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万象の魔女  作者: シロイペンギン
エピローグ 因果の継承者
8/13

色のない魔力

物心ついた頃から、魔法があった。

そんな家だった。


だからなのか――

私は、人よりも魔力やマナに敏感だった。

今も、感じる。


あの獣たちから放たれている“何か”。

それは、ただの魔力ではない。


その“意味”を視るために、魔力を目へと流す。


熱い。

目が、焼けるように熱い。


けれど――見える。


あいつだ。

あいつから、他のやつへと魔力が流れている。

まるで、“意思”そのものを分け与えているように。


「あいつよ!」

私は、リオンを狙う七匹のうちの一匹を指さした。


特徴はない。

けれど、あの獣から放たれる“独特の魔力”は確かに感じる。


すると、ディランの動きが変わった。


――速い。


ディランは、絶妙な距離を保っていた一匹を一閃で斬り捨て、

残る三匹をかわしながら、私の指さした獣へと一気に駆けた。


その接近を察した群れが、リオンを放棄して主を守るように陣形を組む。

だが、その動きよりも早く――

ディランの剣が、一匹を一瞬で切り伏せ、

そのまま“主”の首筋を断ち切った。


……やった。


谷に、ほんの一瞬の静寂が訪れた。

風が流れ、灰色の毛が散る。


しかし、すぐに私は――違和感を覚えた。


狼たちの陣形が、変わった。

残る十二匹の動きが、明らかに再編されている。


三匹がバルナへ。

六匹がディランへ。

そして、リオンを完全に放棄し――

残りの三匹が、私とニナへ向かってきた。


なぜ?

“主”は、ディランが確かに斬ったはず。

もう統率は、失われているはずなのに。


私は、再び魔力を視る。


……おかしい。

魔力の流れが――変わっている。


バルナと戦っている一体から、先ほどと同じ“統率の魔力”が放たれている。


どうして、意味がまだ動いているの。


仕方ない。

「バルナ、そいつ!」

「オッケー!」――バルナが勢いを上げた。


三匹が、私たちへと突っ込んでくる。

ニナが前に出て迎撃する。

私は目をそらさない。

それが今の、私の“魔導士”としての役目。


次で必ず、“意味”を特定する。


バルナがわずかに傷を負いながらも、“主”を斬った。


その瞬間――私は、すべての狼を視界に入れていた。

それぞれの個体から放たれる、微細な魔力の違いにまで集中していた。


そして、見えた。


“主”が斬られた瞬間。

その“意味”が――移った。


私は――見逃さなかった。

“主”の次に魔力の強い獣に、“意味”が移った。


おそらく、“意味刻み”は個体ではなく――群れそのもの。

ならば、“意味”を剥がすことは……不可能なのでは。


ここまでやったのに、全て無駄になってしまうの。


みんなが戦っている。

その姿が、視界に映る。


――いや。


確実に、あの独特な魔力を中心に群れが“意味”をなしている。


――“主”が移る瞬間。

あの獣の魔力を再現し、割り込めば……

もしかしたら、“意味”を奪えるかもしれない。


でも、魔物の魔力を再現するなんて――できない。


もう一度、みんなの姿を見る。


――考えろ、セラナ。


魔物には、その魔力を蓄積した“魔石”が宿るはず。


倒れた狼に目を向ける。

バルナが切り伏せた個体だ。


腰のナイフを見る。

護身用の、小ぶりな刃。


……やるしかない。


「ニナ、ここは任せた! 信じてる!」

叫んだ瞬間、自分でも驚くほど――笑っていた。


――やっぱり、みんなの言うとおり。

私は、性格が曲がってるのかもしれない。


でも、

性格のいいニナも、笑っていた。


狼の死体へと駆け出す。

――そう、私は足が速い。


風を切る感覚。

もう、さっきまでの煙の匂いは薄れていて、

代わりに、香木のような甘い匂いが漂っていた。


……なんか、場違いだ。


狼の死体にたどり着く。

すぐそばで、バルナが剣を振るっている。


私はナイフに魔力を込め、

狼の胸を裂き、奥へと手を伸ばす。


――あった。


指先に触れる、硬質な感触。

紫色の結晶――魔石。

まだ温もりが残っている。


感じる、この狼の魔力を。


「……よし。」


“万象を見る目”で覗き込む。


けれど、何も分からない。

光も、流れも、理も――すべてが霧のようにぼやけている。


わからない。

でも、特別なことをする必要はない。


私は、魔法を知っている。

ずっと、それと共に生きてきた。


いける。

――いける、気がした。


「――そいつよ!」

私は、“新たな主”を指さした。


最も近くにいたリオンが、振り返り、力強く頷く。

「任せて……ください!!!」


“主”は、すでにリオンを意識の外に置いていた。

その死角から、リオンの剣が閃く。


――主が、倒れた。


同時に。


私は、魔力を放出した。

家でも、学校でも、何度も繰り返してきた――

魔術の基礎中の基礎。


それは、私のあの国でのすべて。

研鑽の果てに洗練された、

“色のない魔力”だった。


放たれた無色の魔力が、


魔狼の魔石に溜まっていた魔力を、押し出していく。


パリン――と、小さな音を立てて魔石が砕けた。


その瞬間、無色の魔力は魔狼の魔力と混ざり合い、

ゆっくりと、色を帯びて――広がっていく。


「――あんた達の主は、私よ!!!」


声が、谷に響く。


私が再現した“最も強力な狼の魔力”が、

確かに群れの支配構造へと割り込んだ。


そして、私は“意味”を――奪った。


谷が、静まり返った。

風の音も、獣の敵意も――どこかへ消えていた。

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