夢現 4
気が付けば慎太郎は矢張りコンビニの駐車場にいた。
心無しか喉が痛い。
夢か現か分からぬ状況に少し頭が混乱している。慎太郎は気持ちを落ち着かせようとエナジードリンクを袋から取り出そうとして其の行動を止めた。
恐る恐るアルミ缶を握る。グニャっとアルミ缶がへこんだ。そして、其れはまるで中身が無いかのごとく軽かった。嘘だ。慎太郎は現実を否定する。然れど其れは中身のある重さと違い明らかに軽い。
慎太郎は袋の中でアルミ缶をグニャッと潰す。そして予想通り簡単に潰れた。
フラリと意識が遠のいて行く。
あれは夢ではなかった。
慎太郎は袋から手を出すと運転席のドアを開け地面を見やる。案の定先程捨てた煙草の吸い殻が地面に落ちている。
ゾクリ、ゾクリと背筋が氷る。
必要以上に誰かに見られている気になってくる。
怖い。
そう言った感情が込み上げてくる。だが今イチ何に恐怖しているのかが分から無い。喪服を着た男にか、其れとも浴衣の娘にかーー。
其れとも、此の夢とも現実とも分からぬ自分の意識に恐れを抱いているのか ? 不可解すぎて考えがついて行かない。
慎太郎はふぅ、と吐息を吐きグッタリとシートに凭れ掛ける。
駄目だ。
疲れているんだ。
と、慎太郎は目頭を押さえ、何に疲れているのか皆目見当もつかぬが、其の事には深く触れず今日は帰る事にした。
程よく日も徐々に沈み始め、時計を見やると時刻は六時になろうとしている。
六時ーー。
もうそんな時間か。時計を見やりボソリと呟く。結局今日の水揚げは0。コンビニの駐車場で寝ていただけと言う事になる。
自分でも驚く程無駄な一日を過ごしてしまった。そんな事を考えると一気に無駄な疲れが押し寄せて来る。
矢張り疲れているのだ。
慎太郎は自分にそう言い聞かせ会社に戻る事にした。
コンビニの駐車場から道に出て1分程進めば会社に帰る事が出来る。時間的に早退扱いになるが今日は別に構わない。
水揚げも0だし今更何をしても然程変わることもないし逆に諦めもつく。其れに納金する事も無いので無駄な事をせず車だけ掃除しておけば問題もない。
だから慎太郎は会社に帰ってから小一時間程で退社することが出来た。
会社を出ると日は完全に沈み夜になっている。分かってはいる事だが早退して外が暗いと言うのは損した気分になる。
其れに運輸部の人間にも嫌味を言われるしで踏んだり蹴ったりである。慎太郎は渋い顔で煙草に火を付けると何時もの様に木嶋神社の前を通り家路に着くことにした。
ダラダラと夜道を歩きプカプカと煙草を噴かす。途中コンビニに寄り晩飯になりそうなものを買う。そしてコンビニに袋をぶら下げダラダラと垂れた姿勢で歩く姿は、四十六にして老人のようである。
ダラダラ、ダラダラと歩く。
そしてピタリと木嶋神社の前で歩みを止めた。
何やら明かりの様なものがボォッと光っている。何だ ?珍しいと思いジイッと見ていると光が一つ、二つ、三つと増えていく。
何か祭りの行事でもやっているのかと見やっていると其の光は瞬く間に増えて行き煌々とした輝きになり慎太郎の方に近づいてくる。
否、正確には入口の鳥居に向かってだ。
そしてあれや此れやと言う間に其の光は慎太郎の前でピタリと止まる。
「な、何だ ?」
と、よく見ると狐のお面を被った数十人の子供と簡素な神輿に乗った御稚児さんがいた。
「何やお参りかいな。」
と、慎太郎が言うと、挨拶回りや。と、生意気な口調で御稚児さんが答える。
「へぇ、こんな時間になぁ。」
「せや。色々大変やねん。」
と、言ってお稚児さんが一輪の菊の花を差し出した。
「何やこれ。」
「菊やがな。せっかくやし上げるわ。」
気持ちが落ちている時に菊の花かいなと思い乍らも、折角なのでおおきにと言って慎太郎は頂く事にした。
そして、ポロリ。
菊の頭が地面に落ちる。
ほんま勘弁してやぁ。と、ガックリ項垂れ乍ら、気持ちだけ頂いとくわ。と、茎を御稚児さんに返す。
「ま、まぁ、気にせんといて。あ、せやせや。おっちゃんにはこれが必要やろ。」
と、御稚児さんは何やら不思議な光を放つ鬼灯を慎太郎に手渡した。今度は頭が落ちると言う様な事がなかったので慎太郎は其れをジッと見やり良く出来た玩具だと感心した。そんな慎太郎を見やり、道中は真っ暗やさかい其れが役に立つわ。と御稚児さんが言う。
「道中 ?」
と、周りを見やるが街灯と民家の明かりで真っ暗とは言い難い。然れど御稚児さんはニコリと笑みを浮かべ、忘れん用にな。と言うと神輿を出発させた。
何や、えらいけったいなガキンチョやな。成りきっとるがな。と、慎太郎は鬼灯をクルクル回し乍らソソクサと歩き出した。