第二章(書いてる途中)
-第二章- 歪んだ歯車の連鎖
人の働きが世界の誰かの生活の基盤となり、支えられている人もまた誰かを支える人間社会が正常に機能し続けている限り、これは今を生きようとしている全ての人々に新たな出会いをもたらし続けている。
かつてこの小さな世界、築...何年だったかも定かではないほどに古いアパートメントの一室に高さ1m20cm、幅70cm、奥行き65cmの小さな冷蔵庫がいた。葦毛の君と出会ったのが4年前。今のアパートメントに住み始めた際に新生活応援何とかでセット購入した家電であった。当時こそ先の見えない人生のレース場を前に、財布のひもがそれはそれは戦艦一隻繋ぎ泊められそうな位に固く締められていたものだ。
だが今は違う。それは国から振り込まれていた必要最低限程度の金銭で生活していたあの頃とは違うという意味だ。
生活水準を大きく向上させることを保証する基本給は冷蔵庫を新調させた。冷蔵、冷凍の二段しかなかったはずの小さな守護者は野菜室を追加した三段の守護天使へとその役割を受け継いだ。この家電の流動性こそが社会のボーイミーツフレッジ。
上から順に紹介したい。
まずは一段目、冷蔵室。たとえ夏を生きる昆虫たちですら死の牢獄と化す炎天下であっても、常に菌が繁殖できない温度に保つことで食品を守る食糧庫の王道。冷蔵庫の持つ三つの都の中でも最も広大な領土は、突然のお歳暮を受け入れるにふさわしい。
続いて二段目、冷凍室。以前は貿易船の如く詰め込まれていた冷凍食品たちは、今や客船に乗っている。今後はここに栄養価など全く考えられていないような嗜好品が詰め込まれるだろう。優雅な暮らしを送る食品たちは、僕の生活をも優雅に変えてくれるだろう。
最後に三段目、野菜室。広義で言うのであれば冷蔵室と同じものである。だがわざわざ同じ機能を持つ者同士であるはずの冷蔵室を二つに分け、うち一つを野菜専用にチューニングしている。現在はまだ冷蔵庫を買ったばかりで、野菜等の食品は調達していない為、必死に空気だけを冷やし続けている。健気なことだ。
今日から僕はこの高さ1m80cm、幅100cm、奥行き70cmの新人と共に生きていくのだ。
とまぁそんな個人的な出来事はキッチンにでも置いておこう。今重視すべき新たな出会いについて語らなければならない。
...
......
.........
「入室を許可するわ。」
扉の向こうから返答がなされる。これは先程僕のしたノックに対応するものだ。
今朝の朝礼の際、所長室まで来るように言われていた僕は緊張と共にここまで歩いてきた。想定される要件は3パターンに亘る。
一つ、昨日提出した報告書に何か不備があった。
二つ、さっき行った電話対応に不適切な点が含まれていた。
三つ、更なる調査任務を言い渡される。
「失礼します。」
丈夫で熱にも強く、錆びにくい性質を持つ合金である真鍮でできた"~"型のドアノブを平伏させ、空いた扉の隙間から流れてきた重鈍なる空気を泳ぎながら恐る恐る入室する。
瞬間いくつもの視線が全身を貫く。向けられた好奇の槍が複数であったことから先程上げた三つの仮設のうち、一つ目と二つ目は間違いだったようだ。少なくとも人のミスを指摘・叱責する際、他者に見せしめるような方法を取ってしまえば、世間の目が何をしでかすかは容易に想像できる。
ならば今目の前にいるこの見知らぬ者共は何者なのだろうか。四人中三人はここの制服を着ていることから外来生物課に所属する者だということはわかる。残る一人に関してはわからない。何せうちは制服の着用義務がないのだから。
こういった洋風建築の内装にありがちな金色の刺繍の入った赤い絨毯に足跡を付けながら所長、黒田ヴィリアの前へ正対する。足を揃え、背筋を伸ばす。
「境巡、招集に応じ参りました。用件を教えていただきたく思います。」
一昨日見た教育係のアニスィアの言動を参考にしつつそれっぽいことを言った。正直偉い人の前ではどういった話し方をすればいいかの教育なんてまだ受けていないこともあり、若干不自然な表現になってしまった可能性は100あると言える。
人と話すときは目を見て話せといつか言われた記憶が僕の視線を動かした。即ちヴィリアの赤紫色の目を視界の中央へ納めることになる。そこから読み取れる感情は喜怒哀楽いづれのベクトルに於いても0、決してNULLではない。可もなく不可もなくと言ったところだろう。
入室時の挨拶に成功したことへの安堵が次なる疑念を呼び覚ます。だとしたらここに呼び出された用件は何なのだろうか。その答えは待たずとも訪れた。
「ええ、ご苦労様。早速だけれどこれからこの人たちと任務に行ってもらう、と言っても巡君には特にやってもらうことはないのだけれど。」
そう言いながらヴィリアは任務指示書を渡してきた。その厚さは先日の調査任務依頼書に比べて三倍近くある。
再生紙に印字された文字列へ目を向ける。一行目に通常の二倍、即ち文字サイズ23で書かれた単語が存在感でもって訴えかける。
"討伐任務指示書"と。
心臓と血脈が織りなす交奏曲は全身のGPUに過大な負荷を掛けつつCPUにエラーをもたらす。調査任務との明確な違い、戦闘行為への積極性とそれに伴う危険性。
と失いかけた冷静さをここで取り戻す。ヴィリアは言った。特にやってもらうことはない、と。
「巡君は少なくともこの一年は調査班として任務へ従事してもらうことになるけれど、他の班が実際にやっていることを知るのも今後の連携をする上で重要なことになるものよ。だから今日はこの討伐班と行動をして、実際の後工程で何が行われているのかをしっかりと見学なさい。」
やはりそうだ。見学。確かに全くの危険がないわけではないにしろ、重大な責任を背負うこともない。
本日二度目の安堵。感情リソースがいくらあっても足りる気配がない。
南西の方角、即ち右奥側にいた不明なる人物が半歩前へ出る。
「どうも巡君。私は桜スコーロ、討伐第一班の班長をしている。今日は君の護衛をすることになっている。」
制服の襟を立て、一番上のボタンを閉めたその出で立ちからは、人道に正しくあろうとする心が見て取れる。こういったタイプの人には切実に接するのが吉だろう。
まずはその外見的特徴を覚える。
平均的な日本人に現れる黒髪は機能性とメンテナンス性を重視したショートヘアとなっている。身長は少し高い、アニスィアより1インチ低い程度だ。
差し出された右手には多くの傷跡が描くヒエログリフと、こちらのタブラ・ラサを合せる。
「よろしくお願いします。スコーロ班長。」
半歩下がり、体を二時の方角、即ち本棚のある方向へ向ける。
一話が長いという指摘を受けました. この意見を今後どうするかは未定です.




