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14話 走る、走る、力尽きる♪

「そろそろ時間かな?」


  壁に掛けられた時計を見て、時刻を確認する。


  時刻は7時29分、暖かい爽やかな日差しが窓から差し込む早朝である。


  そんな気持ちの良い朝に、朝食を食べ終えて、朝のニュースをBGMに、新聞を読みながらコーヒーを飲んで一息ついていたのは私……佐沼健三である。


  私はこの早朝の一時が好きで、いつまでもこうしてゆっくりしていたいとう思いに駆られてしまう。


  しかしながら今日は平日であり、時間がくれば我々サラリーマンは会社という戦場に赴かなければならない。


  その出社時刻が間もなく迫ってくる。


『只今の時刻!7時30分!7時30分!7時30分だびゃ~♪』


  テレビで見ているいつものニュースから、マスコットであろうアヒルと時計を合体させた謎のキャラクターが、間の抜けたような声で出社時刻をしらせてくる。


  【チクダックン】というキャラクターらしく、目覚まし時計の中に、グルグルに血走った目と嘴があり、時計には羽と水かきがついた足がある姿をしており、何故か所々がツギハギになっている。

 

  気づいたときには、このニュースの中に出てきて正式マスコットになっており、隙さえあれば画面の端で小躍りしてたり、今のように時間を知らせてきたりと中々にしつこく登場してくる。


  チクダックン体操やらショートアニメが作られる程の人気を持つキャラらしいが、私は正直好きにはなれない。


  ニュースの紹介中に突然吐血したり、テンション高く暴れ回ってツギハギがバラバラになったりと、朝のイメージに合わないし、何より喧しい。


  まったく……テレビ局も、何故こんなキャラクターを採用したのか理解に苦しむ……。


  おっと!無駄なことを考えている場合じゃないな。


  そろそろ会社に行かなければ。


『早く会社に行かないと遅れるびゃ~♪』


  五月蝿い!分かってる!というか何で的確に注告してくるんだ?


  こっち見えてんの?


  本当に何だこのキャラクターは?


  色々と疑問に思いながらも、カバンを持ち、玄関へと向かい、長年共に歩き続けた戦友(革靴)を履く。


「では、行ってくるよ」


「いってらっしゃーい」


  台所の流しから、妻が挨拶を返してくる。


  昔の新婚当初は、玄関で見送りをしてくれた上に、いってらっしゃいのキスまでしてくれていたが、いつの頃からかキスが無くなり、見送りが無くなり、最後は流しで洗い物の片手間に「いってらっしゃーい」だけになってしまった。


  時間というのは無情なものである。


  少しばかり過去のことを思い出して切ない気持ちになってしまった。


  いかん、いかん!これから会社に向かうのにこんなメンタルでどうするのだ!


  過去は過去!今は今だ!


  気持ちを持ち直せ!佐沼健三!!


  さぁ!いざ会社へ!


「あっ!お父さん!待って待って!」


  ドアノブに手を掛けた瞬間。


  妻が流しからトテトテと走ってきた。


  まさか!?私の思いが通じ、見送りにきてくれたのか!?流石は我が妻よ!


「ついでにゴミ出してきてください」


  感動していた私の前に出されたのは、パンパンに膨らんだ地域指定ゴミ袋。


「はい…………」


  笑顔の妻からゴミ袋を受け取る。


「お願いね」


  妻は踵を返すと、パタパタと流しへと戻っていってしまった。


  やはり時間は無情だったらしい。


  いや、妻は悪くない、 変に期待した私が悪いのだ。


  持ち直したメンタルが再び瓦解したが、道中で何とか建て直そう。


  ついでにゴミを捨てるときに、私の淡い期待も捨てていこう。


  それはもう思いっきり投げ捨ててやる!少しは胸も軽くなるだろうしな!


「お父さん」


  てっうお!


  突然妻がリビングから顔だけ出してきた。


  一体何だ?


「今日も頑張ってね♪」


「………………」


  ハッ!!妻がとびっきりの笑顔で語りかけてきたので、一瞬惚けてしまった。


「…………あぁ」


  うん。今日は何か凄く頑張れそうだ。


  思わぬ妻からの援護支援を受けて、気持ちが昂ってきた。


  よく見たら、骨夫も歯を磨きながら手を振っているが、正直お前の見送りはいらないな。


  何か不吉な気がする。


  まぁいい、よし!今日も頑張ろう!この扉を開けば、爽やかな朝日が私の出社を祝って降り注ぐだろう!


  扉の向こうに広がる明るい外の世界を想像しながら、ドアノブに手を掛けて扉を開いた。


「おはよぅございます。申し訳ありませんが、此方はサヌマ=ケンゾウ様の御自宅でよろしかったでしょうか?」


  扉の向こうには、爽やかな朝のイメージとはかけ離れた、顔面蒼白で眉なし白目、長髪で頭の横から細長い角を生やし、紫スーツを着た男が立っていた。


「は……い?そう……ですが、どちら様で?」


「これは失礼しました。私、魔王軍が四天王ガルハダ様が側近、魔人部隊師団長ハルン=ルーンと申します」


  ハルン=ルーンと名乗った男は優雅に私へと一礼をしてきた。


  またか、また魔王軍の奴が来よった!


  よりによって、朝の忙しい時間に何故来たんだこいつは?


「それではケンゾウ様……些か御時間を頂きたいのですが、よろし…「すまないが会社に行かなければならないし、ゴミを出さねばならないので後にしてくれ」いで…しょうか?」


  まさか断られるとは思っていなかったのか、ハルン=ルーンはキョトンとした顔で、唖然としていた。


  私はフリーズして立ち尽くすハルン=ルーンの横を通って、通りへと出た。


  まったく!朝は本当に忙しいんだ!それに早くゴミ置き場に行かなければ、収集車がでてしまう!少し早歩きで急ぐか!


