10話 運送屋さんは大変です!
仕事の都合により、明日から更新を暫く休みます。
「フンフフ~ン♪」
よく晴れた昼下がりの休日、私は7年ローンで買った愛車の洗車をしていた。
思いきって買った白のワンボックスだが、電車通勤の私には中々乗る機会がなく、普段はもっぱら妻が買い物や、友人達とドライブを行く時などに使われている。
ならば妻が車を洗うべきかと思うだろうが、そうはいかない退っ引きならない事情が私にはあるのだ。
この車を一目見て買いたかった私は、妻を必死に説得し、購入までに漕ぎ着けた。
しかし、その際に車を買う条件を色々と出され、購入できるならばと全ての条件を飲み込んだのだ。
その条件の一つが「車の洗車等は私がやる」というものであったのだ。
故に私は今、使ってもいない愛車の洗車を休日を潰してまでやっているのだ。
だが後悔は無い!欲しかった車を手に入れる為に払った代償だ!決して後悔は無い!
寧ろ、綺麗になっていく車を見ていると、心まで洗われているような清々しい気分になるのだ!あぁ本当に気分が良い!!
えっ?泣いているんじゃないかって?
泣いてる訳ないさ!きっと水飛沫が顔に飛んでいるのさ!そうに違いない!
◇◇◇
だが、こうやって普通に洗車をしていると、この間のことが夢なんじゃないかと思えてくる。
愛娘である麗香と婚約者の魔王ゲルクルシュ=アッシュノート=ルルシフェル。
この二人が婚約の挨拶に来てから、もう1週間が過ぎた。
この間、特に変わりもなく日常を……いや一つ変わった所があったな。
我が家に1人?1体?……何でもいいや。
とにかく、同居人というか勝手に住み着いた奴がいたのだ。
その住み着いた奴というのは例の『骨夫』である。
この骨夫、もはや幻覚とかの枠を越えて、普通に私の生活の中に介入してくるのだ。
何故か奴は私にしか見えない……いや私が生み出した幻覚だから当然か?とにかく必ず私の視界内におり、かなり好き勝手に振る舞っているのだ。
朝は起きたら目の前で鎌を持ってスタンバっていて心臓に悪いし、配達の牛乳を取りに行けば先に飲んでいるわ、私の朝食を摘まみ食いをするわ……。
食べたりないから、仕方なく御代わりをするのだが「最近、食欲があるわね」と妻が嬉しそうにしていたので、この食事の件は引き下がろう。
日中はフッと姿を消すが、1回だけ会社まで付いて来たこともある。
上司の背後に奴がいたときは驚いて上司に……
「後ろ後ろ!」と言ってしまい、上司が背後を見た後に私へ向き直り「佐沼君、今日は疲れているようだから帰って休んだ方がよさそうだ」と慈愛に満ちた目で早退を勧められてしまった。
おかげであの後、『後ろの佐沼くん』というあだ名を陰で囁かれるようになってしまったじゃないか。
家に帰れば当然の様に奴がいて、飯を摘まみ食いし風呂に入り、予備に置いてある歯ブラシで歯まで磨いてやがる。
そして夜になると、勝手に私のパジャマを着て押し入れの中で眠っているのだ。
全く、本当にとんでもないものが住み着いたものだ。
今も、洗車をしている私の脇で、リラックスチェアを広げて座りながら読書をしている。
随分と好き勝手に振る舞う奴だな……。
ってこいつ……『猿でも分かる経営マネージメント』っていつ使うんだよ?
その本は何処から持ってきた?
『トゥルルルルルル』
んっ?電話か……って妻は買い物に出掛けているんだったな……ってこの骨夫が!
玄関に指向けながら『五月蝿いから早く出ろ』って感じの顔をするんじゃない!
分かったよ!出るわい!
