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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第68話 『友達の話なんだけど』

◇◇◇


「私の部屋にも入ったんだから、今度はシロウの番だと思うんだけど」


 先日、金森すずとシロウが霧ヶ宮家を訪れた事を引き合いに出してイズミがシロウに迫る。


「や、ご存じの通りうちの家狭いんで。霧ヶ宮さんの家と違って」


「狭いとか広いとかの問題じゃ無いの。うちにも来たんだからシロウの家にも行くって言う話でしょ」


「ははぁ。そうやって持ち回り制度が出来ていくんすね」


 腕を組み、一人納得した様子で頷くシロウに不満げな顔を向けるイズミ。


「意味わかんない」


「とにかく、うちに来たってなんら面白いものなんて無いぞ」


「だから、面白い面白くないじゃないんだってば」


 いつも通りのファミレスで今日は勉強道具を広げずにドリンクを飲む。


 頑なに築30年の白亜の城への入城を拒むシロウと、何とかして攻略の糸口を探るイズミ。難しい顔をしながら少し考えた後に妙案が閃いた様子で、パンと大きな音を立てて手を叩く。


「そうだっ!卒業アルバム!」


 キラキラと輝いた瞳で身を乗り出しながら少し興奮気味にイズミは言葉を続ける。


「私もすずも途中で転校してるから卒業アルバム貰ってないじゃない?でも、途中までは一緒に皆と過ごしたんだから私達にも見る権利位はあると思うの!すずもまだ日本にいるんだしさ。ね?それならどう?」


