三。告白されたいL雄さん
夜。
地下バーの隅で。
今日のお客様は、挙動不審な男性でした。
年は、25歳で、フリーターだそうです。
ボサボサの茶髪に、無精髭のある顎、一重まぶたの目はキョロキョロと忙しなく動いていて、何かを警戒しているように見えます。
「ほんとにアンタできんのか」
「・・・"縁結び"でしたら、可能ですが」
「俺と○○○は、ずっと一緒に育って来たんだよ。運命だよ。俺も○○○も両思いなのは分かってんだよ。でもなんか○○○は恥ずかしがって俺に告ってこないっていうか」
情報保護のために、お客様の言うお相手の名前は、○○○と表記します。
お客様は、仮名L雄さんと呼びましょう。
「でしたら、L雄様が告白なさればよろしいのではないでしょうか」
「いやいやいや、俺からなんてカッコ悪いじゃん。○○○が好きな事は知ってんだし、○○○が言うべきっていうか」
お客様はあくまでも、お相手から告白される事にこだわっていらっしゃるようでした。
「では、"縁結び"致しますか?」
「とーぜん。早くやってくれよ」
契約書、誓約書を書いて頂き、L雄さん、○○○さんのお写真を預かりました。
○○○さんのお写真は幾つかあり、一番写りが良いものをえらんだのですが、全てカメラ目線ではありません。
まるで隠し撮りしたかのようで、嫌な予感がします。
"縁結び"の御守りを作った後、L雄さんにお渡しして、別れました。
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L雄さんの言葉は、始終支離滅裂で、とても精神不安定に見えました。
このようなお客様は以前にもいらっしゃり、俗にいうストーカーでした。
私の"縁結び"は、ネットの抽選に当選した方のみ、お客様になれます。
公平である一方、私自身お客様を選ぶ事ができません。
時には、この"縁結び"を不埒な理由で利用しようとする人もいるのです。
過去に、実際に犯罪が起こってしまった経験から、私はこのようなお客様の"縁結び"をした場合の措置を行いました。
それは、お客様とお相手の関係を探偵に調査してもらう事です。
犯罪の共犯にされてはたまりませんので、お客様の"縁結び"の動機が本当かどうかしっかりと調べます。
すると、案の定、L雄さんの動機は虚偽であると判明しました。
お相手としてあげられた○○○さんは、L雄さんのバイト仲間です。
しかし、L雄さんはまるで幼馴染であるかのような言い方をしていらっしゃいましたが、二人はそのバイトで初めて知り合ったそうです。
両思いであると断言していましたが、そのような様子は欠片もなく、L雄さんの妄想である可能性が高いのです。
むしろ、○○○さんとL雄さんはほとんど関わりもなく、話す事がない状況で、しばしばL雄さんが○○○さんの事を凝視しているとの事。
"縁結び"に使った写真も隠し撮りであろう、と判断しました。
このような"縁結び"は、悪い事態を生み出します。
たとえL雄さんが抱いている想いが恋情だとしても、一方的で歪んだ想いは、相手に対して呪いのように作用してしまうのです。
現れる症状は、寒気、不調、頭痛、倦怠感などなど、最悪意識不明に陥る事すらあります。
しかし、結んだ「縁」を切る事はしません。
対処方法は、"縁結び"されたお相手にその事実を伝える事でした。
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"縁結び"から一ヶ月ほど経った時、L雄さんからクレームがきました。
つまり、いつまでたっても○○○さんがL雄さんに好意を持つ様子が見られない、と。
しかし、それは当然です。
調査の後、私はすぐに○○○さんに、L雄さんと「縁」を結んだ事、おそらくストーカーに近い行為をされている事、歪んだ想いによる不調の事を伝えました。
○○○さん自身は、そんな事まったくご存知なく、むしろこの件でL雄さんを嫌悪したようでした。
私は○○○さんに届いてしまう想いに抵抗して、跳ね返す方法を伝授しました。
なので、○○○さんはL雄さんの想いに感化される事はありえませんし、むしろその歪んだ想いはL雄さんへと跳ね返っていたのです。
歪んだ想いは本人にも作用します。
L雄さんは、この一ヶ月、原因不明の寒気と腹痛に悩まされたようでした。
私は"縁結び"の意味をご説明し、"縁結び"は失敗したとお伝えしました。
体調不良は結んだ「縁」が原因なので、その御守りを寺などで燃やすようにも申しました。
実行したのかしてないのか分かりませんが、○○○さんによると、その後L雄さんはバイトを辞め、噂では入院したとの事でした。
御愁傷様です。
L雄さんにも、○○○さんにも、次は良い「縁」がありますように。