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16話 負けられない戦い……

「ホント、マジウッセーからな」


「「すいません、すいません」」


  舌打ちしながらも何とか怒りを納めてくれたらしく、二人組の女子高生は視線を手元のスマホへと戻していった。


『申し訳ありません。つい声を……』


『気にしないでくれ、私もだから。

  それより…その乗ってきたドラゴンは何処に停めたんだい?』


『近くの白線が引いてある広場に』


  また、あそこか。


  路駐?されるよりはいいが、何故みんなしてあの駐車場に停めたがるんだ?


  多分、今頃はまた騒ぎになっているんじゃなかろうか?


『ケンゾウ様、そのように心配せずとも、ご安心下さい。

  私はリカム殿と違い、しっかりと対策をとってまいりました』


  おっ!対策をとってきたと?


  確かにハルン君はリカム君みたいな、言っちゃ悪いが能筋みたいなタイプではなさそうだから、そこら辺はわかっていそうだからな、ちゃんとしていそうだ。


『しっかりと白線の内側に停め、鍵を掛けて盗難防止措置をとってまいりました』


  前言撤回。


  こいつもポンコツか!


  誰もドラゴンの防犯の心配なんてしていないからな!!


  そもそも誰がドラゴンを盗むんだ!


  近づいただけで喰われてしまいそうだよ!


  後、ドラゴンの何処に鍵を掛けるんだ?逆に気になる!!


『心配しているのは……いや、もういい。

  ところで、君が来た理由は分かったが……この後はどうするんだい?

  私は会社に行かなければならないし……まさか付いて来たりしないだろうね?』


『流石にケンゾウ様の御迷惑になるようなことは致しません。

  かと言って、玉抜……ゴホン!秋子様お一人の家に男一人で押し掛けますのも何かと問題がありますでしょうし……。

  適当に此方の世界を見学してから、時間を見計らい御自宅に伺わせて頂きたいと思います』


  さっきはアレだったが、意外と一般常識はあるらしいな。


  下手に付いてくるようだったら私の柔道(初段)が火を吹いて、彼を力づくでも会社に来ないようにするところだった。


『あぁそうだね。そうして……『ガタン!!』おっとっと!』


  電車が揺れて、少しばかりバランスを崩してよろけてしまった。


『ケンゾウ様大丈夫ですか?』


  ハルン君が心配そう(白目だから分かりにくいが)に声を声を掛けてくるが、揺れた際にハルン君もバランスを崩したのか、私にやたらと体を密着させてくるので、まずは退いてほしい。


  また、有らぬ誤解が増えてしまう。


『大丈夫だよ。それより、ちょっと離れてくれないかい?顔が近いんだが?』


  もの凄く生暖かい吐息が頬に当たってくるし、悔しいことに無駄に良い香りがする。


『あぁ、申し訳「ちょっとオッサン」あ……んっ?』


  不思議そうな顔をするハルン君の肩を、例の二人組女子高生の内の金髪ショートの娘がつかんでいた。


「あの……何でございましょうか?」


「ハァ?アンタとぼける気?」


  あっ……これは不味いパターンなのでは?


「とぼけるとは……一体何をとぼけると?」


「ハァ?シラきんなよオッサン!アンタ今、アタシの尻に触ったデショ!」


  やっぱりだった……これは不味い。


  満員電車において、女性からこう疑われたら逃げることが出来ない最悪パターン……。


  痴漢疑惑……別名『サラリーマン殺し』に引っかかってしまった!


  一度疑われてしまったら、絶対に勝つことができない恐るべき容疑……。


  一体幾多の勤勉なサラリーマンが、この冤罪で捕まったことか……。


「私が貴女のお尻を?馬鹿を申さないでください。

  何故、私がそのような低俗な真似をしなければならないんですか?」


「ハァ?!テーゾク?アタシの尻を触っておいて何言ってんのよ変態が!」


  ヤバイな……ハルン君に悪気は無いんだろうが、火に油を注いでいるぞ。


  不味い、何とかしなければ……。


「変態とは心外な……私はこれでも紳士とした態度を心掛けているつもりなのですよ?

  それに、私は貴女のような者(ダークエルフ種)に興味はありません。ですので触る道理などありませんね」


「ハァ?触っておいて何言ってんのよオッサン!それに私みたいな(現役女子高生)のに興味が無いって……オッサンやっぱりゲイ?それともロリか2次元オタクなの?」


  少女よ……そのゲイに私は含まれていないだろうね?いたら、頼むから削除してくれ。


  完全な誤解だから。


  見るとハルン君の目が据わっている。


  もしや怒っている?


「あの……ハルン君?ここは冷静に話し合って……」


「ケンゾウ様……心配せずとも、分かっております。私としても、事を大事にしたくはありません。

  しかしながら、彼女達にはしっかりと誤解を解いてほしく思っております」


  むぅ……大丈夫……だろうか?下手な事を言ったら、余計に問題が大きくなってしまうぞ。


「アマゾネスの者達よ!しかと聞きなさい!」


「ハァ?……アマ?何?鈴美、分かる?」


「多分……海に潜って貝とか取る人の事かな?でも……何で?」


  それは海女ね。


  もう、出だしでグチャグチャだよ?


  大丈夫?大丈夫なのか?


「君たちが言う、ゲイとかロリといったものは良く分からないが、私が2次元などといったものに捕らわれる者だと思うか?私は次元を自在に操る者!!2次でも3次でも、関係なく、あらゆる次元を超えて次元に愛されし、選ばれし存在なのだ!」


  おい!誤解ってそっちか!確かに自分は高次元の悪魔とか言っていたが、2次元で限定されて憤っていたのか!


