表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縁結び屋  作者: 有寄之蟻
1/3

一。結婚したいE子さん




朝。


駅前のカフェの個室で。


今日のお客様は、30代くらいの女性でした。


黒い直毛をぴっしりとまとめて、黒いパンツスーツをぴっしりと着ています。


化粧は整える程度、キリッとした目と薄い唇に、キツイ印象のある、そこそこの美人さんです。


職業は、事務員とのことで、職場で「お局さん」と呼ばれていそうだと思いました。


「どうしても、結婚したいんです」


情報保護のために、仮にE子さんと呼びましょうかーーE子さんは、とても強い結婚願望があるようでした。


「ここ最近、誰とも交際をしてなくて。もう気がついたら30代に入ってしまいたしたし、そろそろ本気で焦ってきたんです」


E子さんには、現在意中の人はいらっしゃらないようで。


「あなたはの"縁結び"は、本物だって聞いて、いてもたってもいられなくて」


ネットで私の噂を知って、なんとお客様の一人に実際に会いに行ったそうです。


「あなたの"縁結び"で結婚できたって言われて、もう藁にも縋る思いで応募したんです」


私の"縁結び"は、ネットで応募して、抽選で選ばれなければなりません。


「抽選に当たった時は、信じられなくて泣きそうになりました」


自画自賛になりますが、私の"縁結び"は業界で最も成功率が高いので、抽選はとんでもない競争率になるのです。


その中で選ばれたE子さんは、とても運が良かったのでしょう。


しかし、ここで一つ問題がありました。


「E子様、私の"縁結び"の方法はご存知でしょうか?」


「いえ・・・」


「では、ご説明致しますね」


"縁結び"には、幾つか必要な物があります。


お客様のお写真と、お名前が分かっている事。


そして、"縁結び"したいお相手のお写真と、お名前が分かっている事です。


方法は、二つの写真の裏にそれぞれの名前を書きます。


写真の上と下の中央に穴をあけて、二つの写真を結びます。


それを、お客様がお相手に気づかれないように身につけるだけです。


「E子様、私の"縁結び"には、お相手がいる事が前提となっているのですが、誰か縁を結びたい方はございますか?」


そう、お相手(・・・)が必要なのです。


「それは・・・いません」


「今、恋愛相手としてみておられる方に限らず、この人と家族になりたいと思う方や、気が合うと思う方でも、心当たりのある方はございませんか?」


「・・・・・・一人」


「はい。どんな方ですか?」


「上司で、42歳、バツイチです。優しくて、仕事が早くて、顔はほんわかした感じで、背はそんなに高くないんですけど、しっかりしてて、気配り上手だし、社内でも結構モテるほうでーーって、ベラベラとすみません!」


「いえいえ」


E子さんはその方がかなりお好きなようです。


「"縁結び"するのは、その方でよろしいですか?」


「・・・・・・本当に、できるんですよね?」


「それは、E子様とその方が結婚できるか、という事でしょうか」


「はい」


「絶対というものは存在しませんので、必ず結婚できますとは申しませんが、E子様のご様子を見るに、おそらく大丈夫かと思われます」


「おそらく、なんですか?」


E子さんは不確定な事に不安のようですが、それは"縁結び"の意味を理解されてないためでしょう。


「私の"縁結び"は、未来を望むように変える事ではございません。お客様とお相手の間に「縁」という【糸】を結んで、お客様の想いをお相手に届くようにするのが、私の"縁結び"なのです」


"縁結び"は、恋愛に限りません。


たとえば、友達になりたい人と。


たとえば、不仲になってしまった家族と。


たとえば、商談を成立させたい取引先の相手と。


「縁」を結び、お客様の親しくなりたいという想いを届くようにする事で、少しずつ気持ちが相手に伝わり、それが相手との関係の変化を生むのです。


なので、その想いが強ければ強いほど、気持ちが相手に伝わりわすく、変化も早く、良い方向に向かうのです。


「E子様は、その方の事がかなりお好きなのではありませんか?もしそうでしたら、その好意は伝わりやすいですし、その方もE子様に対して好意を持ちやすいのです」


「そういう事なんですね・・・。そう、ですね。好き、なのかもしれません」


「どうなさいましょう。"縁結び"、致しますか?」


「・・・はい、お願いします」


決定したので、その後は諸々の手続きをしました。


契約書、誓約書、E子さんのお写真を預かり、お相手のお名前を教えて頂きました。


写真がないとの事でしたので、別の日に頂く約束をし、E子さんとお別れしました。






**********






"縁結び"から一年後に、E子さんから『結婚しました』との連絡がありました。


本当に、おめでとうございます。


お二人の「縁」がこれからも続いていきますように。









誤字・脱字などありましたら、指摘してくださると有難いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