「仮にお前らにそんな権利があったとしても、俺のアルバムに限定する理由にゃならねーだろが」


「もうっ、つべこべうるさいなぁ。わかった、いやらしい本がいっぱいあるから部屋に入れたくないんでしょ?」


 挑発的な視線と物言いで煽り、何とかシロウに首を縦に振らせたいイズミ。


 だが、シロウは腕を組み神妙な顔で首を傾げる。


「ん~、実際問題そうだから困ってるんだよなぁ。それこそ足の踏み場も無い位にさ」


「なっ……!?」


 そして、意趣返しと言わんばかりにさも思いついた風を装い掌をポンと叩く。


「そうだっ!霧ヶ宮さんに片付けて頂けばいいんじゃないっすかね!?」


 当然部屋にはそんなものは転がっていないわけだが、ヘラヘラと笑ってふざけた提案をするシロウをイズミはキッと睨む。


「わかったわ。全部まとめて資源ごみに出せばいいのよね?」


 そう言うとムッとした表情のままガタリと立ち上がり、慌ててシロウは制止する。


「待て待て、冗談だ。この俺がそんな無防備な事をする訳ないだろ。つーか、仮に事実だとして資源ごみに出すの止めろよ。子供の教育に悪いだろが」


 例えば小学4年の時に、シロウ少年が資源ごみの段ボール束からゲーム機の外箱を回収したように、子供達の目に留まらないとも限らない。


「つまんない嘘吐く方が悪いんでしょ。じゃあいつならいいの?すずがいつまで日本(こっち)にいるのかもわからないから早めに決めてくれないと」


 困り顔で首を傾げるイズミを小馬鹿にしたようにシロウも同様に首を傾げる。


「あれ?もしかしてご存知ない感じ?」


 その口振りからシロウの言いたい事はイズミにも伝わった。


「……え、もしかして」


 シロウは残念そうな顔をしてコクリと頷く。


「本当はサプライズにしたかったんだけど、また嘘吐きだの秘密だのうるせぇだろうからさ」


 半信半疑と言った様子できょとんとした顔でシロウに聞き返す。


「ずっと日本にいるって言う事?」


「つーか、同じ高校な。二学期から」


「……うそぉ」


 驚きの余り嬉しいのか悲しいのかよくわからない表情で声を吐き出すと、困った様子でオロオロと狼狽えだす。


「そんな大事な事なんでこないだ会った時に言ってくれないのよ」


「だからサプライズにしたかった、って言っただろ?俺も金森も本当は始業式まで言うつもりなかったんだからよ」


「ほんっと……、何であなた達はいつも何でも秘密にしようとするの?」


 呆れ顔ながらどこか嬉しそうなイズミ。


 少し考えて、イズミに良い格好をしようと言う意味で金森と自分は似ているのかもな、とシロウは考える。勿論そんな事は口には出しはしないが。


「そうだ、アルバム!すずに聞いてみるね。今日これからどうかって」


 シロウの返事も待たずに素早く金森にメッセージを送る。


「忙しいと思うけどなぁ。つーか、勝手に決めんなよ」


 ピロンとイズミのスマホが鳴る。


『ごめ~ん!引っ越しとか手続きとかで忙しいんだぁ』


「な?」


 机に置かれたスマホを二人で覗き込み、シロウが得意気な顔でイズミを見ると、再びピロンとメッセージが届く。


『だから今日は二人でゆっくりイチャイチャしながら卒アル見るといいよ~。ごゆっくり~』


 そして動物か何かが抱き合って呑気に『LOVE!』とか(のたま)うスタンプが添えられる。


「いっ……」


 口にしかけてイズミは絶句するが、シロウは金森の文言をぼかして引用しながらいつも通りヘラヘラと笑う。


「そんじゃ、金森さんもこう仰ってる事ですし?早速うちに卒アルでも見に行きます?ははは」


 恨みがましい視線をシロウに送りながら暫く無言を貫いた後で、意を決したように立ち上がると、少しだけ赤い顔ながら何事も無い様子でニコリと微笑む。


「最初からそう言ってるでしょ?行こ」


「お……、おう」



◇◇◇


「お邪魔しまーす」


 イズミが白い外壁の賃貸マンションの303号室に入るのは小学4年以来だ。


 その頃からすると20センチ近く身長が伸びているので、昔のイメージと比べると失礼だが少しだけ手狭に感じてしまう。


 壁紙はあの頃より日焼けしていて、玄関のドアはあの頃よりずっと軽く感じ、それとは対照的に蝶番が軽く軋んだ音を上げる。それが5年の年月を感じさせた。



 そして、変わっていない所もある。下駄箱の上に置かれたこけしは昔からずっと置いてあるが、埃が被っていない事からキチンと掃除がされている事がわかる。


「ふふ、ずっと置いてあるね。あれ」


「文句はうちのかーちゃんに言ってくれ」


「別に文句なんて無いけど。懐かしいな、って」


 廊下に貼ってあるポスターは当然変わっているが、そのポスターの下には幼少時のシロウが開けた穴が開いている。


 夏休みとは言え、カレンダー上は平日の昼間。シロウの両親は共働きなので、二人とも留守の様だ。


 短い廊下を歩き、シロウの部屋の扉の前で立ち止まり、冗談交じりに心配そうな顔で扉を指差すイズミ。


「開けて平気?変な本とかポスターとか無い?」


「平気じゃないって言ったら何か変わるのかよ」


 言いながら部屋の扉を開ける。


