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1話 娘が婚約者を紹介してくれるそうです。

よろしくお願いします。

「レイカよ。この我の目の前にある緑色に濁った液体は一体なんだ?何かの魔術媒体か何かか?」


「緑茶よ。飲み物よ」


  今私の目の前では1人と1体?が仲睦まじく妻が出した緑茶を啜っていた。


  1人というのは勿論娘の麗香だ。


  黒髪の短髪に、140㎝程の小柄の身長で華奢な身体。顔付きや目付きから、猫をイメージするような愛らしさがある。


  親の私の目から見ても、アイドルでもおかしくない程の可愛いらしさがあり、とても傭兵をやっているとは信じられないだろう。


  …………中身は猫では無く獅子だが。


  そんな娘の隣には、婚約者という名の謎の異形が当たり前のように座っている。


  山羊の骨のような顔をし、コウモリに似た巨大な翼が背から生えている。異常に長く、引き締まった腕をしており、爪も負けじと鋭く長い。一見して質の良さそうな闇夜のように真っ黒で、無駄に長いローブを全身に羽織っている。首や指などの至るところには様々な貴金属の宝飾品を身に付けており、一目でかなり高額なことが分かる。


  ただ………そのデザインが骸骨だったり、苦悶を浮かべた人間の顔だったりと………かなり悪趣味だ。


  だが、それを身に付けるのがこの存在であるば納得だ。


  その存在………本人曰く、『魔王』と称する者が、目の前で私と対峙し黒い眼窩の奥にある炎の様に揺らめく紅い眼で此方を見ていた。


「ごめんなさいねぇゲ……魔王くん。こんな粗茶しかなくて」


「お気になさらないで下さい義母上よ。

 寧ろ素朴だが何やら落ち着く良い香りがして美味しく頂いております。

  後、我の名はゲルクルシュ=アッシュノート=ルルシフェルです」


「私も久しぶりにお茶を飲んだわぁ。あーおいしいし落ち着くわぁ。ゲ……魔王くんの口にも合って良かったわ」


「うむ。異界の飲み物に些か戸惑ったが、味わえば中々に良いものだなこれは。後、我の名はゲルクルシュ=アッシュノート=ルルシフェルだレイカよ。 いい加減覚えてくれぬか?」


  人間とかけ離れた明らかな異形が、娘達と楽しげに会話をしている。

 

  私はその会話を、腕を組みながら静かに聞いていた。


  というより聞いているしかできない。

 

  何だこれは?何故この二人は落ち着いていられるのだろうか?


  魔王だぞ?魔王なんだぞ?


  悪魔の王様だぞ?ある意味、世界で一番の不審者なんだぞ?


  それが今、我が家の居間で茶を啜っている。 しかも娘の婚約者ときたものだ。


  娘よ……一体この異形の何処に惹かれたのだ?


  娘の趣味思考が全く理解することができない。


  最初、玄関で奴を見た時は混乱の余り、茫然自失して立ち尽くしてしまった。


  そんな私を置いて妻は「まぁまぁ大きい方ね」で済まし、普通に魔王を居間に通してしまった。


  妻よ……大きい以外に指摘すべき所が数多くあるだろうが……。


  女は強い………………では済まないぞ?


  などと考えていたら……。


「ところで魔王くんは一体どんなご職業に就いているのかしら?」


  いきなり妻が魔王に対して職業について聞き始めた。


  いや。普通に魔王じゃないのか?


  さっきから本名覚えきれないからって呼んでるが、魔王ってのは名前じゃなくてある種の役職だぞ妻よ!!


「職業……職業というか我は全ての魔族を統べし者……つまり魔の王として魔界の頂点に君臨せし者である。

  後、義母上……我の名はゲルクルシュ=アッシュノート=ルルシフェルである」


  ホラ!やっぱりそうじゃないか妻よ!

  魔王も一瞬何を言われたのか分からない………といった顔をしていたじゃないか。


「まぁまぁ。統べるってことは、ゲ……魔王くんは何処かの会社の社長さん?

  麗香ちゃん凄いわね、玉の輿じゃない~!

