20話 楽園って壊される為にありませんか?
いつも、ご愛読ありがとうございます!
ご感想お待ちしています。
「まさか……5万円分も食べるとは……」
「め、面目ありませ……ブフッ!」
ヨロヨロとよろけながら、口元を手で抑えて私の隣を歩くハルン君。
「此処で吐かないでくれよ……」
会社が終わった後、『喫茶 髭男爵』へとハルン君を迎えに行った私は、そこで散々に食べ過ぎて食い潰れるハルン君と、5万円を越える領収書を手にしたマスターと対面する羽目になった。
何でも、マスターが薦めてきたものを際限なく注文し続け、結果的には店で出される食事系のメニュー全てを踏破するという、何チャレンジだ?という荒行を成し遂げてしまったという。
しかも、あのマスター…高い順に薦めていっていたらしく、最後にはライス(小)まで単品で頼ませるという徹底振りだったらしい。
マスター…がめつ過ぎるだろ?今後、あそこに行くの控えるかな?
結局、全てを律儀に食べ終えたハルン君は、やはりというか想像していた通り、金銭を持っておらず、私が立て替えることになってしまった。
後で、確実に魔王君から返してもらおうと誓いながら、財布の中に店の領収書があることを確認する。
「何も薦められたからって、全て食べなくてもいいのに……」
「も、申し訳ありません……あまりの美食の数々に夢中になってしまいまして……薦められるがままに……」
申し訳無さそうに項垂れるハルン君。
「美食の数々って…確かにあそこは結構美味いとは思うけど……そこまで言うほどかな?」
元々あそこはコーヒー等の方がメインであり、たしかに美味いと言えば美味いが、食事メニューはそこまで力を入れていない筈である。
「何を仰いますか?あそこの皿の一品一品が素晴らしい出来映えのものでした!!
魔王城の宮廷料理ですら、あれらに比べたら馬の餌……いえ、馬糞ですね!!」
なんだろうか?魔王君といい彼といい……。
不味い料理を馬の排泄物に例えなければならない掟でもあるのだろうか?
「特に…タコヤキなる一品…あれは至高でした」
たこ焼きの味を思いだしたのか、涎を垂らしながら悦に入りはじめたハルン君。
うん。それ、冷凍食品だからね?
君の至高の一品は、スーパーの冷凍品売り場に大量に置いてあるからね。
真の至高の一品を求める例の漫画の方が知ったら「愚か者ぉ!!」と怒鳴られそうだね。
「うん…それは良かったね…ただ、この支払いした分はちゃんと返してもらえるよね?」
「そ……それは大丈夫です!」
支払わらなければ非常に困る。
私の持ち金では足りなかったので、急ぎ会社へと戻り部長と恵美君に頭を下げて、足りない分を貸してもらっているので、必ず返してもらわなければならない。
だが、そのお金を借りる際に……。
「課長…私でよければ幾らでも貸します!ですから……悩みがあるなら言ってください!」
「佐沼君……上司として…いや、1人の友人として言わせてくれ……君がどんな状況にあるか想像もつかないが……付き合う人間はよく選びたまえ!なんなら相談にものるぞ!」
と、私がよからぬ人間と付き合って借金をしていると思われ、部長達に在らぬ誤解を与えてしまっていた。
彼とは何でも無いと説明をしても、腫れ物を扱うような丁寧な対応をされてしまった。
これは、あれだな……言い訳すればするほど深みにはまるやつ……。
私は途中で説明を諦めて……。
「善処します……」
と言って、早足に会社から逃げてきたのだ。
はぁ……明日から、どんな顔で会社に行けばいいんだろうか?絶対に変な噂が流れているよな?あぁ……退社する際に恵美君や部長が、もの悲しい目で私を見ていたな……。
「ケンゾウ様……顔色が優れませんが……大丈夫でしょうか?何かお悩みでも?」
悩みそのものが、横から心配そうに語りかけてくる。
ここで…『悩みはお前だよ!』などと言えれば少しはスッキリするだろうが、私にはそこまでの度胸はないので……。
「いや……大丈夫だよ……」
と、誤魔化すのが精一杯である。
「本当に大丈夫でしょうか?何やら思い詰めているようですが?」
「大丈夫さ……ちょっと気分が優れないだけさ、もう家に着くし、帰って胃腸薬を飲んで休めば治るだろう」
ついでに今、私達は我が家のある住宅街の道路を歩いている。
どうやって此処まで帰ってきたかって?
簡単さ。私が先に電車で駅まで来て、その後にハルン君が会社まで転移?だっけか?した方法と同じやり方で私の所まできたのさ。
要は電車にしがみ付いてから、転移したらしい。
途中で胃の内容物を3分の1ほど吐き出して電車の屋根を汚したらしいが……私に実害は無かったので聞かなかったことにしよう。
などと考えていたら、私が家の玄関が見えてきた。
「ほら、着いたよ。此処が私の家だよ」
「おぉ……このウサ……ゴホン!!こちらの邸宅がケンゾウ様の……いやぁ素晴らしき御殿ですな!」
気のせいか、今失礼な事を言いかけなかっただろうか?