 イズミは一歩部屋に入り、思わず口元が緩んでしまう。


「久し振りにシロウの部屋に来た」


 部屋は整理整頓がきちんと行き届いている、と言う程では無いが、以前マキトが来た時と比べると遥かに片付いている。そんな事はイズミが知る由も無いのだが。


「せまっ苦しいウサギ小屋で恐縮でございますが。適当に座ってくれ」


 部屋の端から座布団の様な丸型クッションを一つイズミの足元へと放る。


「意外と片付いてるんだね」


 部屋をキョロキョロと見渡して本当に意外そうにイズミは呟く。


 本棚には子供の頃と同様に沢山の漫画が並んでいるが、参考書や一般小説の類も本棚を隙間無く埋めている。部屋の隅に置かれているダンベルも子供の時には勿論無かった。


「意外とは余計だな。ほい、卒アル。お茶とか菓子漁ってくる」


 扉を閉めずにシロウはリビングへと向かう。


 差し出されたクッションに座り、また室内を見渡す。当たり前だが、室内は部屋の主の匂いがしてイズミは一人ニヤニヤとしてしまい、それに気付いて手で口を隠す。


 アルバムを開く前に何気なく恐る恐るベッドの下を覗いてみる。


「そんなとこに隠す馬鹿いねーよ」


 不意に背後からシロウの呆れ声が聞こえて、イズミは驚き息を飲む。


「ほい、麦茶しか無かった。菓子はこれ、遠慮なく召し上がれ」


 無造作にローテーブルに置くと、シロウは勉強机の椅子に座る。



 そして、イズミはアルバムを捲る。


 シロウからしてみれば、つい先日マキトにも見せた時にも一緒に見ていたのだが、イズミからすれば初めて見る母校の卒業アルバムだ。


「……わぁ」


 イズミも金森もいない全体写真や、仏頂面のシロウ少年を懐かしそうに眺め、一年生からのスナップ写真も一枚一枚シロウを探して熱心に見つめるイズミを、シロウはジッと眺める。


 チラリとイズミが視線を上げると、シロウと目が合う。


「……そこからで見えるの?こっちに座ったら?」


 イズミがローテーブルの対面を指で示すと、シロウは手でそれを否定する。


「や、俺視力いいから平気。お気遣いどうも」



 5年前と変わるもの、変わらぬもの。


 告白をして、付き合って、変わるもの、変わらぬもの。


 彼氏と彼女と言う関係になったとしても、変わらない幼馴染と言う関係と距離感。



「今だから言うけどさ」


 イズミはシロウを見たまま、照れくさそうに笑う。


「……同じ高校に入ったの、偶然じゃないんだ。どこで聞いたのか、お母さんがシロウが受ける高校聞いたって言ってて……、受ける事にしたの」


「じゃ、俺も今だから言うけどさ」


「ん?」


 イズミの告白を受けて、シロウはニヤニヤと口を開く。


「お前のかーちゃんに言ったの俺だよ。お前が引っ越す日にさ、『俺絶対あそこの高校行くから、イズミに伝えて』って」


「……えぇ、そんな頃から?」


 驚きの声を上げるイズミに、椅子の肘掛けに手を置いて得意げに偉そうにシロウは『まぁね』と頷く。


 ムッとした様子で、シロウを見つめながらイズミは自身の対面を指差す。


「偉そうに座って無いで下に下りてきなよ」


「や、ここでいいんで」


 再度繰り返されるやり取り。


 関係は変われど、変わらない距離感。



 数秒ムッとした様にシロウを見つめた後で、思いついた様にイズミは口を開く。


 ――『友達の話なんだけど』、と前置きをして。



「ずっとただの幼馴染だった二人が、……付き合い始めてさ、お互いにずっと子供の頃から好きだったって言うんだけど、付き合ってからも何も変わらなくてさ」


「……お前、それ」


 流石にシロウも気が付くが、イズミは顔を真っ赤にしたまま言葉を続ける。


「変わらない事も勿論嬉しいんだけど、……それでも一歩くらい、って思ってて。でも、はっきり言うのは恥ずかしくって」


 目線を落としてボソボソと言い辛そうに続きを呟く。


「……それと無く言ってみてるつもりなんだけど、全然伝わらなくって。そんな時、どうしたらいいかな……って」


 そして、顔を上げて照れ笑いを浮かべると、今更ながらの言い訳を加える。


「あ、勿論友達の話なんだけどね……!あははっ」


 シロウは呆れ顔で小さく溜息を吐いて頭を掻く。


「あー、成る程ね。友達の話、ね。あるよな、うん」


 そう言うと、おもむろに立ちあがりイズミの隣に座る。


「で、……これは俺の話なんだけど」


 と、前置きをして赤い顔で恨みがましい瞳でイズミを睨む。


「……こっちも気を使って我慢してんだよ、バーカ」


 イズミはクスリと笑いコクリと頷くと、二人の赤い顔は近付いていく。



 5年と少し前まで、一つ屋根の下に住んでいた二人の幼馴染達の恋物語は、これからもきっと続いていくのだろう。


 


 5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら――完





 イズミとシロウの物語、ご愛読ありがとうございました!


 一旦本編は終了で、以降は不定期に後日談の予定です。






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