  お母さん嬉しいわぁ~」


「いや……義母上……社長なるものが良く分からぬが、恐らく意味合いが違うかと……

  後、我の名はゲルクルシュ=アッシュノート=ルルシフェルである、さっきより諦めるのが早くなっているのでは……」


  妻よ……魔王が酷く困惑しているぞ……

  それに妻の言い分を聞いたら、全ての会社経営者は魔王になるぞ。


  どんだけ魔王が乱立した世の中になっているんだよ。嫌な世界だな。


「そうよママ!ゲロ……魔王くんは社長なんかじゃないわ!そんなのよりずっと上よ!!」


「レイカ……後、我の名はゲルクルシュ=アッシュノート=ルルシフェルだ……」


  そこで麗香が助け船を出した。

  というか麗香よ、婚約者の名前くらい覚えなさい。ちょっと長いが………覚えられなくはないだろう?


 ほら……… 魔王の眼が困惑から悲しみに変わっているのが眼に見えてわかるぞ。


  紅い炎が青くなってるぞ?


「もっと上の職業……もしかして政治家?」


「正解」


  それも違うと思うぞ妻よ娘よ!

  魔王だぞ?!王だぞ?!

  辞書をしらべろ!国を統治する一国の頂点だぞ!!政治家とは違うだろ!

  ホラ!魔王が何か遠い目からをしながら諦めの境地に達しているぞ!

  何か「もういいや……」とか聞こえそうだ!


「まあ!立派なご職業ね!お母さん鼻が高いわ!」


「えへへ!でしょ?」


  妻と娘の間では既に魔王=政治家でけりがついたらしい。


  横では魔王が無言で茶を啜っている。

 

「……ところで麗香。

  彼……ゲルクルシュ=アッシュノート=ルルシフェル君とは何処で知り合ったんだい?」


  流石に何時までも無言で腕組んでいる訳にもいかない。何より魔王が何か可哀想になってきた。魔王が可哀想………というのも我ながらどうかと思うが………取り敢えず、気になった質問を聞いてみたのだが。


  何故三人して此方を凝視してくる。

 

  一体なんだというんだ?


「あなた……今、魔王くんの名前を……」


「パパ……彼の名前、覚えてくれたの?」


「義父上……我の名を……」


  そこかよ!!

  普通、何度もアピールされれば嫌でも覚えるだろうが!!

  そもそも麗香!お前は覚えなければ駄目だろうが!!

  魔王も感動した視線を此方に向けるな!

  眼の中の炎がメチャクチャ燃え上がっているぞ!


「……娘の婚約者だ。名前くらい覚えるのは当然だ。ところで先程の質問だが?」


「あっ……うん、そうだねパパ!!

  で、彼……ゲ……魔王くんとの出合いは……」


  結局名前言えないのか!!

  そこは言う流れだろ!!

  見ろ!隣で魔王が、顎が外れそうな程に口を開けて唖然としているぞ!

  さっきまでの眼の炎も一瞬で鎮火してしまったぞ!!



 そんな魔王を無視し、麗香は魔王との出会いを語り出した………。


「彼とは……1年前に私が勇者召喚された先の異世界で、最初は敵としつ出会ったの」


「…………………………………………そうか」


  余りにも唐突過ぎる娘の発言にフリーズしてしまった後、どうしようもなくなり、肯定の返事をしてしまった。


  実際は、何も理解できていない。

  何だ?勇者?異世界?いや……魔王がいるから普通なのか?

  いやいや!!飲み込まれるな私!!

  冷静になれ!何をファンタジーな内容を素直に受け止めているんだ!!

  冷静になってから相手の話を理解するんだ!


  よし!いつでも来い!!


「……続けなさい」


  その後、娘から語られた話を要約するとこうだ。


  1年前、傭兵任務中に敵陣突っ込んでたら足元光って強制的に異世界に召喚された。

  そしたら神官ぽい奴らに勇者になって魔王と戦えと指示された。

  気に入らないから神官ボコって城を半壊させて逃亡、そして手配されたら魔王軍の奴らにスカウトされた。けど、その時の態度が気に入らないから使者もボコったら魔王軍にも手配された。

  両方に追われ、もう面倒な方から始末しようと考え、魔王軍に単身突撃。

  何だかんだで魔王の元までたどり着き、そこから三日三晩魔王と戦う内に友情が芽生え、やがて愛情となり、最後は野獣のように互いを求め合い、三晩三晩交じり合った後、話し合いの末結婚するという事になり、魔王の転移術を使い帰って来たという。


「ということなの」


  と、誇らしげに語ってくる娘に対して、私が言えることは1つだけであった。


「……せめて結婚前は避妊対策はしなさい」


  それだけだった。


  というより、それしか言えない。


  知りたくなかった、理解したくなかった話を聞いてしまったしな。


  特に最後の方…………。

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