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5年振りに会った幼馴染から『友達の話なんだけど』と相談を持ち掛けられたら  作者: 竜山三郎丸


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第55話 応援

◇◇◇


「ヒトヨンマルマル、合流地点にコアラ組は現れず」


 時計の短針は2を、長針は12を指している。時刻は午後2時、シロウ達と弥宵達の合流予定時刻だ。


「連絡入れるか?」


 木陰のベンチに腰掛けてスマホを片手にイズミに問うが、イズミは毅然と首を横に振る。


「ダメ。大事な所だったらどうするの?」


「……大事な所って何だよ」


「そんなの言わなくても分かるでしょ」


 シロウは菓子を頬張りながらイズミに白い眼を向ける。



「大事な所だったら一々スマホに反応しねーだろ。つーか大事な所って何だっての。告白か?それ以上か?」


 暑さか、『それ以上』と言う言葉に反応してか、やや赤い顔をしたイズミはムッとした様子でシロウを睨む。


「告白に決まってるでしょ、ばか」


「へいへい、毎度おなじみバカでございますよ。そんじゃずっと待ってても勿体ないから連絡来るまで周ってようぜ」


 シロウが立ち上がり背伸びをすると、少し遅れてイズミも立ち上がって園内図を開く。


「うん、そうね。どこに行く?シロウの見たい所周っていいよ」


「お、そう?じゃあコアラ見に行こうぜ、コアラ」


 コアラ館の方を向くと、グイっとバッグを引っ張られる。


「だからそっちはダメ!」


「俺の見たいところでいいって言っただろ~……。5秒で(ひるがえ)すなよ、言葉を」


 園内図を片手に反対の手でシロウの肩に掛かるボディバッグをグイっと引っ張る。



「つべこべうるさい。いいからこっち。レッサーパンダいるよ、レッサーパンダ」


 当然これ以上逆らっても無駄な事はシロウも重々承知。抵抗を止めてレッサーパンダ方面へと足を進める。


「ところでお前レッサーパンダの『レッサー』ってどういう意味だか知ってる?」


 シロウのバッグを引きながら首を傾げる。


「え……?かわいい、とか?」


 シロウは納得した振りをして何度か頷く。


「なるほど、なるほど。じゃあこういう事か。『霧ヶ宮泉さんは、とてもレッサーです』合ってる?」



「……どうせ違うんでしょ?」


 照れ隠しの様にシロウをジロリと睨みながらイズミが口を尖らせると、シロウはケラケラと笑う。



「ははは、正解」

「えっ」


 驚いて短い声を出したイズミだが、『正解』が掛かる言葉は別だった。『レッサー』の答えで無く、『どうせ違う』のが正解。


「正解は『小さい』でした~。元々レッサー君の方があの白黒君より先に発見されてたから、レッサー君が『パンダ』って呼ばれてたんだよ。んで、後に白黒君が発見されたから……ぐえっ」



「……何がレッサーなのか言ってみなよ」


 ボディバッグをグイっと引いて足を速める。


「いやっ、ただの例文じゃないっすか。他意は無いっすよ」


「じゃあ訳してみてよ」


「……それはちょっとどうでしょうねぇ」


「ばーか」


◇◇◇


 黒と茶色の身体に白のアクセント、つぶらな瞳に短い手足。そして、縞々でフワフワな尻尾。


「ふふ、レッサーパンダかわいい」


 ニコニコと上機嫌にレッサーパンダを眺めるイズミ。


 親友である弥宵の告白の結果は気になるが、どちらにせよ結果が出れば連絡が来るだろうと思う。


 そう思案していると、シロウがさっき語り損ねたレッサーパンダの蘊蓄(うんちく)の続きを披露して来る。

 

「あぁ、さっきの続きだけどな。ネパール語で『竹』を意味する『ポンヤ』がパンダの語源とされているって説が一般的だし、俺もそれを推している。んで、レッサー君がパンダって呼ばれていた所で白黒君が見つかったものだから『元祖パンダ』のレッサー君を小さいパンダ……レッサーパンダって名前に変えて、新しく見つかった白黒君は大きいパンダ……ジャイアントパンダって名付けたわけだ」


 イズミはクスリと笑う。


「へぇ」


 シロウはペットボトルをゴクリと一口飲む。普段より少し喉が渇くのは気温のせいだけでは無いだろう。


 しゃべり過ぎた事をやや後悔した様子で一度ため息を吐く。


「……連絡来ねぇなぁ」


「へぇ、人並みには気になるんだ?」


 意外と言った風に相槌を打つイズミに白い目を向ける。


「そりゃなるだろ。諦めない、とは言ってたがショックは受けるだろうし」


 イズミは納得できない様子でレッサーパンダを眺めながら、レッサー君を呼ぶようにひらひらと手を振る。


「言っておくけど、二人がいる前でその話禁止だからね」


「流石に言われなくてもっすよ、霧ヶ宮さん」


 

 スマホの着信を気にしながら、日陰のベンチに移り遠目にレッサーパンダを眺める。園内図によると、これ以上先は長い一本道の様なので、合流に時間が掛かってしまう事から暫くレッサーパンダ前に留まる事となる。


