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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第57話 最後の会議

◇◇◇


 一学期が終わり、夏休みとなる。


 シロウとイズミはいつものファミレスにいる。いつもと違うのは、学校帰りでは無い為お互いに私服だと言う事だろう。


 シロウの手元にはいつもの謎調合ドリンク。イズミはフルーツティを飲んでいる。


 高校一年の五月、連休が終わった頃から始まった『天野蒔土攻略会議』。もう何回目なのか二人はとっくに数えるのを止めている。或いはスマホでメッセージを辿れば数える事は出来るかもしれないが、手間の割にその実益も無いので二人とも数えない。


「聞いた?」


 何の事?と聞くまでも無く、柏木弥宵の告白の話だろう。


「柏木から、ちょっとな」


 マキトの想い人がイズミである事は当然二人には伏せられていて、それぞれ概ね同様の話を聞いていたようだ。


 柏木弥宵は天野蒔土に告白をして、『好きな人がいる』と言って振られた。振られたら友達で無くなると言う事も無く、そして、一度振られたから諦めると言う訳でも無いようだ。傍から見ている分には今までよりも自然体で接する事が出来ているようにも思える。


 そして、マキトの恋を応援すると言った。


「マキト君の好きな人って知ってる?」


 フルーツティのストローから口を離してイズミが問いかけると、シロウは眉を寄せて首を傾げる。


「さぁ?知らね」


 その言葉が無責任に聞こえた様で、イズミも眉を顰める。


「じゃあ仲の良い子は?」


「告白された事のある女以外大体仲いいんじゃねぇの?知らんけど」


「もうっ、もう少し真面目に答えてよ」


「あのなぁ……」


 口を開きかけてドリンクが空になった事に気が付き、一旦中座して今度はブラックコーヒーを持ってシロウは席に戻る。



「マキトが言わないんだったら詮索してもしょうがないだろ?」


 呆れ顔ながら、やや強い口調でシロウは言う。


「……確かに。ごめん」


「別に謝る様な話でも無い」



 口調がきつく聞こえてしまった事を少し反省しつつそう答えると、おもむろにメニューをイズミに差し出す。


「何?」


「何でも好きなの頼んでいいぞ。今日は俺が奢るから」


 飲んでいたフルーツティを噴き出しそうになりながら、目を丸くしてシロウを見る。


「どうしたの、急に?宝くじでも当たった?それとも暑さでやられたとか……?」


「……失礼な奴だな。宝くじも当たってねーし、暑さにもやられてねーよ。あ、俺ハンバーグにエビフライが乗ってるやつと、デザートはこれにするわ」


 納得行かない様子のイズミは困った顔で机を軽くぺしぺしと叩く。


「ねぇ。理由が分からないと気持ち良く頼めないじゃない。何で?」


「何で?……んー、だってさ」


 五月の連休が終わった頃から始まった天野蒔土攻略会議――。


 イズミの友人の柏木弥宵が想いを寄せた天野蒔土の友人が、イズミの幼馴染のシロウだった事から始まった、有り体に言えば『どうやって弥宵とマキトをくっつけるのか』を話し合う為の会議だ。


 そして、弥宵はマキトに告白をして振られて、諦めはしないが彼の恋を応援すると言った。


 二人は友人として以前よりも好ましい距離感に収まり、もう今の所弥宵とマキトをくっつける為に何か手助けをする必要は無いのだ。


 つまり、天野蒔土攻略会議は役目を終えたのだ。



「多分最後の会議だろ?」



 柏木がマキトに告白をして、振られはしたが彼の恋を応援すると言ったなら、これ以上俺達の出る幕なんて無い。と、言葉を付け加えてイズミに差し出したメニューをパラリとめくる。


「今まで奢ってもらいっぱなしだったろ?だから最後位好きなの奢ってやろうと思ってさ。ははは、金は心配すんな。一位取ると小遣い貰えるんだよ。あ、これなんてどうだ?美味そう――」


 と、メニューを指差すとポタリとメニューに液体が垂れる。


「お前なぁ……」


 飲み物が跳ねたのかと思い、呆れ顔でイズミの顔を見て驚く。


 ムッと一文字に口を(つぐ)んだイズミは、その大きな瞳から大粒の涙をこぼして、睨むようにジッとシロウを見つめていた。


「えっ……、イズミ!?どうしたんだよ、急に」


 慌ててテーブルを見渡し、取り合えずペーパーナプキンを何枚かイズミに渡そうとするが、イズミは視線もやらずに泣きながらシロウを睨む。


「……最後なんて言うからでしょ」



 イズミが受け取らないので、ペーパーナプキンをメニューの上に敷きながら、シロウは困り顔で返答をする。


「別に柏木とマキトが終わったとかじゃなくて。柏木がマキトの事を手伝うって言って、マキトが俺に何も言わないって事は出る幕無いだろ?って話じゃん?わかるか?わかるよな?」


