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12話 黒猫さん!逝ってらっしゃい♪

また、暫く投稿できないかもしれません!

申し訳ありません。

 結果だけ言おう。


  瞬殺だった。


  今、私の目の前には無残にも頭から血を垂れ流しながら倒れ伏す巨体の黒豹と、血の付いたゴルフクラブを片手に佇む我が妻の姿があった。


  帰ってきた妻は、居間に入って私……いや、リカム君の姿を見るなり、無言で玄関に戻ったかと思えば、ゴルフクラブを片手に目にも止まらぬスピードでリカム君へと接近し、額にある古傷目掛けて降り下ろし、その意識を絶ったのだ。


  一見すれば、どこぞの火サス劇場で繰り広げられるような殺人現場的な残虐な光景であるが、実際は実力を試すという名目の一方的な蹂躙が始まるのを阻止してくれたので文句など言えない。


  私の愛用のチタン製ゴルフクラブ(58000円)が血だらけになって、柄の部分がくの字に曲がっていようとも、命が助かったなら安いものである。


  あぁそうさ!全然安いもんさ!!ハハハハ!


  ……別に泣いてなんかいないさ。


「お父さん」


「ハイッ!?」


  突然に呼び掛けられたので、やたらと甲高い声で返事をしながら、気を付けの姿勢をとってしまった。


  というか、顔に若干の返り血を浴びてニッコリと微笑む妻の顔がやたらと恐ろしい。


  そういえば、例の葬式事件の時も同じような顔をしていたなぁ。


「聞いてますか?お父さん?」


「あっ?ハイ!!何でしょうか?」


「何で敬語なのぉ?まぁいいわ。

  それでお父さん……………………。」


「ハイ……」



















「野良猫を家に入れちゃダメでしょう?」


「はい……」


  この状況で、これ以上私に言える言葉は無かった。


 ◇◇◇


「うぐぅ……?こ、ここは?」


「おっ?気がついたかい?」


  寝室で、横に寝かされたリカム君の意識が戻り、少しばかり安堵する。


  あの後、妻が倒れた野良猫(リカム君)を保健所に電話して連れて行ってもらおうとしていたが、冷静に考えれば魔王の配下たる戦士のリカム君を怪我させた上に、役所に引き渡すというのは暴挙というか、魔物を役所で処分してもらうのはどうなんだ?と思い、妻を説得し怪我の治療をしたのだ。


  妻には彼が野良猫に見えていたようだが、彼は魔王の部下であり、今回麗香からの荷物を届けてくれたことを説明したら……。


「魔王さんの所は猫の手を借りる程に人手不足なのかしら?」


  などと、何をどう解釈したのか分からない納得の仕方をしながら、引き下がってくれた。


  我が妻にとって彼が野良猫に見えるとは…。

 

  尚、今は玄関や居間を掃除機や例のコロコロ(正式名称は分からないが、粘着シートでゴミを取るやつ)で掃除をしている。


「まぁまぁ。部屋中毛だらけね」


  と文句を言いながら、リカム君の散らかした黒い毛を処理している。


「どうだい気分は?まだ痛むかい?」


「吾が輩は……そうか……思い出した……」


  妻に殴られた瞬間を思い出したのか、若干顔を青ざめ(毛皮で良く分からないが主観的に)させて考えこんでいる。


  それはそうだろう。


  普通の精神であれば、妙齢の女性が真顔でゴルフクラブを降り下ろしてくる瞬間映像などトラウマ必須の光景である。


  事実、第三者目線で見ていた私ですら戦慄し体が震えてしまったのだからな。


「まぁ恐ろ「吾が輩は御父上に負けてしまったのですね?」…ってはい?」


  この猫はまた何を言っているのだろう?


  頭を強く打ち過ぎて、思考回路がおかしくなったのだろうか?


  何をどうすれば、私が彼に勝ったという絵図が出来上がるのだろうか?


「いや、き…「記憶は少しばかり曖昧ですが、確実に覚えているのは、吾が輩と対峙していた御父上が、全く動くことなく……。

  いや、あれは目にも止まらぬ速度で動き背後に回り、吾が輩を強打したのち正面に戻ったのですね!!そして吾が輩は気を失ったと…

  いやはや、やはり真なる強者とは外聞では計れないものでございますな!」


  記憶が飛んでいるのか、恐怖により思い出すことを体が拒否しているのかは分からないが、妻により頭部を強打された部分だけが抜け落ちているせいで、どうやら彼の中で私は超人認定されてしまったようで、1人でウンウンと納得している。


「いや…あの……私は別にそんな動きは……」


  と否定の言葉を述べようとしたが、彼が手を前に突き出してきた為にとめられてしまった。


「御父上よ……皆まで言わずとも分かっております。今、吾が輩が言った動きは全て推測…

  つまり、御父上は吾が輩の更に予想以上の動きや技を、あの一瞬で繰り出していたのでしょう。

  以前にもレイカ様が同じような動きで吾が輩ら魔王軍を翻弄し、あの知将と名高い上に四天王最速と謳われるガルハダ様も動きについていけず、あのような事になってしまいましたからね……」


  彼のポンコツ推理が、更に斜め上にポンコツな解析を始めてしまった。


  やはり、打ち所が悪かったのだろうか?


