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万象の魔女  作者: シロイペンギン
エピローグ 因果の継承者
13/13

魔響区へ

しょうもない貴族への報告を終えると、私は一人で足早にピピ先生を探した。


先生は、きっとどこかで治療をしている。

だから――治癒の魔力を辿れば、すぐに見つけられるはずだった。


やっぱり、私は優秀だ。

道中の地道な練習のかいもあってか、今ではこの“目”をかなり使いこなせている。

……おまけに、目から放たれる熱で涙目になることも、だいぶマシになった。


先生は、すぐに見つけられた。

治癒の魔力がやわらかく漂う――その中心に。


「先生! 戻ってきました!」

「アルセリアさん!」


振り返ったピピ先生の顔に、一瞬、驚き――それから安堵の色が浮かんだ。


「先生、約束通り、勇者を連れてきました」

「まあ……やっぱり、あなたはすごい子ですね」


褒められるのには慣れている。

それでも――先生に褒められると、なぜか胸が温かくなった。

この人からは、世辞や体裁なんてものを感じない。


「アルディアも支援してくれるって、約束してくれました。

 ここの人たちも――きっと助かります」


私の言葉に、

ピピ先生はふっと安堵の表情を浮かべた。


その微笑みを見て、胸の奥が少しだけ軽くなった。


「アルセリアさんは……これから、どうするつもりですか?」

先生の声には、わずかな疲れと優しさが混じっていた。


「私は――勇者たちと一緒に、これからミラレスに入ります」


その言葉に、先生の目が大きく見開かれた。

「……もう、国の中央は魔響区化していて危険ですよ」


「その後は――勇者の同行者として、東の大陸へ旅に出ます。

 そういう約束で」


先生は、黙って私の言葉を聞いていた。

その目は、真剣だった。


「……そうですか。名誉なことですね」


短い沈黙が流れる。


「アルセリアさん――ありがとう」


その声には、言葉にしきれない思いがこもっていた。

まるで、私の心をすべて見透かしているような響きだった。


「先生、またすぐに戻ってきます。

 数日後には、アルディアから救援隊が来ると思うので……先生も、無理しないでください」


そう言って、私は先生のもとをあとにした。

足を止めず、まっすぐ自分のテントへ向かう。



テントの周りには、アルディアまでの旅を共にした四人と――レイが待っていた。


王国の中央へ向かうための準備は、すでに整っている。


ルートも決まっていた。

まず、バルナの故郷である獣人の村へ。

そこから、私が学んでいた学園のある城下町を経由し――

最後に、王宮へ入る。


「ニナ。おばあ様の杖って、屋敷にあるよね?」

出発の前に、ふと思い出した。

――エルネストが言っていた。“回収しておいた方がいい”と。


「いえ、王宮に保管されているはずです。

 ユーラ様は国の英雄でしたから」


てっきり、屋敷のどこかにあるものだと思っていた。


ならば――屋敷に寄る必要はないということだ。

良かったのか、悪かったのか。


「ねぇ、レイ。魔響区の拡大って……どうやって抑えるの?」

気づけば、口が動いていた。。


「そうですね。乱れの中心を見つけ、正す」

レイは淡々と答えたが――正直、それだけでは、何をどうするのかまったく分からない。


「乱れの原因は様々だ。実際に入って、確かめるしかない」

ディランの低い声が続く。


……要するに、行き当たりばったり。


マナの乱れが、どれほどのものか――予想がつかない。

だから、どれくらいで到着できるのかも分からなかった。


道中は、再びグランドウルフたちに乗っていくことにした。

私がピピ先生に会いに行っているあいだ、ニナとリオンが狼を西のほうへ連れていってくれていたらしい。


この野営地を、あの巨大な狼たちが堂々と通過していったのだと思うと――

……少しだけ、笑ってしまった。



私たちは昼食を終えると、野営地の西へ向かった。


そこには――四匹のグランドウルフが待っていた。

夕陽を背に、静かに尾を振る姿がどこか誇らしげに見える。


ここで、ニナとリオンとはお別れだ。


「ニナ、リオン……ありがとう」

私は深く頭を下げた。


「セラナ様、どうかご無事で。

 お帰りを、お待ちしております」

ニナの声は震えていた。瞳には、涙が光っている。

――本当に、最高のメイドだ。

いや、もう“元メイド”か。


リオンは黙って、ミラレス兵の敬礼をしていた。

その姿は、彼なりの“誇り”と“感謝”の形に見えた。


私は、愛犬――ミラに跨った。

柔らかな毛並みの下に、確かな鼓動を感じる。


レイ、ディラン、そしてバルナも、それぞれの狼に跨る。

誰も言葉を発さない。

けれど、その沈黙には、確かな覚悟が宿っていた。


風が止み、空気が張り詰める。

境界を越えた瞬間――世界の“音”が消えた。

音が遠のき、空気が重く、灰のような気配が肌を包む。


私たちは、ついに――魔響区へと、足を踏み入れた。


そして、目指すは――バルナの故郷。

まだ“村”と呼べる形を保っていることを、祈りながら。

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