2話 娘と婚約者の営みを聞かされました。
よろしくお願いします。
随分と衝撃的な話を聞いてしまった。
特に、娘の性事情については知りたくもなかった。
親としては非常に複雑な心境となる内容である。
てっオイ!魔王!何顔を両手押さえて恥ずかしがっているんだ!可愛くないわ!
恥ずかしがるのは普通は麗香だろ!!
あっ……駄目だ……麗香の顔、何かツヤツヤしている……件の話の時も、妙にイキイキしていたし。
きっと夜の主導権は麗香が握っているのだろう。
既に夫婦間の序列が決定しているのだろう。尻にしかれる魔王………か。
何か麗香の方が魔王に見えてきたな……。
人間と魔王のどちらにも喧嘩吹っ掛けて潰そうとした辺りとか……。
チラリと妻の方を見れば……。
「羨ましいわねぇ」とか「仕事の邪魔をした上に誘拐までされたんだから、その司祭さんから賠償金を結構取れるんじゃないかしら?」
などと呟いている。
駄目だ……我が家の女性陣が強すぎる。
まともなのは長女の絢香だけか……。
何か、もうこの二人の結婚の流れを止めることができそうに無いな。
だが……しかし。
「うむ……出合いについては良く……うん……分かった……(分かりたくないが)。
しかし……聞けば出会ってから結婚を決めるまでの間隔が随分と短過ぎる気がするのだが……。なのに、そんな簡単に一生の事を決めて良いのか?」
話の内容が濃かったから流されがちだったが、良く良く考えれば出会ってから過ごした時間が短かすぎる気がする。
それほど互いの事を知る時間もないように感じる。
いや………かなり濃密な時を過ごしただろう事は理解できた。しかし、それでも互いを知るのには、些かというか……随分と理解しあうには足りない気がする……。
親としては娘には幸せになってほしい。
だから、もう少し時間を置いた方が良いと思う。もしかしたら一時の感情に左右されているのかもしれないからな………。
「何を言ってるのパパ!!良いに決まってるじゃないの!!」
しかし、親の心子知らず、麗香が私に反論してきた。
「私みたいに、がさつで戦闘や他者を嵌めることにしか興味無い女に誰が興味をもつの?!私の本気の拳や技を受け止めて、夜の本気も受け止めてくれる奴が何処にいるの?!傭兵最強と言われたアンダーソンだって、私の拳一発で失神したのよ!自身喪失して田舎のアイダホに農家になるって帰っちゃったわよ!そんな私に釣り合う雄が人間にいるわけないでしょう!彼以外に、誰が私を受け止められるというの!?それに………私達は、もう互いを深く分かり合っているのよ!!」
前言撤回。
麗香は私が考えている以上に自分の事を理解しているらしい。
確かに、紛争地帯に嬉々として飛び込む女を、誰が好き好んで付き合うというんだろう。
というかアンダーソン。見ず知らずの方だが、心から謝罪します。
娘がすみません。
「義父上……我からも頼む。
我が三百年の孤独ともいうべき生の中で、彼女程の輝きを持つ者に出会ったことは無い。
嫌……これからも無いであろう。あれほどの衝撃と刺激を与えてくれる者を、彼女以外に知らぬのだ!
故に、ここで彼女を諦めるという選択肢は我には無いのだ!!
もし義父上が望むのならば、魔王の座も喜んで捨てようぞ!!」
魔王も眼の炎を凛々と輝かせながら語ってくる。
フム……この二人は本当に愛し合っているらしい。
魔王からも本気が伝わってくる。
彼は本気で魔王の座も辞する覚悟のようだ。
後、何気に分かった事実だが、やはり魔王は私よりも年上だったらしい。
というか、この世界の誰よりも年上だろう。 間違いない、てか300歳って何だよ。
年の差婚にも程があるだろう?
この事実を知って、今後私は彼と、どう接していけばよいのだろうか……。
某お笑い年配芸人と結婚した、娘さんの父親以上の驚きだ。
「ゲ……魔王くん……」
「レイカ……後、そろそろ我の名を……」
麗香よ……さっき「分かり合ってる」と言っていたがお前 、彼の名前も覚えていないじゃないか。
そこは名を呼ぶ所だろうが………。
見ろ!魔王の眼から輝きが消えているぞ?
「お父さん。私からもお願いします。
二人は本当に愛し合っているようだし、若い二人を年寄りが邪魔するのは無粋じゃないかしら?
それに、こんな玉の……良い縁談断るのは、もったいないじゃない?」
妻よ……色々と本音が漏れているぞ。
「そうか……麗香とゲルクルシュ=アッシュノート=ルルシフェル君の二人の気持ちは良く分かった。
しかし、互いに出会って余り時間が経っていないのは事実だ。
ここは結婚を前提として考えてみた上で、もう少し互いを知り合ってからの方が良いのではないか?」
ここまで本気で愛し合っているのであれば、結婚を否定するのも無粋というものだ。
と言うか止めれそうに無い。
最早、私では獅子(娘)と魔王(義息子)の婚約を止めるという選択肢は無かった。
しかし、やはり互いにもう少し知り合った方が良いのでは無いだろうか?というのが、少なからずの親心である。
「そうね……パパの言う通りかも」
すると意外にも麗香が賛成の意を示した。
この子の性格だったら、もうちょっと反抗すると思ったんだかね……
「良く考えれば私、魔王くんの事は役職と戦い方と性癖しか知らなかったわ」
またもや爆弾発言。
麗香は本当に彼のことを、本当に何も知らなかったらしい。
普通は付き合ってから互いの事を知り合うと思うんだが、麗香は一番最初と最後に知るべき名前(前)と性癖(後)しか知らないとは……。
てか魔王の性癖って何だよ?
