15話 電車内ではお静かに!
「まさか……ここまでついて来るとは」
「ハァ……ゼェ……このハルハァ…ン=…ルハァ…ーン、ゴホッ!この名にゲホッ!賭けて……ハァ……与えられし任務は……ハァ……必ず……ヒィ……全うしますぞ……ハァ……その為なら……ハァ……どこまでも……ハァ…追いかけ……ますぞ……ゴハァ!」
「取り敢えず落ち着いて深呼吸しようか?」
自身の名を賭けた、真面目なことを言っているんだろうが、息切れのせいでハルハァ~ン=ルハァーンというマヌケな宣言になってしまっている。
過呼吸にでもなったのかと思うくらいに、息も絶え絶えのハルン君を落ち着かせる。
余りにも、息切れが激しすぎて周りからの視線が痛い。
特に、ハルン君の背後にいる女子高生二人組が、彼をゴミでも見るような目で見ている。
「ヒィ……ヒィ……フゥー……ヒィ……ヒィ……フゥー……少し落ち着きましたな……」
「それは良かった……」
何故か、ラマーズ呼吸法で深呼吸をして息を整えたハルン君を見ながら、ある疑問が沸いた。
「それにしても……よく私のいる場所が分かったね?それに大分距離を離していたのに、よく追い付けたね?」
この人混みの中から的確に私を見つけたのには正直驚かされたし、牛歩を越える歩みの速度で、私に追い付いたのにも驚愕だ。
「ハァハァ……よくぞ聞いてくださいまし
た!!それこそ…「オッサン!五月蝿いよ!」
…なっ?オッサ……「アン?!」申し訳ありません……」
大声で何かを高らかに言おうとしたハルン君を、金髪ショートの女子高生が横から制してきた。
怒鳴られて、睨まれて一瞬でしょんぼりしてしまったな。
確か、魔王軍のナントカ団長って言っていなかったか?
女子高生に怒鳴られて、しょんぼりする魔王軍の団長というのは如何なものなだろうか?
『ゴホン!……それでケンゾウ様。ハァ…よくぞ聞いてくれました。ハァ…ハァ…私が此処にどうやってきて、追い付いたのか……という方法こそ、ハァ…私が今回訪れた理由にもなります』
女子高生に怒鳴られたのが余程効いたのか、私の耳元に口を近づけて、ヒソヒソと耳打ちをしてくる。
だが正直、未だ止まらない彼の息切れによる呼吸が、生暖かく耳にかかるのが不快で話がほとんど入ってこない。
「そうか……悪いが少し離れてくれ、そこまで近距離で耳打ちしなくても聞こえるので」
『左様ですか?しかし……』
チラチラと背後にいる女子高生二人組を見ての様子を伺っているが、どれだけビビっているのだろうか?
『大丈夫でしょうか?下手をしたら、あの者達を刺激するのでは?
あの背後にいる者達、あの眼光に容姿……ただ者では無いと思いますぞ』
いや、ただ者だから!普通の女子高生だから。
『 人間に扮しておりますが、あの金髪に浅黒い肌……恐らくダークエルフ種の者達ですな』
いやいや、ただの人種・ギャルですから。
『それに、あの濃い化粧に、太ももや胸元を露にした露出の多い服装……あれは森林の奥深くに住むとされる女狂戦士でしょう。やつらは素手で巨漢のグリーンベアをも殴り殺す程の力を持った者達で、我々魔王軍ですら迂闊に手を出せぬ強者……。
しかも、あの二人に施されたキラキラと光る化粧は、高位の戦士にだけされる絶対強者の証……何故そんな者達が此処に?』
なるほど、彼の理屈でいうなら日本の女子高生の多くが素手でグリーンベアとやらを殴り殺せるわけだ。
日本の治安も恐ろしくなったものだ。
『やつらは五感も鋭い……下手に大きな声で話せば奴らを刺激しますし、これから話す重要事項が外部に漏らされるかもしれません』
なるほど、なるほど、外部に情報が漏れることを恐れてのヒソヒソ話か。
確かに女子高生の情報収集能力と情報網は凄まじいからな。
それを含めて思うのだが、そもそもこんな満員電車の中で秘密を話そうとするなよ。
『それではケンゾウ様……ということで、このままで』
何が『ということで』なんだ?
正直、私みたいな中年と、見た目20代後半の
男がほぼゼロ距離で内緒話をしなければならないんだ。
後ろ見てみなさい。
例の女子高生二人組がドン引きしているぞ。
『うわぁ……キモ……』
『オッサン二人で……マジきついわ』
などと、蔑んだ目で見ながらヒソヒソと話しているぞ。
頼むから私まで巻き込まないでくれ!
もの凄くキツイから!若い娘達からのキツイ発言は結構キツイから!!
