19話 弱っているときが狙い時
すみません、少し遅くなりました!
急ぎエレベーターへと乗り、一階の受付を目指す。
部長から聞いた、アレだけの特徴……。
私の知っている者の中で、それほどの奇抜な格好をしたものは1人しか知らない。
それも、今朝方に私の頭の中の知り合いリストに更新されたばかりで、先程まで頭を悩ませていた中心人物……。
ハルン=ルーン君……。
駅員達に捕まった筈の彼が何故ここに?
もしや示談が成立して解放されたのか?
『チーン』
おっと?色々と考えていたら、一階についたらしい。
取り敢えず、彼に会わねば。
エレベーターの扉が左右に開き、目の前に一階のロビーとその奥にある受付が……。
「は、は、離したまえ!私はケンゾウ様に要件があるだけなのです!」
「だから間もなく来るからここで待っていてください!!」
「待てるものか!貴様のその服装……色は違えど、あのアマゾネス共が呼んだ者達に似ている……さては追っ手だろう!?そんな者達がいる場所で待つことなどできるかぁ!!」
「何言ってるんだコノ紫ロン毛!?とにかく大人しくしろぉ!」
「えぇい!離せ!!」
「ふごぉ!?」
「「村松警備主任(72)!!」」
「ハハハ!私の邪魔をするからそ……」
「てめぇ!よくもムラさんぉぉぉぉ!!」
「奥さんを介護しながら働いている俺ら警備部のオヤジをよくもぉぉぉ!!いてこましたれぇぇぇぇ!!!」
「あっ!待て!待ってくれ!悪かった!だから、その黒い棒はしまおう!武器は卑……」
「「「うるせぇぇぇぇ!!」」」
「ギャアァァァ!ま、魔王様万歳ぃぃ!!」
ハルン君と警備員達による修羅場が繰り広げられていた。
◇◇◇
「大丈夫かい?」
「は、はひ……何とか……」
見た目、大丈夫じゃないよな。
顔がボコボコだし、紫スーツはボロボロだし、角は……片方折れてるな……大丈夫なのかこれ?治るのか?
「マスター、コーヒー2つ」
「うむ……」
私達は今、昼休みを利用し、私の会社から程近い行き付けの喫茶店『髭男爵』に入り話しをしていた。
アンティーク家具に囲まれたレトロな雰囲気が気に入っている隠れ家的な店で、流れているジャズ音楽も落ち着く。何よりコーヒーやランチが周囲の店よりも幾分も旨いので昔から贔屓にしているのだ。
ただ、店のマスターだけは、喫茶店のマスターというよりは……古代中国の仙人か?という程の長く白い顎髭を生やした風貌だが…まぁ、もう慣れたものだ。
「ケ、ケンゾウ様……ご迷惑をお掛けして申し訳ありません……後、助けていただき真に有難う御座います」
あのロビーで繰り広げられ戦いの際、私はハルン君と警備員達の間に割って入り戦いを止めた。
その後、目覚めたムラさんと知り合いだった私はハルン君共々に頭を下げて謝罪することで、なんとか警備員達の溜飲を下げることができた。
「まぁ若いうちゃあ色々あるさ」
と、最後にムラさんが年長者らしい寛容さで、ハルン君(恐らくハルン君の方が年上)を許してくれたので本当に良かった。
ただ、若い警備員の人達は、最後までハルン君を親の仇の如く睨んでいたが……。
ムラさん面倒見が良いから、やたらと慕われているんだよね……。
「そのことは……終わったことだし、もういいよ。それよりも…痴漢…の疑いの方はどうなったんだい?ここに居るってことは…話し合いが済んだとか?」
「逃げて来ました」
「はっ?」
「逃げて来ました」
逃げてきた?いや…痴漢に疑われたら、まず逃げろといわれているから冤罪であるならば判断は正しいが…だが、私が最後に見たときには、ハルン君は数人の駅員と有志による乗客達により取り押さえられていた筈……。
どうやって、あの包囲網を潜り抜けたのだろうか?
「……よく逃げられたね」
私の言葉に、ハルン君は苦渋に満ちた顔をしながら、吐き出すように語り始めた。
「はい……私もかなりギリギリでした……。
あの後、アマゾネス達から鉄の箱馬車(電車)の外へと先導され、いざ決闘!……かと思ったのですが……あろうことか、あのアマゾネス共は大声で叫んで仲間を呼んだのですぞ!先程の妙な帽子……確かエル=ムーも同じような物を被っていたような?……まぁいいです、とにかく、妙な帽子と同じような服を揃いで着た者達…恐らく、この国の衛兵に囲まれ、組付されてしまいました」
ここまでは私も窓から見ていた通りだな。
それにしても……まぁ……確かに駅員と警備員の方々の服は、似ていると言えば似ているからな。
だからムラさん達に対して、あそこまで忌避間を出していたのか……それに、あながち衛兵というのも間違っていないか?