「ウワッ!キモ!つまりアンタ、イラストに書かれた女の絵に『これが俺の嫁』とか言える人!?」


「ち、千秋!コイツ、ヤバイよ!頭イッテるよ!白目だし、紫スーツだし、頭に角みたいなアクセサリーつけてるし!」


  ほら!完全に誤解されているよ!


  もう、修復不能だよ!


  投げるぞ?もう、私は匙を投げるぞ?


  いいよな?投げて?……ていっや!!


「オレノヨメ?何の隠語かは分かりませんが、私には2次元も3次元も関係無いということは分かって頂けましたか?」


「アンタが変態だってことは良くわかったわ」

 

  うん。端から聞けば痛い人間と女子高生が言い合ってるからね。


  完全に見た目も言い分も、誰もが見てもハルン君は変態の称号を得てしまっているからね。


「まだ言いますか?この私が変態だと?」


「十分に変態じゃん!オッサンがゲイで2次元好きの変態ってのは分からされたけど、結局は私の尻を触ったことに変わりないでしょ!っていうか、余計に疑うわよ!変態が!!」


  そうですね。


  彼女の言う通りだ。


  既に、周囲の乗客からも、氷より冷たい視線が送られて、最早彼が痴漢の容疑者という立場から逃げ出せそうにない。


  ただし、言わせくれ。


  ゲイの枠組みに私は入れないでくれ。


  後生だから。


「フッ……まだ言いますか?いくら高位のアマゾネスと言えど、これ以上の侮辱は許せませんよ?」


「コーイの海女とかイミフだし!分かったわよ!次の駅で降りなさい!そこでケリを付けようじゃないの!!」


  ちょ!駄目だ!ハルン君!その勝負は絶対に勝てない!もう、力とかじゃなくて、社会情勢的にや法律的にも勝てないから!!


「いいでしょう!このような手狭な場所では話になりません!広い場所で私の真の恐ろしさ(悪魔的)を見せてあげましょう!」


「ハァ?この後に及んで真の恐ろしさ(性犯罪的)を見せる?アンタ本当に頭沸いてんの?」


  益々、誤解が深まっている気がする……。


「そんな事を言っていられるのも今の内ですよ?私の真髄(次元魔法)を見たら何も言えなくなりますよ?」


「真髄(変態性)を見せるって……変態もここまでくると清々しいわね……」


「ちょっと千秋!感心してる場合じゃないって!コイツヤバイって!ソッコー駅員とポリを呼んだ方がいいって!!」


  あぁ……話が益々大きくなっている。


  最早、彼女達の中……いや、周囲の人の反応から、ハルン君は超上の変態になりつつある。


  なぜなら、満員電車の中にも関わらず、ハルン君を中心にサークル状に人が避けているのである。


「は、ハルン君!これは不味いよ……」


「ケンゾウ様……ご心配なく。例え相手が高位のアマゾネスであろうと、私は選ばれし魔王軍の精鋭である師団長の一柱!

  必ずや汚名を濯ぎ、勝利を献上しましょう!」


  なんだろうか……これ程に嬉しくない勝利の献上はあるのだろうか?


  それに、現在進行形で汚名が降り注いでいるから!もう、ちょっとやそっとの洗濯じゃ濯げない程にこびりついてるから!!


  というか、本気で勝利できると思っているのだろうか?


  此方の社会情勢を知らないとはいえ、この勝負に乗るのは余りにも危険すぎるし無知がすぎる。


「ハルンく…『間もなく次の駅に到着しますぅ、お降りになるお客様様は足元にお気をつけてください』…よ」


  私の止めようとする声は、無情にも到着のアナウンスに掻き消され、同時に電車が駅へと止まってしまった。


「オッサン、あそこまで啖呵切ったんだからマジで逃げんなよ!」


「魔王軍の戦士たるもの、この名に賭けて逃げてなるものか!!」


  逃げてくれ!力の限り逃げてくれ!


  駅に降り立った瞬間、自由の扉(改札口)に向かって全力で走ってくれ!


  君の誇りたる魔王軍の看板を、痴漢容疑という泥で汚すことになってしまうぞ!


  だが、私の祈りは届かず、電車の扉が開かれて女子高生二人組が先導しながらハルン君も共に降りていってしまった。


「ケンゾウ様…また、後で会いましょうぞ!」


  決め顔で清々しく再会を約束するハルン君の横顔を最後に、電車の扉は次なる乗客を乗せた後、無情に走りだしてしまった。


  彼は、決して勝てない勝負の舞台へと、足を踏み出してしまった。


  走り行く電車の窓から、何とか駅のホームを見るとハルン君が数多の駅員に取り囲まれ、乗客の有志達に取り押さえられている姿が目に入ってきた。


  勝敗は降りた瞬間、瞬時についたらしい。


「やはり……駄目だったか……」


  最後に何やら叫んでいるハルン君の顔を見た後、やるせないモヤモヤした気持ちを抱えながら、私は会社へと向かっていくのだった。

ハルン「フフフ…それでは私の恐……」


千秋「誰かー!この人痴漢です!!」

【千秋は仲間を呼んだ】


【駅員A・駅員B・駅員C・駅員Dが現れた】


鈴美「この人変態です!誰かタスケテー!」

【鈴美は仲間を呼んだ】


【勇敢な若者が現れた・下心ある若者が現れた・野次馬の若者が現れた・同性愛者の中年が現れた】


ハルン「ま、まて!卑怯だぞ!決闘なら1対い……いやぁぁぁぁぁ!ケンゾウ様!助けてぇぇ!!」


【ハルンは捕まった】


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