後、取って付けたようなおべっかはいらないよ。
ごく普通の庭付き一戸建て(築25年)だから。
「まぁ……誉めてくれて有り難う……取り敢えず中に入ろうか?」
「はっ!!」
そういえば、ハルン君……お客さんが来ることを妻に言っていなかったが……まぁ大丈夫か?
「ただいまぁ」
少し不安を抱えながらも、扉を開けて帰宅の挨拶をすると、奥からパタパタと、スリッパで歩く足音が聞こえてくる。
「おかえりなさい!今日は早かったわね……ってお客さん?」
出迎えをしながら、私の隣にいるハルン君を訝しげな目で見る妻。
「あぁ……彼は「お、お初に御目に掛かります!!私、魔王軍が四天王ガルハダ様が側近!魔人部隊師団長ハルン=ルーンと申します!!この度は、魔王様が妃であるレイカ様の御母上にお会いでき大変光栄でございます!!……ふへ?」
ハルン君を紹介しようとしたら、横からもの凄い勢いで自己紹介をした上に、妻に向かって跪ずいてしまった。
あぁ……そういえば、彼は最初から妻を恐れている節があったからな。失礼が無いように礼儀正しくしているのか。
しかし……跪ずくのはやり過ぎな気が……。
「まお……?……あぁ!?魔王さんの所の方?ボロボロの格好だから、何処の浮浪者を連れてきたのかと思ったわ。ご丁寧に挨拶有り難うございます。此方こそ麗香が大変オセワニなっています。それと……ハルンさん?頭を上げてください。そんな所で膝を付いたらズボンが汚れますよ?」
当の妻は、ごく普通に挨拶を返していた。
うん、確かに服がボロボロだから見えなくもないが……そういうのは思っても言わない方がいいんじゃないか?
「はっ!それでは!」
ハルン君は妻の許可をもらい、ゆっくりとその場に立ち上がった。
「それで……魔王さんの所の方がどうしたのかしら?何かご用事?」
「あぁ……それなんだが……」
私は取り敢えずその場で、本日ハルン君が来た目的を妻に説明することにした。
◇◇◇
「という事は、いつでも麗香達に会えるようになる訳ね!」
ところ変わって居間において、ハルン君から説明を受けた妻が喜びの声を上げていた。
「おおまかに言えばその通りです。
後は、マーキング……転移門を設置すれば良いだけですが」
「テンイモンとかは良くわからけれど、それで麗香に会えるなら付けてもいいわよ。
あっ!そのテンイモンの設置に費用とか懸かるのかしら?」
「いえ、費用は一切懸かりません」
「なら、いいわぁ」
まるで、新たに家にインターネットの回線何かを取り付けるのを許すが如く許可を出す我が妻と、セールスマンのような話振りのハルン君。
とても悪魔が転移門を設置する話をしているようには見えないな。
「それでは早速転移門の設置に移りたいと思います。では……転移門を設置できるような部屋はありますか?」
「部屋?」
「はい。転移門は約2メートルほどの魔法陣を地面に書かなければなりません。また、風化や巻き込み防止を考えれば、屋内の密室が適しています」
そうか……部屋を使うのか。
まいったな、我が家にそんな空いてる部屋なんて……。
「お父さんの、書斎でいいんじゃないかしら?」
「ほへ?」
いきなり横から爆弾を放つ我が妻。
「い、いや……あそこは……」
「いいじゃない。お父さん使っていない部屋なんだし」
冗談では無い!あそこは今こそ使っていないが、将来退職した時、ゆっくり趣味や読書を楽しもうと色々と集めてコツコツと作り上げている私の楽園!!
そう易々と渡してなるものか!?絶対に説得する!守るぞ楽園を!!
「い、いや母さん……あそこは、私が読書やなんかを……」
「あら?お父さんが読書をしている所なんて見たことがないけども?」
「そ、それは……」
「大概休みの日は寝ているか、洗車をしているじゃありませんか?」
「い、いや……その……」
「使わない事で部屋を無駄にするよりも、いつでも娘に会えるようにできるシステムを取り入れてもらった方が、お父さんも嬉しいでしょう?」
「あ、あの……」
「ね?お・と・う・さ・ん?」
「はい……」
楽園陥落。
残念ながら私の力では楽園を、迫りくる悪魔から守ることはできなかった。
さらば……我が第二の人生よ。
「それではハルンさん。書斎に案内しますから、その何とかの設置をお願いします」
「はっ!心得ました!!」
そして妻は、打ちひしがれる私を居間に残し、ハルン君を連れて二階の書斎……いや、最早元書斎に向かっていくのだった。
警備員 村松 進一
Lv:32
称号:【警備主任】【守護者】【家族想い】
【大黒柱】【ヤサシキモノ】
HP:520
MP:150
攻撃力【物理】:65
防御力【物理】:82
攻撃力【魔法】:30
防御力【魔法】:30
素早さ:70
知識:320
運勢:65
装備品:【警備員用制服】【警棒】【妻の御守り】