「あのさ、答えたくなかったら全然答えなくてもいいんだけどよ」


「何?その前置き」


 怪訝な顔をするイズミに、言い辛そうにシロウは問いかけを続ける。


「……お前、前に好きな人がいるって言ってたよな?」


 チラリとシロウを見た後で、コクリと頷く。


「うん、言ったね」


「最近どーなんだ?進展あんのか?」


 イズミを見ずにレッサーパンダの方を向いてシロウはイズミに問いかける。


「んん?気になる?」


「まぁ、人並みにはね」


「んー、……たまに一緒に出掛けたりはしてるけど」


 シロウの様子を窺いながらイズミは答える。当然相手はシロウな訳で、更に言うなら今現在も一緒に出掛けているがそんな事は言わない。嫉妬でもしようものなら、と一歩踏み込んでみた。


「そっすか。やっぱり柏木と違ってお前はうまくやれそうだもんな、ははは」


「……うまくって何よ」


 嫉妬の『し』の字も見られない反応に、思わず食って掛かってしまうが、シロウは気にせずに言葉を続ける。


「柏木は知ってんの?相手」


 少し考えて、首を横に振る。


「直接は言って無いと思う」


「ふーん。相談したら喜ぶと思うけどな」


 当たり前なのだが、他人事の様な返答に口をへの字にするイズミ。


「んー」



 と、その時イズミとシロウのスマホが同時にピロンと鳴る。


『ごめんっ!今どこっ』


 4人のメッセージグループに弥宵からのメッセージ。


「来たっ!」


「……どっ、どう!?シロウっ!」


 俄かに色めき立つ二人。


「どう!?ってなんだよ、この文面から判断できるわけねぇだろ!?取り合えず返信するぞ?」


「うんっ!」


 シロウのスマホから今レッサーパンダ前にいる旨を伝えると、またピロンとメッセージが鳴り『了解っ!』とスタンプで返事が来る。


 弥宵からの返事のみで、マキトの返事が無い事が気になるが次の瞬間『ごめんね~、ジュースでも奢るよ』と返事が入り少しほっとする。


 シロウは真面目な顔でイズミを見る。


「……イズミ、あいつらが来る前にシミュレートしとくぞ」


「しみゅれーと……?」


「当たり前だろ、どうすんだよ二人一言も口をきかないとか妙に他人行儀だったりとか。柏木がずっと泣いてるとか、様々なパターンは想定するべきだろう」


 イズミも真面目な顔でコクリと頷く。


「……そうね、確かに」



◇◇◇


「あははっ、ごめんごめん!柏木さんが走るの遅いから遅くなっちゃった」


 十分ほどして、キラキラと汗を流しながら爽やかに笑うマキトが到着する。


「……ぜぇ、ぜぇ。ちっ……違いますよ!マキトくんがずっとコアラ見てたから遅くなったんじゃないですか!わたしは悪くないですよっ」


 汗だくの弥宵は肩で息をしながらマキトに白い目を向ける。


 分かれる前と随分雰囲気の違う二人の距離にシロウとイズミは顔を見合わせて、立ちあがる。


「え、あ。取り合えずベンチどうぞ」


「……弥宵、何か飲む?」


「ジュース!冷たいのっ」


「あ、僕奢るよ。遅れたからさ」


 マキトは汗を拭きながら自販機へと向かう。



 マキトが少し離れたのを確認して、シロウは弥宵にヒソヒソ声で問いかける。


「……柏木、まさか」


 ベンチに座りイズミにパタパタと仰がれながら、弥宵はシロウを見てにへっと笑い指で小さく×を作る。


「えへへ……」


 結果はともあれ何となく元気そうな弥宵を見て、二人は安堵の息を漏らす。


 ジュースを四本抱えたマキトを見て、イズミが手伝いに向かいベンチを離れると弥宵は呟く。


「ねぇ、シロウくん」


「ん?」


「マキトくん好きな人がいるんだって」


「へぇ」


「知ってた?」


「や、知らんけど」


 シロウに言うまいかどうか少し考えたが、自分に言い聞かせるように『うん』と短く呟き一度首を縦に振る。


「でも相手には好きな人がいてね。マキトくんですら可能性が薄いんだって」


「……なるほどな。モテが過ぎると敢えてブサメン好きに惚れるもんなのか。まぁゲーム言うところのハードモードに挑もうとする気概は嫌いじゃないが」

 訳の分からぬことを言い、一人納得した様に唸るシロウ。別にいずみんはブサメン好きじゃないけどね、と思いつつも勿論その言葉はゴクリと飲み込む。


「だから応援しようと思って」


 正しいかどうかは分からない。マキトがイズミに想いを告げる事で、色々な物が壊れてしまうかもしれない。それでも思う。本当は、それでも壊れない物をマキトは望んでいるのだと。マキトとシロウなら大丈夫だと信じる。告白は上手く行かないかも知れない。それでも、想いを告げる事に意味があると振られた今強く思う。

 

 決意を込めた眼差しで弥宵はシロウをジッと見つめる。それを受けてシロウはニッと口角を上げる。


「いい作戦だと思うぞ。脈の無い告白をさせて弱ったマキトに再度挑む……って訳だな?」


 明後日の方向の返答にガクッと肩を落とし苦笑いを浮かべる。

「え、全然違うんだけど。それわたし最悪なやつじゃん」

「ふはは、もしうまく行ったら『ハイエナ』の称号をやるよ」

「要らないよ!?や、ハイエナは悪くないんだけどさ!」


「ま、とにかくお疲れ。ジュース奢るわ。マキトの金だけど」

「……それシロウくんの奢りじゃないじゃん」






 





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