 イズミの様子を窺いながら、引きつった笑いを浮かべるシロウ。イズミはまだ濡れた瞳でジッとシロウを睨む。


「わかんない。最後なんて言わないでよ」



 夏休みが始まったばかりの七月下旬。昼過ぎのファミレス。満席では無いが、それなりに賑わっている店内で、シロウの向かいには涙を流す黒髪の少女。傍から見れば完全に痴話げんかだ。


 シロウは自身を落ち着かせるように一度大きく息を吐くと、掌をイズミに向けて制止を促す。



「わかった。完璧にわかった。確実にわかった。撤回する。最後じゃない。全然最後じゃない。いいな?」


 イズミはコクリと無言で頷く。


 だが、その言葉を確実に信用していない様子で涙目のまま疑いの眼差しでジッとシロウを見る。


 シロウはその視線に応えるように、首を傾げてアイディアを絞る。


「……と言っても、マジで余計なお節介にしかならないんだよな。うぅむ……」


 窓の外には広めの国道が見えいて、一台の大型トラックが法定速度を超えた速度で走り去ったその時、振動と共にシロウは閃いてパンと膝を打つ。


「そうだ!それなら、あいつの件は一旦置いておいて、お前の相手の攻略会議に切り替えようぜ!」


 正に名案と言った様子で、得意げに言い放つシロウにイズミは素っ頓狂な声で答える。


「わっ……私!?」


「あぁ。まぁ、お前は柏木よりうまくやれるのかも知れないけどさ、王様の耳はロバの耳みたいに井戸に向かって話す様な感じで愚痴くらいは聞けると思うんだよな。男ならではの視点ってのも必要かも知れないし、どうだ?いいアイディアだろ!?」


 イズミは一度ジッと眉を寄せた後、何食わぬ顔で口を開く。


「……相談に乗って平気なんだ?」


 その言葉の真意をニ、三秒考えるが、まぁ元気が戻ったのならいいかとヘラヘラ答える。


「おう、恋愛準五級なめんなよ。あっ、もしかしてこないだ動物園でぬいぐるみ二つ買ったのって、その相手に渡すつもりか?」


 恐らく引っかけでも何でも無く、ただ推理が繋がった事を喜んでいるだけに見えるシロウに少しムッとしながらも平静を装い頷く。


「そうよ。……オランウータンの方をあげようと思って」


 動物園で、『どっちがいい?』と聞いた際にシロウが指差したオランウータンの小さなぬいぐるみ。実は今日バッグに入っているのだが、最早言い出せなくなってしまった。


 そんな事情はどこ吹く風。自身のチョイスが適用された事に、満足気にシロウは頷く。


「ははは、類人猿が嫌いな男はいないからな。鉄板だぞ」


「ふふ、何調べよ。それ」



 イズミはクスリと笑う。


 今までと同じように、こうしてファミレスや公園で話す機会が継続出来た事に安堵する。


 ――現状維持、成功だ。


 次の瞬間、弥宵の顔が浮かんだ。


 シロウ曰く『確実に振られる』と言われながらも、告白をして想いを告げた親友。


『だいじょーぶ』


 テスト前、親友は優しく微笑みそう言った。深い意味なんて無いかも知れない。けれど、背中を押された気がした。


 現状維持では、いつまでたっても想いは伝わらないのではないか?


 振られたとしても……、一度振られて終わりでは無いのなら――。



「ね……ねぇっ!シロウ!」


 少し大きめの声で呼ばれて一瞬驚く。


「……最後の会議じゃないから奢るの無しだぞ?」


 けち臭い事を言うシロウの言葉を無視して、イズミは口を開く。



「弥宵から聞いたんだけどさ」


 どの件か。何かまずい事あったか?と脳内検索をする間にイズミの次の句が告げられる。



「告白の練習。……私にもして欲しいんだけど」


 気が付けば真っ赤な顔で、両手をテーブルの上に出し、イズミはそう言った。


「あ、それか。勿論構わないぞ。言っとくけど、特訓は厳しいからな?考えられる様々なパターンで振っていくから、俺」


 イズミは挑発的にクスリと笑う。


「望むところよ」




 天野蒔土対策会議は、名を変えて霧ヶ宮泉告白対策会議となり、記念すべき第一回の会議費用は文句を言いながらもシロウが拠出したのだった。











  

 

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