「レ……レイカ?あの夜に我の事は話したではないか!!」
「えっ?あれ話してたの?喘いでんのかと思った。それに私、腰振るの夢中だったし」
麗香よ……何故、そうも平気そうに夜の営みを親の前で話せるのだ……。
だから魔王。何故貴様が恥ずかしがるんだ。
角まで真っ赤に……いや、それ耳的なものなのだろうか?
「そうね……何も知らないってのは確かに問題だわ。特に年しゅ……相手の性格とか生活も知らないと、後で後悔するかもしれないし。 お父さんも少しは言うじゃない」
妻よ……さっきからチョイチョイ本音が漏れているぞ。
しかし……私の妻はこんなに腹が黒かっただろうか?
「うん……分かった。暫くは付き合ってみてから互いを理解してこうと思う。 それでいいよね魔王くん?」
「ウム。御両親がそう言うのであれば、それに従おうぞ。
我も交際してからと言う話には納得がいく。後、堆に我を名で呼ばなく……いや良い」
どうやら二人も納得してくれたらしい。
そして魔王も諦めの境地に達したらしい。
「それでは、まず結婚を前提とした交際をしてから……ということで良いな?」
私の言葉に二人?は頷き肯定を示した。
取り敢えずは、暫くは様子見ということに落ち着いたようだ。
「それじゃあ話も決まったし。堅苦しいのは抜きにして、御飯にしましょう?
お母さん今日は頑張ったんだから」
「あっ!じゃあ私も手伝うわよママ!」
「そう?お願いしようかしら?まだ仕度しなきゃいけない物もあるけど、大丈夫?」
「任せて!向こう(紛争地帯)でも料理をしたりしてたし、ナイフの扱いには自信があるの!皆、私の料理を食べて泣いて喜んでたわ」
「フフフ。あなたも頼りになるようになったわね」
などと話ながら、二人は流しに消えていった。
何故だろう……娘の発言が全く信用出来ないのは、私だけだろうか?
ナイフの使い方………って食材相手だろうね?そうだと言ってくれ。
後、自然と私と魔王だけが場に残されてしまった。
「………………」
「………………」
空気が重い。何か話して場を和ませたいが、生憎、私はそこまで話上手ではない。
まして、魔王と何を話せばいいんだ?
天気か?趣味か? 流行りか?
そもそも魔王に晴れを「いい天気だね」って言って良いのか?魔王って何か、暗い曇天とか雷雲のイメージがあるから、曇りとかの方が好きそうだし。
趣味は……駄目だ!
魔王の趣味って暗く、残酷なイメージしか思いつかない!!
拷問とか………略奪とか………。
流行りは……悪魔の流行りって何だ?
想像もつかない。
駄目だ!どれも正解が見えない!
「……ところで義父上は……普段は、どのような お仕事をされているんでしょうか?」
悩んでいると、まさかの魔王から質問が来た。
「仕事は……会社員で、文房具関係の会社で営業をしているよ」
いきなり聞かれたので、普通に返したが、これで良かったのだろうか?
見れば、魔王が難しそうな顔?をしている。
骨の顔だから、よく分からないが多分、そんな顔だ。
もしかして、ただの会社員が魔王の義理の父親になるのが気に食わない、とか思っているんじゃないだろうか?
いや……ありえる。
麗香がアレだから、父親の私はアレ以上と思っていたんじゃなかろうか?
筋肉ムキムキの戦闘民族をイメージしていたのではないだろうか?
確か昔、麗香が高校生の時は、一時期……。
「麗香の親父はヤ〇ザの親分」という噂が流れたらしい。
お陰で一時期は、麗香の同級生には頭を下げられたり、麗香の明らかな不良少年の舎弟達に「おっかれしゃーす!!」って街中で挨拶されたりしたなぁ。
周りの人にドン引きされたなぁ………。
などと過去の黒歴史の思い出に浸っていると、魔王が声を掛けてきた。
「義父上よ……我は今の父上の答えに、一つ聞いておかなければならない事がある」
魔王が何やら、意味深な態度で、私に語り掛けてくる。
その雰囲気は、正に魔王と言うべき圧倒的な圧力が伝わってくる。実際に魔王からは、何か黒いオーラが漏れていた。
何か背後から、影のようなものが燃え上がるように立ち上っている。
心なしか、魔王の背後に『ゴゴゴ』という擬音が聞こえてきそうだ。
ゴクリと唾を飲み込んだ。
酷く喉が乾き、息が詰まる。
流石は魔王……睨んでくるだけで、この圧力とは……。
しかし、やはり只の会社員だったのが気に食わなかったのだろうか?
「義父上……」
ゴクリ……私は本能的に死を覚悟し始めた。
「カイシャインとブンボウグとは何か?」
「お父さ~ん。支度に、もう少し掛かるから二人で先に飲んでて~」
静まった空気を破り、妻がビールとグラスを二つ持ってきてくれた。
「取り敢えず……飲もうか……」
「ウム」
今は無駄に乾いた喉を、潤すことを優先しようと考えた。
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