ズンズンという足音でもしそうな歩き方をして、電話に出るべく居間へと向かった。
「はい、もしもし佐沼ですが?」
『あっ!パパ?私、私!私だよ!』
「私、私詐欺ですか?すいませんが妻に財布を握られている為、出せるようなお金は私にはありません」
『ちょ!違うよ!麗香だよ!後、何気に悲しいこと言わないでよ!』
「分かっているよ、麗香だろ?どうした?」
声を聞いて直ぐに麗香だと分かったが、少しばかりイタズラをしたくなりからかってみたが中々良いリアクションをするな。
後、財布を握られているのはノンフィクションである。
『もう!パパったらからかって!帰ったらペンペンの刑だぞ!』
「ハハハハ!父さん、内臓ぶち撒けて死んじゃうぞ!」
あんな豪打のサンドバッグ刑を喰らったら1発でお陀仏だ。
『まぁいいや。冗談は置いといて、そっちに荷物を送っておいたから』
「荷物?」
『うん。この間、挨拶した次の日に聖王国の奴等が攻めてきたんだ』
「うん……?」
『まぁ事前に情報は漏れていたから、準備をして返り討ちにしてやったんだけどね!
10万規模の大軍が総崩れになるのを見るのは中々に爽快だったよ!』
「ううん……?」
『それで、戦勝祝いに記念のお菓子や料理を大量に作ったからパパ達にも送ろうと思ったの』
「うぅん……?」
『それで黒猫の運送屋を使って送ったから、皆で食べて頂戴!多分、昼過ぎには荷物が着くと思うから。
じゃあ、私はまだ仕事がある……『おのれぇ!裏切りの魔女がぁ…ギャアアアア!!』…から切るね!また、後でゆっくり電話するから!ママにもよろしく!じゃあね!……しっかり押さえとけつっただろ……』
ガチャン……ツーツー
「……………………………………………………」
そう言えば、この電話ってどうやってつながっているんだろうか?
魔法か?魔法だろうな。不思議なことは全て魔法で解決できるからな。
んっ?それどころではない?
なんの事か分からないな?
私は何も聞いていない、聞いたのは可愛い愛娘の声と、お土産を送ってくれるという親孝行な話だけだ。
決して戦争の話とか、悲鳴とかは聞いていない。
もう1度言う。
キイテイナイ。
◇◇◇◇
何やら私のキャパシティを越える話を聞いてしまい、正気を失ってしまったらしい。
しっかり気を持たねば……。
しかし、麗香も気が効くようになったものだな。
親に食べて欲しいという思いで、お土産を送ってくれるというのだから。
まぁ絢香は常日頃から色々と送ってきているが……。
あまりにも多国籍過ぎる土産と絵ハガキの数々が……。
あの子も詳しく話さないが、一体どんな仕事をしているのか。
おっと!考え事をしている場合じゃないな。
昼過ぎには荷物が来るというから、判子の準備をしなければな。
しかし、向こうにもあったんだな黒猫の……。
どうやって来るんだ?トラック?いや、そんな訳がない……ちょっと待てよ。
本当に例の『黒猫』か?まさかあのブラックドラゴンかそれに類するものが……?
『ドンドン!!』
おっ!誰か来たな、荷物が来るには少し早いな?まぁ……考え事は後にしよう。
『ドンドン!!』
「ハイハイ!今出ます」
『ドンドン!!』
五月蝿いな……てかインターホンがあるのだから、そっちをおせばいいのに。
「はい、お待たせしま……し……た?」
扉を開けたそこには、黒い壁が広がっていた。
否、それは壁ではなかった。
只、何かが私の目の前に立ち塞がっていたのである。
私はゆっくりと顔を上げて『それ』を確認した。
そして、それは金色に輝く鋭い瞳を私に向けながら口を開いた。
「失礼!吾が輩は魔王様に仕えし戦士が一人リカム=ミケールと申す者である!此度は奥方様の至急の命により、頼まれし小箱を届けに来たしだいである!此処に奥方様が御父上であるサヌマ=ケンゾウ様はおられるか?」
扉の向こうには、身長2メートルを越える、ガタイの良い二足歩行の黒豹がいたのだ。
「…………私です」
いや……確かに『黒い猫科』ではあるな。
豹人戦士 リカム=ミケール
Lv:480
称号:【大戦士】【獣牙の戦士】【忠義者】
【拳闘士】【駿足者】【パシリ】
HP:30000
MP:1100
攻撃力【物理】:1800
防御力【物理】:1600
攻撃力【魔法】:200
防御力【魔法】:350
素早さ:2000
知識:90
運勢:25
装備:【黒き大剣】【ヒュドラの腰巻き】
【鎧竜の胸当て】【森霊のミサンガ】【メモ帳】
加護:なし