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11話 黒猫さんから御手合わせされた♪

合間ができたので更新します!

これからも宜しくお願いします。

「お茶……でも飲むかい?」


「かたじけない」


  一般的家庭の一般的な居間において、ごく一般的な中年男性である私、佐沼 健三の向かいには、一般的な光景からは余りにも外れた存在である人外が、挨拶をしたいと上がり込んで座っている。


  身長は2メートル近く有り、引き締まった筋肉のガタイの良い体格をしていて、体自体は人間のそれに近い。


  只、顔はマンマ黒豹であり、猫科特有の金色の鋭い瞳に鋭い牙が特徴的で、額には痛々しい星形の傷痕があった。


  体全体は黒い毛皮で覆われていて、動き易さを求めているのか、胸当てと鱗模様の腰巻きを身に付けていた。


  尚、玄関で出迎えた際は、2メートル程の大剣を背負っていたが、さすがに家の中に入るのに剣は無粋と思ったのか、律儀に玄関にあった傘立ての中に入れてきていた。


  果たして、2300円で買った我が家のアルミ製傘立てが、あの大剣相手に何処までもつのであろうか……。


「はい、どうぞ」


  傘立ての心配をしつつも、お茶の準備を終えて、目の前の黒豹人間ことリカム=ミケールへと茶をすすめた。


「感謝する……が、この緑の液体は何でしょうか?」


  リカムは不思議そうな顔で、出された緑茶の匂いを嗅いだりしている。


  あぁ、そういえば魔王も最初は緑茶が何なのか麗香に聞いていたな。

  向こうには緑茶は無いようだし、知らないのも無理はないだろう。


「これは……緑茶といって……まぁ、乾燥させた葉っぱをお湯で煎じたもの……かな?」


  緑茶の製造には、もっと色々と工程があるだろうが、残念ながら私の浅はかな知識では、深い緑茶の歴史や製造を語ることは出来ず、この説明だけで手が一杯であった。


  全国の緑茶製造に携わる方々……異世界の方々に妙な偏見を持たれた際は、申し訳ない。


  「草を煎じたもの……異世の者達は異なるものを好んで飲むものだ……」


  緑茶製造に携わる方々、本当に申し訳ありません。


  心の中で緑茶業界に謝っている私を他所に、リカムは眉間に皺を寄せながらも、恐る恐る緑茶を口へと運んで、舐めるように飲み始めた。


  そういえば、彼は豹だが猫舌とかは大丈夫なのだろうか?


「お茶は大丈夫かい?熱かったら冷たいものもあるが?」


  心配して声を掛けた私に、リカムはキッと鋭い視線を向けながら口を開いた。


「我ぎゃはいは戦すなり!きょの程度の熱しゃなんともありましぇぬ!」


「冷蔵庫に冷たい紅茶があったから持ってこよう」


  何を言っているかは分からない。

  しかし、彼が何を言いたいのかは分かったので、彼の名誉の為に深追いはせず、黙って冷たい飲み物を出すのが男として正解だろう。


  私は冷蔵庫へと向かうべく、腰を上げた。


  その瞬間……。


  ガチャーーーン!!


  ……どうやら、我が家の傘立てのHPが、遂に尽きたらしい。


  よく専門(傘)でもない、強敵(大剣)相手に頑張ってくれたものだ。


  明日は帰りにホームセンターに行って、ステンレス製の傘立てでも買ってこようと、称賛と決意を胸に流しへと向かった。


 ◇◇◇◇


「それで……麗香から荷物を預かっているのかい?」


「ハッ!此方にございます」


  妻特製のジャスミンティーにより、舌を回復したリカムは、脇から木箱を取り出してテーブルの上へと置いてきた。


「此方がこの度、聖王国イスタアール軍との戦勝及び、炎の勇者キシルール捕縛記念に作られました菓子と記念品でございます」


  …………戦勝とは聞いていたが勇者捕縛は聞いていなかったな。


  というか勇者って、あの勇者でいいんだろうか?


「その……勇者というのは?」


「よくぞ聞いてくださいました!勇者と言うの強大な力を持った人間の戦士であり、吾が輩ら魔族最大の怨敵にございます!!