「お待ちになってください!話を…私の話を聞いてください!」


  うぉ!あの男、小走りで追いかけてきおった!


「すまないが、本当に忙しいんだ!帰ったら話を聞くから!あー…家で待っていてくれ」


「そ……それは困ります!あの家には玉抜き……ゴホン!!レイカ様の御母上たるアキコ様がいらっしゃるではありませんか!御母上と二人っきりなど、そんなの恐ろし……ゴホン、ゴホン!!畏れおおいです!ですのでケンゾウ様と話をしたいのです!」


  今、この男、玉抜きと言っていたな?


  あれか!リカム君の件か!リカム君の玉を抜いたからか?


  おい妻よ!何か不名誉な二つ名を付けられた上に、やたらと恐れられているぞ!!


  魔物に恐れられる妻って……。


  まぁ、それはいい!後でよく飲み込んでおこう!飲み込めるか?

 

  しかし、彼の気持ちも何となく分かるから話を聞いてあげたいが、今は本当に忙しいからな。


「本当に後にしてくれ!もしくは出直してきてくれ!」


「ハァ……ハァ……いや……そ、早急にと……ハァ……い、言われて……ハァ……まし……ハァ」


  うぉ!ハルン君、体力無っ!

 

  後ろを振り返ったら、かなり後ろから息を切らせながらヨロヨロと走って……いや、普通の歩く速度で追いかけてきている。


  走っている小学生に追い抜かれてる!魔物なのに?


  しかも、手を開いて走る……所謂、女の子走りだ!


  長身、長髪の大の男が、あの走り方をしているのは、相当に目の毒だ。



「す、すまないが行かせもらうよ!では!」


  あれならば、多少本気で走れば追い付けないだろうから、非情であるだろうが、此処はまかせてもらおう。


「まっ!私、頭脳労働者故に体力は……ハァ……無いので……ゴホッ……まって……ハァ」


  彼の言葉を無視して、少しばかり本気で走って行くと、背後から……。


「まっ……ゼヒィー……ハァ……ハァ……ゼヒィー!ゼヒィー!」


  と、呼吸困難並みの音が聞こえてきたが……


  すまない!かまってられない!私はいち早くゴミを捨てなければならないのだ!


  妻から託された任務をこなすべく、走る速度を上げてゴミ集積場へと向かうのだった。



 ◇◇◇












「フゥ……何とか電車の時間には間に合ったな」


  あの後、何とかゴミ捨て任務をこなした私は、いつもの駅に着き、電車が来るのを待っていた。


  待ちながら、落ち着いて先程のハルン君のことを考えてみた。


  結局、彼は途中で姿が見えなくなってしまった。


  多少、彼には悪いことをした気もするが、朝方の時間は本当に余裕がないので、彼には少し我慢しともらうとしよう。


  多分、今頃は私の家に引き返しているだろう。


  そんなことを考えていると、電車がホームへと入ってきた。


  よし、後は切り替えて今日の仕事を頑張ろう。


  停止線で止まった電車の扉が開き、一斉に多くの人間が吸い込まれるように電車の中へと乗り込んでいく。


  私も、人の波に乗って電車の中へと乗り込んでいく。


  勤続33年、通い続けたおかげで、この満員電車に乗るのも、最早達人級と言っていいだろう。


  しかし、乗るのに慣れても、やはりこの人混みの閉鎖空間には中々慣れないものだ。


  ぎゅうぎゅうに電車の中へ押し込められながらも、痴漢扱い防止の為に両手を上げて電車の発車を待っていると……。

 

「おい!無理に入り込むな!」


「この!押すなよ!」


「痛!足踏むなよ!」


  などと、社内に文句が飛び交ってきた。


  見れば、人垣の中を何者かが無理矢理に人を掻き分けて車内を進んでいるようだ。


  恐らく満員電車初心者が、無理矢理に人垣をこじ開けてるのだろう。


  まったく……初心者とはいえ、無理矢理に押し進まないという、暗黙のルールを知らないとは……。


 下手をして女性の臀部を触ってしまったら、即痴漢扱いコースだというのに……。


  ……んっ?何かその進んでいる来ている何者かは、こっちに向かって来ているような?


「おい、あんた!無理矢理進むな!痛いだろ!」


「申し訳ありませぬ。ハァ……しかしハァ……やんごとなき事情がありまして……ゼヒ」


  どこかで聞き覚えのある声が周囲に謝罪をしながら真っ直ぐに私の方へと向かってくる。


  まさか…………。


  そう思った瞬間。


「み……ハァ……見つけ……ましたぞ!ケンゾウ様!ゴホッゴホッ!!」


  只でさえ顔面蒼白な顔を更に青くさせ、汗まみれのハルン君が息も絶え絶えに、人垣の中から現れた。

魔人 ハルン=ルーン

Lv:475

称号:【大魔導師】【次元ヲ越エシ者】【大悪魔】

【賢者】【モヤシヤロウ】

HP:18000

MP:14000

攻撃力【物理】:300

防御力【物理】:300

攻撃力【魔法】:3300

防御力【魔法】:2100

素早さ:200

知識:1300

運勢:40


装備品:【紫欲のスーツ】【知恵のピアス】

【狡猾の指輪】【先見の指輪】【蛇欲のネクタイ】

【高級ハンカチ】【金的ガード付きブリーフ】

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