『分かった……手短に頼むぞ』
何を言っても無駄そうなので、聞くだけ聞いて早めに切り上げることにしよう。
『はい、それでは……単刀直入に申しますと、私は次元と感知の魔法を得意とします高次の悪魔族なのです』
『はい?』
全く何を言っているか分からない。
悪魔というのは分かるが、その他のことがよく分からない。
中年にも分かる様に説明してくれ。
というか、悪魔が女子高生に怯えているんじゃないよ。
『それでですね……私はケンゾウ様に置いていかれた後、感知の魔法を使用したのです』
『感知?』
感知って?感じとるとかの感知かな?
『はい、幸いケンゾウ様の気配を覚えることができたので、感知魔法を使いケンゾウ様を感じとったのです』
『ちょ……今感じたって……』
『やっぱ、あの二人……マジキメー……』
ヒソヒソと話している声の一部が例の二人組に聞こえたらしい。
あらぬ誤解を植え付けてしまったようで、ヒソヒソと私達のことを話している。
『その後、次元魔法……要は転移魔法を使い、ケンゾウ様を感じ取った場所へと転移し、追跡することに成功したのです』
『聞いた?追跡って……』
『ヤバ!あいつゲイの上にストーカーかよ……マジヤバくない?』
おいおい……順調に誤解されていってるぞ?
『これがケンゾウ様に追い付いてこれた訳です』
何やら胸を張っているが、正直聞いていなかった。
それよりも、背後の女子高生の批評が気になって仕方がない。
『ここまで話せば今回、私がケンゾウ様を訪ねた理由が分かりますね?』
『全く分からないが?』
どや顔で同意を求めてくるが、全く分からない。
転移とか感知と言われても、正直それが何?といった感じなのが本音だ。
『もっと分かりやすく説明してくれないかい?』
『あっ……はい。要は前回リカム殿達がケンゾウ様の御宅を訪ねた際に、飛竜を使用したではありませんか?』
『ヒリュウ……あのドラゴンかい?』
例のニュースにもなってしまったドラゴン事件か。
『はい。飛竜は、転移する際に良く使われる騎獣なのです。
転移魔法には大きく分けて二種類あり、一つは高速で走ることで次元に亀裂をつくり、その亀裂に飛び込んで次元を越えて転移する【高速転移法】で、その為に高速で飛翔する飛竜は転移において重宝されるのです』
まぁ何となく理屈は分かった。
だから、魔王君やリカム君がドラゴンに乗っていた理由は分かった。
だが、それでちょいちょいドラゴンで来られて、その度に警察騒ぎになるのは止めてほしい。
『ですが、この方法は前回にケンゾウ様より止めてほしいと苦情がきたと魔王様より伺っています』
『あぁ……確かに』
おや?意外だな。
魔王君は私の意見をちゃんと聞いてくれていたらしい。
『そこでもう1つの方法です。それこそ【ポイント設置法】なのです』
『ポイント設置?』
『はい。事前に転移するポイントをマーキング設定し、そのポイント同士を自在に転移できるという方法です。
この方法ならば飛竜はいりませんし、いつでも自在に往復することができるのです』
なんと!そんな方法があるとは!
それならばドラゴンが来ることもないし、御近所がパワースポット扱いされることもなくなるな!
『いいじゃないか。その設置の為に、君が来たということかい?』
『はい。やっと分かって頂けましたか?私は今回、ケンゾウ様の御自宅にそのマーキングをするべく魔王様により派遣された訳です』
ほぅ、魔王君も気が利くじゃないか。
一応は私の意見を聞いてくれたようだ。
成る程、マーキングするこで移動できるとはな……そんな便利な方法が……んっ?
『ところで今回、君はどうやって此方に来たんだい?』
よく考えれば、まだそのマーキングとやらは出来ていない筈だが?
「私ですか?もちろん飛竜できました!」
「お前もか!!」
「「オッサンうるせぇ!!」」
「「すいません!!」」
女子高生……確かに怖いな。
女子高生 春日 千秋
Lv:15
称号:【女子高生】【ギャル】【遊び好き】【踊り子】【彼氏募集中】
HP:230
MP:80
攻撃力【物理】:60
防御力【物理】:60
攻撃力【魔法】:100
防御力【魔法】:110
素早さ:200
知識:80
運勢:70
装備品:【改造制服】【ギリギリスカート】
【(株)高島屋限定シルバーピアス】【スマホ】
【催涙スプレー】
女子高生 葉山 鈴美
Lv:18
称号:【女子高生】【ギャル】【遊び好き】【踊り子】【リア充】
HP:210
MP:70
攻撃力【物理】:55
防御力【物理】:65
攻撃力【魔法】:110
防御力【魔法】:120
素早さ:220
知識:65
運勢:120
装備品:【改造制服】【ギリギリスカート】
【(株)高島屋ハートのペアネックレス】
【スマホ】【護身用スタンガン】