  一度戦場に現れれば、剣の一降りで幾千の魔族が斬り伏せられ、魔法の一撃で幾万の魔族を葬ってきた……正に人間兵器とでも言うべき存在です!」


  あぁ、やはりアノ勇者らしいな……。

  魔王もいるんだから、勇者がいてもおかしくはないか……って麗香も元々は勇者と言っていたような……。


「その恐るべき勇者が、吾が輩らの世界には合計で25人おりまして、人間共は個の力で勝る吾が輩ら魔族を、その勇者と兵士の数で補ってきたために、拮抗して攻めあぐねていたのです」


  ほう、勇者というのは複数人いるらしいな。

  確かに普通の人間では、こんな黒豹や魔王みたいな奴等には絶対に敵わないだろう。


  私だったら会社で培った土下座をしながら許しを乞うだろうな!!


  そんな化け物じみた人間や数の力でも無ければやってられないだろうな。


「ですが!この度!その勇者の一人が吾が輩ら魔族に味方してくれた為に、その拮抗が破られたのです!」


  その勇者って……あと興奮したからってテーブルに乗らないでほしい。

  ホラ!爪で傷が付く。


「その勇者というのは突如として現れ、吾が輩ら魔族に味方した魔王様の奥方…………。

『殲滅の勇者』ことレイカ様なのです!」


  うん知ってた。多分と言うか絶対そうだと思った。


  そこで我が娘の名が出なければ、誰が出るんだって話だ。


  それと殲滅とは、随分と物騒な二つ名を頂いたものだなぁ。


  「レイカ様は当初、吾が輩ら魔族を滅ぼすべく、単身で魔王城に乗り込んできたのですが、魔王様の説得と、正義有る志しに触れ吾が輩らに味方してくれることとなったのです!

  更に、魔王様とレイカ様は互いに心を奪われて愛するようになり、婚約へと至ったと聞きおよんでいます」


  違います。奪われたのは心では無く、魔王様の下半身にある金の宝玉です。


  それに麗香達の場合は正義ではなく、性技が正しいと思う。


  親の前で嬉々として、夜の営みを語ってくる程だからな。魔王は意外と純心だったが。


「レイカ様率いる吾が輩ら魔王軍は、破竹の勢いで近隣の国々を墜としていき、迎え打った勇者も既に6人も打ち倒しているのです!

  それに加え此度の聖王国の件と序列第5位のキシルールの捕縛……最早魔族に……いや!

  レイカ様に敵うもの等おりますまい!!

  正にレイカ様こそ、吾が輩ら魔族の勝利の女神なのです!!」


  リカム君は嬉々として麗香の活躍中を語っているが、親としては非常に複雑な心境である。


  不良の集団を率いて、他校に殴り込みをかけるとかであれば親の愛を持って、体を張って止めてみせるが、魔王の軍勢を率いて国を攻めるとあれば、私の体では足りないし、親の愛や熱情を持ってしても止められないだろう。


  それに端的に言えば、勇者の誘拐紛いのことまでした日には、最早諦めの境地で悟りさえ開けそうな心境だ。


  後、気になったが魔物なのに麗香を『女神』って言っていたが、魔物が神様を信仰しても良いのか?