  もう一度妻に頼むか?


  それと麗香が私の知らない所で、人間を越えた動きで例のガルハダさんとやらに何かをしたらしいが……あのような事ってどのような事を麗香は彼にしたのだろうか?


  確か、ガルハダさんって魔王の名前を覚えられない知将だったな。


  他人から聞いた話だけだが、ここまで聞いた限りでは中々に残念な方らしいな。


  さて…それより、どうやって誤解を解いたものだろうか。


  このままでは彼の中で私は麗香と同等…いやそれ以上の超人に完全に認定されてしまう。


  実際の私は、階段を上がるだけで息切れを起こし、毎朝栄養ドリンクで体力を補っている50代半ばの運動不足の中年だというのに……。


「フフフ……しかし、やはり御二人は親子であることを実感しました」


「……?どうしてだい?」


「何せ、同じ動きをする上に、同じ場所を攻撃してきたのですからね。

  御二人が親子であるということを、確認させて頂きましたぞ」


「同じ場所?」


  動きに心当たりなどあろうはずがないが、それ以上に『同じ場所』というフレーズが心当たりが全く無い上に、非常に気になった。

 

「えぇ。何せ、この額の傷は魔王城にレイカ様が攻めてきた際に付けられたものですからね」


「どうもすいませんでした」


  話を聞いた瞬間に、申し訳なさから、自動的に頭を下げながら謝罪の言葉が出てきた。


  このような謝罪は、昔に麗香がヤンチャしていた時から慣れたものであり、かつては麗香が怪我をさせた方々の家々を回り、謝罪行脚をしたこともある為、今では麗香が誰かを怪我させたと聞くだけで体が反応し頭を下げてしまう体質となってしまった。


  おかげで、他に類を見ない程の美しい謝罪をすることができるようになり、土下座などは最早、芸術の域になる程のものであり、これを見て許さない者はいないという程になった。


  まぁそのせいで、重大な取引先や質の悪いクレーマとの対応には、私が抜擢されて謝罪をするという悲しい流れが出来てしまったが。


  しかし、額に星形の古傷があると見ていたが、まさか身内によって傷つけらた傷だったとは……。


  しかも偶然にも母娘の二代に同じ場所を攻撃されるとは……。


  我が家の女性陣が強……絢香は別か?

  取り敢えず、妻と麗香が強かすぎる。

 

「お、御父上よ!?頭を上げてください!!

  この傷は吾が輩の未熟さ故に付いた傷ですので、御父上が頭を下げる必要はありませぬ!

  寧ろ、己の強さを過信していた気持ちを叩き直して頂いたことに、感謝すらしております!」


  己の未熟だったことを、熱く語りながら私の肩に手を置いて謝罪する必要は無いと言う彼であるが、正直親としてはやはり娘に暴力を振るわれた彼に対して、割りきれない思いがあるものだ。


「それよりも御父上よ!!先程の高速移動方法と攻撃の術を吾が輩に教えてくれまいか?

  それを習得できれば、吾が輩は更なる武の高みへと近づけるとおもうのです!」


  いやいやいや!教えてくれと言われても、困るのだが?


  勘違いだからな!聞くなら私ではなくて妻に聞いてくれ!私の武は学生の頃の柔道(初段)で時を止めているからね!!


  私に教えてられるのは、正しい文房具(商品)の使用説明と謝罪の仕方位だからね?


「御願い申します!!」


  ってコラ!肩を掴んだまま前後に振るな!!


  飛ぶから!意識とか首とか、頭の……。


「ちょ、やめやめめめめめめめ?!」


  断って、腕を引き剥がそうとしたが、馬鹿力で掴まれた上に、どこぞのメタルバンドのヘッドバンキング並みの速度で首を振られている為に、上手く話すことができない。


「御父上よ!どうか!どうか!!」


  どうかじゃないよ!その前に私の命の導火線が消し飛ぶよ!


「やめやめめめめめめめめめめめ!!」


  ヤバい!死ぬ!死んでしまう!地味に効いてくるわコレ!!誰か助けて!彼を止めて!!


「御父上よど…「どうしたのお父さん?何を騒いでいるの?」…うか…ハッ?!」


  もう駄目だ……首が外れると思った時……。



 

 


 

 


 






  女神(妻)が現れた(2回目)


【武器】チタン製 TM-05ドライバー


攻撃力【物理】:+50

攻撃力【魔法】:+0

耐久値:100


特殊効果:加工された溝により、打ったボールに回転力が加わり、より遠くへと飛ばすことができる。


武器説明:ゴルフ業界の古い歴史を持つ、英国トラディショナル社謹製のゴルフクラブ。

ヘッドに彫られた特殊な溝と金属加工により、柔らかい打ち筋でも、高い貫通力を与えることができる一品。

健三が妻に頭を下げ、ボーナスで買った自慢のお宝であったが、リカム強打の際に柄が曲がった上にヘッドがひび割れた為に、最早使用は不可能と断定せざるを得ない。


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