束する……。
そして私、リーダーたる野村 蘭々が手刀にて意識を刈り止めをさす……。
如何に女帝といえど、多人数に多方向から攻められれば、成す術はないだろう。
これは対女帝を想定し、打ち合わせ(ママ会)をし、血の滲むような特訓(通信空手)を重ねてきた完璧な作戦だ。
一見多人数で攻める汚い作戦ではあるが、それも全ては【女帝】という巨大な敵を打ち破るという皆の悲願を成就させるためにも仕方のないことであった。
それだけ女帝は強大で恐ろしいのだ。
私が初めて女帝を見たのは2年前……結婚し、この地域に引っ越してきて間もなくだ。
私は愛する夫……ダーリンの為に、夕飯にダーリンが大好きな『豚印の粗びきウインナー』を買うべく、スーパーニコ超!!へと訪れた。その時、丁度タイムセールにてウインナーが出ることを知り、迷うことなく参戦することを決意した。
それもこれも、ダーリンに安く、多く、美味しく、大好きなウインナーを食べてもらいたいという思いから。
初めて挑んだタイムセールは凄まじく、何度か諦め掛けた……しかし、その度に愛するダーリンの顔を思いだし、自らを奮起させてカートへと向かい進んでいった。
そして、ウインナーのあるカート前まで何とかたどり着き、ラスト1個のウインナーにあと僅かで手が届くかと思った瞬間……。
彼女が……女帝が現れた。
一見したら、そうは見えない優しげで、ぼんやりした感じの美しい妙齢の女性であった。
その女帝は何処からともなく突然現れ、なみいる主婦達を易々と打ち倒し、私の横から優雅にして華麗な手つきで最後のウインナーを奪取した後、再び人混みの中へと消えていった…。
後に残されたのは、虚しく空を掴む私の手だけだった。
おかげでその日の夕食には『豚印』ではなく、『マルマルポーク』のウインナーを出すことになり、ダーリンを充分に満足させることができなかった。
後で、ダーリンのウインナーを奪ったのが女帝であることを知り、畏怖と屈辱の念に苛まされたものだ。
その後も、ことあるごとに女帝は私の前に立ちはだかり、タイムセールの品を奪取していった。
その度に、私の中の女帝への復讐の炎は強く、大きく育っていった。
そして……今日のタイムセールにおいて、女帝の伝説に終止符を打つという鈴木さんの提案に皆で乗り……これまでの雪辱を晴らす機会を得たのだ!!
そして……今、私の目の前で……私達の手で……あの女帝を……打ち倒した……。
「フフ……ハハ……アハハハハ!!やった!やったわよ!あの女帝を打ち倒したのよ!やったわ!」
何とあっけないのか。これがあの女帝の最後とは!!あまりにも拍子抜けだ!
「やったわよダーリン!!ダーリンのウインナーの敵をとったわよ!!」
これまでの屈辱を晴らすことができたことと、強大な敵をこの手で打ち倒した充足感で非常に気分が良い!!
「さぁ!後は醤油を確保するだけよ!皆行くわ……?」
だが、醤油を確保するために、ママ友達へと声を掛けた時、何とも言えない違和感に襲われた。
何故、皆は歓喜の声を上げないの?
彼女達は、私と同じく女帝に辛酸を舐めさせられた者達であり、共に復讐を誓った同士である。
そんな彼女達が、女帝を打ち取ったのに、共に歓喜の声を上げないのは余りにもおかしかった。
「皆……どうし!?」
そこで気づいてしまった。
私以外のママ友は、5人で女帝を囲い込む予定であった。しかし、今、女帝を囲んでいるママ友は4人であったのだ。
私は皆の元へと近づき、早急に1人1人の顔を確認した。
「あ……れ?ねぇ?ヒロピーは?ヒロピーがいないんだけど?」
囲いのメンバーで足りない友人のヒロピーが見当たらず、他のメンバーへと行方を確認するも、全く反応がなかった。
「みんな!!何か言ってよ!私をからかってるの!!」
怒気を込めた声で話し掛けるも、反応は伺えない。
「ねぇ、たら!!」
と、1人の肩を掴み揺すった。
すると……。
『ドサッ』『バタッ』『ドタッ』『ゴチン』
と、4人全員がその場へと力なく倒れた。
「なっ!?」
全員が意識を失っていたのだ。
その事実と、最後に倒れたママ友から不味い音が聞こえた事に驚愕し、唖然と立ち尽くしてしまう。
更に、女帝がいるであろう中央を見ると、そこには……。
「ヒ、ヒロピー……」
行方の分からなかったヒロピーが、中央で倒れていたのだ。
「なっ!そ、そんな!じゃあ女帝はどこにいったのよ!!」
辺りを見回すも、女帝の姿を確認することができない。
嘘よ……そんな……作戦は完璧だった!女帝を確実に囲んでいた!!女帝に一撃与えた!!なのに!一体いつから私達は騙されていたのよ!!一体……『トンッ』い……んなっ!!