  それと興奮したからって更に爪を立てるな。

  テーブルにえらくデカイ傷がついてるぞ。


「しかし……貴殿は……その……本当に……あのレイカ様の御父上なのでしょうか?」


  リカムは突然、訝しげな目をしながら、徐々にHPが削られていく我が家のテーブルを見ていた私に質問をしてきた。


「はっ?なんだい藪から棒に?」


「いえ……申し訳ありません。

  しかし、その……余りにもレイカ様に似ていないと申しますか……顔といい、覇気といい……」


  成る程、確かに私と麗香は余り似ていない。


  極平凡な中年男性である私に対し、麗香……

  いや……我が娘達や息子は平均以上の整った顔をしている。


  確かに妻は、私には勿体無い位に綺麗な顔立ちをしているため、妻似と言えばそれまでだが、私の遺伝子を殆んど感じさせないというのも中々に珍しい。


  故に昔から、実は血の繋がりが無いのではないか?等と近所や親戚に良く言われたものだ。


  無論、私達はれっきとした親子であり、妻も何らかの不貞を働いたなどといったことはない。


  以前、娘達がまだ幼い頃、親戚の葬式の席で酔っ払った叔父が妻にその事を言って、『俺にもお前を抱かせろよ』的な発言をして……。


  よそう……余りグロい思い出には浸りたくない。


  一つ言えるのは、連日で葬式をする寸前だったということだ。


  それと、覇気の件は両手を上げて賛成だ。

  私に麗香程の覇気があれば、営業先で頭を下げなくとも、今頃力尽くで契約を取り回っているだろう。


「まぁ確かに昔から良く似てはいないと言われたけど、正真正銘に私とあの娘は親子だよ」


「ムゥ…………」


  何やら納得のいかない様子で腕を組み、私を睨みながら考えはじめたな。


  それより、いい加減テーブルから降りてくれ。


  最早、補修材では誤魔化し不可能な程の傷というか穴が空いているのだが?


  もう、我が家のテーブルのHPは限界だよ?


「分かり申した!!」


  バキッ!


  リカムが突然、目を見開いて足を踏み鳴らした。


  同時に、我が家のテーブルが傘立ての後を追うことになった。


「あの……えっ?分かったって?」


「魔王様もレイカ様も申しておりました!

  真なる強者は見た目では計れぬ……と!

  故に、御父上も真なる実力を隠されているのでは?」


  うん。何言ってるのこの子?


  似てる似てないの話から、何故に力を隠しているとかの話になるのだ?


  私の力は見たまんまだ!


  ちょっと学生の頃に柔道(初段)を噛じっていたが、それを隠れた力と言うならば、隣近所の工藤のお爺ちゃんなんか和やか雰囲気とは裏腹に合気道の達人だぞ!


  普段は息子夫婦の飼うチワワに振り回されているが、昔は2メートル越えの米軍海兵を振り回して戦場を生き延びた真なる実力者だぞ!


  そういうのを実力を隠してる人と言うんだよ!

 

「いや…わた「吾が輩!実は今回此処に来たのは、レイカ様の御父上の力がどれ程のものか興味もあったからなのです!先程の話の後から、吾が輩は御父上に殺気を飛ばしていたのですが、全く臆する様子もない!それはつまり気にする必要も無いということですな?」


  すいません。テーブルに気を取られていて気付きませんでした。


  っていうか主の妻の親に殺気を飛ばすなよ!


  それと勝手に妙な解釈をしないでくれ!


「だからちが…「フフフ…やはり真なる実力者は見た目では分からぬものなのですね…」


  何か不適に笑いながら前傾姿勢を取り始めた。


  うん。嫌な予感しかしない。


「あの…「御父上!!是非この吾が輩に、一手ご教授願いたい!!」


  なんかリカム君の全身の毛が逆立って、デカイ口で牙を剥きはじめた。


  疲れ目のせいか、全身から赤い湯気のようなものも出ているように見える。


  後で、点眼薬をしよう。


  などと現実逃避してる間にも、リカム君の体が膨らんでいき、闘気?のようなものもデカクなり、圧倒されて体が動かなくなる。


「グフゥ!デハ御父上!ソロソロ参リマス」


  なんか言葉が片言になっている。


  うん。これ駄目だ。


  死ぬやつだ。


  だって、視界の隅で骨夫が鎌を持ってスタンバっているし。


  あぁ……何故こうなった?


  只、黒猫の運送屋が来ると聞いていたのに、来たのが運葬屋とは……。


  などと、考えて目の前の脅威に死を覚悟した瞬間……。












「お父さん、ただいまぁ!」





  女神(妻)が来た。



家具 アルミ製傘立て

Lv:1

称号:【傘立て】【耐えし物】

HP:死亡

MP:0

攻撃力【物理】:10

防御力【物理】:60

攻撃力【魔法】:0

防御力【魔法】:10

素早さ:0

知識:10

運勢:30


彼の最後の言葉……

『イケると思ったんだがな……ヘッ…フレームが後3本足りなかったぜ』


家具 木製テーブル

Lv:1

称号:【テーブル】【耐えし物】

HP:死亡

MP:0

攻撃力【物理】:20

防御力【物理】:75

攻撃力【魔法】:0

防御力【魔法】:20

素早さ:0

知識:10

運勢:30


彼の最後の言葉……

『黙ってないで、あいつを降ろさせろよ!このバーコードが!!』


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