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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第59話 お願いがあるんだけど

◇◇◇


 ――何度か試みはしたものの、結局告白の練習は完遂する事が出来なかった。


「……ぐぅう」


 何度試みても、『好き』の二文字に辿り着けず苦悶の声を漏らすイズミ。かいている汗は暑さのせいだけでは無いだろう。


「できなぁい……!」


「まぁ、言い淀むだけでも練習にはなってるからいいんすけどね」


 腕を組み呆れ顔ながら、必死に模擬告白を試みるイズミを(ねぎら)う様にそう言い何度か頷くシロウ。


「柏木は最初っからちゃんと告白出来てたぞ。マキトの写真見せながらにしたら案の定だったけどな」


「……そりゃ弥宵はそうでしょ」


 東屋の机に突っ伏して不満げに口を尖らせるイズミ。



「折角多様な断りパターンを用意してるんだから頼むぜ、霧ヶ宮さんよぉ」


「何で振られる前提なのよぉ」


 伏した机をバンバンと叩き抗議の意を示すが、そもそもイズミがシロウに与えている情報が少なすぎるし、無責任に成功前提で行うよりは実益に適うと言えるのではないだろうか。



「ねぇ、シロウ」


 机に手枕をして、(はす)向かいに座るシロウをジッと見る。



「……ちょっとお願いがあるんだけど」


 いつか聞いたその言葉に少し笑いながらシロウは答える。


「聞ける範囲なら」


 イズミは頬の下に置いた右手の人差し指をピッと立てて、恐る恐ると言葉を続ける。


「練習さ。ちゃんと言えたら、最初の一回はオッケーして欲しいの」



 イズミのお願いの意図が分からずにクエスチョンマークの浮かんだ様な表情のシロウ。


「ダメ?最初の一回だけでいいから。あっ……、ほら。成功体験って大事じゃない!?最初に上手く行くイメージを持たせておけばさ、ん~……ほら、なんかよさそうじゃない?」


 誰しも振られる為に告白をするわけでは無いので、イズミの言う事にも一応の納得は出来る。


「別に一回くらいは構わないけどさ。口調などのご指定はございますかね?」


「ううん、シロウのままでいいよ。最初の一回は」



「……何だそりゃ。練習になるのかよ。ま、いいや。早速やるか」


 スッと立ち上がるシロウに掌を向けて制止するイズミ。


「あっ!待って!……今日はこの辺で終わりにしよっ。心の準備がさ、ね?……えへへへ」



「その心の準備を作る為の特訓なんですがねぇ」


「うん!わかるよ!?分かるけどさ、……練習とは言えさ、その~……」


 イズミはそのままごにょごにょと口ごもり、それを見たシロウも納得した様に頷く。


「ま、そうだな。人それぞれペースってもんもあるよなぁ」


「ごめんね?私から頼んだのに」


「いや、オッケーだろ。別に義務じゃない、気にすんな」


 机の上の菓子を一つつまんで口に入れる。続けてペットボトルに口を付けるが、流石にもう冷たくは無い。



「一応聞くけど、次はいつが暇?」


「あぁ、一応聞いてくれるだけ成長したなお前も」


 わざとらしく、感慨深げに頷くシロウにイズミは白い目を向ける。


「……一々嫌味を挟まないといけないルールでもあるの?」


「んー、明日は家でゴロゴロしたいし、明後日はマキトと約束があるからそれ以降なら」


「あれ?予定が詰まってるから半年前には言わないといけないんじゃなかったかしら?」



 わかりきっていることを白々しく首を傾げて聞いてくるイズミに今度はシロウが白い目を向ける。


「一々嫌味を挟まないといけないルールでもあるんですかね?」


「ふふ、ごめんってば」


 クスリと笑い、少し考えてイズミは口を開く。


「じゃあ、週末。日曜日空けておいて」


「おう。忙しいが特別に空けといてやるよ」


 恩着せがましくシロウが言うと、イズミはニコリと微笑む。



 微笑んでいるが、目は決意に満ちている。


「うん、お願い。その日、絶対に告白するから」



 確認するまでも無く、それは『告白の練習』なのだろうが、余りに真剣なその瞳にシロウは上手く茶化す事は出来ず、『おう』と短く答えて頷いた。


 とにかく、イズミの告白の練習は日曜日に持ち越しとなる。


 名前も、年齢も、趣味も、姿かたちも一人称も分からない。この春5年振りに会った幼馴染が、中学生の頃からずっと好きだと言う想い人への告白の練習だ――。


◇◇◇


 その日の夜、日付が変わって一時間ほどした頃シロウのスマホが鳴る。


 ピロン、と一度では無く連続したメロディ。メッセージでは無く、通話アプリの着信の様だ。


 一瞬驚いた顔で眉を上げたが、すぐにイヤホンを付けてベッドに寝転がり、通話を押す。


「おう、久し振り」


 スマホの向こうからは女子の声。


『おはよ~、穂村くん』


 真夜中にも関わらずの挨拶とのんびりした声に、窓の外を見て苦笑する。


「こっちは真夜中だぞ」


『うふふ、そっかぁ。でも、まだ起きてたでしょ?』


「まぁね、何かあったか?」


『ううん、先月卒業式終わってね。あれこれ手続きも片付いて来て、少し落ち着いたから電話したの。そっちはどう?いずと同じ学校なんでしょ?』


「あー、まぁね。まぁ、でも……何やかんやとおかしな事になってる」


 部屋の電気を消して、カーテンを開ける。


『おかしな事?』


「んー、うまく説明できる気がしねーんだけど」


『うんうん、何?』


 言うか言うまいか少し考えて、暗闇の中で一人首を振る。


「悪い、もうちょい待って。来週話すわ」


『も~、秘密主義だねぇ』


「中学生にはわかんねぇだろうけど、色々あんだよ」


『ふふふ、そっかぁ~。……って、もう卒業したってば!』


「はは、何だそりゃ。アメリカンジョークってやつか?」


『違うよ、も~』


「夏休みはちょっと位帰ってくるのか?」


 少し間が開いて電話の主は答える。


『うん。だめ?』


「ダメなわけあるか。イズミには?」


『う~ん……、まだ秘密で』


「どっちが秘密主義だっつの」


『ふふっ、確かに。また電話していい?』


「おう、このくらいなら起きてるから全然オッケーだ」


『そっかぁ、ありがと。じゃあ、またね。穂村くん』


「またな、金森」


『おやすみ~』


 通話を終え、イヤホンを外してそのままスマホごと枕元に置く。


 ピロンとスマホが鳴り、明るい陽射しの下でニッコリと笑いピースサインをする少女の画像が送られてくる。


『穂村くんといずの写ってる写真は無いの?』


『ねーよ。おやすみじゃねーのかよ』


『あっ!』


 それを最後に金森からの返信は途絶えた。そして、『ねーよ』と言ったものの、一度目の動物園でゾウの前で二人撮って貰った写真が有った事を思い出したが、少し考えて送るのを止めた。


 日付が変わり、今日はゴロゴロ予定日。明日はマキトと遊ぶ日だ、と思っているうちにシロウは眠りに落ちた――。


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