突然、首筋に衝撃が走り、体から力が抜けてしまい、うつ伏せに倒れてしまった。
「な……に……が……?」
朦朧とする意識の中、何が起きたのか確認すべく必死に首だけを起こすと、いつの間にか目の前には女帝が優しい笑みをしながら立っていたのだ。
「じょ……女帝……」
その姿を見た私は、自分が女帝により攻撃されたのだと知った。
「ランちゃん。囲った所までは中々良かったけれど、止めをさすならしっかりと相手は確認しなきゃ駄目よ?囲いの人を引き込んで、盾兼脱出口にするなんて良くあることよ?」
はっ?今……何て言った?ま、まさか私が止めをさしたと思った相手は……ヒロピーだったってこと?!あの一瞬で入れ替わって、他のメンバーの意識も奪ったというの?!
そ、そんな……それじゃあ私は……。
「わ……私の……ダーリンへの……愛が……届かなかったと……いうの?ダーリン……ごめんなさい……ウインナーの仇……取れなかった……」
余りの悔しさに、視界が滲んでいく。
「愛……ね……」
女帝が蔑む目ような冷たい視線で、私を見下ろしてきた。
「何よ……愛の何か悪いの?!」
私とダーリンの愛を馬鹿にされた気分になり、最後の力を振り絞りって怒声を吐いた。
「悪くわないわ。ただね……高々数年程度のお子ちゃまみたいな恋愛如きで『愛』がどうかと言われたくないわ」
「なっ!お子ちゃま?!」
「そうよ……『愛』を語りたいならば、せめて20年経ってから言ってもらいたいわ。そもそも、結婚3年目如きのルーキーが、30年目の私に愛を語るなんておこがましいわね」
くっ……悔しいが、返す言葉がない。
「それに……あなたはとんでもないミスを犯したわ」
「ミスですって……?一体何を?」
私達の作戦に、どんた穴があったのだろうか?
「あなたは言ったわね?『旦那の前で屈辱を味会わせてあげる』と?」
確かに言った。それこそ最高のシチュエーションだと思ったからだ。
「それが……どうしたの?」
「フフフ……掘れた男の目の前で、無様に敗北した姿を晒そうとする女がいるかしら?」
「!!」
いない……いるわけがない。私だってダーリンにそんな姿は見せたくない……まさか!?
「貴女の最大の敗因は、『私が敗北できない状況をつくってしまった』ことよ?分かったかしら?お嬢ちゃん?」
なんてことだ……屈辱を与えようとした結果、逆に女帝に火をつけることになってしまった。
「くっ…………」
余りの情けなさと、散っていったママ友達への申し訳なさに、言葉すら出なくなる。
そんな倒れる私を背を向け、女帝は悠然と醤油のカートに向かい歩き出した。
「あっ!あともう1つ言い忘れたわね」
だが、何か思い出したのか急に立ち止まり、顔だけを私に向け、優しく微笑み掛けてきた。
「旦那が好きだからってウインナーばかりを買って食べさせちゃ駄目よ?妻なら、作った料理が全て旦那の好物に変わるぐらいに胃袋を掴みなさい」
そう言い残し女帝は再び歩き出して行った。
「ハ……ハハハ……敵わないな……女としても、主婦としても…………」
私はそのまま意識を闇の中へと手放した。
【用語解説:その4】
【称号】
称号は、その者が何らかの偉業を達成するか、周囲の多くの者達により、心から称えられることで得ることができる。称号を得ると、その称号に適した効果を得ることができ、異世界においては称号を得ることは戦いや職に有利に働くことから、皆が率先して得ようとしている。また、称号はその者が衰えたり、相応しくなくなると消えることもある。
また、かなりの異例であるが、生まれながらに称号を有しているものも極希にいるが、原因は定かではない。
称号の会得例
その1:
戦士が100体以上のゴブリンを倒した。
称号【ゴブリンキラー】を得た。
効果:ゴブリンに対してステータスが大幅に上昇。
その2:
「なぁ……佐沼課長の髪の毛……バーコードみたいじゃね?」
「プッ!お、お前……思っても言うなよ!ま、まぁ確かに見えなくもないが……」
称号【バーコード】を得た。
効果:商品のバーコードを見ただけで、何となく値段が分かる。
秋子「あら?これ、値段シールが剥がれてるわね。
いくらかしら?」
健三「……450円」
秋子「何でわかるの?」
健三「さぁ……?」