「その後、両脇を屈強な衛兵に掴まれながら個室に連行され、その個室において衛兵の長とおぼしき者と、アマゾネス共に囲まれながら『コウゼンワイセツ』やら『メイワクボウシジョウレイイハン』やら『ケイジバツ』やら『ジダンキン』などと意味の分からない呪詛を吐かれました……あれは恐らく……アマゾネスに伝わる禁断の呪術か何かでしょう…実際に気分が段々と悪くなりましたから」
……あまり深く説明しないでおこう。
ただ言えるのは、彼はリーチ手前とかでは無く、既にアウトの状態だったということか。
「で……どうしたんだい?」
「はい……暫く私が抵抗していたら『これはもうケーサツを呼ぼう』などと言って手元にある黒い板に目を移し、操作し始めたので……その一瞬の隙をついて扉から飛び出し逃亡を図りました。やつら……恐らくあの黒い板を使い、『ケーサツ』なる召喚獣を呼び出すつもりだったのでしょう……。
『ケーサツ』なる名は聞いたことはありませんが……私の相手をさせる程ですから恐らく上位の魔獣……または神獣などの強大な力を持ったものでしょう」
ケーサツ……そうか、警察を呼ばれる寸前だったか……魔獣だか神獣といったものは、よく分からないが、確かに強大な力は持っているだろうな。
『国家権力』という力を……。
「それで……?」
「はい。もと来た道を戻り、鉄の箱馬車が集まりし場所まで戻った後……」
「戻った後?」
「迫る追っ手から逃れるべく」
「逃れるべく?」
「走り出した鉄の箱馬車の体に掴まり」
「掴ま………………はっ?」
「その速度を利用し、事前に感知したケンゾウ様の元まで【高速転移】しました。
まぁ、急でしたので多少の転移先のズレがあり、そのせいであのような事態になってしまいましたが…」
……彼……何をそんなアクション映画ばりのことをやっているんだ?
「……随分と無茶したんだね」
「本当に……追っ手がヤバかったですから」
彼も相当にギリギリだったらしい。
確かに、何も知らぬ異世界に来て痴漢の冤罪を掛けられて追いかけ回されれば、多少の無茶はするか。
「うん……もうアレだね……とにかくお疲れ様だね。やってもいないことで疑われて…大変だったね」
「労いの言葉…感謝いたします。ただ…冷静に良く考えると、確かにあの時…左手が何か柔らかな物に触れた気がしますね……」
冤罪じゃないじゃないか!しっかり触れてるじゃないか!
……ん、ま、まぁ今回は事故でいいか。
……いいよね?
「で……この後はどうする?私はまだ仕事があるんだが……」
「……本当は、こちらの世界で見聞を広げたかったのですが……先程の件が思い出され…その……余りにも恐ろしくて動きたくないですね……」
だろうな。
いきなりの異世界で、あんな濃い体験したら誰だって動きたくないよ。
しかし、悪魔が恐れるとは……今の所私達の世界は、リカム君といい彼といい……順調に魔王軍幹部にトラウマを与えているな。
「しかし……会社に連れてもいけないし(また、ムラさん達と問題を起こしそう)なぁ…」
「ならば此処にいるがよい」
「えっ?」
誰か!?と振り向くと、あの仙人マスター(長いので以後仙マス)がコーヒーを片手に持って私達のテーブルの前にいた。
「ご老人……良いのか?」
ハルン君が上目遣いでマスターにすがるように呟いた。
「良いと言っている……人の出会いは一期一会なり、なれば此処でそなたと出会ったのも何かの縁……客人の要望に答えるのもマスターの役目なり……何があったか知らぬが、ゆっくり休んでいくと良い」
カタリと、持っていたコーヒーをハルン君の前へと置くマスター。
「ご老人……礼を言う」
「礼など要らぬ……悩める者を救うもマスターたる者の運命……それでも礼をするならば、注文をせよ。今日のオススメはデミグラスハンバーグのランチセットなり」
「!!……あぁ!!」
!!……あぁ!!……じょねーよ!!
何でちゃっかり注文取ろうとしているんだ仙マス!!ハルン君もお金有るの?大丈夫なの?注文しないよね?
しかも今日のオススメって1600円って一番高いやつじゃないか!マスター!あんたいつから、そんなにガメツクなったの?
「では……そのランチとやらを頂こう……」
「承知した…後、そのコーヒーはサービスだ」
「!!……マスター!!」
サービスも糞も、最初にコーヒーを頼んだ筈だが?それに私のは?ねぇ仙マス!!
ハルン君もハルン君で普通にランチ頼むなよな!!
「それでは……ケンゾウ様……私はこのご老人の店にて、お帰りをお待ちしております」
「いってくるがいい……こやつの責任は、儂が持とう……心配せずに、会社へと向かうが良いぞ」
そう言われ、仙マスの細腕に押されるがままに店の外へと出される。
「アディオス……企業戦士」
チリンチリンと扉に付けられた鈴が音を残し、扉はバタンと閉められてしまった。
『それで……悩める者よ……このパフェもオススメだが?』
『それでは……それも』
『承知した』
中からは、微かに注文を追加する二人の会話が聞こえてきた。
取り残された私は、仕方なく心配ながらも会社へと向かうことにした。
そして……考えた。
「一番……食い物にされてるな……」
人は心が弱った時、優しくされると、気づかずに何でも受け入れてしまう。
例え……それが、甘い甘い罠だとしても……。
そんな人間の醜さを垣間見た昼下がりだった。
喫茶店マスター 遠藤 仙座江門
Lv:110
称号:【マスター】【オーナー】【料理人】
【遠藤流柔術第12代当主】【守銭奴】【守護者】
HP:2200
MP:800
攻撃力【物理】:440
防御力【物理】:480
攻撃力【魔法】:400
防御力【魔法】:420
素早さ:700
知識:900
運勢:450
装備:【漆黒の蝶ネクタイ】【シルクのベスト】
【漆黒のスラックス】【ゴレックスの時計】
加護:【豆の神の加護】




