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第9話 会議は踊る、されど決まらず。

◇◇◇


「お前野球好き?」


「ううん、別に」


「じゃあ坊主頭は?好き?」


「ううん、あんまり。チクチクしそう。何なの?藪から棒に」


 天気も良く、気候も心地よいので本日の天野蒔土(あまのまきと)攻略会議は急遽公園で行われる事となった。シロウ達の通う高校から徒歩で10分程歩いた所にある自然豊かなだだっ広い公園だ。園内のほとんどは森と言っても差し支えの無い様相で、大きな池もあり、その付近の東屋(あずまや)に二人はいる。池から覗く岩の上には亀が日向ぼっこをしている。


 ドリンクバーの提供が無い替わりに議長である霧ケ宮(きりがみや)(いずみ)からお茶とお菓子が提供されている。


「こないだマキトとお前の話になってさ。野球漫画とか野球ゲームとか言ってるから野球が好きなの?って話になったんよ。あっ、じゃあ好きな打撃フォームは?神主打法?ガニマタ打法?」


 差し出されたスナック菓子をウキウキとパーティ開きにしながら楽しそうにシロウは問うが、イズミは眉を顰める。


「あのさ、もうちょっと相手の興味を確認してから話を広げてよ。神主さんとガニマタにどんな関係があるの?あ、説明は別にいらないから」


 イチゴチョコでコーティングされたプリッツェルを開けてポリポリと食べつつシロウを白い目で見る。


「て言うかさ、何で私の話になってるのよ。弥宵(やよい)の事はちゃんと話してくれてるんでしょうね?」


 そもそもこの天野蒔土攻略会議とは、イズミの友人の柏木弥宵が天野蒔土に好意を抱いている事から発足したもののはずだが、未だ以て進展はない。会議の成果を上げるとすれば、いつかの朝、自動販売機前でそれぞれ同じ場に居合わせたくらいだろうか?もっとも、その際にも挨拶や言葉を交わすと言った事は無かったのだが。


「胸がでかい、とは一度言った事あるけど」


「セクハラ。二度と言うな」


 キッと真面目に睨まれてシロウは苦笑いを浮かべる。


「だってさ、後はあの子が天使って事位しか俺知らないぜ?いずみん」


「いずみんって言うな」


「他のやつにもそう呼ばれてんの?いずみん」


 懲りずにいずみん呼びを続けるシロウをジト目で見て、挑発的に答える。


「ううん、弥宵だけよ。しろうん」


 と、言い終えると顔を赤くしながら慌てて手を横に振り否定する。


「あっ、無し。今の無し。忘れて。あははっ」


 一人で言って、一人で照れて、一人で取り消す霧ヶ宮泉に白い目を向ける穂村司郎。


「……恥ずかしがるなら言うなよ。大体何だよ『しろうん』って。ネーミングセンスの欠片も感じられねーよ」


 売り言葉に買い言葉、まだ少し赤い顔でムッとして口を尖らせる。


「あ、そう。じゃあ穂村司郎君の考えるハイセンスなあだ名を教えてもらえる?」


「やだよ。何で自分で自分のあだ名なんか考えなきゃいけないんだよ。痛すぎるだろうが」


「そんな事言って思い浮かばないんでしょ?」


 安い挑発にぷっと噴き出して、へらへらとした笑みを浮かべる。


「あはは、そっすね。俺なんかの頭脳では、ちょっと……ねぇ。何でしたっけ(笑)?しろうん(笑)?あはは」


「うっさい、二度と言うな!」


 ――気を取り直して、会議は継続。


「はーい、議長提案」


 右手で菓子をつまみながら左手で挙手をし発言するシロウ。


「柏木さんも会議に入れないと全然建設的な話し合いができないと思うんすけど」


 その発言を受け、イズミは頬に手をやり困り顔で首を傾げる。


「それはそうなんだけどさぁ……」


「だけどなんだよ?」


 イズミは言い辛そうにちらちらとシロウを見ながら口を開く。


「……弥宵はかわいいからさぁ」


 訳の分からぬ言い訳にシロウも首を傾げる。


「それはもう知ってるっつの。だから何なんだよ。じゃあ取りあえずテレビ電話にしよう。今平気かな?」


「……んんー、どうかなぁ。まだ学校にいるかも知れないし、塾かも知れないし」


 首を傾げながら煮え切らぬ返答をするイズミへ、シロウは矢継ぎ早に質問を続ける。


「塾行ってんの?部活は?」


「シロウ私の部活知ってる?」


 不満げに眉を寄せて口を尖らせてイズミは問う。


「質問を質問で返すなよ。柏木さんの部活は?」


「中学の時の私と同じっ」


 露骨に不機嫌な態度で言い放ち、スナック菓子をポリポリと頬張り口を塞ぎながらシロウを睨む。



 お前の中学の部活なんか知らねーよ、とでも言うだろうと思ったが実際は違った。


「マジか、剣道部?」


 口を開くつもりが無かったので、口いっぱいにお菓子を頬張っていたイズミは口元を隠しながら顔を逸らし、飲み物と共に大慌てで飲み込み、驚きを隠せずシロウにズイっと近付き声を上げる。


「何で分かったの!?」


 イズミのあまりに明るい声と近い顔に少し困惑するものの、座り直して少し距離を取り得意げな顔をするシロウ。


「何でも何もお前自分で言ってたじゃん。『剣道二段』だって。令和のこのご時世に道場とかが存在するのかどうかは知らないけど、普通に考えると部活だろ?で、転校するまではそんなの欠片もやってなかったはずだから、中学では剣道部だったのではないか?と、名探偵の推理」


 ペラペラと得意げに語り胸を張るシロウにイズミは笑顔でパチパチと拍手を送る。


「あははっ、すごいすごい。大正解!あっ、お菓子もっといる?えへへ、まだあるの実は」


 イズミはニコニコと嬉しそうに鞄をからお菓子を探る。


「そんな事よりさ。と言うことは、あの剣道着?って言うやつを柏木さんも着てるって事だよな?あれなんか良いよな。もしかして写真あったりする?」


「無いよ」


 ピタッと固まった笑顔でイズミは即答する。


「いや、無いって事は無いだろ?同じ部活だったんだから」


「無いよ。全然無い。あっ、お菓子ももう無かった。残念ね、あははは」





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